四半期に1度はニュースで耳にする「GDP」という言葉。国の経済力を示す指標として、世界中で用いられています。この記事では、似た指標である「GNP」との違いや算出方法、2019年現在のランキングなどをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
「Gross Domestic Product」の頭文字をとったGDP。日本語では「国内総生産」といいます。
計上される値は、ある国において一定期間に新たに作られたモノやサービスの付加価値を合計したもの。ここには、その国の国籍をもつ人の活動だけでなく、その国に進出している外資が生み出した付加価値も含まれています。
GDPを見ることで、その国がどれくらいの富を作り出しているのかという経済力を判断することが可能。たとえば前年度の伸び率と比較することで、期間中に経済力がどれくらい拡大、または縮小したかを知ることができるのです。
算出の方法は、「個人や企業の経済活動」「公共事業などの政府支出」「貿易収支」の3つの値を合算。多種多様な統計を用いるため、厳密な計算にはそれなりの時間が必要です。そこで日本では、「確報値」とは別に、四半期ごとに月次の経済統計を用いた推計の速報値も発表されています。
これらの値は、国家全体で集計した所得の合計であるため、個々人の賃金や企業の利潤などを合計した「国内総所得(GDI)」、国内で支出として計上された金額を合計した「国内総支出(GDE)」と理論的には等しくなります。
GDPが所得の合計であるのに対し、GDIが所得を分配した値、GDEは分配された値をどのように用いたかを示していて、同じ要素を違う観点から評価しているからです。これを「三面等価の原理」といいます。
ではGDPについてもう少し詳しく説明していきます。
まず「名目GDP」です。これは、算出時の物価変動を踏まえて計算をしたもの。たとえばある国が100万円の車を1年間で100台販売し、翌年には同じ車を120万円で100台販売したとします。この場合の「名目GDP」は、それぞれ1億円と1億2千万円になり、翌年のほうが伸びているとみなされます。
一方で「実質GDP」は、物価変動の影響を排除して計算をしたもの。先ほどの例で考えると、2年間とも販売した車の台数は変わらないため、「実質GDP」は変化していないことになるのです。
つまり「名目GDP」は金額を基準にしていて、「実質GDP」は数量を基準にした指標であるといえるでしょう。「名目GDP」は私たちが感じる景況感に近い値となり、「実質GDP」はその国の経済力の実態を反映した値になるとされています。
また「名目GDP」と「実質GDP」には、物価を考慮するかしないかで差が生じます。「名目GDP」のほうが「実質GDP」よりも大きければインフレーション、反対に「実質GDP」のほうが「名目GDP」よりも大きければデフレーションが発生していると判断できます。
先に示した車の例でいうと、120万円で100台を売った翌年は「名目GDP」が「実質GDP」を上回っているため、インフレが進行していると考えることができるでしょう。
日本では、経済力を判断する代表的な指標として1993年からGDPが用いられています。それ以前は、「GNP(Gross National Product)」、日本語にすると「国民総生産」が用いられていました。
GNPは、GDPとは異なり国籍を基準に値を算出していきます。つまり海外で暮らす日本人や日本企業の所得を計上し、日本に進出している外資の経済活動は計上されません。
グローバル化にともない多くの日本企業が海外に展開していく一方で、日本に進出する外資も増えています。日本国内の経済力をより正確に把握するため、GNPに代わってGDPが用いられるようになったのです。
ではGDPを基準にして経済力を比較した場合、世界の動向と日本の立場はどのようになっているのでしょうか。IMF国際通貨基金は、2019年4月に2018年度の各国の名目GDPを発表しました。それによると、上位10ヶ国の値は次のようになっています。(単位:アメリカドル)
アメリカが頭ひとつ抜けていて、次点で中国、日本は3位にランクインしています。
ただ日本は、1968年にGNP換算で世界2位に躍進してから、「世界第二の経済大国」を自認してきました。しかし1990年代から中国が急成長を遂げ、2010年には日本を追い抜き、現在のGDPは倍以上になっているのが現状です。
また国別のGDPは、人口が考慮されておらず、中国やインドなどの人口大国が有利になりやすいという指摘もあります。そこで名目GDPを人口で割った「ひとり当たりの名目GDP」も見てみましょう。(単位:アメリカドル)
上位10ヶ国の顔ぶれが大きく変化することがわかるでしょう。なおルクセンブルクは「タックスヘイブン」として知られていて、世界の金融機関が進出していることが値を押し上げる要因になっています。そのためこの指標だけを見るのも問題はありますが、国の豊かさを異なる観点から見ることができる重要なものです。この算出法だと、日本は3万9306ドルで26位、中国は9608ドルで72位となります。
ちなみに中国の値は、1970年代後半の日本と同程度。このことから、中国の経済成長はしばらくの間継続するという見方もあり、研究者のなかには2030年までにアメリカを追い抜いて世界最大の経済大国になると予測する人もいるほどです。
- 著者
- ダイアン・コイル
- 出版日
- 2015-08-26
GDPはもともと、1920年代のアメリカで生まれました。戦時中に自国の力を正確に把握しようと作られたのです。本書はタイトルのとおり、それらの歴史を紐解きながら、GDPの特性をまとめた作品です。人々の把握した情報が変化したことにともない、GDPの算出方法も変わってきたことがわかるでしょう。
また作者は、GDPは「豊かさ」を図る指標ではないと主張しています。経済力を図るために有用である反面、形のないモノの価値を図ることが苦手。GDPにも限界があるのです。
大まかに概要を学びつつ、メリットやデメリットを知りたい方におすすめの一冊です。
- 著者
- 熊谷 徹
- 出版日
- 2019-02-02
国別の「名目GDP」を見てみると、ドイツは日本と僅差で世界4位。一方で「ひとり当たりの名目GDP」を見ると、4万8264ドルで、日本の3万9306ドルを大きく上回っています。
しかし、ドイツの平均年収は約290万円。決して高くはありません。それなのになぜ、ドイツは日本よりも「豊か」なのでしょうか。
本書では、ドイツ人の生活スタイルに迫りながら、その要因を解説していきます。作者は、ドイツに約30年住んでいるジャーナリストです。
日本のサービス業は過剰サービスで、そのために生産性が阻害されていると指摘。「労働時間を制限しても経済は停滞しない」と述べています。制度や文化の違いがあるので、一概にすべてを参考にすることはできませんが、ゆとりを楽しむヒントとしてドイツの事例を知っておくのもよいでしょう。