2016年に政府が発表した次の時代の社会像「ソサエティ5.0」。いったいどのようなものなのでしょうか。目的や課題、1.0から4.0までの流れ、具体的な事例などをわかりやすく解説していきます。おすすめの関連本も紹介するので、ぜひご覧ください。
「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(ソサエティ)」
内閣府がこのように定義している「ソサエティ5.0」。第4次産業革命といわれるAIやIoTの発達などの技術革新を用いて、経済を発展させ、社会問題を解決していく社会のことです。
具体的な説明の前に、まずはこれまでのソサエティ1.0から4.0がどのようなものだったのか、振り返ってみましょう。
ソサエティ4.0では、大量にあふれた情報のなかから必要なものを抽出し、処理することが難しいという課題がありました。ソサエティ5.0でこの課題を解決するためには、AIやIoTの技術が欠かせません。
AIとは、人口知能のこと。AIの技術が発達したことで、膨大な量のデータのなかから必要な情報を素早く手に入れることが可能になります。
IoTは「Internet of Things」の略称で、日本語にすると「モノのインターネット」。すべてのモノがインターネットに接続され、情報を共有し、相互に制御できる仕組みのことです。
日本は、AIとIoTの2つの技術を用いて、ソサエティ5.0の実現を目指しています。
ソサエティ5.0は、経済発展と社会的課題の解決の両立を目指しています。では現代社会の課題とはどのようなものでしょうか。主なものを紹介していきます。
まずひとつ目は、先述したように、重要な情報を手に入れることが難しいということ。ソサエティ4.0で情報が価値をもつ社会になりましたが、情報量が増えてしまったため、本当に必要なものを見つけるのが困難になりました。
ふたつ目は、少子高齢化です。日本は高齢者の割合が高く出生率も低いため、少子高齢化が進行しています。その結果、介護業界の人手不足、医療費の膨張、年金制度の綻び、働き手不足などさまざまな問題が引き起こされているのです。
みっつ目は、日本の経済成長が陰りをみせていること。アメリカや中国などのGDPは右肩上がりを続けている一方で、日本のGDPはここ20年ほど伸び悩んでいます。
国の発展のためには、これらの課題を解決することが必要不可欠。だからこそソサエティ5.0では、経済を発展させながら社会問題を克服することを目指しているのです。
ソサエティ5.0を実現するためには、大きなイノベーションを起こさなければなりません。AIやIoT単体はもちろん、その他のさまざまな技術を発展させ、組み合わせる必要があります。しかしそのためには、課題があるのも事実です。
日本は、AIと関連する数学や情報科学の教育が、アメリカや中国と比べて遅れています。ソサエティ5.0を実現するためには、人材を育成する必要があるのです。
AIに関する教育の体系を整えるための対策として、2020年からは小学校でプログラミングの授業が必修になりました。幼いうちから技術に触れることで、情報処理への関心も高まり、人材不足を解決することが期待されています。
ソサエティ5.0が実現されると、社会はどのように変わるのでしょうか。日本政府の広報が発表している具体的な事例を紹介していきます。
ドローン
ドローンと呼ばれる無人航空機を宅配に活用することで、指定した場所、時間に荷物を届けることができるようになります。特に地方に住む人はこれまでよりも短時間で、荷物が手元に届くようになるでしょう。また、深刻化している物流業界の人手不足を解消することにも繋がります。
AI家電
たとえばAIを搭載したエアコンが、利用者の好む温度を学習し自動で室温を調整したり、AIを搭載した冷蔵庫が食材の管理やレシピの提案をしたり。家電にAIを搭載することで、より快適な暮らしを送ることが可能になるといわれています。
医療・介護
高齢化が進む日本では、医療や介護業界の人手不足も問題になっています。たとえばIoTが発達すると、カメラやセンサーなどのツールを使って高齢者の健康を随時チェックすることが可能になります。家族や介護士などが付きっ切りにならなくても、見守ることができるようになるのです。
また介護ロボットが進化すれば、介護される人がひとりでできることが増えたり、重労働だった介護者の動きをサポートしたりすることも期待できるでしょう。
スマートワーク
これまで人間がおこなってきた仕事を、AIやIoTが搭載されたロボットが代わりにおこなうというものです。たとえば無人のトラクターに畑の種まきや水まきを任せたり、無人のロボットに危険な場所や広い場所の清掃を任せたり。人手不足を解消するとともに、作業効率もあがるでしょう。
スマート経営
すでに取り入れている企業も多いですが、個人の商店も会計処理にクラウドを活用することで、Webでの注文や決済がよりスムーズにできるようになるでしょう。売り上げなどをリアルタイムで確認することもできます。また、何がいつどれだけ売れたかを正確にデータとして残すことができるので、事実にもとづいた販売計画をたてることができ、廃棄物が減ることが期待されています。
自動運転
自動運転機能が搭載された乗用車はすでに製造されていますが、たとえば電車やバスなどに無人で自動走行する機能が搭載されると、特に過疎地で問題になっている高齢者の移動をスムーズにおこなうことできるようになります。コスト削減だけでなく、高齢者による自動車運転の事故を軽減できるでしょう。
- 著者
- 出版日
- 2018-08-08
内閣府が発表した、日本の経済を知るために必要な情報が載っている作品です。
「人生百年時代」や「ソサエティ5.0」などによって、暮らしや働き方、教育などさまざまなものが変化していくと考えられています。世界情勢の変化と日本の在り方を解説し、今後の展望が記されているので、日本で生活する私たちが読んでおいて損はありません。
- 著者
- 出版日
- 2018-10-25
2016年、東京大学と日立製作所は、ソサエティ5.0を実現するために「日立東大ラボ」を設立しました。本書ではラボで得られた見識をもとに、日本社会が抱える問題を指摘。そしてその問題を解決するためのビジョンを提示しています。
それぞれの分野の専門家が事例を解説しているので、より深い知識を身に着けることができるでしょう。ソサエティ5.0が実現されれば、日本の経済も社会も大きく変革すると考えられています。誰にとっても無関係なものではありません。ソサエティ4.0で課題として挙がっていたものは解決できるのか、本当に豊かな社会とはどのようなものなのか、考えてみましょう。