プロジェクトマネジメントの肝がわかる!専門家が推薦する【必読本】とは?

はじめまして。株式会社ゴトーラボ代表の後藤洋平と申します。製造、流通、人材、教育等、幅広い業界の経験をもとに、プロジェクトマネジメントを専門領域として、企業向けの支援をさせていただいている者です。

主な仕事としては、IT製品ベンダー様向けにプロジェクト推進をハンズオン支援、コンサルタントやエンジニアの方向けに、プロマネスキル向上のためのワークショップを実施させていただいています。他には、宣伝会議社会人向け講座、早稲田大学ビジネススクールなどの場で一般の方向けの講演や書籍執筆なども行っています。

そんな「プロジェクトマネジメントの専門家」という珍しい立場から、この度は「プロジェクトマネジメントを学ぶためのおすすめ本」を紹介いたします。ご参考になりましたら幸いです。

プロジェクトとは、プロジェクトマネジメントとは

プロジェクトとは何かを一言であらわすと、「ルーティンワークでないあらゆる活動」と定義しています。どんな仕事も、ある状況で、ある対象に働きかけを行い、成果を生み出すものです。ルーティンワークの場合は、「何をどのようにしたら、どんな結果が生まれるか」が事前にわかりますが、プロジェクトとは、未知の対象に働きかけることであり、ゆえに「働きかけ」と「結果」の相関関係がわかりにくいという課題があります。

未知への働きかけは、「蓋をあけてみたら、びっくり!」な驚きの連続です。やってみる前には「Xの状態になるために、AをBしよう」と考えていたのが、全然そうならない世界。日常生活では、リンゴを買ってきてと言われてスーパーに買いに行って渡したら、それで済みます。が、プロジェクトとは「欲しかったのはこれじゃない」と言われる世界です。

「欲しかったのはニュージーランド産だった」「青りんごが欲しかった」「食べる用ではなく、写真を撮りたかった」など、そんなこと一言も言ってなかったじゃないかという話を後出しジャンケンで出されて、困ってしまったり。買って帰ることができればまだしも、「売り切れだった」「お金が足りなかった」などなど、まさかそんなことが、という想定外に満ちているものです。「先に言ってくれれば・・・」と、結果論で言うのは簡単なのですが。事前にありとあらゆる状況を想定して、プロジェクトを当初の目論見通りに運ぶのは、とても大変なことです。

そんなプロジェクト(=前例のない、未知のこと)をマネジメントする(=思い通りの結果を生み出す)ためには、戦略的に考え、行動することが大事です。どんなプロジェクトにも序盤、中盤、終盤というフェーズがあり、それぞれのフェーズで注力すべきポイントは異なります。本記事ではそんなプロジェクトの序盤、中盤、終盤に役立つ書籍を紹介させていただきます。

プロジェクトの序盤で大事なことは3つ

序盤における最大の困難は、「やってみる前は、何が難しいのかも、わからない」ということです。どんな未知の物事も、やってみる前はルーティンワークに見えます。ところがやってみると、違うということがわかります。

・システム開発をするためには、予算をとって、開発会社に依頼すればよい
・この新規事業プランの予算を得るためには、役員のAさんとBさんの承認を取り付ければよい
・結婚式を挙げるには、いいコーディネーターを見つけて、要望を伝えて任せたらよい

何かを始める前の思い込みは、ここに書いたようなシンプルなものですが、先ほどのリンゴのたとえ話にこれらの変数を代入してみると、いかにそれが困難なことかが想像できるでしょう。

ビジネスでもプライベートでも、同じです。これが、「やってみる前の、思い込み問題」です。そんな単純な見立てが、いざ着手してみると、様々な思い違いや不足に直面します。この「やってみたときの直面」のタイミングは非常に致命的にプロジェクトに影響を与えます。お金も人も、設備も材料も用意して、さあ取り掛かって、そのあとで見込み違いが発覚したら、挽回も修正も非常に大変なものになります。

大前提として、見込み違いをなくすために事前に情報収集して明確な計画を立てることは大切です。ですが一方で、どんなに準備したところで、必ずどこかでは見込み違いが発生します。見込み違いには、早い段階で気づくのがベストです。そこで、「そういうものでもある」ことを前提として考え、想定外に対する臨戦態勢を整えることも重要です。つまり、計画を十分に練りながらも、それと違う現実が発生したら、柔軟に対応する即興性です。

この、計画性と即興性のバランスはプロジェクト進行における急所であり、奥義でもあります。そもそも、最初から見通しが良好なのか視界不良なのかの状況にあわせて、基本方針を定めておくのも大切です。精密に計画を立てて、管理重視でいくのか。まずやってみて、反応を確かめながら探索的に進めるのか。進め方の基本方針を定めておくことが迷子になることを防いでくれます。

整理すると、序盤における要点は3つです。

  1. 「何がわからないかがわからない状態」を早く抜け出す
  2. 必ず発生する想定外に、対処できる臨戦態勢を作る
  3. ウォーターフォール的なアプローチか、アジャイル的なアプローチがいいか、進め方の基本方針を定める

この問題を考えるにあたっての推奨図書が以下3冊です。

入門におすすめ:『中小企業のシステム外注 はじめに読む本』

著者
坂東 大輔
出版日
2018-11-18

扱うテーマが「情報システムの外部発注」という、限定された内容ではありますが、その分具体性があるので、プロジェクトを開始するにあたっての注意事項や進め方の要点が確認しやすい本です。

王道の一冊:『アートオブプロジェクトマネジメント』

著者
Scott Berkun
出版日
2006-09-07

こちらは新商品やウェブサービスなどの開発をイメージした内容です。著者のマイクロソフトにおける長年の経験をもとにした実践的な内容であるとともに、網羅的で多岐にわたるプロジェクトの局面を解説しています。ページ数も多く、読みこなすのには少々骨が折れますが、頑張って読破すると、得られるものが大きいです。

一歩深い学びのために:『失敗百選』

著者
中尾 政之
出版日
2005-11-02

プロジェクトの本というよりは、機械や設備の不具合、事故を分析した本です。世の中に発生するありとあらゆる失敗を体系化するという野心的な試みで、設計のミスや運用のミス、組織のミス、といった具合に失敗の類型と対策を解説しています。

なぜ序盤を考えるにあたってこの本を推奨するのかというと、世の中にある「そんなはずじゃなかった想定外」の事例の宝庫だからです。さらにそれが体系化されているのがポイントです。

とはいえ機械設計を対象にしているため、プロジェクト一般に応用するには少々想像力を必要とします。上級者向けです。

中盤で大事な3つのこととは

実際にこれを実行したいという企画が定まって、必要な人員やリソースが調達され、いよいよ本格的に開始するのがプロジェクトの中盤戦です。

このフェーズでは、最終的な成果物が具体的にはまだ見えないことから、議論の空中戦が発生しやすいのが大きな課題です。あるはずと思ったものがなかったり、やってもらえると思っていたことが違っていたり。チームワークが形成されるために必要な混乱期である、とも言えます。

そのなかで重要になるのが「要件定義」と呼ばれる工程です。この工程では、そもそもプロジェクトを通して「こうなりたい」という動機に対して、「実際に、こういうふうにしたら実現する」という実現手段を定義します。まだ目の前に存在しない成果物に対して、その要件を定めるためには、言葉や数字、図や絵といったものによる表現を多用しなければなりません。

しかし人間はつい、同じ表現を見ても、そこにあらわれていない背景や省略された情報については、自分に都合の良いものをイメージしてしまいがちです。そうしたすれ違いは、具現化をしていく終盤戦でときに致命的な課題を生み出します。

そんなプロジェクト全体の要になる中盤フェーズの要点を挙げると、以下の通りです。

  1. 要件定義が最大の難所
  2. 言葉の認識をあわせること
  3. 定例会議を基点にして、理想と現実のギャップを可視化し、課題解決し続けること

この問題を考えるにあたっての推奨図書が以下3冊です。

入門におすすめ:『はじめよう!要件定義』

著者
羽生 章洋
出版日
2015-02-28

そのものズバリのタイトルです。ITプロジェクトを想定した書籍ではありますが、そもそも要件定義がなぜ必要か、どのように進めるべきか、ということはどんなプロジェクトにおいても共通しています。

読みやすい文章で、コンパクトにまとめられているので、まずは全体的なイメージをつかみたい、というときにおすすめです。

王道の一冊:『予定通り進まないプロジェクトの進め方』

著者
["前田考歩", "後藤洋平"]
出版日
2018-03-29

こちらは、筆者の自著で恐縮ですが、推奨させていただきます。そもそもプロジェクトとは、思い通りにならないようにできています。前半ではそれがなぜなのかを原理原則から考察しています。後半では、そんなプロジェクトの進め方を上手に設計するための表現方法である、「プロジェクト譜」を提唱しています。

一歩深い学びのために:『なぜ、システム開発は必ずモメるのか?』

著者
細川 義洋
出版日
2013-09-27

システム開発プロジェクトの失敗が訴訟に至った事例を元にした、プロジェクトにおける課題解決方法の解説書です。実際に司法判断の支援をしてきた著者による解説は、多くの経験に裏打ちされていて、実践的です。本書はかならずしもプロジェクトの中盤フェーズについて語ったものというわけではありませんが、多くの失敗事例を読み込むと、やはりトラブルの種は中盤に発生しやすいことに気付かされます。

終盤で大事なのはたった一つ=結果を出すために奮闘せよ

さて、企画が始動し、チームが立ち上がり、プランが煮詰められると、いよいよプロジェクトは終盤戦に入ります。どんなプロジェクトも予定の遅延はつきもので、このフェーズでは時間との戦いという要素が加わります。

終盤戦では、最終的に成果物を作り上げること以外に目的はありません。結果と過程、どちらが大切かとよく言われます。プロジェクトにおいては、結果がでなければ過程の価値が具現化しません。

結果を出すために、なにがなんでもやる。全力を投球せよ。それ以外にコツはありません。しかし、もちろん、精神論だけでは現実は動きませんし、玉砕してしまうようなことがあってはなりません。

序盤中盤の戦い方がまずいと、様々な矛盾がしわ寄せされてしまい、ミスや手戻りがさらにミスや手戻りを呼び込む、大変に辛い「炎上」になってしまいます。そんな終盤戦はやる方も嫌ですし、成果物を受け取る方も気持ちの良いものではありません。

想定外のトラブルに見舞われながらも、課題解決が成果を呼び、成果がモチベーションにつながるサイクルを作ることが大切です。高校の文化祭準備のような、お祭り騒ぎのようなチームワークが生まれることが理想です。

この問題を考えるにあたっての推奨図書が以下3冊です。

入門におすすめ:『プロジェクトマネジャーの決断』

著者
富士通株式会社 PMコミュニティ 「実践的PM向上のための問題集検討」WG
出版日
2016-03-14

実際にあったITプロジェクトのトラブル事例をもとに、なにに着目をしてどのように整理し、いかにアクションするべきかを解説した例題集です。問題の切り分け方や解釈、意思疎通の仕方について、教科書的な整理がされていますので、非常に勉強になります。

本書自体はプロジェクトの終盤戦をテーマにしたものではありませんが、特に終盤戦で発生しやすい課題解決のヒントになる内容が抱負です。

王道の一冊:『ワンランク上の問題解決の技術』

著者
横田 尚哉
出版日
2008-07-15

どんな課題も、表面的なレベルで解決するのはなかなか難しいものです。目の前に具体的にあらわれている矛盾や問題の多くは、あっちを立てればこちらが立たない、トレードオフの関係にあります。そんな問題を解決するためには、起きていることの深層に迫り、構造を抽象化して捉えることによる、柔軟な発想の切り替えが必要になります。

本書で提示されている「ファンクショナル・アプローチ」の考え方は、そうした柔軟な発想をするために有効なフレームワークになっています。

一歩深い学びのために:『失敗の本質』

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

1991年08月01日
["戸部 良一", "寺本 義也", "鎌田 伸一", "杉之尾 孝生", "村井 友秀", "野中 郁次郎"]
中央公論社

序盤中盤の戦略的失敗は、終盤戦でどのような悪影響を与えるのか。第二次世界大戦で我が国がいかにして失敗したかを分析した名著です。戦略的に失敗している状況を、戦術的に埋め合わせをすることがいかに困難かを思い知らされます。


最後におまけで一冊、ご紹介してこの記事を終えさせていただきたいと思います。

古典や歴史から学ぶ:『戦争論』

著者
カール・フォン クラウゼヴィッツ
出版日

近代軍事学の古典的名著です。戦争とはこの世にあるプロジェクトのなかでも、最も困難なものであると言えるでしょう。プロジェクトにおける目標達成が困難な理由を「摩擦」や「霧」といった概念で解説している部分、またそれを乗り越えるために必要な資質、軍事的天才についての考察は一読の価値ありです。

ただ、本書は非常に難解なことでも有名で、私も正直なところ、すべての内容をきちんと理解したとは言えません。とはいえわかるところを拾い読みするだけでも、プロジェクトとは何かということのヒントを得られます。

以上、プロジェクト進行における各フェーズの特徴と課題、守るべき要点をもとにして、ヒントとなる参考書をご紹介させていただきました。

前例のないプロジェクトにおいては最初からこうしたらいいという正解は見えないものです。手探りをしながら勝利への道を探すのは困難な行為ですが、先人の残してくれた知恵をもとに地図を描くことはできます。この記事が何かしらのお役に立てるようでしたら幸いです。

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