ミステリー小説のなかには、孤島や無人島など隔離された空間を舞台にした作品が数多くあります。まさに大規模な密室状態だといえ、推理にも熱が入るでしょう。この記事では、孤島や無人島を舞台にしたミステリー小説のなかから、読んでおきたいおすすめの作品を紹介していきます。
探偵の影浦逸水は、難事件を解決したお礼として、助手の武邑とともに山荘に招待されました。しかし山荘のオーナーであり新興企業の社長でもある人物が、何者かに殺されてしまいます。
事件発生時は雪が降っていて、現場の周辺に足跡はなし……不可解な事件ながら、影浦は報酬が発生しないためまったくの無関心でした。しかし、その影浦までもが殺されてしまうのです。
- 著者
- 歌野 晶午
- 出版日
- 2009-02-06
2005年に刊行された歌野晶午の作品です。孤島や山荘などの密室を舞台にした「クローズド・サークル」の物語が4編が収録されています。
表題作「そして名探偵は生まれた」に登場する密室は、伊豆に建てられた山荘です。犯行現場は窓や扉が閉じられ、降り積もる雪には足跡がひとつもありません。さらに探偵の影浦が殺されてしまったことで、事件はますます難航します。
山荘をまるごと使った壮大なトリックは、実に見もの。大掛かりな犯行の数々が展開され、驚きの連続です。表題作以外にもさまざまな密室トリックが登場するので、ミステリー好きにはたまらない一冊になるでしょう。
探偵事務所で働く式部剛のもとに、常連客の葛木志保が行方不明になったという情報が舞い込みました。式部は、彼女の故郷である夜叉島に向かいます。
しかし、夜叉島の村は閉鎖的で、村人たちは葛木の情報どころか、満足に会話を続けることができません。1度は諦めかけた式部でしたが、村の医者である泰田均の協力を得られることになり、もうしばらく島に留まることにしました。
その後泰田から告げられたのは、「葛木は死んだ」という驚愕の事実。しかも発見された彼女の遺体は明らかに他殺であるのにも関わらず、夜叉島の人たちは真相を調べようとしないのです。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2007-06-28
2001年に刊行された小野不由美の作品です。殺された葛木の故郷である、夜叉島という閉鎖的な場所が舞台です。彼らは外部の人と関わらずに暮らしていて、本土からやって来た式部はなかなか情報を得られずに困っていました。
この事件は、「馬頭夜叉(めずやしゃ)」と呼ばれる神像と関係があるそう。タイトルにもある「黒祠」は「邪教」を意味していて、島内では「悪いことをすると馬頭夜叉によって罰を下される」という言い伝えがありました。
オカルト要素を含んだ陰鬱な雰囲気を、夜叉島という舞台が盛り上げます。主人公の式部も島の外部の人間で何もわからない状態なので、読者は彼と一緒に謎解きを楽しめるでしょう。
世界有数の大企業の会長が誕生日だということで、とある孤島の館で大規模な宝探しイベントが開催されることになりました。
イギリスの小説家であるアーサー・コナン・ドイルが描いた「シャーロック・ホームズ」シリーズの『マスグレイヴ家の儀式』にちなんで、舞台となる館は「マスグレイヴ館」と呼ばれています。
巨額の賞金を求めて多数の参加者が集まるなか、主人公の一条寺慶子や筧フミ、クリスチアーネ・サガンの3人も招待されます。しかしイベントの途中で不可解な事件が発生するのです。
- 著者
- 柄刀 一
- 出版日
- 2005-06-14
2000年に刊行された柄刀一の作品です。孤島に建てられた「マスグレイヴ館」が舞台になっています。
かつてホームズが執筆した『マスグレイヴ家の儀式』に登場するトリックには矛盾があると指摘されていて、作中のイベントは同様の舞台を用意して解読をし直そうというもの。しかし主催者が転落死、彼女の専属の医者が崖へ向かう足跡を残して失踪、館内でも不可思議な事件が次々と起こってしまうのです。しかも事件発生時は嵐で海が荒れ、孤島と岬を繋ぐ経路は封鎖されていました。
解決のヒントは作中に散りばめられているのですが、すべてを見抜くのはなかなか難しいでしょう。しっかりと理にかなったトリックになっているので、謎解き後は納得感を得られるはずです。もとになった『マスグレイヴ家の儀式』を読んでいる人にとってはたまらない要素もあり、魅力的な一冊です。
推理小説研究会に所属する有栖川有栖と江神二郎は、新しくメンバーになった有馬麻里亜からの誘いで、嘉敷島の別荘へ出かけることになりました。島には麻里亜の祖父がのこした遺産が眠っているらしく、手がかりは宝の地図と遺言状だけ。彼らはバカンスがてら、宝探しを試みます。
有栖たちが島に着いてから2日目。台風の接近で全員が別荘で待機しているなか、麻里亜の伯父である竜一の義兄親子が、射殺体で発見されました。ライフルで殺されたようですが武器は見つからず、親子が殺害された部屋は密室状態。
さらに何者かに無線機も破壊され、連絡船を呼ぶこともできません。そして全員が不安を覚えるなか、第2の殺人が起きてしまいます。
- 著者
- 有栖川 有栖
- 出版日
- 1996-08-25
1989年に刊行された有栖川有栖の作品。作者と同名のキャラクターが主人公の「学生アリス」シリーズの2作目です。
本作の舞台は、嘉敷島という孤島。ひとり、またひとりと射殺体で発見されるにも関わらず、いつまでたってもライフルが見つかりません。海は荒れていて島への出入りは不可能なはず。犯人はどこに潜み、どうやって密室殺人を犯したのでしょうか。
また本作では、「読者への挑戦」が挿入されています。作中に散りばめられたヒントを頼りに、有栖たちとともに推理を楽しむことができるでしょう。
「学生アリス」シリーズで起きる事件は「クローズド・サークル」ものが定番になっているので、気になった方はその他の作品も読んでみてください。
警視庁に勤める十津川省三は、帰宅中に何者かに襲われて誘拐されてしまいます。気がつくと、世田谷区のとある街を再現した無人島に連れられていました。
島を散策していると、7人の男女が現れます。彼らには、とある殺人事件の目撃者であり、法廷でそのことを証言したという共通点がありました。
十津川を含む8人を誘拐したのは、佐々木勇造という老人。殺人事件の容疑者として服役し、無実を訴えながら獄中で病死した木下誠一郎の父親です。証言の信憑性を確かめるため、島を犯行現場そっくりに再現し、さらに事件を客観的に検証させるために十津川を連れてきたとのことでした。
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 1983-12-08
1977年に刊行された西村京太郎の作品です。世田谷区の街並みを再現した無人島、という変わった舞台になっています。十津川は気が付いた時にはそこにいたので、その間のルートを知りません。出入り口がわからないため、島の形をした密室だといえるでしょう。
事件の再現をしていくなかで、7人の証言の矛盾が次々と明らかになるところが見どころ。ある者は自分が不利な状況になることを恐れて、ある者は自分のエゴで、ある者は思い込みで、ある者は無自覚に嘘を織り交ぜていたのでした。矛盾が発覚するごとに該当する人が殺されていくのですが、その犯人は佐々木ではなく……?
ラストまでテンポよく物語が進行し、少しの食い違いがどんでん返しに繋がります。結末まで楽しめる作品でしょう。
終戦から1年が経った頃、金田一耕助は戦友だった鬼頭千万太の死を遺族に伝えるため、彼の故郷である獄門島を訪れます。
瀬戸内海の孤島である獄門島は、網元である鬼頭家が「本鬼頭」と「分鬼頭」に分かれて対立しながら暮らしていました。千万太は「本鬼頭」に属していて、彼には3人の異母妹がいます。しかし千万太の葬儀がおこなわれている最中に、末妹の花子が行方不明になり、殺されてしまうのです。
後日、残る2人の妹も殺害。そして金田一は、彼女たちが、千万太の祖父で本鬼頭の先代でもある人物が書いた俳句と、同じ状況で殺されていることに気付きます。
- 著者
- 横溝 正史
- 出版日
- 1971-03-30
1947年に刊行された横溝正史の作品です。「金田一耕助」シリーズの2作目で、3つの俳句を用いた「見立て殺人」が描かれています。
舞台となる獄門島は、鬼頭家が牛耳っていて、因習が残る孤島です。この世界観と、戦後という時代背景が物語のキーになっています。
3つの俳句は、芭蕉が読んだ現存するもの。日本ならではの美しさと、そのなかにある一種のおどろおどろしさが魅力の古典作品だといえるでしょう。