自意識過剰な心を描いた小説6選!色々とこじらせている人におすすめ

更新:2021.7.10

人間誰しも、少なからず他人の目は気になります。しかし、かっこつけたい、評価されたい、恥ずかしい姿を見せたくない……などの自意識があまりにも膨れ上がると、かえって滑稽に映ってしまうものなのです。この記事では、自意識過剰な心を描いたおすすめの小説をご紹介。さて、共感できるでしょうか。

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自意識過剰な男が綴った手記『地下室の手記』

主人公の男性は40歳。役所に勤めていましたが、遠い親戚の遺産が手に入ったので仕事を辞め、地下室に引き籠る生活をしています。

外には出ないと決め、たとえ体調を崩しても病院に行くことはありません。地下室という小さな小さな世界から、外に出ることはないのです。

本書には、「地下室」「ぼた雪に寄せて」の2編が収録されています。「地下室」には、当時のロシアの社会情勢や、そのなかで生きる人々への怒りを地下室から綴った主人公の手記。そして「ぼた雪に寄せて」には、彼が地下室に引き籠る前の様子が描かれています。

著者
ドストエフスキー
出版日
1970-01-01

ロシア出身の小説家であり思想家の、フョードル・ドストエフスキーの作品です。1864年に現地の雑誌に掲載されました。

他人とうまく関係を築くことができなかった主人公。疑い深くて怒りっぽく、理性で暮らす人間を否定します。その一方で、行き過ぎた自意識に翻弄され、自分の本当に望んでいることもわからず、迷走していくのです。自分のことは特別だけど、世界は自分の思い通りにはならない……主人公の様子は狂人めいていて痛々しくも見える反面、読者の誰しもが少なからず抱いているものにも感じられます。

「ドストエフスキーの全作品を解く鍵」という評価を受けている作品なので、最初の1冊として読んでみてはいかがでしょうか。

扱いきれない自意識が獣となる『山月記』

主人公はの李徴(りちょう)は、若くして科挙の試験に合格するなど、才能にあふれた人でした。周りからも「鬼才」と呼ばれています。しかし大変な自信家でもあり、一役人として働く生活に嫌気がさして、詩人として名をあげようと、仕事を辞めてしまいました。

しかし、詩人として芽が出る前にお金がなくなり、家族を養うために再び役人として働くことになるのです。ただその頃には、かつて見下していた人たちが自分よりも出世をしていて、李徴の自尊心は深く傷つけられます。

屈辱に耐えかねた彼は、夜中に野山へと逃亡。そして……。

著者
中島 敦
出版日

1942年に刊行された中島敦の作品です。中国の清時代に書かれた『人虎伝』がモデルになっています。

頭脳明晰ではあるものの、自意識過剰なゆえにプライドが高く、周囲の人を見下していた李徴。役人を辞めて詩人として歩み始めた時も、師に教えを乞うことをせず、努力もしません。そして野山に逃げ出した時、虎に姿を変えてしまうのです。

作中では、「人は誰しも心の中に猛獣を飼っている猛獣使いである」と語られます。ここでいう「猛獣」こそが自意識や自尊心と呼ばれるものでしょう。主人公の李徴は自身の「猛獣」を扱いきれず、実際の虎に姿を変えてしまったのです。

高校の国語の教科書にも採用されているので、1度は読んだことがある方も多いかもしれませんが、歳を重ねてから読むとまた違った感想を抱くことができるでしょう。

思春期の自意識を描いた名作小説『ライ麦畑でつかまえて』

主人公は、成績不振で高校を退学処分になった、ホールデン・コールフィールドという少年です。純真無垢を好んだ彼は、自分の都合で他人を利用する者を「汚い」と感じ、校内のさまざまなものに反発していたのです。

寮を追い出されたホールデンは、1度は実家に帰ろうかと考えるものの、ニューヨークの街へ繰り出します。旅行客やコンパニオン、古くからの友人などと出会いますが、ここでも彼は欺瞞や俗物性に触れ、嫌気がさしてしまうのです。

ライ麦畑でつかまえて (白水Uブックス)

1984年05月20日
J.D.サリンジャー
白水社

 

1951年に刊行された、アメリカの小説家J・D・サリンジャーの作品です。

少年と青年の狭間にいるホールデン。大人ぶる素振りを見せつつも、冗談を言うなど子どもらしい一面もあります。そんな自分と社会をうまく繋ぎあわせることができず、ある種の反逆心のようなものを抱え続けていました。

ホールデンの妹が彼に放った「世の中に起こることの何もかもが嫌なんでしょ」という言葉に、ドキッとした読者も多いのではないでしょうか。ホールデンの抱く怒りや、過剰な自意識は、大人になるにつれて消えていってしまう感情なのかもしれません。思春期特有の心の動きが繊細に描かれた名作、おすすめです。

溢れ出す自意識に笑えて恥ずかしくなる小説『ほんたにちゃん』

1990年代東京、「ほんたにちゃん」はクリエイターになる夢を叶えるために専門学校に入学しました。

しかし、元来自分の考えていることを他人にうまく伝えることができない性格。過剰すぎる自意識も邪魔をして、心のなかは大混乱しているのです。

そんなある日、有名クリエイターの野次マサムネから、「作品のモデルになってほしい」というオファーが舞い込みました。

著者
本谷 有希子
出版日
2008-03-20

2008年に刊行された本谷有希子の作品です。作者自身を描いていることを思わせる主人公の「ほんたにちゃん」。自分が特別な存在だと信じ、好きなアニメのキャラクターと同じ性格を演じる、いわゆる「痛い」人間です。

しかし彼女も心の底では、そんな特別性など無いことに気付いていて、それでも特別だと振る舞わないと自分を保っていられません。こじらせながらも必死に生きるその姿が、読者の胸に刺さるのです。思わず共感してしまい、赤面する人も多いでしょう。

そして事実であれば黒歴史のような出来事を、まるで自伝のように小説にしてしまう本作も、自意識の表れなのかもしれません。

『ほんたにちゃん』の作者・本谷有希子の著作についてもっと知りたい方は、こちらの記事がおすすめです。

芥川賞作家・本谷有希子のおすすめ小説ランキングベスト6!

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芥川賞を受賞したことで話題を集める本谷有希子。彼女が描くのはどこか自意識過剰で癖のある、生々しい「女」の姿。イタい!それなのに、目を離すことができません。高い中毒性を持つ本谷有希子ワールドの魅力を堪能できる作品をご紹介します。

就活に向き合う大学生の過剰な自意識を描いた小説『何者』

就職活動真っ最中の5人の大学生を中心に、物語が展開されます。

二宮拓人は演劇サークルに所属していましたが、就活のために脱退しました。他人を観察する能力に長けていて、自分のことは棚に上げてとにかく他人のすることが気になる様子です。

なかでも、大学を辞めて劇団を立ち上げ、就活に見向きもしな銀次を見ては、妙な焦燥感を抱いています。

著者
朝井 リョウ
出版日
2015-06-26

2012年に刊行された朝井リョウの作品です。朝井が本作を執筆したのは、大学を卒業して社会人1年目として会社員勤めをしていた時。自身が経験した就活の様子が実にリアルに描かれています。

周囲の人間を自分より劣っていると思い込むことで、精神を安定させていた拓人。劣等感の裏返しだったのかもしれませんが、彼にとっては他人を観察することが、自分が何者かわからなくなる不安を払拭するための行為だったのです。好きなこと、やりたいことを追い求めている銀次のことは、より憎らしく感じられたでしょう。

拓人のほかにも、見栄やプライドなどの自意識にまみれた人物が登場。自分と他人を比べすぎて、かえって自分のことがわからなくなっていく様子が描かれます。就活をとおして自分を見つけられるのか、見失ってしまうのか……彼らの結末とともに、物事に対する向き合い方を考えさせられる1冊です。

自意識過剰ゆえに自分を演じる青年を描いた小説『舞台』

主人公の葉太は29歳。初めてのひとり旅の行先に、ニューヨークを選びました。ガイドブックを事前に読み込み、準備満タン。しかしいざ到着をすると、「はしゃいでいる」と思われたくなくて、街中を興味なさげに歩くのです。

さらに初日にスリにあってしまい、なんと無一文に。それでも1日目からスリにあったかわいそうな人と思われたくないという気持ちから、誰にも助けを求めず、ふらふらと街をさまよいます。

著者
西 加奈子
出版日
2017-01-13

2014年に刊行された西加奈子の作品です。

自意識過剰ゆえに、見知らぬ土地でありながらも自分のなかで設定をつくり、冷静な自分を演じる葉太。たとえトラブルが起こっても、羞恥心が邪魔をしてとるべき行動がわからなくなってしまいます。しだいに自分自身をも欺くようになり、「本当」が見えなくなっていくのです。

理想の自分と、現実の自分に折り合いをつけるということは、苦しいこと。本書につけられた「生きているだけで恥ずかしい」というコピーも印象的です。

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