さる11月24日、Asagaya/Loft Aで「ウェブメディア編集者座談会vol.4」が開催されました。テーマはずばり「ウェブで何かを発信したいアナタのための『必読本』ガイド」。編集長陣イチオシの10冊を「出演者のメッセージ」「本の概要」とともに紹介します。
2019年11月24日、Asagaya/Loft Aで開催された「ウェブメディア編集者座談会vol.4」。
登壇したのは
加藤亘(ねとらぼ編集長)
伊藤大地(BuzzFeed Japan オリジナル編集長)
奥山晶二郎(朝日新聞withnews編集長)
竹内翔(J-CASTニュース編集長)
漆原直行(ライター・編集者、リンクはTwitter)
と人気ウェブメディアを担う5人(敬称略)。
今回紹介する本のルールは、「ウェブメディアで発信していきたい人に(編集者・ライターなどポジション問わず)ぜひ読んで欲しいと思う」いわば「必読本」であること。1人3冊ずつの紹介ですが、「実務にすぐに役立つ」本を1冊以上は入れるという縛りも!
なかには絶版となっている本もあり全てはご紹介できませんが、「ウェブメディア業界で働きたい」と考えている人は、ぜひ手にとってみては。
(イベントで紹介された順に掲載)
奥山編集長「見出しで困った時にすがってます!」
とイベント最初の一冊として、力強くおすすめのあった一冊。
普段タイトルなどで、「しっくりくる」表現を探したい時に開いているのだとか。
奥山編集長「『意味を知りたい』『情報を確かめたい』といった時にはネットが便利なのですが、類語や表現に悩んだ際に偶然の一語に出会う、いわばランダムアクセスをしたい時にはやっぱり紙ですね」
- 著者
- 牧田智之
- 出版日
- 2004-12-01
日頃発生する音を文字で擬似的に表す「擬音語」と、状態や雰囲気をやはり擬似的に表現する言葉「擬態語」。おしゃれな装丁とひらがなの可愛らしいタイトルとは裏腹に、そんな「擬音語」「擬態語」がぎっしりつまった辞書です。
フルカラーのページには、写真・イラスト・抽象的な線やコラージュなどが背景として使われており、掲載された言葉たちをより感覚的に理解することができます。文章を書く際に悩みがちな「感覚的な表現」に迷った時には、パラパラとめくって見ると新しい発想が湧いてくるかもしれません。
単語によっては類語も掲載されているので、似た表現が続いてしまっている場合などにも役立ちそうです。
ぐでんぐでんのヤンセン巡査がくどくど夢を語ってる。
(『ぎおんごぎたいごじしょ』「くどくど」より引用)
どことなく異国情緒が漂う例文もまたおしゃれな一冊です。
奥山編集長「書く仕事をしている人はまず持っている1冊では」
他の編集長陣も深くうなずいた同書。
奥山編集長は「”表現のギリギリ”を知るために使っている」とのこと。
Web媒体は、比較的自由な表現が多いですが、とはいえやはり表記のルールも大切にしたいもの。初心者は校正のルールなどを覚えるためにも手元に欲しいものですが、書き慣れてきたら奥山編集長のように許される表現の限界を学ぶために活用するというのも通な使い道かもしれません。
- 著者
- 一般社団法人共同通信社
- 出版日
- 2016-03-22
出版物、広報のリリースなど、多くの日本企業が基準としている表記の仕方を網羅した一冊。
ー「そういう人、いるよね」の「いう」はひらがな、それとも「言う」?
ーLCCってなんの略だったけ?
など、ちょっと判断に迷うような表現について、用法とともに辞書のような形式で掲載されています。よく使われる略語や外来語の解説も載っているので、新聞やネットニュースを読む習慣をつけようとしている人にもおすすめです。
オンライン版もありますが、周囲に掲載されている言葉なども一緒に学べる製本版を手元において、わからないことがあったら引くクセをつけるのが、文章力アップの第一歩かもしれません。
奥山編集長のもう1冊のおすすめは、業界情報誌「選択」。特に連載の「マスコミ業界ばなし」は、業界の小ネタを仕入れるのにうってつけだとか。図書館などにも置いてあるそうです。
加藤編集長「とりあえず1章だけ読んで!」
と端的に活用法まで紹介された同書。
ウェブで何かを書いてみたいけれど、「何から書いていいかわからない」人に特におすすめということで、ウェブの文章が要素として何を求められているのかを把握するにはぴったりだとか。
加藤編集長「よくあるネットの文章を、システマチックに書けるようになります」
とのお墨付きには会場から笑いもこぼれました。
- 著者
- 唐木 元
- 出版日
- 2015-08-07
芸能・文化のニュースをいち早く届けるメディアとして有名なWebメディア「ナタリー」。
その圧倒的な記事本数を生み出すためのメソッドを、コミックナタリー初代編集長が解説している本です。
ペンをとっても(あるいはキーボードを目の前にしても)なかなか最初の一行が書き出せない-という誰もが一度は悩んだことがあるであろう「書くことの壁」を壊す手順が、目指す文章のレベルごとに示されていきます。そんな章立ては「Chapter1 書く前に準備する」「Chapter2 読み返して直す」「Chapter3 もっと明快に」「Chapter4 もっとスムーズに」とシンプルかつ、こなしやすいステップで、「自分も書けそう」という気持ちにさせてくれる構成です。
またテクニックが徐々に細かくなっていくところも役立てやすいポイント。最初は「話題の取捨選択」といった大枠の話だったものが、後半では「名詞と呼応する動詞を選ぶとこなれ感が出る」といった言葉の細かいテクニックの話へと細分化されていきます。
文章を書くことにセンスも魔法も必要ありません。
(『新しい文章力の教室 苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』より引用)
という言葉を裏切らない、「型」を覚えるための物書きの入門書となっています。
加藤編集長「メディアを”縦軸”で見るのにおすすめ」
と紹介されたのは、新聞からインターネットへと「ニュースの居場所」が変わりゆくさまを、取材を通して躍動感あふれる文体で紹介した同書。
時代の流れに沿ってただ描写するのではなく、媒体という別の軸も通して、メディアに携わる各社の栄枯盛衰を学べる読みごたえのあるドキュメンタリーです。
加藤編集長「ネットビジネスを支えてきた人たちがどんな悲喜交々を繰り返してきたのか。ネット世界のパワーバランスが見えてくるかも、という本」
- 著者
- 下山 進
- 出版日
- 2019-10-25
同書は「新聞をとることが当たり前ではない」という危機と直面することになった読売新聞社の話から始まります。2018年の正月、株式会社読売新聞グループ本社代表取締役の渡邉恒雄(通称ナベツネ)が「読売はこのままでは持たんぞ」とハッパをかけたエピソードから、現在の大手新聞各社が追い込まれている現状が描かれます。その「紙」に変わるニュース媒体として台頭してきたのが、「ネット」でした。
普段当たり前のように目にするニュースサイトですが、たとえば「Yahoo!ニュース」は各新聞社がネットにアップしている記事の転載です。この「ニュース」の権利をめぐり、読売オンラインが見出しを転載した会社を訴える”YOL訴訟”も起きました。オンライン対応を迫られるなか、各社の収益化対策はさまざまな広がりを見せていきました。
LINEとの経営統合により今注目が集まっているYahoo!はどのように成長してきた会社なのか。その黎明期についても解説されています。また、ウェブ記事をポータル上で共有することで、ウェブメディアの記事の作り手と掲載サイト双方が収益を得る新しいサービス「ノアドット」についても解説。
メディアの未来について、「情報は誰のものなのか」という普遍的なテーマと合わせて考えさせられる本です。
加藤編集長のもう1冊のおすすめは、『ドラゴンボール』(リンクは「漫画『ドラゴンボール』最強キャラランキングベスト30!強いのは誰だ!」)。
「w」という文字や、ドラえもん、ジブリの名言をもじったものなど、いわゆるネット上の”お約束”(=インターネットミーム)を学ぶのにぴったりだとか。
加藤編集長「人生に必要なことは全部書いてある」
という名言も出たほどです。ネットのサブカルチャーの「型」を知るために、時間を作って一気に読破してみてもいいかもしれません。
竹内編集長「ネットはゲリラ、なんでもやれる!ということを学んだ本」
編集者を目指して、就職活動をしていたものの、一通り落ちた時に出会った一冊とのこと。
雑誌の編集者を目指し、ウェブメディアの世界に飛び込むことに当初は葛藤もあったそうですが、ポルノ雑誌が歩んできた「なんでもあり」の精神から、「ウェブで一旗あげてやる」というマインドセットが身についたそうです。
- 著者
- 川本 耕次
- 出版日
- 2011-10-05
表紙にもありますが「売れなければ、廃刊」と、ある意味一番数字に追われる雑誌といっても過言ではない「ポルノ誌」。ターゲットは限られ、内容は規制との戦い。そんな業界の歴史が淡々と、しかしところどころ筆者の不思議な熱量とともに語られる一冊です。
たとえば、松尾書房が発刊していた「下着と少女」に掲載された写真が、「透けパン」はあっても胸部の露出が少ないことに関しては、当時のモデルスカウトのやり方に言及。「下着の撮影モデル」として募集をかけていたからではないかと推測し、そのために撮影の途中で帰ってしまいづらい遠方の観光地でのロケが多かったのではないかと考察しています。
あまり「ポルノ雑誌」とは馴染みのない人は、そのジャンルを学ぶにもうってつけ。
実話系:あたかも読者が投稿しているかのように見せかけて、ライターが体験談風に書いた猥談ばかりが掲載された雑誌
ビニ本:ビニール袋に入れて開封されないような加工がされた成人向け雑誌
などがその発売までの過程とともに描かれ、雑誌ができてジャンルとして確立するまでの流れを知ることができます。活字文化から劇画(漫画)文化への流れは、ポルノ雑誌に限らず、ウェブにも見られる流れなのかもしれません。
竹内編集長「『中庸*』を学ばせてもらった本」
同書は文藝春秋の社長ともなった記者・編集者である池島信平が戦中から戦後を描いたエッセイ。
池島の「雑誌作り」への考え方から、メディア人が物事をどう捉えるべきかを再確認できた本だったそう。
議論の終わらない、答えのないテーマを追い続けることこそが、世の中に必要とされるコンテンツを生み出せるヒントとも思えたとのことです。
中庸* 中立であること。偏っていないこと。
- 著者
- 池島 信平
- 出版日
- 2019-12-31
著者である池島信平が、第二次世界大戦へと向かう世の中で、文芸春秋の菊池寛のもとで編集者として働き始めるところから始まります。記者の名刺一枚で誰とでもアポが取れることに驚いたと振り返りつつも、それは自身の力ではなく、会社の名前の力なのだという戒めもまた語られます。
こういう名刺をしばしば扱っているうちに、いつの間にか自分の名前で忙しい人があってくれるような錯覚を起すのである。いくら自分で警戒しても人間の弱点が自分を甘やかす怖ろしいことである。
(『雑誌記者』より引用)
その後、満州に赴いてからの生活が描かれます。植民地化が進む中で、それを地域の発展に利用しようという前向きな現地の人たちの姿から、日本に対するある種の「冷静な目線」が生まれていくさまからは、ジャーナリストたちが持つ「ものを見る目」を追体験することができます。
戦争が進み、空襲を受けるさなかの東京に戻ってきた池島。そこには言論弾圧の手が迫っていました。「ジャーナリストである」という肩書きだけで、抑留されていく仲間たち。理不尽ともいえる軍のやり方に感情的になるのではなく、その矛盾を冷静に指摘する文体からはより深い「静かな怒り、悲しみ」が感じられます。
国民とおなじ苦しみのなかに苦しんでこそ、編集者の生き甲斐であったから、なにも流行作家、流行評論家なみの余裕を編集者に希望するのではないが、しかしせめてあの時もう少し編集者の生活、待遇が恵まれていたのならば、と思わないわけにゆかない。
(『雑誌記者』より引用)
編集者もまた一介のサラリーマンであったことに触れながら、大層な意見するようなことではなく、目の前のものを仕事として伝えようとしていただけだという、記者としての矜持と仲間への哀悼が描かれます。
戦時下の栄養失調で子どもを失う、文芸春秋を復興するといった波乱万丈なストーリーが続きますが、どれも淡々とした「中庸」の目線で描かれます。
竹内編集長のもう1冊のおすすめは、『著者と編集者に捧げるベストセラーの作り方』。
偶然図書館で見つけ、売れる本の条件がよくまとまっていたそうですが、その本自体はベストセラーにならなかったのか、絶版になっているというオチ込みで紹介されていました。
伊藤編集長「文章は書き方だけでなく、まずは『なぜ書くか』を考えないと」
という強いメッセージとともに紹介された1冊。
大手に勝つことにはPV数を稼がなかればならない、数字にシビアなメディアの世界で生き残っていくためにはどうしたらいいのか−−そ美味い文章を書く、書き方を真似るという「方法」で追っていてはなかなか難しく、「どういうテーマをどう扱うか」という「本質」を捉える考え方で記事を作っていくことにあるとのこと。
では「本質」は一体どう捉えればいいのか、「知的生産」をテーマに考え方のステップを網羅した本で、ビジネス書評論を生業とする漆原さんからも「よいビジネス書」というシンプルな推薦の声が上がりました。
イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」
2010年11月24日
何かを成し遂げるためには人生はあまりにも短いという前提のもとで、「どうしたら効率的に知的生産を行えるか」ということを解き明かしていく本です。
筆者はもともと経営コンサルタントとして働いていましたが、その後脳神経科学を研究し、現在では慶應義塾大学教授とヤフーCSOを兼任しています。筆者は単なるノウハウに頼るのではなく、「何に答えを出すべきなのか」すなわち、「イシュー」という知的な生産活動の目的地を定めるべきだと唱えます。
たとえば、「悩む」と「考える」には大きな違いがあるとしており、ただただ悩む時間は無駄であると切り捨てます。「イシュー」が定まっていれば、そのゴールにたどり着くまでの行動は「考える」ことになるはずであり、それこそが時間を無駄にしない方法だと述べます。
ではその「イシュー」はどのように見出せばいいのでしょうか?
「何に答えを出すべきか」に対して、つい「解くこと」に焦りがちですが、その「問い」がそもそも「質の高い」ものなのか、周囲の人間をうまく活用しながら見きわめていくことが重要です。
同書では「イシューの設定」「イシューの分解」「解くまでのストーリー作り」「解いたことを伝える」といったステップに合わせて、漏れなく効率的におこなうやり方が、チャートなどで時に視覚化しながら明かされます。
ウェブメディアにおいて「何を伝えるか」、そのゴールを見定めるために強い手助けとなりうる1冊です。
総務省が2019年7月に発表した「令和元年版情報通信白書」。昭和48年から毎年作成されていますが、藝和元年となる今年の発表は、いわば「平成の総まとめ」ともいえる内容でした。
伊藤編集長「ウェブの議論は自分を中心とした感覚で話してしまいがち。ネットの世界をエビデンスをもとに見るようにしましょう」
と紹介された同書。
Kindleやkoboでも無料配布されており、以下のリンクからさまざまな形式で読むことができます。
- 著者
- 出版日
- 2019-07-01
そもそも「白書」とは、産業や経済の状況について、省庁がデータなどとともに見解を発表するものです。令和第1号となる今回の特集は「進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0」。
IT(情報技術)やICT(情報通信技術)が、生活の一部として欠かせないものになった、平成の動向がまとめられています。白書によれば、この特集の名前で掲げられる「Society 5.0」とは
Society 5.0は、狩猟社会(Society 1.0)・農耕社会(Society 2.0)・工業社会(Society 3.0)・情報社会(Society 4.0)の次に到来する社会であり、サイバー空間と現実世界を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会のことである。
(『令和元年版情報通信白書』より引用)
であり、目指していくべき未来の社会像であるとしています。
情報が現実世界をつなぐためのものだった社会から進化し、サイバー空間が社会として現実世界と融合していくというのです。
この変化にいたるまでの、平成における「携帯電話」(同書内ではショルダーフォンやポケベルも含め「移動通信サービス」と呼称)の変遷を示した資料はかなり読みごたえがあり、あいまいなまま覚えてしまっている「ネットを通じたコミュニケーションの歴史」を明確なものにしてくれるでしょう。
その情報を担うメディアの役割について、白書を通してロジカルに捉えてみては。
伊藤編集長のもう1冊のおすすめは、『批評理論入門『フランケンシュタイン』解剖講義』。
イギリスの代表的なゴシック小説である『フランケンシュタイン』を考察した本です。
伊藤編集長「『こういう読み方がありうる』『こういう書き方がありうる』 といった、個のフィルターいわば『属人性』を知るのに役立つ」
とのことでした。「小説の分析」という世界を覗ける新書です。
漆原さん「ウェブのライター・編集者が実は学びづらい”お作法”がまとまっている」
ウェブメディア業界にいきなり飛び込むと、そもそも先輩すらいない状態で「場当たり的に記事作成をしなくてはならない」なんてことも多々あります。
伊藤編集長「シニアな人を取材するときのマニュアル本だよね」
とツッコミが入るほど、テーマ決めから取材、執筆までの一連の流れについて、正攻法を解説した一冊です。
- 著者
- 野村 進
- 出版日
- 2008-04-18
テーマ決定から、題材ごとにどういった形で取材・執筆を進めていくかまでが、筆者自らの体験をもとに丁寧に解説されています。
最初の章である「テーマを決める」では、書きたいことを決定する際の5つのチェックポイントなどを掲載。「テレビなどの映像メディアでは表現できないか、もしくは表現不可能に近いか。」といった、物書きが忘れてはならないポイントでありながら、ついつい抜けてしまいがちな視点などが示されます。
また取材の前段階として、「資料をどこからどのように集め整理するのか」「取材対象への依頼の仕方」といった粒度のものまで紹介されており、まさに「師」となる本。「会話だけでなく仕草や風貌も観察する」「質問をたたみかける」「ウラをとる」など、実際の取材に行った際に具体的にとるべき行動も書かれています。
筆者の経験から、ノンフィクションを書くことに特化した内容となっており、ノンフィクションの名著・名文も多く紹介されているので、より「よい文章」に触れる機会を増やすこともできます。書くことを仕事にすればするほど、記事が作れないジレンマにぶつかった時、「お手本」としたい一冊です。
漆原さん「ネット媒体のド現場から垣間見た人間の本質を描いた本」
日本のウェブメディアの歴史と関わりの深い中川淳一郎が、「ネットを使う人たち」のドロドロとした生態を自身の体験談と合わせて描いています。「ネットの世界は気持ち悪い」と断言しつつも、そこにはある種の「キレイごとだけでは語りきれない、愚かな人間の本質」を暖かく見守る視点もあるとか。
漆原さん「続編『ネットのバカ』もぜひ」
- 著者
- 中川淳一郎
- 出版日
- 2009-04-17
筆者の中川淳一郎は一橋大学卒業後、博報堂でPRを担当していたエリート。しかし2001年に会社をやめてからは無職の期間なども経て、「テレビブロス」の編集者に。現在はウェブコンテンツの企画・編集業務、PRプランニング業務や、各種メディアでの執筆活動などを行っています。
冒頭では「Web2.0」というワードをとりまいていた「異様な興奮」について触れています。そもそも「Web2.0」とは2000年代半ばに叫ばれ始めた言葉で、それまでのWebに情報を載せる側と受け手側の役割が分離していた状態から、誰もが発信と取得をできることでコミュニケーションのようなものが生まれ始めた状態などをさします。筆者は「Web2.0」をもてはやしてきたのは「コンサルタント・研究者・ITジャーナリスト」側であるとし、一方のその中身を作ってきた「運営当事者」はスタンスを異なるものとして「冷めた目線」を持っていたと述べています。
私たち運営当事者が相手にしているのは、善良なユーザーがほとんどではあるものの、「荒らし」行ためをする人や、他社のひどい悪口を書く人や、やたらとクレームを言ってくる「怖いユーザー」や、「何を考えているかわからない人」「とにかく文句を言いたい人」「私たちを毛嫌いしている人」も数多い。
いや、暴言を吐いてしまうと、「バカ」も多いのである。
(『ウェブはバカと暇人のもの』より引用)
この前段以降、筆者が直面してきた「バカ」たちの生きが明らかにされています。
たとえば「炎上」。ちょっとした有名人の書き込みに、怒りを覚えて批判を述べる人たちを「怒りの代理人」と呼び、実害を受けているわけでもないのに盛り上がりたがる人たちが存在する以上、コンテンツは無難なつまらないものになっていくと指摘しています。
意味のない情報が溢れていく要因として、ネットのヘビーユーザーは「暇人」であると述べます。結局テレビの影響には勝てないし、緩くてバカバカしい緩いものがウケるのだというのです。そんなネットの場を筆者はこう表現します。
ネットは暇つぶしの場であり、人々が自由に雑談をする場所なのである。放課後の教室や、居酒屋のような場所なのである。
(『ウェブはバカと暇人のもの』より引用)
また企業はネットでプロモーションをしたいのであれば、「ブランディング」ではなくただ「楽しませること」を考え「見たいものをクリックする」という特徴を理解していくべきだとしています。
そんなネットの世界に、コンテンツを投下し火消しをし続ける自らを「IT小作農」と揶揄しつつ、「ネットに変な期待を寄せすぎない」いわば「ネット敗北宣言」をして同書はしめくくられます。
漆原さんのもう1冊のおすすめは、『底抜けジャーナル』。
ウェブの源流ともよべる「おもしろ企画」コンテンツを一冊にまとめた本だそう。現在は絶版となっており、一部のマニアの間で価格も高騰しているようです。
身近なようで、作り手側のメソッドはなかなか学びにくいウェブメディアの世界。
一度「メディア」の基礎を本から学んでみては。
ひらめきを生む本
書店員をはじめ、さまざまな本好きのコンシェルジュに、「ひらめき」というお題で本を紹介していただきます。