『子どもはわかってあげない』ゆるいのになぜ、引き込まれるのか。テーマや謎を考察【ネタバレ注意】

更新:2019.12.9

女子高生・朔田美波の、ひと夏の冒険と恋を描いた本作。やわらかな絵柄が思春期の心の繊細さを感じさせつつも、作中の各所に軽快なパロディが散りばめられており、心地よいテンポで読んでいくことができます。 明るさとセンチメンタルの絶妙なバランスに惹きこまれてしまう本作。映画化も決まって話題の青春の物語の魅力を。ラストまで考察していきます。

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『子どもはわかってあげない』が面白い!ただのボーイミーツガール?【あらすじ】

 

朔田美波は水泳部で活躍する女子高生。ある日、学校の屋上で絵を描いていた書道部の門司昭平と出会います。

好きなアニメの話で意気投合し、仲良くなっていく2人。しかし、ひょんなことから昭平の兄・明大が探偵業を営んでいると知った美波は、彼に自分の父親の捜索を依頼することに……。 

絵柄の柔らかさや台詞回しの軽やかさから、本作は全体的にゆるい雰囲気が漂っています。しかし、そのゆるさにもかかわらず、多くの読者を惹きつける魅力を秘めた作品です。

この記事では、美波と昭平が恋を自覚していくボーイミーツガールとしての面白さや、美波の実父を探すという「冒険」がもたらすワクワク感など、読者を惹きつける魅力について考察していきましょう。

ちなみに本作は沖田修一による実写映画化が決定しています。美波役を上白石萌歌が、昭平役を細田佳央太が演じることが発表されており、公開は2020年初夏の予定です。

詳細は公式ツイッターなどでご覧ください。

 

映画『子供はわかってあげない』公式 (@agenai_movie) | Twitter

作品の魅力を考察:青春漫画としての面白さ

水泳部の美波と書道部の昭平という、一見まったく接点のなさそうな2人の出会い。彼らが出会って意気投合し、互いを意識していく過程には思春期特有の甘酸っぱさが感じられます。 

はじめは同じ趣味をきっかけに、友達として仲良くなった2人。昭平は水泳の大会で美波が泳ぐ姿に見入ってしまいます。一方で、美波は習字教室で代理講師を務める昭平に新たな一面を垣間見るなど、お互いのことを知っていくにつれて惹かれていくのです。その過程は、見ていて微笑ましいものがあります。

その後、美波は父を訪ねる秘密の旅に出かけることに。昭平が彼女に協力し、その冒険を通じてより互いを意識していく様子や、恋を自覚していくところも可愛らしいです。

また、細やかな描写が絶妙なリアリティを醸し出しているのも魅力です。高校生の日常風景として、教師に特徴的なあだ名をつけるところやパロディのネタなどが、身近な雰囲気をつくりだしています。

また、キャラクターたちが読者の同級生にもいるかのような親しみやすさも感じられます。軽やかさのある絵柄もあいまって、夏の風のような爽やさで包まれるように感じられることでしょう。

作品の魅力を考察:ミステリー?サスペンス?実父を探す!

 

物心つく前に別れた実父に会うため、探偵の明大に捜索を依頼した美波。一方で、明大のもとにはタイミングよく新興宗教の幹部から人探しの依頼が舞い込んできます。

そして偶然にも、美波の実父がその宗教の教祖で、教団のお金を持ち逃げしたと疑われているという衝撃の事実が発覚するのです。

単なる高校生の青春の1ページかと思いきや、新興宗教の金銭トラブルという、怪しさ満点の事件が関わることに。非日常的な事件が加わり、先の展開がどんどん気になってしまいます。

 

著者
田島 列島
出版日
2014-09-22

 

キャラクターたちの軽妙なセリフや、ふんわりした絵柄のおかげで、重苦しい雰囲気にはなりませんが、サスペンス的な緊張感が加わることで、物語の展開から目が離せなくなっていくことでしょう。

その後、明大の調査の甲斐もあり、美波は着実に父親に近づいていきます。しかし、一方で教団には教祖を探すこととは別の目的があるようにも感じられ、それぞれの思惑が不透明です。 美波と父親の対面には、単なる親子の再会とは違った緊張感が生まれていきます。

得体のしれない要素が多いことから、美波は彼が見つかったあとも、父から真意を聞き出すことに抵抗を感じるようになっていきます。しかしともに過ごすうちに少しずつ心の距離が縮まっていき、本心を交わしあうようになるのです。

美波と父、親子の関係が築かれていくところも注目したいポイントです。

 

作品の魅力を考察:サブタイトルにも仕掛けがいっぱい!

本作は各話のサブタイトルにもパロディ的な要素がふんだんに盛り込まれており、元ネタと照らし合わせてクスッと笑える楽しさが魅力の一つ。

探偵である明大の初登場回となるエピソードは「探偵は商店街にいる」というサブタイトル。映画作品『探偵はBarにいる』のパロディであることが分かります。

「セメント・モリ」では、いよいよ父親に会いにいく道中で「父親が金を盗んだ犯人だった場合、セメントともに海に沈められる」という可能性を示され、美波は動揺してしまいます。

「人は必ず死ぬということを忘れるな」という意味の「メメント・モリ」を捩ったこのサブタイトル。死を連想させながらも、セメントとかけたダジャレのせいでシリアスになりきれないところが本作らしいものです。

さらに「カレーは入れ物」はタレントのウガンダ・トラの有名な言葉「カレーは飲み物」になぞらえたもの。本編ではカレールーの箱に意外なものが入っていて驚かされます。

「しーじぇでぃいーだりえんちん」は、一見すると意味不明なひらがなの羅列。しかし、実は『大きな河と小さな恋』という歌の中国語歌詞をひらがなで表記したものです。

日本語訳での意味は「世界で一番の恋」となります。意味がわかると、本編の美波と昭平の関係と照らし合わせて思わずニヤけてしまいそうです。

これらのパロディやダジャレを含んだサブタイトルたちは、本編のエピソードのまじめに向き合うべき部分を作品自らが茶化すというもの。全体に漂っている心地よいゆるさは、このサブタイトルからも産み出されているのです。

元ネタは誰でも気づくようなものから「知っている人は知っている」レベルのものまで。幅広いダジャレやパロディを繰り出す遊び心が、作品全体に散りばめられています。読みながらいくつの仕掛けを発見できるか探していくのも、1つの楽しみ方になるでしょう。

『子どもはわかってあげない』結末から見えてくることとは。最後に、ラストとタイトルからテーマを考察【ネタバレ注意】

 

本作のタイトルが、フランソワ・トリュフォー監督による1959年の映画『大人は判ってくれない』を意識したものであることは明らかでしょう。『大人は判ってくれない』は、大人に反抗する不遇な少年の物語。しかし、本作の大人たちは、美波を優しい眼差しで見守っています。

そして最終話のサブタイトルである「Children grow up by understanding」を踏まえて感じられるのは、子どもは自分以外のものを「わかってあげる」ことで成長し、大人になっていくというメッセージではないでしょうか。

 

著者
田島 列島
出版日
2014-09-22

 

「わかってあげる」というのは、どういう考えや気持ちでいるのかを単純に知るということではなく、思いやるということ。

たとえば美波が母親に秘密で父親に会いに行ったことや、犯人が教団の金を盗んだことは、当然ほめられることではありません。しかし、作中では決して一方的にだれかを責めるような内容はありません。それは、それぞれの立場での考えや事情があったことを大人たちが「わかって」いたからです。

子供にとってはある意味理不尽ともいえるところもあるでしょう。しかし相手や周りを「わかってあげる」優しさを持った大人たちの存在が、本作の居心地のよい世界観を作っています。

そして、その優しさを受け取った美波たちもまた、誰かを「わかってあげ」られる大人に成長していくのです。

そんなことが考えられる結末。ゆるいながらも「大人になる」ということについて考えさせられる内容です。

 

甘酸っぱい青春と、刺激的なミステリー、そしてあたたかな優しさ。たくさんの要素が混ざり合い、魅力的な味わいが広がる作品です。

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