60年代の原風景が広がる『長嶋少年』、山中志歩のおすすめポイント

更新:2021.12.6

みなさま、こんにちは。山中志歩です。 第2回を書かせてもらっています。ありがたや。 梅雨ですね。みなさま、如何お過ごしでしょうか? 私は、7月18日から始まる舞台「北限の猿」の稽古の真っ最中です。作・演出は平田オリザさん。この方は、私がご紹介するまでもなく、演劇界のエンペラー(笑)です。いつか、ここでオリザさんの戯曲もご紹介できたらと思っています。 「北限の猿」は猿を人為的に進化させようとする研究室のお話しです。あらすじだけだと、アメコミ感が否めないですが、誰も死にません。淡々と会話が進む生活感のあるお芝居です。 よかったら、観にきてください。という、宣伝でした。職権濫用してしまった。

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そろそろ、甲子園のサイレンが聞こえてくる季節になりますね。皆さん、野球は好きですか?

私は小学生の頃、好きだった子が少年野球チームに入っておりまして、その子と話したいがために、テレビの中継を見ていたことがあります。でも、なーんにも面白くないんです。おじさんばっかりだし、まずルールが分からないし、バットを振ろうともしなかったりして地味だし、何でみんながこんなに熱中するのか分からない。お父さんは横でビール飲んで、「くそ」とか「よしよしよし」とか言ってるけど。好きだった子とはクラスが離れ、気持ちも冷めて、私の初恋は終わりました。それから野球とは無縁の生活を送っていました。

『長嶋少年』というタイトルと装丁を見たとき、「あ、これ苦手なやつがきたわ」と思いました。表紙には少年がバットを肩に担いで(ジャイアンや中島くんがよくやる有名なあのスタイル!)、ランドセルには背番号と思われる数字の3がついています。

「私、野球分かんないし、長嶋っていう人もよく知らないし、長嶋茂雄のモノマネをする人はテレビで見たことあるけど長嶋茂雄のことよく知らないから面白くないし」という考えが悶々と広がりました。

でも、ピースの又吉さんがオススメしているのなら間違いないだろう、という絶対的安心感と自信で、その本を手にとりました。

長嶋少年

著者
ねじめ 正一
出版日
2014-09-02

いやーこれが最高に良かったんです。60年代の話で、主人公のノブオくんは野球が得意な小学生です。そのノブオくん視点で、お話が進んでいきます。
 

ノブオくんは貧乏な家庭に育ち、長嶋のことを異常なほど崇めています。「僕はヒロトくんに長嶋のことで負けたくありません。僕は長嶋のアダ名のことをヒロトくんより知らないのが悔しいです」と友達に闘争心を燃やしたり、長嶋の地元佐倉に家出をしたり、「僕は長嶋です」と自分を鼓舞させ、年上相手に喧嘩をします。

長嶋見たさに、ノブオくんは水道橋駅に繋がっている線路に耳をつけて、後楽園球場の観客席のざわめきを聞く場面に、私は胸を打たれました。現実には聞こえないんだけど、信じているからノブオくんの耳には聞こえている。

今はYouTubeやネットで何でも見れる。お金もある。でもあの頃見たものや思い出は何にも代えられない感動があった。ノブオくんは今、どんな大人になっているのかな。

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