漫画『シャドーハウス』は、外界とは隔絶された不思議な洋館が舞台の物語。2人の主人公を中心に謎めいた一族の日常と習わしが徐々に明かされていく、ダークファンタジー漫画となっています。この記事では本作の考察ポイントを紹介します。
ある時代のあるところに、貴族のように華麗に暮らす一族がいました。シャドー家の人々です。顔を持たない「シャドー一族」は、自身の顔の代わりとして、1人1人に専用の「生き人形」の従者がついていました。2人で1組の主人と従者の関係です。
幼い少女の姿をした生き人形のエミリコは、同じ背格好の少女ケイト・シャドーに仕えて、日々身の回りのお世話をしています。彼女は忠実なメイドと呼ぶにはあまりに天真爛漫で、甲斐甲斐しく働くものの失敗もよくしてしまいました。
大人しく聡明な主人・ケイトと、明るく陽気な従者・エミリコは、徐々に親密な信頼関係を築いていきます。それがやがて、シャドー一族と他の生き人形へも影響していくのでした。
本作はほのぼのとした日常の中に、どこか不穏さの漂うダークな世界観が魅力のファンタジー漫画となっています。
- 著者
- ソウマトウ
- 出版日
- 2019-01-18
シャドー家とは、物語の主な舞台となる屋敷の所有者であり、大きな謎をもつ一族です。
彼らは、全身が真っ黒なせいで、名前の通り立体的な影のようにしか見えません。感情の変化に伴って、頭頂や体表から「すす」と呼ばれる煙が立ち上ります。どうやら魔力的なものが籠もっているらしく、大量の「すす」が集まると「こびりつき」という化け物や、より強大な「亡霊」に変貌して暴れ出すことがあります。
成人した年長のシャドー一族は特異な力を持つようです。それがどんな意味を持つのかは、2019年現在では未だ明かされていません。しかし一族でもっとも強大な力を持ち、生き人形を生み出したとされる家長「偉大なるおじい様」がすべての秘密を解く鍵といえるでしょう。
他にシャドー一族で分かっていることといえば、訪問者が訪れない、どこにあるかもわからない巨大な洋館で裕福に暮らしているということくらいです。フランスのお茶菓子文化があったり、イギリス風の庭園が出てくることから、少なくともヨーロッパかヨーロッパに似た地方(もしくは世界)にあるようです。
彼らがどんな影響力を持つのか、その謎は明かされるのか。伏線の回収が期待されます。
生き人形は、シャドー家に仕えるべく「偉大なるおじい様」に創造されました。シャドー一族は1人1人が異なる生き人形をパートナーにして生活しています。
彼らはれっきとした生命体で、食事でエネルギーを得ているようです。生き人形は自身の主人を様付けで呼び、それ以外の一族の者を「お影様」と呼びます。生き人形には個体差があり、性格や運動能力が個性として描かれます。そんなところも本作の興味深い点です。
生き人形はシャドーへの忠誠心を高め、シャドーそのもの……主人たるシャドーの「影」になることが求められます。どの個体も主人と同じ背格好というのが意味深で、生き人形は顔のない主人の「顔」とも表現されます。主人の「顔」の役目を果たす時には、「ポートレート」という正装を着用しなければいけません。
また、1つ不穏な噂話も……。主人にとって重要な生き人形ですが、能力不足の場合には処分されるとか。その場合、生き人形や生き人形を失った主人がどうなるのかさだかではありません。特定のパートナーを持たない雑用係の「顔のない人形」というものたちが出てきますが……?
生き人形に関して気になるのは、本当に「偉大なるおじい様」が造りだした人工生命なのだろうか、という点でしょう。本編を素直に読む限り、シャドー一族が異形で生き人形たちが人間のようにしか思えないのです。果たして真相はどうなるのでしょうか。
- 著者
- ソウマトウ
- 出版日
- 2019-05-17
「お披露目会」はシャドー家の伝統儀式です。年少のシャドーと、従者の生き人形がこれをパスすることで一人前と認められる成人式のようなものです。
シャドーと生き人形は試験官の出すテストに挑戦し、その結果と所作が評価されます。基本的には生き人形の忠誠心が試されます。
試験官たちは成人した上位シャドーの生き人形とされますが、その動きはまるで彼ら自身がシャドーかのように振る舞うのが不気味です。試験官にも序列があり、テストでうまくふるい落とさなければいけない仕組みのようです。
このお披露目会にも、シャドー家の謎が詰まっていると言っても過言ではないでしょう。
「偉大なるおじい様」こそ、本作最大の謎。お披露目会の際にちらりと出てきましたが、基本的に本編にはまったく姿を現しません。
シャドー家の頂点にして、生き人形の創造主。絶対的な権力と想像を絶する力の持ち主であることは間違いないでしょう。
前述したように試験官には序列があるようですが、シャドーは試験官を経て地位が高くなればなるほど、「偉大なるおじい様」の身辺に住むことが許されるようです。同じシャドー家の屋敷でも、「偉大なるおじい様」の棟と階層は厳密に区別されているのです。
お披露目会で明かされますが、シャドーの成人とは生き人形との文字通りの一体化にあるようです。いわば顔のないシャドーが顔を得る儀式。この辺りの事情からしても、やはり生き人形の方が人間なのではと思えてきます。
果たして「偉大なるおじい様」は何者で、なぜこのような仕組みを作ったのでしょうか?
2巻まででケイトとエミリコの絆と成長、シャドー家の不思議が描かれてきたストーリーは、3巻からお披露目会の本番に突入します。
「特別な生き人形」を自称する試験官エドワードは、ケイトをはじめとして成人するシャドーと、彼らの生き人形を分断しました。
- 著者
- ソウマトウ
- 出版日
- 2019-09-19
最初のテストは庭園迷路のどこかに捕らわれた主人をそれぞれの生き人形が救い出し、早くゴールすれば合格です。加えて「生き人形は自分の顔を傷付けてはいけない」、「シャドーは服を汚してはいけない」という条件が出されます。
一見すると2つの条件は生き人形の自己犠牲を封じ、テストの難易度を上げるハードルのようです。しかし、条件の「顔」と「体」に着目し、シャドーと生き人形の一体化という裏の目的も考え合わせれば、かなり不穏な展開に思えてきます。
一方、事情を知らないエミリコや生き人形たちは、必死で主人に貢献しようと奔走します。生き人形同士の交流や諍いを越えた協力、ハラハラする救出劇が見所です。
エミリコは無事に敬愛するケイトを救い出せるのでしょうか……そして他のシャドーと生き人形の行く末とは?お披露目会の中で、シャドー家の秘密が暴かれるのでしょうか。
癒やされるのに不穏、この相反する要素が同居している不思議な感覚こそ本作の面白さです。徐々に解き明かされる謎と、新たに出てくるあやしげな設定がたまらない作品です。
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