江月夫婦は70歳を目前にした老夫婦。子供がおらず、さすがにもうこの年になって諦めていましたが、ある日、なんと妻が妊娠します。 出産にあたっての2人の苦労、やっと授かった1人娘の尊さを描いたのが『セブンティウイザン』。今回ご紹介する『セブンティドリームズ』は、その続編です。孫ほども離れた娘の成長と、着実に迫る江月夫婦の老い。月日の流れが老夫婦に夢と希望、そして死への恐れをもたらす様子にさらに迫っています。 本作は2020年4月に小日向文世と竹下景子実写ドラマ化。ここではそんな注目作の魅力をご紹介いたします。
今回ご紹介するのは『セブンティドリームズ』ですが、まずは前作、『セブンティウイザン』について簡単にご紹介しましょう。
65歳で定年退職し、妻と2人で第2の人生を歩み始めようとしたその日、江月朝一(えづきあさいち)は妻の夕子から妊娠3ヶ月を告げられました。夕子の年齢はもうすぐ70歳。朝一は前代未聞の高齢出産に葛藤しますが、夕子の強い熱意に押され、初出産と初育児を受け入れます。
江月夫婦がこれまで望んでも授からなかった我が子。「みらい」と名づけられた女の子との新生活は、人生も後半に差し掛かった2人にとって初めてだらけでした。
父親と母親の覚悟の差、出産の準備、出産後の子供の世話……。子どもがいる家庭では当たり前で、老夫婦にとっては当たり前ではなかった数々の経験。彼らの目を通した育児は新鮮な驚きに満ちており、人生は一瞬一瞬が特別なのだと再認識させられます。
「ウイザン」ではみらいが保育園を卒業するまでの様子が描かれます。詳細は以下の記事からご覧ください。
『セブンティウイザン』70歳の妻が妊娠!?老夫婦の高齢出産漫画がすごい!
当記事では、その続編の『セブンティドリームズ』について紹介していきます。続編では、新しい幼稚園に通い始めるみらいの成長と、さらに自らの老いと向き合う夫婦の日々が描かれています。
また、『セブンティウイザン』は2020年4月にNHK BSプレミアムで実写ドラマ版が放送されています。
小日向文世&竹下景子『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』
- 著者
- タイム 涼介
- 出版日
- 2017-02-09
本作は70代になろうかというおじいさんとおばあさんの子育ての物語です。荒唐無稽な設定にも思えますが、インドでは75歳での出産例があるため、現実的ではないとも言い切れないのが面白いところです。
主人公の江月朝一は65歳(『ウイザン』の時点)。ドラマは小日向文世が演じます。これといった才能はなく、真面目だけが取り柄です。
朝一は妻の夕子のことを心から愛しており、体調を心配して当初は出産に反対でした。しかし、子をもうけることへの彼女の熱意に折れてからは、定年という状況をフル活用して家事も育児も協力します。慣れないながらも、生来の真面目さでなんでも取り組むところに好感が持てる人物です。
夕子は登場時、70歳目前の主婦です。ドラマで演じるのは竹下景子。長らく子供を授からなかったものの、出産と育児については調べていました。彼女が高齢であること、今までずっと子供がほしい思いながらも我慢していたことが、物語にドラマ性を与えています。
高齢であっても、体が衰えていたとしても、母は強しを体現するキャラクターです。
2人の娘の名前はみらい。とても元気な女の子で、江月夫妻に見守られながらすくすくと育っていきます。赤ちゃんらしく ころころ変わる百面相が見ていて飽きません。
みらいは無事に幼稚園に進学しました。それは1つの区切りではありましたが、これからも続くみらいと江月夫婦の人生にしてみれば、ほんの序章に過ぎません。毎日が新しい体験の連続です。
朝一は定年からの育児に楽しみを見出し、家族そろっての生活にこれまでにない充足感を感じていました。
そんなある日、かかりつけの病院から電話がかかってきます。朝一の体に異変が起きていたのです。幸せの絶頂の最中、彼は癌に冒されていたのでした……。
初めての育児に加えて、高齢者ならではの老齢問題までもが物語に織り込まれていきます。誰しもが逃れられない死という現実と、それでも未来に向かって生きようとする姿勢が印象的な内容です。
このあと、その見所についてさらに詳しくご紹介していきます。
- 著者
- タイム涼介
- 出版日
- 2019-05-09
物語は「ウイザン」の続編として、引き続き江月夫婦の育児風景が描かれていきます。子供というのはどの家庭でも愛らしいもの。さらに、本作では江月夫婦の長年の思いというフィルターを通してみらいを見るので、より一層可愛く感じるでしょう。愛情を一身に受ける彼女からは、強いエネルギーが感じられます。
みらいは本作から幼稚園に通います。泣くことしかできなかった赤ん坊時代から成長し、よく喋り、よく笑い、そしてわがままを言うようになりました。
子供なりの意思表示は、どんな形であれ微笑ましいものです。江月夫婦が彼女を温かく見守るように、読者もその成長に一喜一憂してしまいます。
みらいが生まれてから3年。長いようで短い日々を経て、みらいはあっと言う間に大きくなっていきました。まさに「生」の象徴です。
しかし、時間はあらゆる人に平等に流れます。みらいが成長した分、江月夫婦も確実に老いていくのです。それは高齢者出産がわかった当初からの懸念でもありました。
- 著者
- タイム涼介
- 出版日
- 2019-05-09
果たしていつまで生きられるのか? みらいが成人するまで見守ることができるのか?
幸せな日常にふとした瞬間に訪れる不安。それがとうとう、最悪の形で現れます。まもなく70を迎える朝一が癌だと発覚するのです。もっともわかりやすい形でみらいとの別れを予感させる展開です。
人間が生きる限り、死は避けられません。江月夫婦は癌を機に死を正面から受け止め、豊かな最期の時を迎えられるよう、終活の準備を始めます……。
育児と終活は普通結びつくものではありませんが、高齢者育児という題材ならではの奥深いヒューマンドラマは必見です。
ドラマ『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』は2020年4月にNHK BSプレミアムで放送されました。また、2021年4月には、本ドラマを再編集した「地上波特別版」も放送されています。「感動&泣ける」をコンセプトに掲げたプレミアムドラマシリーズとして製作されており、本作の持ち味が特に丁寧に描写されました。
また、ドラマオリジナルのシーンも追加されています。追加シーンにより、原作では明かされなかった「みらいが攻撃的になった理由」も判明しました。
ドラマは全8回、「ウイザン」の内容をメインにしつつ、「ドリームズ」の終活要素も織り込まれた内容となりました。
主演の小日向文世は朝一とちょうど同じ65歳。年齢がぴったりなうえに、ちょっと気弱で真面目な朝一のイメージも合致します。
一方の竹下景子も女優として数々の役をこなしてきていベテランです。とはいえ、今回の役はあまりにも高齢での出産という設定で、撮影当初は戸惑っていたようです。そんな戸惑いを抱えながら、竹下景子はいかにして力強い母を演じたのでしょうか?女優の演技との向き合い方が垣間見えるのも、このドラマの見どころといえるでしょう。
「ウイザン」も「ドリームズ」も、一見荒唐無稽な設定ながら、育児と終活を通して「生きること」を描いた骨太な内容となっています。実写版でもそのテーマを踏襲しており、子育て世代から孫のいる高齢者世代まで、幅広い層が考えさせられるドラマに仕上がっています。
詳細はドラマの公式ページでご覧くださいね。
小日向文世&竹下景子『70才、初めて産みますセブンティウイザン。』
高齢者の出産という波乱の設定から始まり、初めての育児や終活への備えなど、読んでいて学びの多い本作。思いもよらないヒューマンドラマは言葉にできないほど感動的です。ドラマ化に際して、まずは原作をご覧いただくのはいかがでしょうか。