『仮面病棟』は、深夜の病院を舞台に、ピエロの仮面を被った強盗の籠城事件と病院に隠された重大な秘密に迫る本格医療ミステリー小説。医師でもある小説家・知念実希人が手掛けた、リアリティがありながらも手に汗握る内容です。 2020年には映画化も決まっており、あらためて注目が集まっている本作のあらすじと魅力をご紹介します。
外科医の速水秀悟は、田所病院という療養型病院で当直アルバイトをしていました。ある日、先輩医師の小堺の代わりに勤務をしていた時、突然、ピエロの仮面を被った強盗が怪我をした女子大生を連れてきました。
強盗は、その女子大生を撃った犯人でしたが、そのまま死んでしまっては殺人犯になって罪が重くなる、だから治療をしろと速水に要求してきます。何とか治療は済ませたものの、ピエロの男はそのまま病院に籠城。
状況を打破したい速水は病院の看護師である東野や佐々木、院長の田所などと動くのですが、そのなかで病院の重大な秘密に気が付いて……。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2014-12-05
医師でもある作者による本格医療ミステリーである本作。2014年に実業之日本社文庫という出版社から、文庫本書下ろしとして刊行されました。
本格医療というと難しそうだなと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、本作はまったくそんなことはありません。メインとなる見所はミステリーの面白さなので、医療の知識などなくても読みやすい内容です。
ネット上では、「分かりやすくてスイスイ読めた」、「あちこちに伏線が散りばめられていて、一気に最後で繋がっていくのが面白い」など、明瞭なストーリー展開や細部の作りこみに定評のある感想が多いようです。
2020年には映画化され、主人公の速水に坂口健太郎、ヒロインに永野芽郁らがキャストを務めます。知念実希人作品のなかでは初の映画化で、多くのファンが期待を寄せています。
本作を執筆した知念実希人は、小説家であると同時に医師としても働く異色の経歴を持った作家です。もともと医師の家系に生まれ、作家として活躍する前から医師として働いていました。
その医療知識や経験を活かした作品で、2011年にばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、デビューしました。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2014-09-27
多作の小説家ですでに多くの作品を発表していますが、医療ミステリーを得意しており、天才女医が主人公の「天久鷹央の推理カルテ」や「神酒クリニックで乾杯を」などシリーズ化されている人気作もあります。
彼の文章は、「読みやすい」ことが魅力。わかりやすく軽快な文章と、テンポ良く進む展開、計算され尽くしたトリックなどの工夫があり、本格的なミステリーや医療ものでも難易度が高くありません。
本格的なストーリーが読みたいけどで難しくないものいい方、サクサク一気に読める作品が読みたい方におすすめの作家です。
先ほどもお伝えしましたが、作者の知念実希人は、医師の経歴を持つ小説家です。本作でもその経験が活き、深夜の病院の様子などがリアルに描かれます。
静かながらどこか恐怖を感じさせる病院内の雰囲気は、夜の療養型病院で何かが起こりそうな独特の雰囲気を感じた作者自身の経験、感情をもとに描かれたものだそう。読者にも端々の描写からその様子が伝わってきます。
また、世界観の描写だけでなく、そもそもの事件が起こる原因となった出来事が医療絡み。作品の肝となる部分ですのであまりネタバレできないのですが、病院の裏の顔というものがあるのではないかと恐ろしくなる内容です。
作者が医師だということならではの作品の雰囲気づくり、ミステリーの肝となる設定の作りこみに引き込まれます。
本作の帯には「一気読み注意」というキャッチコピーが書かれています。そのコピーどおり、展開が早く文章もテンポがよいので、一度読み始めるとページをめくる手が止まりません。
ピエロの仮面を被った強盗に脅されるところから始まり、病院からの脱出を図るために犯人とくり広げる心理戦、そんな中で発覚する病院内の秘密、味方であったはずの医師や看護師達と正体など、息つく間もなく新たな展開や謎が出てきて、読者の興味を常に引いてくるのです。
また、そんな展開の応酬を、深夜の病院という不気味なシチュエーションが盛り上げます。
決して短い作品ではないので読破するのに時間がかからないわけではないのですが、読み始めると途中で中断できないような、ハラハラする内容。また、ある程度長さのある物語だからこそ、読了した後の満足感がしっかりとあるのも魅力です。
本作の帯にあるキャッチコピーにはもう1つ「怒涛のどんでん返し」というものもあります。そのコピーどおり、本作にはいくつものどんでん返しが存在します。
ネット上での感想にも多くあるのが、様々なところに散りばめられている伏線。ミステリー慣れしている読者であれば、読んでいる途中にちょっとした違和感を見つけることができるでしょう。
そういった伏線に気がつくと、またそれが次の謎を解くヒントになって、読者は事件の真相について順を追って推理をすることができます。
ただ、そうなると結末の意外性はないのでは? と思うかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。終盤で大方の読者の予想であろう内容は一気に覆されるのです。
伏線回収の気持ち良さとまさかのラストでの驚きは、まさに本格ミステリーの醍醐味です。
本作には、主人公の速水秀悟の他、看護師の東野と佐々木、院長の田所、そして強盗のピエロと人質にされた女子大生・川崎愛美がいます。いずれも重要なキャラクターとして登場しますが、実はこれらの登場人物の多くが「仮面」を被っているのです。
まず、強盗のピエロ。コンビニ強盗をした際に怪我をさせた人質の愛美の治療のために病院へやってきて、そのまま籠城しました。このキャラクターは物理的に「仮面」を被っているので、読者はまずこのキャラクターをタイトルと結びつけるかもしれません。速水にとって一番目の敵という立ち位置です。
次に、看護師の東野と佐々木、そして院長の田所。ストーリーが進むにつれ、「仮面」を被っていることが分かっていくようになっています。それはピエロのような仮面ではなく、病院のある秘密を守るという意味での「仮面」。その秘密に速水が気が付いてしまったことから、この3人も敵対関係のキャラクターとなっていきます。
しかし、読者の予想を裏切り、最大の「仮面」を被っていた人物がいて……。
本作のラストはどういったものなのでしょうか?本作の魅力の1つとして怒涛のどんでん返しがあるということはすでにご紹介しましたが、ラストのラストまでその意外な展開に驚かされることは間違いないでしょう。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2014-12-05
病院からの脱出を図る速水は、院長の田所、看護師の東野と佐々木が何かを隠していることに気が付きました。実はその秘密こそ、ピエロの強盗がわざわざ怪我人を連れて病院にやってきた理由でもあったのです。
ピエロは、自分が殺人犯にならないためというもっともらしい理由を言っていましたが、それは嘘で、田所病院に潜入することが目的でした。では、何のためにそんなことをしたのでしょうか?
実は、ピエロの目的は秘密の「何か」を抱える田所たちで……。
読後は、明瞭ながらしっかりとした伏線の張られた展開に満足すること間違いなし。しかし、少し切ない気持ちも残る結末です。詳細は、ぜひご自身でご覧ください。
本作『仮面病棟』には、続編の『時限病棟』という作品があります。
続編という位置づけではありますが、『仮面病棟』との共通点は、同じ病院が舞台であるという点のみで、『仮面病棟』に登場するキャラクターは出てこず、ストーリーも直接的に繋がってはいません。つまり、同じ病院で起きた違う事件が描かれるのです。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2016-10-06
では、『時限病棟』ではどんな事件が起きるのでしょう?
大筋は、とある病室に閉じ込められた男女が制限時間内に脱出を図るというリアル脱出ゲームのような内容。しかも、制限時間を過ぎれば病院は火の海になるという命がけのものです。
そんな死と隣り合わせの脱出ゲームに挑むのですが、謎を解くうちに、しだいにお互いの共通点に気が付き、ゲームを仕組んだ黒幕の正体や目的に迫っていくことになるのです。
『仮面病棟』もスピード感溢れる展開がくり広げられていきましたが、『時限病棟』では、タイムリミットや脱出という設定がある分、さらにハラハラドキドキを感じることのできる作品となっています。
前作と直接的なつながりはないものの、過去の内容に触れる部分があり、その点でも楽しめます。
いかがでしたか? 一気読み必至な本作は、ミステリー初心者にピッタリの読みやすく、分かりやすい優等生な作品です。ぜひ映画が公開される前に原作をチェックしてみてはいかがでしょうか。