バカリズムこと升野英知が描く非実在OLの日常生活、『架空OL日記』。バカリズム本人による脚本・主演でテレビドラマ化され、話題となった本作は、2020年に劇場版の公開も予定されています。本作で描かれる平凡なOLの日常は、彼女が架空の存在とは信じられないほど、リアルな描写で表現されています。そんな本作の魅力をご紹介していきましょう。ネタバレも含まれますので、ご注意ください。
本作は芸人のバカリズムが描く、架空のOLの日常ブログ『架空升野日記』を書籍化したものです。バカリズム本人による脚本・主演でテレビドラマ化もされ、話題となりました。
ブログでの投稿から始まっているため、本作は短めの日記を読んでいくような作品です。特に大きな事件や、ドキドキハラハラするようなエピソードはありません。平和な日常の描写を楽しめます。
女性にとっては「あるある!」と共感でき、男性は女性のコミュニティを覗き見るような楽しさを味わうことができるでしょう。少し休憩したいときに、気軽に読める作品です。
- 著者
- バカリズム
- 出版日
- 2013-05-02
本作は住田崇監督による映画化が決定しており、キャスト陣はテレビドラマ版のメンバーが再集結。「小峰様」こと小峰智子(こみね ともこ)役に臼田あさ美、「マキちゃん」こと藤川真紀(ふじかわ まき)役に夏帆を起用。「かおりん」こと真壁香里(まかべ かおり)役は三浦透子が務めます。
劇場版オリジナルの新キャストとして、「私」の上司役に坂井真紀、「私」の地元の友達役に志田未来を迎え、さらに豪華になります。
アトレ吉祥寺などがロケ地になっており、東京で働く女性には馴染み深い風景も登場するので、OLたちの日常をより身近に感じることができるでしょう。
インタビュー記事によると、バカリズムは「男性が女性のフリをして日常を綴っている」という点が本作の狂気的な一面であると考えています。バカリズム本人が主人公を演じることで、その狂気を表現しているのだそうです。
OLの制服に身を包むバカリズムの姿は、初めは奇異なものに感じられますが、見慣れていくと「こういうOL、いるかも」と不思議な納得感が生まれてきます。2020年2月28日の劇場公開が楽しみな作品です。
予告動画や劇場の情報などは、映画『架空OL日記』をご覧ください。
バカリズムは、もともと1995年に升野英知と松下敏宏の二人で結成したお笑いコンビでした。2005年に松下が脱退し、現在ではバカリズムは升野の個人の芸名となっています。
お笑い以外にも、ナレーションや役者、脚本、イラストなど、幅広い分野で活動していますが、 本作のきっかけとなるブログは、単純な暇つぶしとして始めたそうです。
ただのブログでは面白くないと思い、自分とかけ離れた存在である「20代のOL」という架空の人物を設定し、想像の日常を綴り始めたバカリズム。 想像だけでなく、周囲の女性にも意見を仰ぎながら架空の「私」の日常をよりリアルに肉付けしていったといいます。
名前が出てこない主人公の「私」は銀行に勤めるOL。インドア派で、ややズボラ。彼女のブログに登場する職場の同僚は、どこかにいそうな身近さを感じつつも、それぞれに個性を持った人物であることが分かります。
「小峰様」こと小峰智子は主人公の職場の先輩。面倒見がよく、主人公を含む後輩たちから慕われています。作中の文面からはサッパリした姉御肌という印象を受けますが、臼田あさ美が演じるドラマでは意外にも可愛らしい雰囲気です。
藤川真紀は主人公の同期で親友。作中では「マキちゃん」の愛称で呼ばれ、ジムに通っています。ダイエットのために始めたジム通いでしたが、トレーニングに目覚めた彼女は、気付けば腹筋が割れるほど逞しい体に。ジム通いの様子はたびたび登場するので、その度にアスリートっぽさが増していく彼女の様子が気になってしまうことでしょう。
五十嵐紗英は「サエちゃん」と呼ばれ、天然妹キャラの後輩として可愛がられています。 何度か主人公の代わりにブログを更新することも。彼女が書いたブログ記事は、誤字がそのままになっていたり、絵文字がふんだんに使われていたりして、明らかに主人公とは異なった文体になっています。女子高生のような雰囲気に、主人公がつい妹のように可愛がりたくなるのも頷いてしまいそう。
読み進めていくほど、それぞれの人物像が鮮明になっていきます。同僚たちの容姿についてはほとんど言及されていませんが、文章から自然とそのイメージが湧き上がってくるようです。
想像で描かれているOLの日常ですが、男性の想像にしては妙にリアル。作者は実は女性なのでは?と思ってしまうほどです。
春先の暖かくなってきた時期に、ハロゲンヒーターを片付けるかどうか相談するくだりなどは、とても身近なエピソードに感じられます。もう要らないと思って暖房器具や防寒具を片付けたら、意外とまだ寒かったというのは、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。
また「古川さん上杉達也事件」として綴られているエピソード。同僚の些細な一言が「上杉達也っぽい」という理由で、女性社員の間ではその人のあだ名が「タッチ」に決定します。仲間内だけで使われる秘密のあだ名というのは、どこのコミュニティでも「あるある」な現象でしょう。
一つ一つは些細な出来事の話ですが、身近でよくあるエピソードばかりです。共感ポイントがたっぷりの日常描写には、読みながらいつの間にか笑ったり頷いてしまうでしょう。また、誰もが名前を知っている実在のデパートや飲食店の名前が登場するので、彼女たちの日常を一層リアルに感じることができます。
特に大きな事件も起こらず、平凡な話が続く日常ブログ。しかし、ときどき現れる軽妙な表現が、本作をより面白いものにしています。
たとえば、主人公が誤って誰かの傘を壊してしまった日、帰りに雨に降られて「傘の祟りだ」と比喩するエピソードがあります。この日のブログのタイトルは「折り祟り傘」で、折り畳み傘と祟りをかけた洒落になっています。
他にも、サエと漫画の貸し借りをした際に彼女を「妖怪漫画持たせ」と呼んだり、休日にどこにも行かなかったメンバーで「JIA(日本インドア機構)」を勝手に結成したり。
ウケを狙っているというよりは、日常のちょっとした遊びをそのまま表現した文章になっており、そこがかえって面白く感じられます。主人公の軽快なユーモアが心地よく感じられるでしょう。
OLの平和な日常ブログは、しだいに更新頻度が落ちていきます。現実でもブログに飽きたり、生活が忙しかったりすると更新は滞っていくもの。こんなところにも妙なリアルさが感じられてしまいます。
テレビドラマ版の最終回では、主人公の「私」とバカリズム本人が街で偶然出会って……という場面があります。これを踏まえて読むと、主人公があくまでも「架空」の存在であったことを強く思い知らされるでしょう。
- 著者
- バカリズム
- 出版日
- 2013-05-02
これまで日常を垣間見て、彼女のことを実在の友達のように感じていた読者にとっては、寂しさが残る結末かもしれません。
しかし、全体を通して、まるで現実に存在する誰かの日常を覗き見しているような楽しさがある作品です。ふと気が向いたときに「最近どうしてるかな」と様子を見に行きたくなる、遠方に住む友人のような親しみを感じられることでしょう。
平凡だけど笑えてしまう、心地よい世界観はいつまでも見ていることができます。劇場版の公開も待ち遠しくなります。