5分でわかる保護主義と保護貿易!具体例や影響、米中貿易戦争などを解説!

更新:2021.11.20

「第二次世界大戦」が終結した後、世界各国は教訓から、自由貿易の推進を図ってきました。しかしグローバル化にともなうさまざまな要因から、近年は保護主義を掲げて、保護貿易をすすめようとする主張も強まってきています。この記事では、具体例を挙げながら保護主義のメリット・デメリット、アメリカと中国の貿易戦争などを解説していきます。

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保護主義とは。どのような考え方か保護貿易の歴史とともに紹介

 

自国の産業を保護するために、外国からの輸入品に制限をかける「保護貿易」を推進する考えを「保護主義」といいます。高い関税を設定したり、数量を制限したりと、その政策や方法はさまざまです。

保護主義の原型は、16世紀から18世紀の絶対王政期にイギリスとフランスが実施した「重商主義」だといわれています。また現代的な保護主義は、1841年にドイツのフリードリヒ・リストが記した『政治経済学の国民的体系』によって体系化されました。

当時リストは、イギリスのデビッド・リカードが『経済学及び課税の原理』で主張した自由貿易に反論しようとしていたそう。イギリスと自由貿易をしても、まだ発展途上だったドイツ工業では対抗できないと指摘し、そのまま自由貿易をするとかえってドイツの発展が困難になると考えたのです。

そこで、競争力に劣るドイツの工業が発展して、ドイツの経済を拡大させるためには、国家の干渉が不可欠だと主張しました。

このリストの考え方は、発展途上国や新興国の貿易政策、また誕生したばかりの産業を守る「幼稚産業保護」にも大きな影響を与えています。

 

保護主義政策の具体例

 

上述したとおり、保護主義は相対的に弱い立場の産業を守るために必要な政策だといえるでしょう。しかし現代では、保護主義が主張する保護貿易とは反対の「自由貿易」が基調です。

「第二次世界大戦」後に設立された「GATT(関税及び貿易に関する一般協定)」は、「自由・無差別・多角主義」を原則に掲げて活動し、今日の「WTO(世界貿易機関)」にも引き継がれています。

その一方で各国は、自由貿易がすすむ過程で競争力に劣る自国産業が衰退し、失業者が出ることを警戒しています。そのため、景気が悪くなると自由貿易を排して保護主義的な政策をとる国が増える傾向にあるのです。2018年から大きな話題になった「米中貿易戦争」も、そのきっかけはアメリカの保護主義政策にありました。

これまでに実施された有名な保護主義政策は、1929年に発生した「世界恐慌」をきっかけに、イギリスやフランス、アメリカなどがおこなった「ブロック経済」です。植民地や勢力圏との間で自国通貨を基軸としたグループを形成し、グループ内では関税を軽減する一方で、グループ外からの輸入品には高い関税をかけ、グループ内の産業の保護を目指しました。

このほかにも近年では、グローバル化の進展にともない、自由貿易の実態が変化しつつあると指摘されています。自由貿易の制度が多国籍企業に優位な形で作られているので、多国籍企業の活動にともなう弊害を抑止するため、一定の規制が必要であると主張する人も。これらも一種の保護主義だといえるでしょう。

 

保護主義が与える影響は?メリットとデメリットを解説

 

ではまず保護主義のメリットを紹介します。

  1. 外国からの輸入が減ることで、貿易赤字が軽減される
  2. 自国の産業を保護することで、国内の雇用が守られるほか、自国産業の発展も促せる

自由貿易の拡大にともなうグローバル化は、人々に等しくメリットをもたらすとは限りません。保護貿易をすることで、格差拡大を是正する効果が期待できます。

ぞの一方で、保護主義をとることにはデメリットもあります。

  1. 自由貿易の枠組みから除外された国との関係が悪化する
  2. 各国間の貿易が減少することで世界経済が縮小し、その損失は、自国産業を保護する利益を上回る
  3. 競争力の弱い産業を守ることで、消費者の利益が減少する

たとえば「世界恐慌」時の「ブロック経済」を例に挙げると、ブロックから疎外された日本やドイツ、イタリアなどの「持たざる国」は、「持てる国」であるイギリス、フランス、アメリカと対立を深め、これが「第二次世界大戦」のひとつの原因となっています。

また「ブロック経済」が形成された期間、世界全体の貿易取引量は7割も減少しました。保護貿易は、短期的には自国産業の収益増をもたらしますが、長期的に見ると損失になると考えられています。当時の教訓をいかして、「第二次世界大戦」後の国際社会は、基本的には自由貿易を是としてきました。

さらに、競争力の弱い企業を守るためのコストは、庶民の負担になります。価格や品質の点で不利益を被ってしまうのです。

 

アメリカの保護主義と、中国との貿易戦争を解説!日本の対応は?

 

2018年頃から表面化している、アメリカと中国の貿易戦争。もともとのきっかけは、2017年にトランプがアメリカ大統領に就任したところまでさかのぼります。トランプは「アメリカファースト」を掲げ、国内の雇用が奪われるとして「TPP」から離脱するなど、保護主義的な政策を推進していました。

そして2018年3月、アメリカの貿易赤字を圧縮するため、中国から輸入する鉄鋼に25%の関税を課すことを決定。その後は半導体など1000品目以上に追加関税を課し、総額は500億ドルにも達しています。

このようなアメリカの動きに対し、中国は報復としてて、大豆や牛肉など約800品目の関税を上昇。するとアメリカがやり返し、さらに中国も対抗して……と事態は泥沼化しているのです。

両国の長引く貿易戦争は、日本にも大きな影響を与えています。

「ジェトロ(日本貿易振興機構)」によると、2018年に日本がおこなった総輸出のうち、19.5%を中国が、19%をアメリカが占めていて、そのシェアは圧倒的。アメリカも中国も、日本にとって欠かすことのできない貿易パートナーです。

その両国が互いに高関税をかけている一方で、日本の関税は従来と変わらないため、相対的に関税が低い状態。その結果、日本の輸出が増加しているのです。アメリカと中国の貿易戦争は、双方を苦しめている一方で、当事者ではない日本に利益をもたらしていると考えることもできます。今後も、事態がどう推移するかを見守る必要があるでしょう。

 

保護貿易と自由貿易をめぐる問題点を提起した一冊

著者
["上村 雄彦", "首藤 信彦", "内田 聖子"]
出版日
2017-02-03

 

いまの国際社会では是とされている自由貿易ですが、本書では自由貿易=関税の引き下げだけではないとして、さまざまな問題提起をしています。それによると、TPPなどの自由貿易協定によって経済活動のルールが多国籍企業に都合がよいように改変されたそう。問題を解決するために、規制を強めるべきだと述べています。

また、自由貿易の対になるものとして保護貿易があるわけではないとも指摘。世間の常識を疑い、本当のあるべき姿とは何なのかを考えるきっかけになるでしょう。

 

保護主義に着目して自由貿易を再考する一冊

著者
エマニュエル・トッド
出版日
2011-11-09

 

本書は、自由貿易が供給過剰をもたらし、かえって世界規模で需要の減少を招いていると主張しています。問題解決のため保護主義に着目し、リストやケインズ、トッドなどを取り上げながら、経済危機からの脱却を図ろうとしているのです。

保護貿易は排外的というイメージが強いけれども、実際には政治的な自由主義とは矛盾しないこと、自由貿易の方が砲艦外交など強硬な政策と結びついてきたことが歴史を踏まえて論じられていて、興味深いでしょう。

本書を読んでから世界経済を分析すると、また違った側面が見えてくるかもしれません。

 

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