基本的人権のひとつとして重視される「表現の自由」。この権利が保障されることで、私たちは自由に自己表現や意思表明ができています。民主主義的な社会を作るうえで不可欠なものだといえるでしょう。内容や注意点、「公共の福祉」「報道の自由」などをわかりやすく解説していきます。
基本的人権のなかの「自由権」に分類される「表現の自由」。個人として自由に考え、意志や意見、事実などを表明する権利を保障しています。
個人が自由に意思を表明できることは、皆で話しあい、方針を決定していく民主的な社会を作るために不可欠です。たとえば1789年に発表された「フランス人権宣言」では「表現の自由」について、
思想および意見の自由な伝達は、人の最も貴重な権利の一つである。したがって、すべての市民は、法律によって定められた場合にその自由の濫用について責任を負うほかは、自由に、話し、書き、印刷することができる。
と記しています。このように「表現の自由」は、人権が重視されるようになってから「自由権」のなかでも特に重視され、基本的人権を構成する主な権利だと考えられてきました。
日本国憲法では、第二十一条にて次のように定めています。
このように日本では、自分の意志を表明するためのあらゆる手段が保障されてます。そしてその自由を妨げる、検閲など公権力の監視を禁じているのです。
先述したように、「表現の自由」は自由に自分の意志、意見、事実などを表明する権利で、そのための具体的な方法はさまざまに存在します。
たとえばデモや集会を開催して、自分たちの意見や立場を表明すること、出版物などを公開してメッセージを発信することなどが保障されています。またこのような政治的な行為だけでなく、ブログやHP、各SNSに投稿すること、文章やイラストなど創作物を発表することも「表現の自由」の一環として認められています。
このように「表現の自由」は、民主主義を成り立たせるためだけでなく、個人が自己表現を通じて自分らしく生きていくためにも必要な権利だといえるでしょう。
しかしこれらの自由が認められているからといって、あらゆる表現が許されているわけではありません。そこで重要になる考えが、次に紹介する「公共の福祉」です。
日本国憲法が「基本的人権の尊重」を謳うように、本来人権は、法律でも侵すことのできない権利です。しかし場合によっては、法律によって人権を制限することが認められることがあります。
たとえば「表現の自由」があるからといって、ヘイトスピーチのように他人の名誉を侵害するような言論は認められません。それぞれの個人に人権があり、相手の人権を侵害するような行為は許されないのです。
これを日本国憲法では、「公共の福祉」という言葉で説明しています。日本国憲法第十二条には、「国民は日本国憲法を濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」という旨が記されています。
さまざまな人がともに暮らす社会では、ある人の人権と別の人の人権が対立する場合があります。このような時に公正に対立を解消するために、「公共の福祉」という概念があるのです。
ただし、何が「公共の福祉」にあたるのかはその時々で異なります。たとえば「表現の自由」に関係することでいえば、先述したように相手の人権を侵害するような行為は許されませんが、「公共の福祉」の名のもとに不当に人権が制限されることも問題です。
そのため何が「公共の福祉」にあたるのか、どのような表現が許され、どのような表現が許されないのかは、その都度慎重に検討する必要があるといえるでしょう。
「公共の福祉」に関連して、しばしば問題となるのが「報道の自由」のあり方です。
まず「報道の自由」とは、事実を告げたり知らせたりする自由のこと。発信する情報の取捨選択、認識には発信者の意思が入るため、「報道の自由」は、発信者の「表現の自由」の一環であると考えられています。
その一方で、テレビや新聞などマスメディアの影響力は大きく、世論を形成する力をもっているので、その報道のあり方をめぐってしばしば議論が生じるのです。
たとえば「報道の自由」によって、プライバシーが侵害される危険性が想定されます。ただ公人や有名人の場合、プライバシーの権利が及ぶ範囲が一般とは異なるという主張があり、その場合どこまでが「公共の福祉」として制限されるのかが争点となるのです。
また「報道の自由」には発信者の意思が作用するため、客観的で中立的な報道は存在しません。事実を正確に把握するためには、発信する側だけでなく、受けとる側にもそれ相応の力が求められます。ひとつの事象のどの側面に注目するかによって、事実の受け止め方は千差万別。さまざまな情報を批判的に読み取る「メディア・リテラシー」を高める必要もあるでしょう。
- 著者
- ナイジェル・ウォーバートン
- 出版日
- 2015-12-23
「表現の自由」は無制限に認められるものではありません。その一方で、公権力によって規制がかけられることは、言論弾圧のきっかけにもなりかねません。本書ではそのジレンマについて、さまざまな事例を通じて論及している作品です。
それぞれの事例から、「表現の自由」で何が守られているのか、「表現の自由」はなぜ大切にされるべきなのか、考えることができるでしょう。
入門編なので、文章は平易でわかりやすく、コンパクトにまとまっているのも魅力です。
- 著者
- 山田 太郎
- 出版日
- 2016-04-26
作者の山田太郎は参議院議員。「表現の自由を守る会」を結成し、特に漫画やアニメ、ゲームなどの「表現の自由」を規制するさまざまな法案に反対しています。本書はそんな彼の、国会の内外での活動をまとめたものです。
ただ「反対だ」というのではなく、個々人ができることを探っていく内容。事前に入念な準備をし、相手から的確に言質を引き出していく手法は興味深いものがあるでしょう。
規制の対象として話題になりやすい漫画やアニメ、ゲーム好きの人はもちろん、国会議員の活動に興味がある人にもおすすめの一冊です。