警察小説で有名な横山秀夫の小説『影踏み』。警察関係者が主人公となる作品が多い中、本作は犯罪者視点という珍しい作品。さらに死んだ双子の弟の魂が兄に宿るという奇抜な設定で、新鮮な魅力があります。 また、本作は山崎まさよしが14年のブランクを経て長編映画に挑戦することでも話題。原作が面白いことはもちろん、2019年11月のメディア化作品からも目が離せない注目作です。今回は、そんな『影踏み』のあらすじと魅力をご紹介します。
本作は、真壁修一と真壁啓二という双子の兄弟が主人公。2人は優秀な人物でした。しかし兄が弁護士を目指して法学部に進学したのに対し、弟は受験に失敗してしまいます。そのことがきっかけですっかり落ちぶれてしまった啓二は、ついには空き巣で逮捕されてしいます。
もともと優秀な人物だっただけに、母親は悲嘆に暮れ、追い詰められたあげく、とうとう弟を殺して自分も死ぬという最悪の結末を迎えてしまいました。
しかし、これは物語の始まりに過ぎません。本作は、その後、家族を失ったことで泥棒にまで身を落とした兄と彼に、弟の魂が宿ったところから物語が本格的に動き出すのです。
修一は、家族を失った後、深夜の人が寝静まった家に忍び込む「ノビ師」と呼ばれる泥棒になっていました。その後、捕まって刑務所に送られますが、出所後、さまざまな事件に巻き込まれていくことになります。
そんな本作『影踏み』は、映画化されることでも話題。キャストも、14年ぶりの主演となる山崎まさよしを始め、北村匠海や小野真千子などの豪華な顔ぶれになっています。公開日は2019年11月。本作は文庫版もあるので、手軽に注目作を一読してみてはいかがでしょうか。
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- 著者
- 横山 秀夫
- 出版日
- 2005-09-15
本作の作者・横山秀夫は、多くの警察小説を世に送り出している小説家です。1998年に松本清張賞を受賞し、デビューしました。
『半落ち』、『クライマーズ・ハイ』、『64(ロクヨン)』など、数々の人気作、話題作を発表しており、『半落ち』は直木賞の候補にもなりました。
映像化も多くされており、『クライマーズ・ハイ』や『64(ロクヨン)』など映画化された作品の他、『陰の季節』シリーズや『ルパンの消息』などはテレビドラマ化されるなど、小説でも映像でもたくさんの人を魅了しています。
ミステリーのなかでも警察小説が特に多く、その緻密かつ詳細な描写は、読者に鋭いリアリティを感じさせてくれるでしょう。読みごたえのあるミステリーを読みたい方なら、手にとってみて損はありません。
ちなみに、警察・ミステリー小説で有名ですが、児童書や漫画原作などを手掛けたことも。分かりやすい内容で読みやすく、そちらもおすすめです。
本作には泥棒や警察など、さまざまな登場人物が登場しますが、メインとなるのは主人公の双子の兄弟・真壁修一と啓二、そして2人の幼馴染みで修一の彼女・安西久子です。ここではそれぞれのキャラクターをご紹介します。
このほかにも物語は周囲の人物を巻き込みながら複雑にストーリーが展開していきます。映画作品では、鶴見辰吾、大竹しのぶ、中尾明慶、田中要次など早々たる面々が登場します。
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まずご紹介したい本作の見どころは、修一と啓二の関係性です。
2人が今のような生活になった始まりは、そもそも啓二が空き巣にまでなり下がったことでした。しかし、そのきっかけは、修一という優秀な兄がいたゆえのプレッシャーだとも考えられるのではないでしょうか。
兄はうまくいったのに自分はうまくいかなかった……そんな事実に自暴自棄になり、さらに母親を追い詰めたともいえます。
反対に、修一にとって啓二は、母親を追いつめた人物ともいえます。作中では、啓二は悪くない、母親が悪いと言っていますが、複雑な気持ちを抱いていることは間違いありません。修一の体に啓二が宿ってからは仲のよい会話をしていますが、何かを隠しているように感じることもあるでしょう。
2人のそんな微妙な気持ちは、ラストに向かって重要なところにもなっていくので、ぜひ考えながら読んでみてください。
本作でのもう1つの見どころは、久子の存在です。
久子は、修一が泥棒になり前科者となった今でも、彼に想いを寄せています。見合い話が来た時も、相手があまり良くない人物だということで修一が見合いを断るよう言った際には、目を輝かせて喜んでいました。
そんなところからも、久子が修一をいまだに想っていることが分かります。そして、啓二も、2人が再び元通りの関係になることを望んでいました。
しかし、最終的に彼らがどうなるのかは、実は、本作では描かれません。読者にとってはかなり気になるポイントではあるのですが、終わった後の2人の話を想像できる要素は作中にしっかり描かれています。
2人がどうなったのか、読み終わった後に想像してみるのも本作の楽しみ方の1つかもしれません。
本作は連作短編となっており、複数のエピソードが描かれていきます。その中で最後の事件となるのが、久子のストーカー事件です。
見合いをした相手の兄・新一郎からストーカーされるようになってしまった久子。そのことを相談された修一は彼について調べることになります。
実はこの兄弟は、修一たちと同じように双子。そもそも久子の見合い相手は弟の次郎だったのですが、どうせバレないだろうと高をくくった新一朗がすり替わり、それを久子が見抜いたのでした。彼女がバカにされたと見合いを断ったことが、新一朗を逆上させたのです。
この事件のポイントは、新一郎と次郎が双子であること。そこがどうストーリーで重要になるかは、ぜひ本編で確認してみてください。
また、このエピソードで注目したいのは、修一が久子のために一生懸命になっていること。彼にその自覚があったのかはわかりませんが、啓二にも指摘されています。そして、そのことが啓二にある決心をさせることになるのです。
啓二が語るのは、それまでずっと隠していたある事実。そして、それを聞いた俊一は、無自覚だった、ある気持ちに気が付くのです。
家族を失った後、俊一がよりによって泥棒に身を落としたことに対して、啓二が自分への当てつけだと語る場面があります。俊一は否定していますが、果たしてそれは本心なのか……。どこにどんな真実や本心が隠されているのか、最後まで目を離せません。
その結末は、本作のタイトルを回収するような美しく、切ないもの。その後の彼の生き方に思いを馳せてしまうような余韻の残るラストです。
いかがでしたか? 双子の弟の魂が兄の体に宿るというファンタジックな設定がありつつも、本格的なミステリー展開も読みごたえたっぷり。また、犯罪者視点というのも新鮮な気持ちで読むことができます。映画が公開される前に、ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。