教授と大学院生の歳の差恋愛を描いた『長閑の庭』。不器用な女の子と堅物な教授の真摯な恋愛ドラマは、2019年にテレビドラマ化も決まっており、ますます注目度があがってきている作品です。今回は、そんな『長閑の庭』のあらすじと魅力をご紹介します。
真面目だけど不器用な大学院生・朝比奈元子(あさひな もとこ)と、元子が通う大学院の教授・榊郁夫(さかき いくお)の歳の差恋愛を描いた漫画作品。元子は大学院1年生、榊は64歳。その年の差は40歳以上……歳の差恋愛の結末が気になります。
黒い服ばかりを着ているため、周りからはドイツ語で「黒」を意味する「シュバルツ」というあだ名を付けられている元子。そんな彼女が榊に好意を寄せるようになったのは、榊から「君の日本語は美しい」と褒められたことがきっかけでした。
歳が離れていることもあって、自分の気持ちがおかしいのかと悩むこともありますが、少しずつ、自分の気持ちを確かめていくことになります。
共に過ごすうちに、榊は元子の気持ちに気がつきます。歳の差のことを考え、元子の気持ちをけん制しますが、しだいに自分も恋愛のような気持ちを抱いていることに気が付いていくのです。
- 著者
- アキヤマ 香
- 出版日
- 2014-10-10
それぞれが抱く「好き」は、恋愛なのか師弟愛なのか尊敬なのか……自分の気持ちを定義付けながら進んでいく流れからは目が離せません。
2019年6月にはNHKBSプレミアムで4週連続のテレビドラマがスタート。キャストには、元子を橋本愛、榊郁夫を田中泯を迎えており、橋本愛の凛とした雰囲気と、ダンサーである田中泯の静かな雰囲気がぴったりの配役です。
主演となる橋本愛は、元子を演じるにあたり、「教授への恋心を、枯れ専や歳の差カップルというカテゴリだけでは片づけられない真実の愛を丁寧に表現したい」とコメントしています。静かだけど情熱的な原作の雰囲気が、どんな風に映像になっているのかもチェックしてみてはいかがでしょうか。
『長閑の庭』の作者は、アキヤマ香という漫画家です。本作の他に、『アスコーマーチ!』や『僕のおとうさん』、『片恋グルメ日記』などの作品を発表しています。特に『アスコーマーチ!』は、2011年にテレビドラマ化もされた人気作です。
- 著者
- アキヤマ 香
- 出版日
- 2010-09-24
高校生や教師、大学院生など、立場は様々ですが、挫折やコンプレックスを抱いたキャラクターが、自分の居場所を見つけたり、自分の感情に悩んだり葛藤したりするところは各作品に共通しています。そんな繊細なところがとても魅力的に描かれているのが、アキヤマ香作品の特徴。
読者は時に辛い気持ちになりつつも、最後は切なくて暖かい気持ちになることができます。柔らかな印象の絵柄も、切ないけど温かい気持ちになれる理由の1つかもしれません。
繊細なヒューマンドラマを読みたい方は、ぜひチェックしてみてください。
元子は、黒い服ばかり着ており、シュバルツさんとかシュバちゃんなどと呼ばれています。
そもそもどうしてそんなに黒い服ばかり着ているのかというと、周りから「大人っぽい」「しっかりしている」などと言われ続け、そのイメージから外れたことをしないようにしているうちに、黒い服ばかり着るようになってしまったのです。
本当は可愛いものが好きで、可愛い服を着たいと思っていたのです。
そんなところからも伝わってくるように、元子は真面目で不器用なところのあるキャラクター。人付き合いも苦手で、年下の友人にも敬語で話してしまいます。だからこそ、榊に出された課題も、真摯に受け止め、取り組もうとするのでしょう。元子の性格があってこそ、本作の魅力が成り立っているのです。
40歳以上も年の離れた榊教授に好意を寄せる元子と、その気持ちに気が付いた榊。ある時、元子に対して課題を出します。
「“好意”と“その分類”についての論文も宿題にしたまえ」
(『長閑の庭』1巻より引用)
これは、元子が「好き」という気持ちにはどんなものがあって、どれくらいの種類があるのかと疑問を持ったところから生まれた課題です。この課題こそ、本作の肝になっていると言っても過言ではありません。
「好き」という気持ちには、確かにいろいろあります。恋愛の好きや、家族としての好き、尊敬や師弟愛というものもあるでしょう。
元子はこの課題に対し、真摯に取り組みます。本で調べるのはもちろん、恋をしている友人に話を聞いたり、思い切ってかわいい系の黒くない服を買ってみたり……いろいろなことに取り組んでいくことになります。そんな取り組みを通じて、榊に対する気持ちとも向き合っていくことになるのです。
そしてそれは、榊もまた同じでした。榊も、しだいに自覚していく元子に抱く自分の気持ちの「好き」がどんな種類のものなのか考えていくことに。2人の「好き」がどんな形になっていくのか、最後まで目が離せません。
真面目で不器用な大学院生の元子と、いつも苦虫を噛んだような顔をしているドイツ文学の教授の榊。彼らは飛びぬけて変わっているわけではなく、読者としてはとても親しみを覚えることができます。
しかし、それは2人に限ったことではありません。彼らを取り巻く人々も、とても魅力的です。
榊の助手である田中蓮は、何かと元子のことをからかってくる存在。元子が榊に好意を寄せていることにも気が付いており、2人が付き合っていると噂を流したり、榊の離婚した元妻である朝霧翠の存在を元子に教え、榊と朝霧がまだ2人で会っていると言ったりするのです。
元子にとっては、当然、嫌なことばかり言う存在。ですが、それには田中なりの理由があるのでした……。
そして元子の気持ちをかき乱す存在としては、元妻・朝霧翠(あさぎり みどり)の存在も忘れられません。朝霧は、大学の講義の教師として元子達の前に現れました。
レベルの高いドイツ語の語学力と、とにかく明るくて気さくでパワフルで圧倒的な存在感を持ち、何より榊の元妻で、離婚したとはいえいまだに交流がある朝霧は、元子にとってはもちろん気になる存在。彼女が、2人の関係にどう影響してくるのかも気になるところです。
「好き」の定義を模索し続けながら、少しずつ自分と相手の気持ちを確認していく元子と榊。
両想いになったとはいえ、2人は40歳以上も歳が離れています。榊は、元子の家族ともきちんと話をしようとしますが、もちろん、快く受け入れてもらえることはありませんでした。特に、榊と歳の近い元子の祖父は猛反対をします。
そんな彼らは最後どうなるのでしょうか。
- 著者
- アキヤマ 香
- 出版日
- 2019-05-13
元子の祖父に、榊はある事実を告白しました。榊は、病気を患っていたのです。その事実に、元子が不憫だとさらに祖父は怒りますが、榊は静かに、元子と時間を過ごすことが必要であることを語りました。
祖父が彼女たちにとってどういう存在になるのか、そして病気であることを告白した榊に、元子はどんな選択をするのか……ラストをハッピーエンドといえるのかどうかは、読む人それぞれかもしれません。
切なくも温かい結末を、ぜひ手に取って確認してみてください。
歳の差カップルは、現実でもそれほど珍しいものではなくなってきましたが、様々な葛藤や困難があることも事実です。そんな困難を一緒に乗り越えようと思えるのも好きだからこそなのかもしれません。いろいろな「好き」を考えながら読むことができる作品なので、ぜひ最後まで読んでみて自分の中の感情と向き合ってみてはいかがでしょうか。