動物園の「動物」を「妖怪」に置き換えた、藤栄道彦による妖怪コメディ漫画。「生物」として描かれる妖怪のリアリティや、時事問題や現代社会を風刺したネタが話題となった本作のおすすめエピソードを、各巻から1話ずつご紹介します。ネタバレも含みますので、まだ読んでいない方はご注意ください。 スマホの無料アプリでも読めますので、気になった方はそちらからどうぞ。
人間と妖怪が、ごく当たり前のように共存している世界が舞台の本作。妖怪を展示する「妖怪園」は、大都市ならどこにでも1箇所はあり、人々は様々な妖怪を見ることができます。
主人公の鳥月日和(とりつき ひより)も、社会人一年目の新人飼育員として西東京妖怪公園で働いていました。妖怪医師・陸奥吾郎(むつごろう)や仲間のサポートのもと、妖怪の飼育に慣れようと頑張る日和。はたして、一人前の妖怪の飼育員になれるのでしょうか。
本作では、妖怪は生物として扱われており、妖怪たちもリアルに描かれます。現代の人間と妖怪の暮らしを対比して描写することで、より人間の存在が浮き彫りになっているのです。
時事ネタや現代社会の問題を扱ったテーマが多いのも本作の特徴で、社会風刺と馴染み深い妖怪ネタを存分に活かしています。パロディネタもかなり多く、テンポのよいストーリーとキレのあるギャグで、最後まで読者を笑わせてくれるでしょう。
- 著者
- 藤栄 道彦
- 出版日
- 2015-12-09
『最後のレストラン』の作者・藤栄道彦による妖怪コメディ漫画で、2015年3月27日よりウェブコミック配信サイト「くらげバンチ」にて連載スタート。2019年7月現在でコミックス6巻まで発売されています。
生前強欲だった人間の転生した姿とされる餓鬼の展示コーナーは殺風景で、なんだかどんよりとした雰囲気。しかしそれには理由があり、五郎はあえて展示コーナーを殺風景にし、食事も最低限にしていました。
- 著者
- 藤栄 道彦
- 出版日
- 2015-12-09
実は、餓鬼は要求がエスカレートする習性があり、一度でも施しをしてしまうと、際限なく要求してくるのです。
1人の飼育員のミスから始まった餓鬼の要求は、マスコミや政府までもを巻き込む騒動に発展。妖怪公園に、餓鬼を救済しようと市民活動家たちが押し寄せてきました。
そこで、五郎は市民活動家たちに「サポーターになって金銭援助をすればいい」と提案。年々援助の金額が増えるであろうことも伝えます。すると、誰もサポーターにならず、最後はいつもの餓鬼に戻りました。
日本の国際情勢を、かなりストレートに皮肉ったエピソード。ラストの「本当の餓鬼とは一体誰なのか」という意味合いの台詞に、人間の本質を考えさせられます。
西東京妖怪公園に、新しい妖怪飼育員・大源壮悟(たいげん そうご)がやってきます。彼は女性の妖怪との結婚願望を持つ、かなりマニアックな男性。壮悟は女性の妖怪たちにアピールしますが、妖怪たちはドン引き。
そんな中、壮悟はつらら女の寒梅(かんばい)と出会います。つらら女は冬のみ活動する妖怪。結婚した男が翌年の春に他の女性と結婚してしまい、その年の冬につららの姿になって、男を刺し殺したという逸話を持っています。当然、浮気に厳しい彼女は壮悟に対し冷たくあしらいます。
- 著者
- 藤栄 道彦
- 出版日
- 2016-12-09
その夜に行われた人魂のパレードで、寒梅は観客に押され、人魂の方へ倒れそうになりますが、そこへ壮吾が飛び出し寒梅を助けます。火傷しながらも自分を助けた壮悟に惚れた寒梅は、壮悟と付き合うことに……!
本作のメインキャラとなる壮悟と寒梅の初登場回となるエピソードです。寒梅はその後のエピソードでも壮吾を気にかけており、寒梅が壮悟を助けたり、病気の彼のところへお見舞いに行ったりしています。
2人の関係が気になる方は、ぜひ本作を読んでみてください。
西東京妖怪公園で、猿によるお菓子や弁当の盗難騒ぎが起きます。壮吾もドライバーを盗られ、テントが倒れるという災難に見舞われました。猿は園内を逃げ回りますが、日和を気に入ったのか、頭の上に乗るようになります。
日和は猿を連れて歩きますが、突然猿が帽子を盗って逃走。彼女は追いかけようとしますが、その直後、バスが突っ込んできました。
実は、九尾が飼育員に化けて、日和のいた場所にバスを突っ込ませたのです。テントを倒したのも九尾で、猿は飼育員を危険から守るため、わざと帽子やドライバーを盗っていたのでした。
- 著者
- 藤栄道彦
- 出版日
- 2017-11-09
九尾は鉄をも溶かす毒霧を吐いて、園内を恐怖と混乱に陥れます。子泣き爺と烏天狗の妖怪・青北風(あをぎた)が連携して九尾を追い詰めますが、あと一歩のところで届かず。
そこへ猿が現れ、分身して九尾の傷口を攻撃。九尾は退散し、園内は平穏を取り戻しました。騒動の後、猿の正体が孫悟空の仲間である石猿ということが判明し、石猿も園の仲間に加わったのです。
比較的人間に友好的な妖怪が多い本作で、九尾は人間に明確な悪意を持つ妖怪として登場します。妖怪はコミカルなだけでなく、恐ろしい一面も持つ存在であることを再認識させられるエピソードです。
飼育員の今田育代(いまだいくよ)は、通勤途中にあおり運転に遭遇します。なんとかやり過ごした育代ですが、今度は自分の担当である朧車(おぼろぐるま)が、寿命で弱っていることを知ります。
朧車は平安時代の車争いが具現化して生まれた妖怪であり、現代社会で車争いの意義が薄まったことで、存在を保てなくなっていたのです。
その後、朧車は寿命を迎え、育代に別れを告げて死亡。妖怪は死亡すると身体が残らず、朧車の身体も空へと消えていきました。
- 著者
- 藤栄 道彦
- 出版日
- 2018-05-09
それから少し経ったある日、育代は再びあおり運転に遭遇します。すると、あおり運転をする男性の前に朧車が現れ、朧車に驚いた男性の車がスリップします。朧車があおり運転の概念から具現化して、育代の自動車に取り憑いたのです。
その後、朧車は軽自動車の姿になって、再び妖怪公園に戻ってきます。
妖怪と人間の「生命」の違いを感じるエピソード。朧車と育代の別れから再開までのあまりの速さに、思わず「感動を返してくれ!」と泣き笑いでツッコんだ読者も多いでしょう。
朧車のキャラも良く、朧車と育代の絆にほっこりします。
街で中国の妖怪・形天(けいてん)と太歳(たいさい)に襲われた日和と子どもたちですが、そこへがしゃどくろが現れて日和を守ります。
以前、日和は大妖怪の神野悪五郎(しんのあくごろう)に力を貸してもらうことを約束しており、神野が日和のピンチにがしゃどくろを送ってくれたのです。
- 著者
- 藤栄 道彦
- 出版日
- 2018-11-09
日和はがしゃどくろに命令して子どもたちを守りますが、しだいに形天に押されるように。日和は攻撃指示を出すか迷いますが、神野に「守りだけじゃ勝てない」と言われ、反撃に転じます。
がしゃどくろは、口にいれた瞬間に物が消える習性を持つ妖怪です。がしゃどくろに連続でかじられた形天は、跡形もなく消失。太歳は逃亡し、街に平和が戻りました。
後の「蛇竜」のエピソードでは、がしゃどくろがロボアニメばりの空中合体で登場し、中国の妖怪・蛇竜を相手に空中戦をくり広げます。気になる人は、ぜひ本作を読んでみてください。
新年を迎えた西東京妖怪公園では、飼育員や妖怪が来園者におもてなしをし、皿屋敷のお菊もいつもより多く皿を数えていました。
お菊は1人ではなく、数を数える妖怪の総称で「お菊」と呼んでおり、日本全国の妖怪園に一柱はお菊がいます。そんな中、上野の妖怪園のお菊が、自分こそが元祖・お菊であるとアピール。すかさず西東京のお菊も、自分こそが元祖だと張り合います。
- 著者
- 藤栄道彦
- 出版日
- 2019-05-09
両者のアピールはヒートアップし、歌を動画にしてアップしたり、他の皿屋敷を呼んでユニットを組んだりと、徐々に本格的なアイドル活動に発展します。全国の皿屋敷が登場し、作中には「OBK48(おばけ48)」という、どこかで見たようなアイドル集団も登場。
順調なように見えましたが、意外な理由でその活動は幕を閉じるのでした。妖怪が人間世界で生き、活動することによって起きる問題に、クスリと笑えるエピソードです。
妖怪を動物園の動物のように捉えた、社会風刺ネタ満載の妖怪コメディ漫画。斬新な設定の妖怪漫画を求める人におすすめです。