読んでいる途中で飽きてしまう、小難しい話は苦手……読書が苦手な人からよく聞く言葉です。この記事ではそんな人にこそおすすめしたい小説を紹介していきます。続きが気になって一気読みしたくなるものばかり。手に取りやすいよう文庫本に限定したので、ぜひ読んでみてください。
世の中には多くの読書好きがいる反面、読書に苦手意識をもっている方もたくさんいます。小説ではなく漫画なら読める、という方も多いでしょう。
そういう方は、文字を読むこと自体が苦手なのではなく、本当に面白い読書体験をしていないから、読んでいる途中で飽きてしまうなどして、「自分は読書が苦手だ」と感じてしまっているのではないでしょうか。また読書感想文などで強制的に本を読まされた経験から、抵抗ができてしまっている場合もあります。
本来、読書は楽しいもの。物語の世界に身を投じることで、さまざまな体験ができます。新しい知識や考え方は、感性を豊かにしてくれるでしょう。
この記事では、読書が苦手な人にこそおすすめしたい小説を紹介していきます。どれもエンタメ性が高く、続きが気になって読むのをやめられないものばかり。400ページ以下の文庫本に限定したので、ぜひ読んでみてください。
大手出版社に勤めている佃潤一は、かつて画家を目指して路上で絵を売っていました。和泉園子が彼と出会い、恋に落ちたのはちょうどその頃。2人は付き合うことになり、園子は高校時代からの友人である弓場佳代子に、潤一を紹介します。
それから数ヶ月が経ったある日、潤一は突然別れを切り出しました。その原因は、佳代子に心変わりをしたから……園子は大きなショックを受けました。そして数日後、園子が遺体となって発見されるのです。
この事件は「自殺」として片づけられたものの、園子の兄であり遺体の発見者でもある康正は納得がいきません。やがて潤一と佳代子の存在にたどり着き、「どちらかが彼女を殺した」と自ら事件の捜査を始めるのです。
- 著者
- 東野 圭吾
- 出版日
1996年に刊行された東野圭吾の作品です。物語の謎を明確に解決することなく終える「リドル・ストーリー」という手法が用いられていて、潤一と佳代子のどちらが犯人なのか、最後まで明記されていません。文庫化にあたり袋とじの解説が付けられたものの、ここでも犯人の名前は記されませんでした。
登場人物は少なく、事件自体も複雑なものではありません。だからこそ、トリックや推理の面白さに没頭することができるでしょう。
東野圭吾ならではの二転三転するストーリーも、読者を物語の世界に引き込んでくれます。読書が苦手だと思っている人でも、絶対に途中で読むのをやめられないおすすめの推理小説です。
主人公は、大学生の拓人。演劇サークルに所属し、脚本作りを担当しています。
拓人のルームメイトである光太郎、光太郎の元カノで拓人が思いを寄せる瑞月、瑞月の友人で留学経験者の理香、理香の同棲中の彼氏である隆良を含めた5人は、理香の部屋を「就活対策本部」として定期的に集まるようになりました。
精を出していたバンド活動を辞めて就活に力を入れる者、意識は高いが結果がともなわない者、就活はしないと公言しながらこっそり活動をする者……5人は意見交換をくり返しながら、その裏でSNSへ自らの思いを吐露していきます。
やがて彼らのなかから初めての内定者が出た時、これまで抑えていたものがあふれ出すのでした。
- 著者
- 朝井 リョウ
- 出版日
- 2015-06-26
2012年に刊行された朝井リョウの作品です。「直木賞」を受賞し、映画化もされて話題になりました。
就職活動に励む5人は、直接相手と対峙している時に見せる顔があり、SNSの中の顔があります。そのどれもが他人に見られていることを意識し、憧れや嫉妬にまみれ、格好をつけているのです。しかしところどころで本音や自意識が見え隠れするのが面白いところでしょう。
就活は「何者」になるかを決定づけるもの。しかしその評価は他人からされるものであって、必ずしも自分の納得いくものではありません。ましてや、評価自体をされないことも多々あります。
本書では、自分のアイデンティティを求めてもがく若者の姿が痛いほど分析され、読者の心に訴えてくるのです。作者の朝井リョウ自身も、大学在学中に作家デビューをしたものの就職活動をし、企業に勤めた経験があります。本書は新入社員として働きながら執筆したものだそう。SNSが当たり前に普及している現代だからこそ身につまされる、若者たちのリアルな物語です。
年齢も職業も異なる8人の男女に、イギリスにある兵隊島に招待するという手紙が届きました。差出人には、島の持ち主であるオーエン夫妻の名があります。
しかし当日になっても、当の夫妻は現れません。やがて、招待状が偽物であることが判明しました。8人と2人の召使は、不安を抱えながら晩餐に。すると突然スピーカーから、彼らが過去に犯した罪を告発する内容の声が流れるのです。その直後、生意気な青年だったアンソニーが毒薬によって死にました。さらに翌朝には、召使のひとりエセルが大量の睡眠薬を服用して死亡します。
残された8人は、2人の死に方がマザー・グースの「10人のインディアン」という詩を連想させるものであること、10個あったはずのインディアンの人形が8個になっていることに気付きました。
迎えの船は来ず、島に隔離された彼ら。自分たちは殺されるために招待されたことを悟り、いま生きている者のなかに犯人がいると確信するのです。しかし誰が犯人なのかわからないまま、ひとり、またひとりと殺害されていき……。
- 著者
- アガサ・クリスティー
- 出版日
- 2010-11-10
1939年に刊行された、イギリスの作家アガサ・クリスティーの作品。累計発行部数は1億を超え、世界でもっとも売れたミステリー小説だといわれています。
マザー・グースは、イギリスに古来から伝わる童謡の一種。その詩になぞらえてどんどん人が殺されていく様子が、緊張感を煽ります。残された人は少なくなっていくのに、まったく犯人がわからないのも凄いところ。読者はまんまとミスリードされ、その結末に驚くのではないでしょうか。
また翻訳の文章も読みやすく、情景が浮かんでくるよう。好奇心に引っ張られながら、最後まで一気読みできる作品です。
相手の嘘を確実に見抜く、演説が上手い、スリの天才、正確な体内時計をもつ……それぞれが特殊な能力を身に着けている4人組は、銀行強盗をくり返していました。
これまで百戦錬磨の戦歴を残していましたが、ある日逃走中に現金輸送車と接触事故を起こしてしまいます。しかもその車両には輸送車を襲った強盗集団が乗っていて、4000万円の売上を盗られてしまうのです。
4人はなんとか奪い返そうと作戦をたてるのですが、同時にさまざまな事件が降りかかり……。
- 著者
- 幸太郎, 伊坂
- 出版日
2003年に刊行された伊坂幸太郎の作品。コメディ要素が存分に含まれていて、軽快な文章とハイテンションな展開が特徴です。
4人の強盗たちはどんなことがあっても前向きで、ユーモアがあり、強盗でありながらついつい応援してしまう魅力があります。彼らがもっている能力も奇想天外ではなく、親近感の湧くものばかりです。
物語はテンポよく進み、すべての伏線を回収してきっちりと終結。オチの付け方に、さすが伊坂幸太郎とうなってしまうかもしれません。難しいことを考えずにどんどん読み進めていけるので、読書が苦手な方にもおすすめです。
主人公は、どこにでもいる平凡なサラリーマン。自分を変えたいと自己啓発本を読んだり、インドへ旅行に行ったりもしましたが、三日坊主の性格が災いして失敗ばかりです。
ある日、知人が開いたパーティーに出席した彼は、その場にいる人たちと自分の住む世界の差を痛感。泥酔するほどショックを受け、帰宅した後にインドで買ったゾウの置物に泣きすがりました。
翌朝、彼の目の前には、関西弁を話すゾウのような生き物が。置き物から出てきた神様だそうで、「ガネーシャ」と名乗ります。そしてガネーシャは主人公が「変われる」ように、次々と課題を与えていくのです。
夢をかなえるゾウ 文庫版
2011年05月20日
2007年に刊行された水野敬也の作品。累計発行部数は200万部を突破し、テレビドラマ化もされたベストセラーです。
ガネーシャが流暢な関西弁で主人公に与える課題は、靴を磨く、トイレ掃除をする、その日頑張った自分を褒める、明日の準備をする……など、どれも普通の内容ばかり。しかしひとつひとつの課題は、たとえばイチローや松下幸之助など偉人たちが実践していたもので、クリアをしていくたびに少しずつ成長していくのです。
そしてガネーシャは、もっとも大切なのは「課題を実践して、身につくまで継続すること」だといいます。世の中には自己啓発本が数多くありますが、何をやるかはもちろん、本人が継続することが変化への最大の近道なのでしょう。
主人公とガネーシャのやりとりはまるで漫才のようで、小難しく考えずに楽しく読むことができます。小説はどうしても苦手だという方におすすめしたい一冊です。