大量殺人犯の息子として生まれた主人公が、父親の冤罪を晴らすためタイムスリップをして事件を解明するクライムサスペンス漫画『テセウスの船』。テレビドラマ化も決定し、ますます注目度の高くなっている本作のあらすじと魅力を交えてご紹介します。ネタバレも含まれますので、苦手な方はご注意ください。
田村心は、殺人犯の息子として生まれ育ちました。まだ母親のお腹の中にいた頃、父親がある事件の犯人として逮捕されていたのです。
その事件とは、北海道にある小学校で、お泊り会に参加していた児童と教職員21名が、ジュースに混入された青酸カリによって死亡するという凄惨なものでした。その事件から、心や、心の姉や兄、そして母親は、常に周囲から蔑まれながら生きざるを得なかったのです。
心は、「自分が生まれる前の出来事でどうしてこんなにも苦しまなければならないのか」と考えていましたが、妻になる由紀に出会い、子供を授かったことを機に、「これからは家族を守りながら幸せに生きて行こう」と決意しました。
- 著者
- 東元 俊哉
- 出版日
- 2017-09-22
しかし、そんな決意をあざ笑うように、由紀は子供を出産した際に死んでしまいます。さらに追い打ちをかけるように、彼女の父親から「殺人犯の息子に父親の資格はない」と言われ、大切な子供まで取られてしまいかねない状況に陥ってしまいます。
追い込まれた心でしたが、あるきっかけから「事件の犯人とされる父親は、実は冤罪ではないか?」という疑問が生まれ、真実を掴むため、そして子供を守るために事件を再調査することに決めます。そんな心を待ち受けていたのは、何と事件の起きた当時、つまり過去へのタイムスリップでした。
謎めいた事件に加え、タイムスリップによって引き起こされる過去や未来の改変など、様々な謎が謎を呼ぶ先の読めないクライムサスペンス作品です。
2020年1月より、TBS系列でドラマが放送開始予定と発表されました。キャストも発表されており、主演は竹内涼真が努めます。その他にも鈴木亮平、榮倉奈々、上野樹里など豪華俳優陣が脇を固めています。
どんなドラマになるのか、放送が楽しみです。続報がきになる方はドラマ公式サイト、日曜劇場『テセウスの船』もチェックしてみてください。
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作者は漫画家の東元俊也(ひがしもととしや)です。
本作の他には、湘南にある高校のライフセービング部という珍しい部活を舞台にしたハイテンションコメディ『湘南レスキュー部』や、17歳の少年が新しいヤクザの形、破門ヤクザとして極道の道を歩んでいく『破道の門』、潜入捜査官を主人公にした『野良をつく』などの作品を描いています。
ストーリーは様々ですが、リアリティのある絵柄で、男達がそれぞれの世界の道をきわめて行く様子は共通するところがあり、特に男性にはおすすめの作品ばかりです。そんな作品群の中で、本作『テセウスの船』はミステリー色が強いので、女性も読みやすい内容になっているといえるでしょう。
東元俊也作品を読んだことのない女性の方も、これを機会にぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
- 著者
- 東元 俊也
- 出版日
- 2011-11-04
本作のストーリーにおいて、とても重要な要素の1つが「タイムスリップ」です。青酸カリ混入事件の犯人とされた佐野文吾の息子である田村心が、事件の起きた当時へタイムスリップし、事件の真相を解明しようと動きます。
しかし、タイムスリップをして過去を変えることは、同時に未来を変えることでもありました。タイムスリップから戻った心を待ち受けていたのは新しい未来と、さらに事件がまだ続いていると思わせるような不可思議な出来事だったのです。
タイムスリップ後の一連の変化や出来事は、心には覚えがなく、タイムスリップをきっかけに事件が再び動き出したといえるのかもしれません。実際、タイムスリップ後の未来では、文吾が冤罪ではないかと考えて動いている人物も存在しているのです。
しかし、事件発生から28年。今更真犯人の気配があるということは、真犯人に何かしらの目的があるとも考えられるでしょう。ラストに近づくにつれて少しずつ分かっていきますが、謎が謎を呼ぶ事件の真相は容易に想像することができず、ミステリー好きであれば思わず様々な推理を巡らせてしまうことは間違いなしです。
田村心の父親である佐野文吾はこの事件の犯人として、死刑判決を受けていました。しかし、心は無罪を主張している父親とは別に真犯人がいると考え、真実を知るための調査に動き出します。
この時点で判明している事件の詳細は、小学校のお泊り会で出た夕食のジュースに青酸カリが混入され、児童と職員合わせて21名が死亡したことでした。しかし、実は、事件が起こる前にいくつかの不可解な事故や事件が起きていたのです。
村の女の子の除草剤を誤飲による死亡やその女の子の姉の行方不明、さらに村人の変死が続いていました。そして、次に起きたのが青酸カリ混入事件だったのです。とはいえ、一連の不可解な出来事は、事故として扱われていました。
しかし、心のタイムスリップ後は、心が介入したことが原因なのか、これらの事件や出来事が少しずつ変化していたのです。心の知る過去との違いが出てきます。怪我をするはずの人が怪我をしなかったり、来るはずのない人が訪れたり、そして、青酸カリ混入事件にも変化が現れるのです。
そして、その変化が、ますます謎を深めていくことになります。タイムスリップが引き起こす謎、そしてそれが心の未来をどう変えてしまうのかも必見です。
タイムスリップをする前、由紀と出会い長女の「未来」を授かります。娘を守りたい気持ちが、彼を調査に向かわせました。また現代では、彼の母親は生きており、交流もあります。一方、姉の鈴と兄の慎吾とは音信不通状態。
過去が変われば当然未来も変わります。
タイムスリップから戻ってきた時、自体は一変しています。以前の心の母親は、子供達を守るために必死で働きながら生活していました。しかしタイムスリップから戻ってから見かけた母親は、一家心中を図り、兄の慎吾とともに死亡。生き残った姉の鈴と心は施設に預けられていました。
さらに、心にとって最も大事なものだった由紀との関係も変わっており……。タイムスリップものでは、その現象が起きたことでおこる矛盾、すなわちタイムパラドックスというものが発生します。これをいかに解消するのかも、物語の魅力の1つといえるでしょう。
過去が変わったことで未来が変わっていますが、そこにある矛盾や変化は、謎を解くどんなカギとなっていくのか、この点にも要注目です。
青酸カリがジュースに混入され21名もの人が死亡した凄惨な事件が起きてから28年後。事件の現場となった北海道の音臼村では、慰霊祭が行われようとしていました。
再び村を訪れていた心は、そこである人物と会うことになります。これが誰なのか……はここでは伏せますが、7巻まで読んでいる方であれば、比較的予想を裏切らない人物であるといえるでしょう。
この人物が、心に「ある事実」を告白したことで、事態は急速に進んでいきます。心は現代にいましたが、再びタイムスリップをしてしまいます。今回タイムスリップで戻った先は、何と事件が起こる4日前。真犯人の名前を知った心は文吾とともに再び事件を阻止しようと動きますが、事件が起きる前では選択肢も限られていきます。
- 著者
- 東元 俊哉
- 出版日
- 2019-06-21
しかし、決定的な行動ができず焦っている間にも犯人は動いています。そして、犯人が遂に文吾達の家を訪れ……。
次々に展開していくストーリーは、最初から最後まで目が離せません。また、犯人が分かったとはいえまだどこか腑に落ちないような雰囲気も残しています。物語もいよいよ佳境に入っていますが、どんなラストが待ち受けているのか先が気になってしょうがない最新刊です。
いかがでしたか? 事件の謎を追いかけるだけではなく、過去と未来が複雑に絡まり合い、事件そのものが変質していく展開は他の作品にないハラハラ感を楽しむことができるでしょう。それだけに少し複雑なところもあるので、ドラマが始まる前にぜひ原作をチェックしてみてはいかがでしょうか。