2004年に提唱されたビジネス概論「デジタルトランスフォーメーション」。一体どのようなもので、私たちの生活はどう変化するのでしょうか。この記事では、意味や事例、課題などをわかりやすく解説していきます。
2004年にスウェーデンのウメオ大学教授エリック・ストルターマンが提唱した「デジタルトランスフォーメーション」。ITが人々の暮らしをあらゆる面でよい方向に変化させる、とするビジネス概念です。
英語では「Digital Transformation」と書き、「DX」と略されます。DTではなくDXなのは、英語圏で「Trans」を「X」の一文字で表すためです。
では「デジタルトランスフォーメーション」とはどのようなものなのか、よく似た「デジタライゼーション」という言葉の違いとともに説明していきます。
たとえばフィルムカメラがデジタルカメラに変わったことは、「デジタライゼーション」です。デジタルテクノロジーを使って機能を高め、既存のカメラの価値を高めました。
その一方で、カメラで撮った写真をSNSにアップロードして友達とシェアしたり、コンビニなどでプリントアウトしたりすることは、「デジタルトランスフォーメーション」です。デジタルテクノロジーを使って、新しいビジネスチャンスが生み出されています。
経済産業省が2018年に発表した資料では、「デジタルトランスフォーメーション」は次のように定義されています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内 部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること
IT技術を使って、社会のニーズに沿った新しいビジネスを展開することだといえるでしょう。
世界のデジタル化が一気に進んだきっかけは、マイクロソフト社がオペレーションシステム「ウィンドウズ98」をリリースしたことでしょう。
起動ボタンを押せばすぐに使えるパーソナルコンピューターとインターネットが一般家庭に普及し、日常生活が変わりました。
またインターネット上で商品の売買ができるECサイトが台頭したことで、これまでは欲しいものがあれば実店舗に買いに行くのが一般的でしたが、インターネット上で購入するという新たな選択肢が生まれました。
その後日本では、2010年代にスマートフォンが一気に普及し、「デジタルトランスフォーメーション」が進みました。
高画質カメラが組み込まれ、テレビ電話ができるようになっただけでなく、動画配信やSNS投稿で収益をあげる人が増えています。また時間や場所を問わずにインターネット上のコンテンツを閲覧することができるようになったので、Webサービスを中心にビジネスモデルを展開する企業も増えました。
また世界に目を向けてみると、これまで固定の住所や銀行口座をもっていない人が多かったアフリカでは、スマートフォンが普及することで「デジタルトランスフォーメーション」が進み、個人を相手に新しいビジネスが展開できると期待されています。先進国で展開されたどのモデルにも当てはまらない新しい事例として注目されているのです。
では、「デジタルトランスフォーメーション」を積極的に取り入れて成功した企業やサービスの事例を紹介していきましょう。
1:ECサイト
日本最大のECサイト「アマゾン」は、「デジタルトランスフォーメーション」を取り入れて顧客のデータを分析させ、過去の注文履歴からおすすめの商品を選び、配達先に1番近い物流倉庫に品物を移動させるシステムで即日配送を実現しています。
2:ストリーミング配信サービス
DVDのレンタルサービスから始まったNetflixは、「デジタルトランスフォーメーション」を導入してストリーミング配信サービスに移行し、その後オリジナルコンテンツの作成にも力を入れるようになりました。
3:IC乗車カード
運営会社が異なる電車やバスに相互で乗り入れができ、現金のチャージやクレジットカードと連携をすれば電子決済も可能。私たちの生活を劇的に変えています。
4:ウェアラブルシステム
着用するだけで身体の情報を計測することができるウェアラブルシステムは、スマートフォンなどを介して結果を利用者にフィードバックし、食事や運動、睡眠などの質を高めるための次の行動へ促しています。
世界に通用する企業に成長するためには「デジタルトランスフォーメーション」は欠かせないといわれていますが、現状でその重要性を認識している人はまだ少ないというのが1番の課題でしょう。
各企業とも、競争力の維持や強化をするために「デジタルトランスフォーメーション」を進めることは必要だとわかってはいても、ではどのようにビジネスを変革すればよいのか経営戦略を模索している段階だといえます。
また、既存システム自体も、「デジタルトランスフォーメーション」の足かせになっているのです。既存のシステムを使い続けると、技術面の老朽化、システムの複雑化、ブラックボックス化などの問題が肥大化していきます。
経済産業省はこれを「2025年の崖」と称していますが、これを刷新するためには「これまでのドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」「既存システムと新システムのデータ連携が困難」「影響が多岐にわたるため試験に時間がかかる」などの新しい問題が。
「デジタルトランスフォーメーション」を進めるうえで、新たなシステムを活用するためには既存のシステムとの適合が課題だといえるでしょう。
- 著者
- ["藤井 保文", "尾原 和啓"]
- 出版日
- 2019-03-23
UX(顧客体験)コンサルタントの藤井保文と、政府主催の委員会でも活躍するIT批評家の尾原和啓が、デジタル化していく世界の本質について記した作品です。
本書では、未来はすべてがオンラインになる、つまりオフラインは存在しなくなると述べています。オフラインがなくなる世界を「アフターデジタル」と呼び、どうすればアフターデジタルで生き残れるのかを解説。世界の具体例を挙げてくれているので、わかりやすいでしょう。
ひとつの企業だけが「デジタルトランスフォーメーション」を進めていってもあまり意味はなく、社会全体で推進することで変革が起きるという理論もわかりやすいです。
これからの社会を考えるために読んでおきたい一冊だといえるでしょう。
- 著者
- ベイカレント・コンサルティング
- 出版日
- 2019-06-20
本書を手掛けた のは、企業の事業戦略やマーケティングを支援するコンサルティングファームです。本書では、「デジタルトランスフォーメーション」を実現するために「AIを活用したいけど何をすればよいかわからない」「IoT導入の成果が出ない」などの嘆きに応えています。
大切なのは、手段に惑わされるのではなく、目的を実現するためのデータを分析し、適切なツールを活用するということ。「デジタルトランスフォーメーション」とデータ分析の関係性を理解することで、より具体的なアクションのイメージを膨らませることができるでしょう。
「デジタルトランスフォーメーション」に必要な要素がロジカルにまとめられているので、初心者にもおすすめの一冊です。