特定の国や地域の間で、貿易だけでなくさまざまな経済領域で提携を図ることを決める「EPA」。日本語では「経済連携協定」といいます。この記事では、FTAとの違い、2019年に締結された「日EU経済連携協定」、メリットやデメリットについてわかりやすく解説していきます。
日本語では経済連携協定と表される「EPA」。「Economic Partnership Agreement」の頭文字をとった言葉で、その名に示されるとおり、国や地域間の自由貿易や経済連携を進めることを目的とした協定のことです。
よく似た取り決めとして「FTA(自由貿易協定)」が挙げられるでしょう。FTAは、関税や輸入割当など、貿易を制限する措置を撤廃・削減することを目指すもの。一方のEPAは、関税の撤廃に加えて、人材やサービスの移動、直接投資、経済制度などより広範囲で経済連携を図るものになっています。
またEPA以外にも、「AFTA(ASEAN自由貿易地域)」や「USMCA(アメリカ・メキシコ・カナダ協定)」のように、複数の国や地域で経済統一をする動きも各地で進展中。世界的に自由貿易を拡大する取り組みがあるなかで、EPAは特定の国や地域間の経済関係を深化させる役割があるといえるでしょう。
ちなみに日本は2019年現在、17のEPAを結んでいます。このなかには、「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」や「日本・ASEAN包括的経済連携協定」のように、2国間だけでなく複数の国や地域で結ばれた協定も含まれています。
2019年2月1日に、日本とEU間でEPAが発効されました。ここでは、締結に至った背景や経緯、内容について解説していきます。
そもそも第二次世界大戦後、世界では行き過ぎた保護貿易が争いの一因になったという教訓をふまえ、自由貿易を進める取り組みがおこなわれてきました。しかし近年では、グローバル化に対する反発などから、保護貿易的な考えも唱えられるようになっています。
このような状況のなかで、日本とEU間でEPAを結んだことは、自由貿易を推進する方針を世界に発する政治的な意図も含まれているといえるでしょう。外務省が作成した「日EU経済連携協定:意義と経緯」によると、「自由で公正なルールに基づく、21世紀の経済秩序のモデル」となることが期待されているようです。
EUは総人口が5億人と日本の約4倍、GDPも世界の22%を占めて日本の約4倍。そして日本の輸出入総額の約10%を占めています。つまり、日本にとってはかなり重要な貿易相手であり、投資先だということです。
日EU経済連携協定が締結されたことにより、双方の輸出品にかかるほとんどの関税が将来的に撤廃・削減されることになりました。またモノだけでなく人やサービスの移動についても、規制が緩和されています。
人の移動の一環として、たとえばインドネシアやフィリピンなどからは、EPAに従って看護師や介護福祉士の候補者が来日して働いています。今後は日本とEUの間でも、人的交流が盛んになると考えられるでしょう。
日EU経済連携協定が締結されたことにより、即時、ないし将来的な関税の撤廃・削減が決まりました。そのなかでも代表的な製品である、ワインとチーズについてみていきましょう。
ワインは、EPA締結前は1リットル当たり125円、または価格の15%が関税として課せられていました。しかしEPAの発効にともない関税は即時撤廃され、EU産ワインの小売価格は平均して2割ほど値下がりしています。その結果、日EU経済連携協定が発効された2019年2月の輸入量は、前月より42%伸びたそうです。
チーズには、EPA締結前は原則29.8%の関税が課せられていました。EPAの発効後は、輸入枠を設けたうえで段階的に関税を減らし、発効から16年目には輸入枠内の関税を0にすることが決められています。その影響もあり、2019年2月の輸入量は前月より30%増加しました。
日EU経済連携協定の例をみてもわかるとおり、EPAは私たちの生活に大きく関わっていて、その締結には賛否両論があります。
まず大きなメリットとしては、貿易が促進され、その結果として日本製品の輸出が増え、また海外製品を安く輸入できることが挙げられるでしょう。
しかしその一方で、関税が廃止されて海外産の農作物が多く流入すると、日本の農業が弱体化し、さらなる食料自給率の低下が懸念されているのです。
また、人やサービスの移動に関する規制が緩和させられることに、批判的な立場をとる論者も。具体的には、食料の安全基準が緩和される可能性、公的医療保険の適用範囲が狭まる可能性、外国人労働者の過剰な増加などが指摘されています。
これらのメリットとデメリットは、グローバル化にともなうメリットやデメリットと似通っています。EPAなどによって世界の結びつきが強まることで、良くも悪くも私たちの生活は変化するといえるでしょう。
- 著者
- 大泉 啓一郎
- 出版日
- 2018-05-18
第二次世界大戦後の日本は、一時は世界の貿易シェアの10%を占めるほどの「貿易立国」でした。しかし近年では新興国が台頭し、その地位は揺らいでいます。
本作は、グローバル化する世界のなかでどうすれば日本経済を復活させることができるのか、貿易の在り方について提言した作品です。作者は、ASEAN諸国へ生産拠点を移す「メイド・バイ・ジャパン」と、国内で開発や製造をする「メイド・イン・ジャパン」の両立が重要だと主張。統計資料も用いて説明してくれているので、わかりやすいでしょう。
EPAの締結など、世界各国との関係が変化していくなかで、日本がとるべき戦略を考えるきっかけになる一冊です。
- 著者
- ["上村 雄彦", "首藤 信彦", "内田 聖子"]
- 出版日
- 2017-02-03
本書の作者は、自由貿易を拡大する取り組みはルール統一に重点が置かれていて、大企業にとっては有利でも庶民にとっては不利になると主張。この観点から、自由貿易の問題点を提示して、多国籍企業の規制について論じています。
グローバル化には弱肉強食の側面がありますが、EPAにともなう関税撤廃や規制緩和も同様のことがいえます。本書を読むことで、EPAの推進についても多角的に分析することができるでしょう。