政治体制のひとつである「大統領制」。三権のうち、「行政」と「立法」が厳格に分離されているという特徴があります。この記事では、「議院内閣制」との違い、アメリカや韓国の制度の特性、メリットとデメリットをわかりやすく解説していきます。あわせておすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
近代以降の国家は、権力の暴走を防ぐため一般的に「三権分立」の制度をとっています。ただ、「行政」「立法」「司法」という三権の関係は、国によってさまざま。今回ご紹介する大統領制は、「行政」と「立法」の分立がより厳格な制度だといえるでしょう。
たとえば日本やイギリスが採用している制度は「議院内閣制」と呼ばれるもの。これは、「立法」を担う国会議員を選挙で選出した後に、議員たちが議員の中から内閣の長となる首相を選ぶ制度です。内閣は国会の信認にもとづいて成立し、国会に対して連帯責任を負うことが定められています。「行政」を担う内閣と、「立法」を担う国会の距離が近いといえるでしょう。
一方の大統領制は、国会議員と大統領が選挙で別々に選出されます。「行政」の長である大統領も国民が選ぶため、議院内閣制よりも直接民意が反映される政治体制だといえるでしょう。また議員と大統領はそれぞれ異なる選挙で選ばれるため、両者の分立も強まります。
大統領制と議員内閣制、どちらの制度も一長一短。その国の国民性や政治体制に応じて適した制度が選択されています。
2019年現在、大統領制を採用している主な国家はアメリカ、ロシア、フランス、ドイツ、韓国など。ただ大統領の権限は各国で異なります。たとえばドイツでは名誉職的な存在に位置づけられているので、実質的な政治体制は議院内閣制と同じもの。またロシアやフランスは大統領と首相が並置される「半大統領制」と呼ばれるものです。
アメリカの大統領制について解説していきます。
大統領の任期は4年、上下両院の議員と同じように、選挙によって国民から選ばれます。ただ選出方法は上下両院の議員とは異なるのが特徴です。
まず有権者は、州ごとに「大統領選挙人」を選び、この「大統領選挙人」の投票で大統領が選出されます。選挙人は事前にどの候補者に投票するのか公言しているため、国民が直接大統領を選んでいることと同じだと考えてよいでしょう。
三権の分立が強いアメリカでは、行政を担当する大統領や各大臣は議席を持てません。大統領に法案を提出する権限はなく、「一般教書」や「特別教書」という形で議会に勧告するのみです。仮に大統領が望まない法案が議決された場合、大統領は「拒否権」を行使することができますが、それでも議会が3分の2以上の多数で再議決すれば、法案は法律として採用されます。
また大統領は、議会の招集、解散をする権限ももっておらず、反対に議会も、行政に対して不信任決議をおこなう権限はありません。
アメリカ合衆国憲法では、上下両院それぞれで3分の2以上の多数が賛成した場合、弾劾によって大統領を罷免することができるように定められていますが、アメリカの歴史上、いまだ弾劾によって大統領が辞任した例はありません。
そのためアメリカの大統領は、日本と比較すると任期中に罷免されることが少なく、より安定した長期政権を築く傾向にあります。
同じ大統領制を採用していても、国ごとに大統領の権限は異なります。では韓国の大統領制について解説していきましょう。
大統領の任期は4年。再選されることはありません。国民の直接選挙によって、国会議員と同じように選出されます。
韓国の三権分立は、アメリカと比べて緩やか。議院内閣制に近い要素があり、政府閣僚に国会議員が就任できるほか、内閣も法律案を議会に提出することができます。
また韓国では、大統領だけでなく首相も存在します。正式には「国務総理」と呼ばれる役職で、法律で「国務総理は大統領を補佐し、行政に関し大統領の命を受け行政各部を統轄する」と定められています。
韓国は1987年に民主化するまで、軍人出身の大統領によって強権的な統治が続けられてきた経緯があり、民主化後は大統領の権力濫用を防ぐために、首相にも権限が与えられるようになったのです。
韓国の議会は大統領を弾劾する権限をもっていて、近年だと2016年12月、朴槿恵が国会に弾劾訴追され、任期中に退任することになりました。
ここまで見てきたように、大統領制は議院内閣制と比べて、「行政」の独立が強いという特徴があります。そのためメリットとして、
などを挙げることができるでしょう。
一方でその権限の強さから、大統領が権限を濫用し、独裁者のようにふるまう場合もあります。そのほかデメリットとしては、
なども挙げられるでしょう。
良くも悪くも「行政」が独立していて、その在り方によって政治情勢が左右されやすいのが、大統領制の特性といえます。
- 著者
- 待鳥 聡史
- 出版日
- 2016-09-21
かつてイギリスの植民地だったアメリカでは、根本的に政治に対する不信感が存在していて、これが強固な三権分立を生み出したといわれています。
本書は、アメリカの大統領は、実は憲法上の権限が弱いことを指摘。歴史を辿りながら、歴代政権がどのように成功、そして失敗してきたのかを分析している作品です。
興味深いのは、近年は大統領に求められる役割が変化してきているということ。定められた権限と求められる役割のギャップを埋めるために、クリントンやオバマなどが苦慮した過程がまとめられています。
アメリカの歴史と、大統領制の今後の在り方を考えるきっかけになる一冊でしょう。
- 著者
- 出版日
- 2018-08-07
各国の政治体制は、歴史的な経緯や特性によってそれぞれ異なります。国によっては、日本人から見るととてもユニークなものも。本書は、各国の政治体制がつくられた歴史的な経緯と、政治の仕組み、選挙などにまつわる興味深いエピソードをまとめた作品です。
たとえばパプアニューギニアでは選挙の投票率が200%を超える、サウジアラビアでは国政選挙がない、など。もちろんアメリカの大統領制についてもしっかり解説されています。
本書を読めば、日々の国際ニュースをより深い視点で見れるようになるでしょう。