ヨーロッパ統合の要となっている「EU」。地域主義の代表例として知られていますが、近年ではイギリスの離脱などさまざまな問題も生じています。この記事では、加盟国や人口などの概要、発足までの歴史、ブレグジット、個人情報保護などをわかりやすく解説。おすすめの関連本もご紹介します。
日本語では「欧州連合」や「ヨーロッパ連合」と訳されるEU。「European Union」の頭文字をとった名称です。前身は、1967年に設立された「EC(ヨーロッパ共同体)」というもの。1993年に発効した「マーストリヒト条約」により、EUへと改称されました。
2019年現在の加盟国は28ヶ国。その合計面積は429万平方キロメートルで日本の約11倍、人口は5億1246万人で日本の約4倍にのぼります。また加盟国全体のGDPは17兆3254億ドルで、これはアメリカに次ぐ世界第2位の値です。
EUは、政治や経済、安全保障における加盟国間の関係深化を図り、さまざまな取り組みをおこなっています。その一環として、1999年に共通通貨の「ユーロ」を導入しました。またパスポート無しで国境を超えることができるため、他国への通勤なども盛んです。
その一方で、加盟国の経済規模や生活水準に大きな差があることも問題として挙がっています。域内格差があるなかで通貨などの経済基盤を統一したことが、2009年に発生した「ギリシャ危機」などの金融危機を招きました。
さらに2016年には、イギリスがEUからの離脱を表明。EUは、今後の在り方をめぐり、大きな岐路に立たされているといえるでしょう。
EUの前身であるEC(ヨーロッパ共同体)が設立される以前から、ヨーロッパでは統合のための取り組みが進められていました。第二次世界大戦で荒廃してしまったヨーロッパの復興を推進し、なおかつ戦争をくり返さないための枠組みを作る機運が高まっていたのです。
1950年には、フランスのシューマン外相が「シューマン宣言」を発表。これにもとづき、「ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)」が発足し、国家の枠組みを超えて人やモノ、資本の管理や交流を活性化させる改革が始まりました。その後1958年に「EEC(欧州経済共同体)」と「EURATOM(欧州原子力共同体)」が発足。
そして1967年に、ECSC、EEC、EURATOMが統合され、ヨーロッパの平和確立と経済発展を目的としたECが創設されることになったのです。
ヨーロッパを統合する取り組みは、1980年代にさらに発展。しかし東西冷戦と並行して進んだため、東ドイツをはじめとするいわゆる「東側諸国」の社会主義国は参加しませんでした。
その後1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終結、ドイツが統一されるなど、状況が大きく変化すると、ECは新たな枠組みを模索します。1993年に「マーストリヒト条約」を発効し、
などが決められ、EUが設立しました。
2019年現在のEU加盟国28ヶ国のうち、ECSCの設立以来ヨーロッパ統合の中心的な役割を果たしているフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクは「原加盟国」と呼ばれています。
数次の拡大を経て、加盟国は順調に増加していきました。しかし2016年、イギリスが国民投票の結果を受けてEUからの離脱を宣言したのです。この出来事は、「イギリス(Britain)」と「離脱(Exit)」を組み合わせた「ブレグジット(Brexit)」と呼ばれています。
イギリスがEUの前身であるECに加盟したのは、1973年のこと。ただもともとイギリスは1800年代の外交方針である「栄光ある孤立」に示されるように、伝統的にヨーロッパ大陸から一定の距離をとる傾向があります。1999年にユーロが導入されてからも、イギリスは自国通貨としてポンドの使用を続けていました。
このような背景に加え、近年では移民や難民問題がイギリス国民の世論をEU離脱へと傾かせたといわれています。
もともとイギリスは、EU加盟国のなかでも経済的に豊かな国。そのため、あまり豊かではない東欧などから多くの移民が流入する状態が続いていました。
さらに2011年から続く「シリア内戦」の影響で、EU自体に流入する難民も増えています。EUは難民を保護するために「割当制」を採用しているので、イギリスも少なくない数の難民を受け入れる必要があるのです。
移民や難民の流入に対しイギリス国内では、仕事が奪われる、イギリスらしさが失われるなどの理由で反発の声が生じていました。EUに加盟している限りこの問題を回避することは不可能なので、離脱をするべきだと主張するようになったのです。
そのほか、金融危機の際の支援金負担に対する不満や、コストの問題なども離脱の要因として挙げられていますが、いずれにせよ、EUに加盟することによってイギリス独自の方針を取りづらくなっていることがブレグジットの大きな要因だといえるでしょう。
日本でも2005年に「個人情報保護法」が全面施行されたように、世界でも個人情報の取扱いに注目が集まっています。EUでは、2018年に「GDPR(一般データ保護規則)」という制度が導入されました。
GDPRは、EU加盟国にアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーを加えた「EEA(欧州経済領域)」で適用され、氏名や住所、メールアドレスやクレジットカード情報など個人データを利用する際に厳しい保護義務を課しています。
もし個人情報を適切に取り扱わなかった場合は、2000万ユーロ以上の制裁金が科せられるそうで、これは世界的にみてもかなりの高額。厳しい内容だといえるでしょう。
GDPRは日本にとっても無関係ではありません。たとえばEUに子会社や支店を展開している企業や、EUに各種サービスを提供している企業も遵守する必要があります。
そのため、今後は日本国内の企業でも個人情報についてさらに厳密な取り扱いが求められることが予測されています。
- 著者
- 池上 彰
- 出版日
- 2017-11-20
ドイツを中心に、EUが設立されるまでの経緯と、その後の展開を解説している作品です。
EUの設立は、ヨーロッパ屈指の大国となったドイツの強大化を抑える意図もありました。しかしドイツは、いまやEUの盟主ともいえる地位を築いています。ひとつの国を軸にして全体を見ることで、複雑な動きの要点を掴むことができるでしょう。
内容は高校の授業をもとに構成されたわかりやすいもの。ギリシャ危機やブレグジットなど最新の情報も抑えているので、EUの大枠を学びたい初心者の方におすすめの一冊です。
- 著者
- 羽場 久美子
- 出版日
- 2013-10-02
歴史、経済、地域研究などさまざまな分野の専門家たちが、EUに関する事象を紹介する作品。やや専門的な内容もありますが、多面的に物事を見ることができる辞典のように活用することができるでしょう。
刊行されたのが2013年なのでブレグジットについては言及されていませんが、EUについてより詳細に知りたい方におすすめの一冊です。