「ヒト」と「動物」の違いってなんだろう? 生物学入門の3冊

更新:2021.12.14

今回、生物学入門の3冊をご紹介します。実はとくべつ動物が好きというわけではなくて、この3冊はどれもタイトルと装丁で衝動買いした本です。フレンドリーな雰囲気のまま、慣れない世界にも入り込みやすく、時々登場するイラストに癒されて生物の知識が身につきます。 京都の下鴨神社から始まるカラス追跡劇、震災後の仙台湾でのタヌキの糞分析、葉山海岸にウミウシ採集……と、日々のフィールドワークの現場ものぞくことのできる、楽しい3冊。複雑で多様な生物の世界を少しだけのぞいてみませんか?

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カラスの追跡劇、タヌキの糞分析、ウミウシの採集

天気のいい秋の昼下がり。心地よい風が窓から入り込み、一人暮らしの六畳間を最高の場所にします。「仕事の締め切りが17時……ということは1時間、いや2時間は休憩してもいいよね!」と布団にくるまり、うつらうつら、むにゃむに……。

「カアーッ、カアーッ」
「……」
「カアーッ、カアーッ、カッカアーッ、カアーッ」
「……」

言うまでもなく、カラスです。一部では黒い悪魔とも呼ばれている、スカベンジャー(掃除屋)。午後の息抜きを邪魔されて、いつもいつも腹立たしい。しかし、今回1冊目に登場する『カラスの補習授業』によると、どうやら若いカラスは、将来立派にカアカア鳴く(=モテる)ために自主トレーニングをしていることがあるらしく、それを知ると少し微笑ましくも思えます。

ということで今回、生物学入門の3冊をご紹介します。実はとくべつ動物が好きというわけではなくて、この3冊はどれもタイトルと装丁で衝動買いした本です。フレンドリーな雰囲気のまま、慣れない世界にも入り込みやすく、時々登場するイラストに癒されて生物の知識が身につきます。

京都の下鴨神社から始まるカラス追跡劇、震災後の仙台湾でのタヌキの糞分析、葉山海岸にウミウシ採集……と、日々のフィールドワークの現場ものぞくことのできる、楽しい3冊。複雑で多様な生物の世界を少しだけのぞいてみませんか?
 

この本を読めば、あなたはきっとカラスに萌えるはず

著者
松原始
出版日
2015-12-02

この本の著者は、東京大学博物館で「カラスの行動と進化」を研究する人物。物理学であれば多様な運動を式に落とし込めるけれど、生物を統一的に説明ができる式は滅多になく、網羅的・索引的な知識が多い分野だといいます。この本も分野横断的。カラスのクチバシの話題がいつの間にか装甲戦闘車両になっている、そんな軍オタ的生物学が読めるのはこの本だけかもしれません。

「カラスはなぜ鳴くの? 」は童謡にもなるほど、誰もが一度は持つ疑問。しかし、そんなの一言で説明なんかできない! ときっぱり言い切る著者。仲間を呼ぶ、恋人に自分の場所を知らせる、集まったカラスが順番に点呼、求愛、自主トレーニング……。その意味は、鳴いているカラスの種や社会的立場によっても異なります。例えば仲間を呼ぶとしても、なんのために呼ぶのか、仲間って誰のことか、どうして仲間が必要なのか、と掘り下げられていきます。

そしてこの表紙を飾るのは「カラスくん」。5歳。好奇心旺盛だけどちょっと臆病。このカラスくんが至るところに登場して(数えてみたところ全部で227匹)、著者の解説を手伝います。著者の、アクの強いカラス愛をカラスくんがやわらげてくれる、カラスに萌えること必至の1冊です。
 

タヌキのうんこから分かる、野生生物としての素顔

著者
高槻 成紀
出版日
2016-01-06

イタチっぽいのがアナグマ。木登りできるのがアライグマ。尾が長いのがハクビシン。秋になるとよく太るのがタヌキ。アライグマはもともとアメリカの野生動物ですが、某アニメが人気になったため日本でも飼育され始め、今は野生化して勢力を広げているそう。このように、似ている中型動物はいるものの、日本人にとって一番身近なのは、やっぱりタヌキでしょう。アニメや漫画、昔話にもよく登場する、最も身近な野生動物です。

この本の中で大きく扱われるのが、タヌキの糞分析。糞を持って帰って、洗って、種を数える。自分でも分析に挑戦できそうなほど、手法や写真つきで詳しく載っています。しかし糞なだけに過酷な作業のようで、専門家である著者も、「ウンチを拾うのは楽しい作業ではない。草食の糞はそうでもないが、食肉目の糞はくさい。とくに夏の糞は鼻が曲がりそうなほどくさい」と言うほど。最近ニュースにもなっていた、天皇陛下の皇居のタヌキ研究は、毎週末この分析を行い、それを5年間分まとめたもの。すごいです。

都市の発展のために開発が進み、そこに住んでいたキツネやイノシシといった野生動物は東京から姿を消しました。一方、タヌキ。無神経の性格のためか、人間や車の近いところでもわりと平気なようです。明治神宮の森、玉川上水、皇居などの緑地の中で、草木の実や昆虫を食べ、糞をし、虫がそれを分解し、種が林をつくる。多くの生物がつながってつくる「生きた林」の一員として暮らしています。キャラクターや居酒屋の前の置物ではなく、野生動物としてのタヌキの存在を知ることができる1冊です。
 

1つの体にオスとメス。 ウミウシから探る、愛と性の科学

著者
中嶋 康裕
出版日
2015-07-16

「うれしい、たのしい、大好き!」はヒトが恋をして舞い上がる様子を描いたDREAMS COME TRUEの歌ですが、『うれし、たのし、ウミウシ。』はウミウシと海の生物たちが子孫を残そうとする様子について書かれた本です。以前は「水族館で見たことがあるような……いや、あれはナマコかな? 」くらいの認識しかなかったけれど、この本を読んでからやたら気になる存在になってしまいました。

ウミウシは「雌雄同体(しゆうどうたい)」。オスとメスで分かれておらず、1匹が精子と卵の両方を持っています。とはいえ、自家受精は生涯誰とも出会えなかった悲しいヤツの非常手段で、他のウミウシを見つけて交配するのが基本。交配の際にはその都度、「おまえメス役、俺オス役な! 」と演じる役柄を決めます。なんと、1回目が終わったら役を入れ替えて再交配するのがお約束。

「いまいち想像つかないけど、なんだか便利そうだしうらやましい」と、のほほんと思っていたら、そんな穏やか世界ではなかった。ペニス・フェンシング、精子の栄養源化、逆媚薬強制注入。次々と紹介される繁殖に関わる行動は……えげつない。どうやら雌雄同体はその機能上、自分の子孫を残すために他を蹴落とす戦略が行き過ぎてしまうよう。そのため、オスとメスで体が分かれている方がえげつなさの抑止力になるのかもしれない、と著者は考察しています。

1つの体に2つの性。その状況下での子孫繁栄をかけた戦略は、過激で理解不能で少し怖いくらい。でもその謎行動を「生き残る自分の子の数を最大化する」という原則をもとに著者が解説してくれるので、謎解きものを読んでいるように楽しめます。自分自身いまいち腑に落ちないところもあって、何度も読んで咀嚼したい、そんなスルメな1冊です。
 

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