感想に「ひどい」という誉め言葉の多い、独特な魅力を持った作品が、『ベクターボール』。作者・は『金色のガッシュ!!』で一世を風靡した雷句誠です。 絆をテーマに描かれた学園ファンタジーですが、その内容は攻めすぎなギャグが織り交ぜられたもの。今回は、少年漫画の金字塔「ジョジョ」をもネタにしてしまうほど「ヤバい」この漫画の魅力をご紹介しましょう!
主人公の米炊おかかは賢く、まっすぐな正義感の持ち主です。最近、彼が通う学校では、記憶障害になる人がいたり、教室の場所が変わっていたり、不思議な現象がいくつも起こっています。
そのなかでも特に恐ろしいのが、ある生徒が刃物を持った男に殺されかけたというもの。証言した学生の周りの壁などにはありえない傷などがあり、学校中が異様な雰囲気に包まれていました。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2016-07-15
そんなある日、授業が始まっても教室に現れない同級生を探すため、おかかは教師の制止を振り切って教室を飛び出します。そこでおかかの目の前に現れたのは巨大な蛇ともトカゲともいえるような怪物でした。
正体不明の怪物に果敢に立ち向かう一人の少年、群青新太。その少年を助けるべく、おかかもその戦いに加わりました。そして得意のパズルを応用し、化け物の動きを机とイスで封じます。
それを見た新太は、逃げようと言うおかかを制し、どこからか出した巨大な槍で怪物を倒すのでした……。
ここまでのあらすじを読むと王道なファンタジー漫画に思われるかもしれませんが、作者・雷句誠の個性が光るのはここから。
そもそもおかかは正義感があるものの、容姿に優れていない相手を「ブス」よばわりしていじるのが大好きという、ひねくれている主人公。これだけに留まらず、彼の友達は焼きイカをしゃぶりながら登校する大男だったり、つかみどころのない気味の悪い少年だったりするのです。
悪と戦う姿は文句なくかっこいいシーンもあるものの、独特のギャグで読者を振り回す対局にあるような魅力を感じさせます。
この『ベクターボール』の作者・雷句誠は『金色のガッシュ!!』(テレビアニメは『金色のガッシュベル!!』)で一躍有名漫画家になった人物です。
もともと絵を描くのが得意だった雷句誠は、画家になることを夢みた時期もありましたが、ピカソなど有名な画家の抽象画を見ても、その絵の価値が分かりませんでした。そして価値が分かりにくい絵を描くよりも子どもたちに喜んでもらえる絵を描きたいと、高校1年生のときに漫画家を志望します。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
漫画を投稿し続けたものの何も結果が出ず、彼は編集部に作品を持ち込むことを決意します。そして4時間以上を異動に費やし、定期的に小学館に通い、スキルを磨いていきました。そして高校3年生のときに応募した「BIRD MAN」が入選し、デビュー作となりました。
雷句誠は代表作「ガッシュ!!」でも、『ベクターボール』でも、理不尽なものと闘う熱血的漫画を描くことを得意としています。キャラたちが自分では太刀打ちできそうもない大きな力に立ち向かっていく様子は、読者の心を熱くさせます。
しかし王道な展開一辺倒ではなく、センスを感じさせるギャグも魅力。ところどころに箸休め的に笑いどころを織り込みながら大きなテーマを作り上げていく作家です。
『金色のガッシュ!!』の名言を集めた<漫画『金色のガッシュ!!』の泣ける名言15選!もう一度読みたくなる!>の記事もおすすめです。
ここからは本作の魅力をご紹介していきましょう。
まずは主人公、米炊おかか。裕福な家に生まれ、頭も良く、正義感もある高校生です。ただし、ズレているというか、何といか、性格はかなりの難あり。「ブス」を笑うことが趣味という最悪な面があります。
しかし悪意を持ってそうしているという訳ではないところが、また困りもの。単純に容姿がよくない人を見ると笑ってしまうのです。そのせいで無自覚に女の子にひどい扱いをすることもあります。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2016-10-17
「お前も学校ででは気をつけるんだぞ
特にお前はブスで貧乏だ」
「オレはブスを見ると笑う
お前はそのためだけに生きてもいいじゃないか?」
(それぞれ『ベクターボール』1巻より引用)
相手のことを心配している時や、励ましている時にもさらっとこんな台詞を笑顔で言ってしまうのです……。友達がいないことを気に病んでいますが。当然でしょう。
ただしバトル展開ではかっこいいところがあるおかか。物を見ただけで寸法を把握してしまうという特殊な才能を持ち、そのおかげでパズル系のものを解くのが得意です。
さらにおかかは、ベクターボールというパズルを解いたことで、3Dプリンターのように物を作りだす能力を得て、さらに戦力として役立つようになっていきます。
ブスにはひどい扱いをするおかかですが、自分にない良いところを持つ人には最大の敬意を払い、美人にはクサイ台詞を言ってしまう調子のよいところが憎めないキャラです。
『ベクターボール』の面白さは登場人物だけじゃありません。この漫画の第18話はもはや伝説になっているんです!
ある日、登場したのは、「ガッシュ!!」に出てきていたビッグボインとそっくりなアメ・リカ先生。彼女が行う英会話クラスは、誰しも身に覚えがあるであろう、「リピートアフターミー」で始まる復唱でした。
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2016-12-16
そこまでは普通なのですが、まさかのその内容が、「花京院!!!」「イギー!!!」「アヴドュル!!!」というもの。未読の方にはさっぱりな内容かもしれませんが、これは「ジョジョ」3部の結末の感動的なシーンをパロディしています。
なぜいきなりジョジョが登場したのか!? そもそもなぜジョジョなのか!? 意味不明ながらなぜか笑えてしまう、雷句誠のギャグセンスが最高に光った回といえるかもしれません。そのシーンはぜひご自身でご覧ください。
人気連載漫画だった『ベクターボール』ですが、魑魅君がパワーアップするというまだまだ続きそうなところで急に連載終了となりました。
最終回は、魑魅魍魎が第三奥義「ブス三大闘神」という奥義を出します。それは日本人なら知らない人はいないであろう有名女性芸能人3人にそっくりな神?たちを召喚する奥義でした。しかしこの奥義はあまり効果がなかったため、次いで繰り出した技がブスカップラーメンというもの。先ほどの3人が頭にカップラーメンを乗せると今までにない破壊力が出るのだそう。
まさにカオス!これから一体どうなってしまうのでしょうか?
- 著者
- 雷句 誠
- 出版日
- 2017-05-17
最後の一コマは魑魅魍魎君が「カニ味だ!!!」と叫ぶというもの。そして、その最後の一コマに「今回をもって『ベクターボール』は第1部完結です。楽しみにしてくださっていた読者の皆様、応援ありがとうございました」という言葉が書かれていたのです。
意味不明かもしれませんが、そのとおりなので、詳細は作品をご覧ください。
後に作者・雷句誠はブログで連載終了の理由を語っています。それは信頼できる担当者が提案する今後の展開を受け入れることが出来なかったというものでした。
『ベクターボール』のアンケート結果がふるわない際に、担当者の大幅なてこ入れの提案にどうしても納得できず、1ヶ月間考え続けた結果、連載終了を申し入れたのだそうです。雷句誠はその1ヶ月の間、悩みぬいていたようで、終了を申し入れた後は、3日間何も出来なかったそうです。
突然打ち切りとなったことを受け、ファンからは驚きとショックの声がたくさん飛び交いましたが、このブログを読んだ後は「また次回は雷句さんの好きな漫画を描いてほしい」「ゆっくり休んで新しい漫画を待っています」などという応援のメッセージが届いたそうです。
突然の打ち切りとなってしまったため、未消化な終わり方を迎えた『ベクターボール』でしたが、来ないであろうものの、第2部を待っているファンも多くいます。2019年10月現在、この作品終了後から雷句誠は新しい漫画を描いていませんが、いつかまた新しい作品を生み出してくれることを期待しています!