育児、いちねんせい【小塚舞子】

育児、いちねんせい【小塚舞子】

更新:2021.11.29

どうやら娘は社交的な性格をしているらしい。人前に立つ仕事をしているわりにはもじもじと恥ずかしがり、お世辞にも社交的だとは言えない性格の両親からすると、トンビがタカを産んだようでなかなか喜ばしいことなのだが、実はそう喜んでばかりもいられない。

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人見知りをしない娘

外に出られるようになった頃から、友人知人に会わせてもあまり人見知りをしなかった娘だが、それはまぁ小さいからだろうと思っていた。

「人見知りをするようになったら大変!」といった話はよく聞く。特に激しい子だと、ママ以外とは目が合っただけで泣いてしまうらしい。友達の姪っ子は3か月くらいから始まったそうだし、娘もきっと生後半年を過ぎてくると他の人に抱かれたりしたら「ママじゃないといや!」みたいな顔をして泣くのだろう。

そして私はニヤニヤしながら「いやいやホント大変なんですよ~甘えん坊で!」とか言うのを不安半分、期待半分でうっすら想像していた。

しかし、8か月を過ぎても娘にその気配は感じられない。初めての場所に慣れず、多少グズつくことはあるのだがそれも最初のうちだけで、自分のいる場所に納得すると、アウアウ、バブバブ、ンゲンゲとずっとしゃべっていて、何かを見つけてゲラゲラ笑ったり(笑っている目線の先に何もなかったりして怖い)抱っこひもからずり落ちそうになるくらい反り返りながら周りにいる人を観察して話しかけたりしている。

赤ちゃんが苦手とするヒゲもメガネもどんとこい。いかつい男性に抱かれてもへっちゃらだ。ひょうきんというかお調子者というか・・・一体誰に似たんだろうと首をかしげたくなるが、こういうところは周りから可愛がってもらえるので有難い。しかし、不特定多数の人がいる場所になると少し事情が変わってくる。

ツンデレすぎるナンパ術

娘は人が好きらしい。それも知らない人。もっと言うと自分に興味がなさそうな人を好むようだ。私は車の免許を持っていないのでいつも電車移動するのだが、電車に乗ると必ず娘のナンパが始まる。

彼女のナンパ術は、まずとにもかくにも相手を見つめること。車内にいる人を一通り確認し、ターゲットを決めると真っ直ぐ穴が開くほど相手を見つめる。窓の外を見ていようが本を読んでいようがスマホを見ていようがお構いなしだ。(スマホの画面をのぞき見ることもあるが失礼なのでやめてほしい。)

それはターゲットが視線に気が付くまで続く。なかなか気づいてもらえない場合は「ねぇねぇ!」みたいな感じでアーアー声を出し、まるで知り合いを見つけたかのように、にっこりと笑いかける。それでも振り向かない場合は手でトントンしようとするが、たいていは声を出す前に気が付いてもらえる。ナンパは9割を超えるくらいの確率で成功する。にっこりと微笑んでもらえたり、「かわいいね~」と声をかけてもらう。すると、彼女は満足そうにニヤリとする。

しかし私が「すみません、ありがとうございます。」などと礼を言っている間に、彼女はターゲットに興味をなくし、次なるターゲットを探し始める。二度目になるが、彼女は自分に興味がなさそうな人を好むのだ。

例えば最初に定めたターゲットが、娘に気付いて目を合わせた後に“いないいないばぁ”などをして次のコミュニケーションステップに進んでくれていたとする。しかし娘はそこからさっさと目を反らし、別の人を見つけて新たなナンパに励んでいる。“いないいないばぁ”は娘の後頭部をかすめた後、行き場をなくし、大人たちを気まずい空気で包み込む。

娘を揺らしてみたりして、「ほら!よかったね!」と声をかけてみるものの、完全にアウトオブ眼中。私の問いかけなんてまるで無視。全力で次のナンパに励んでいる。

「すみませんすみません」と繰り返す私をよそに、娘は次なるターゲットに声をかけ微笑みかける。新たな餌食はこちらの変な空気を察して困惑の表情を浮かべる。

娘のナンパの尻拭い

ボックス席に座るとボックス内にいる乗客全員をナンパ。長時間乗ると隣に座る人や前に立つ人が変わっていくので、寝る間も惜しんで次々とお声掛けしていく。(で、目的地に着いたら疲れて眠くなりグズる)私はその度に謝ったり礼を言ったり、ナンパの尻拭いをしなければいけない。そして多くの場合、「かわいいですね」「ありがとうございます」では終わらず、そのまま世間話へと発展していく。

買い物中に店員さんに話しかけられただけでしどろもどろになる私は、その自然発生的に生まれた会話にも、やっぱり上手く乗ることができない。隣に座る見知らぬ人と話すには目線をどこにやるのがスマートなのだろう。目を見て話すのが苦手だから横は向けないし、ずっと前を向いているのも感じ悪いし、娘を見たら全然違う人に愛想振りまいてるし。残る答えは上か下だが、突然天井眺めるのは気持ち悪いので足元を眺める。(前向きより感じ悪い気がする)

「何か月ですか?」「じゃあもう離乳食始まってるよね?」「ハイハイし始めると目が離せなくて大変でしょう?」質問には答えられるが、その後どうすればいいのかわからない。こちらからも何か質問とかした方が良いのだろうか・・・?一体何を?子育てのイロハでも聞く?質問に答えさえすれば、そこから話を弾ませようとしなくていいのかもしれないけれど、咲きかけた話の花がしぼんでいくようなわびしい空気がどうも苦手のだ。枯らしてしまうのか。それとももう一度、水をあげるのか。たいていは何も浮かばず、えーっとえーっと・・・とソワソワしながら、目的地に早く着くよう祈る。

さらに、ターゲットになるのは老若男女問わない。外国人だろうが、おじいちゃんだろうが、あっち系の人だろうが、娘にとっては生きとし生けるもの全てがナンパの対象だ。女性の方が相手してくれる確率は高い気がするが、女性ばかりの乗客の中、一番赤ちゃんに興味なさそうなおじさんをロックオンすることもある。

おじさんだとその後の大人同士の会話を心配する必要はあまりないが、おじさんが明らかにどうしたらいいのかわからないといった顔をして、わざとらしく窓の外を眺め出したりするので申し訳なくなる。ちなみに娘の目線からおじさんが外れるように向きを変えようとしても抱っこひもからの落下覚悟でおじさんを見ようとするので、諦めている。

昨日は電車の中で盛大に抱き合うカップル(日本人)をナンパしようとしていた。同じ車両に乗っている人全員が見て見ぬフリをするレベルで互いに夢中になっている若い二人だったが、娘の熱い眼差しは届いたようだ。「やっば!赤ちゃんめっちゃ見てる!やっばー!うっふふー!」とさらに盛り上がっていた。今度は私がわざとらしく窓の外を眺める番だった。

トンビの子育て

いつか、何みとんねんコラァ!とトラブルになりやしないかと冷や冷やしている。今のところ、電車で出会うのは優しい人ばかりで、コワモテのおじさまも目尻を下げて話しかけて下さるが、叱られる日もくるかもしれない。今まで眠る場所だった電車の中は、むりやり社交界に引っ張り出される場となった。

しかしながら、明日娘の人見知りが始まるかもしれず、それはそれで怖くもある。愛され上手のタカは、成長のスピードがとにかく速い。そう言えば、電車に乗り始めたばかりの頃は寝てばかりいた。今では声を出してケラケラ笑ったり、隣に座るご婦人のバッグの紐をつかんで振り回したり、かなり意思を持って動くようになった。トンビはタカの後ろをヨチヨチとくっついてまわるのが精一杯だ。

あまり急がずゆっくり成長して欲しいものだが、娘はどんな女の子になるのだろうと想像するのもワクワクする。できれば、電車の中でのナンパはややこしくなさそうな人限定にしていただきたいし、最後まで責任を持った節度あるナンパを心掛けてほしいし、欲を言えば寝てほしいが、始まったばかりの育児を今は何とか楽しめていると思う。

親の目線で読んでしまった10代の少年少女を描いた本

著者
最果 タヒ
出版日
2019-05-09

高校野球をテレビで見ていたら、「いくつになってもお兄ちゃんに見えるなぁ」と思っていた高校球児が、我が息子のように感じている自分に気が付きました。そしてこの本も共感できるのだろうかできないのだろうかとワクワクしながら読んだら、自分の娘がこうなったらどうしようとか、そっちの目線で読んでしまいました。しばらくはほとんどの本が育児書のようになりそうな気がしています。

とは言っても、十代のヒリヒリした感情を思い出してしまう物語でした。いじめ、恋愛、家族。主人公である17歳の女子高生和葉は、ひねくれて、とんがっています。そのせいでいじめにも遭ってしまう。物語の真っただ中にいるときは、とにかくもどかしいような気持ちになるのですが、読み終わってみるととんでもなく素直で愛おしい女の子に思えてきます。大らかな気持ちでいたくなるような一冊です。

著者
瀬尾 まいこ
出版日
2007-06-28

自分は捨て子なんだと信じている育生と、育生のことを卵で産んだと言う母・君子。お互いを想い合う二人の姿は誰が読んでも微笑ましく感じるものだと思います。育生は優しくて、君子は柔軟で強い。短い物語の中に描かれる深い愛情と絆に、久しぶりに泣きました。私は頭が固いので、こんな風に柔らかく娘に接してあがられるように何度も読み返したいです。

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