日本ではあまり聞きなれない「暗黒小説」というジャンルをご存知でしょうか。「ノワール小説」とも呼ばれる、フランスで生まれた作風です。この記事では、日本と海外の作品のなかから、読んでおきたいおすすめのものを厳選してご紹介していきます。
小説のジャンルのひとつ「暗黒小説」。犯罪をテーマにしたものや、悪事が横行する世界を舞台にした作品を指します。
第二次世界大戦後のフランスで、当時アメリカで流行していたハードボイルド小説の影響を受けて誕生したため、フランス語で「黒」という意味がある「ノワール小説」とも呼ばれます。フランスで流行した後はアメリカや日本にも広まり、探偵ものや社会派小説の発展にも寄与したそうです。
ただ日本では、暗黒小説を得意とする作家は少ないのが現状。普段はあまり手にとる機会がないという人も、海外の作品に目を向けてみてもよいかもしれません。
かつての装いを失い、中国人たちが勢力を競いあう街になった歌舞伎町。日本人と台湾人のハーフの劉健一は、日本人のコミュニティにも所属せず、中国人として生きることもせず、歌舞伎町で盗んだものを転売して生計を立てていました。
そんなある日、かつての仕事仲間である呉富春が、歌舞伎町に帰ってきたという噂を聞きます。上海マフィアのボスである元成貴が重用していた男を殺し、逃げてきたそう。富春が健一の元を訪れることを予測した元から、連れて来いと命じられるのですが……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
1996年に刊行された馳星周の作品です。馳は日本における数少ない暗黒小説の書き手で、本作は彼のデビュー作となります。
マフィアや裏社会に生きる者が歌舞伎町でくり広げる、策略と裏切りを描いた暗黒小説。主人公の健一もまた、暗部へと足を踏み入れていきます。嘘に嘘を重ねていく様子は、緊迫感抜群です。
また、夏美という女性と出会って健一が変わっていく様子も見どころ。他人を信じられるようになるのか、それとも仲間を売ってしまうのか……心の揺れ動きに注目です。初めて暗黒小説を読む人にもおすすめの一冊になっています。
腕の取り立て屋である黒木。かつてはその仕事ぶりから、「黒鷲」と呼ばれ、恐れられていました。
しかし彼の目の前で婚約者の未優が強姦される事件が起こり、さらに彼女が自殺をしてしまうと、黒木の様子も一変。それからは落ちぶれて、自暴自棄の生活を送っています。
事件から2年が経ったある日、黒木は偶然、未優をいたぶった犯人の写真を目にします。そこから、黒鷲として読みがえった黒木の復讐劇が始まるのです。
- 著者
- 新堂 冬樹
- 出版日
- 2002-10-01
1999年に刊行された新堂冬樹の作品です。新堂もまた日本では珍しい暗黒小説作家で、そのかたわらで金融コンサルトも営んでいる珍しい経歴の持ち主。お金に関する作品を多数発表しています。また暗黒小説だけでなく純愛小説も執筆しているので、ファンの間ではその作風から「黒新堂」「白新堂」と呼び分けられています。
本書も、お金と裏社会をテーマにした作品。お金の流れを非常に詳しく描いているのが特徴です。また覚醒剤に関する描写もこのうえなくリアル。社会の闇の部分と、犯人を追うミステリー要素の両方を楽しめるでしょう。
ラストはどんでん返しの連続なので、丁寧に読み進めていくのがおすすめです。
引退を決めた殺し屋のテリエ。かつて、恋人と「十年後に迎えに行く」という約束を交わしていました。
しかし脱退を許さない組織から狙われ、さらには別の敵からも襲われるように。一体どのようにして窮地を切り抜けるのでしょうか。
- 著者
- ジャン=パトリック マンシェット
- 出版日
- 2014-11-06
1981年に刊行されたジャン=パトリック・マンシェットの作品です。2015年には映画化もされました。作者のマンシェットは多くの暗黒小説を発表したフランスの作家で、亡くなるまで作品を執筆していましたが、遺作は未完結のまま。本書が彼の生前最後の作品になっています。
その登場人物の冷酷さや強靭さが特徴。その一方で、文章は非常に簡潔でわかりやすく、登場人物たちの心理描写はほとんどありません。主人公のテリエはもちろん、元恋人も何を考えているのがわからず、ハラハラしながらストーリーが進んでいきます。
また簡潔でわかりやすい翻訳も魅力的。たくさん人が死ぬ悲惨な展開ですが、読者はただ見守ることしかできないという、ある意味暗黒小説の醍醐味を堪能できる一冊です。
かつては美術講師をしていたハイム。しかし社会と適合することができず、いまは引き籠って母親と2人で暮らしています。
そんな彼の趣味は、妄想。頭のなかの世界では、彼はとあるホテルに勤める12歳のボーイで、個性的な人物に囲まれているのです。
精神を患い、孤独のなか妄想だけを頼りに生きているハイム。やがて彼の狂気は勢いを増し、現実と妄想の境界があいまいになっていきました。そして、恐ろしい事件を起こしてしまうのです。
- 著者
- ジャン ヴォートラン
- 出版日
1981年に刊行されたジャン・ヴォートランの作品。暗黒小説のなかでも、「サイコ・ノワール」に分類されています。
物語は、精神を病んだ青年ハイムの現実と妄想、そして事件を起こした彼を追う刑事の視点で進行。その特徴は登場人物の全員が狂気に満ちていることでしょう。妄想に入り浸っているハイムはもちろんですが、彼を溺愛している母親も、刑事も、全員おかしいところがあり、読者の不安を煽るのです。
妄想と現実が入り混じるさまは、ただただ恐ろしいと感じるばかり。歪んだ世界観を堪能してください。
犯罪組織のブレーンをしているレッド・ドック。ある時、警官夫婦の子どもを誘拐する事件を起こします。連れ去った子どもは修道院に預けることにしました。
実は彼は、幼い頃に親に捨てられ、弟と2人で修道院で生活をした過去があります。それは悲惨な日々で、やがて弟は亡くなりました。そしてレッド・ドックは、自分と弟を酷い目にあわせた人を全員殺してやると誓うのです。
誘拐事件は、彼の壮大な復讐計画の始まりでした。
- 著者
- シェイマス スミス
- 出版日
2002年に刊行されたシェイマス・スミスの作品。壮大な復讐を実行する男を主人公にした暗黒小説です。
冒頭から唐突に始まる誘拐事件。読み進めていくうちに、彼が何を目的にし、どれだけの裏工作を図っているのか、その全貌が明らかになっていきます。なんと20年もの歳月を費やして、実行の時を待ち構えていたのです。
しかしレッド・ドックの計画は、途中で登場する切り裂き殺人鬼ピカソのせいで、軌道修正を強いられることになります。果たしてうまくいくのでしょうか……。