『鉄の骨』サラリーマン必読!雇われの苦悩と組織問題を描く本格小説【ネタバレ注意】

更新:2021.11.9

正義感と、企業内での立場、大きな業界の重圧との間で苦しむサラリーマンの姿を描いた社会派小説、『鉄の骨』。中堅ゼネコン「一松組」の若手社員・富島平太を中心として、談合という建設業界の暗部が赤裸々に描かれていきます。 立場の違う者達の視点が混じりあいながら、ダイナミックに展開が進むのが魅力的な本作。この記事では2020年4月にドラマ化される本作を、ご紹介。結末までにどんな見所が描かれるかを徹底的に解説いたします。

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『鉄の骨』に共感!組織問題も描く小説がドラマ化!【あらすじ】

富島平太(とみしまへいた)は名の知れた中堅ゼネコン「一松組」に入社後、現場一筋で3年間働いてきた若手の青年でした。建築現場にかける意気込みは誰よりも強く、下請け作業員の反発にもめげずに少しでもよい物を作る意欲に燃えていました。

勤続4年目のある日、そんな平太の勤務態度が評価されたのか、社内の業務課への異動を命じられます。そこは、業務課の営業。

そこでの仕事内容は同じ会社とは思えないほど、まったく異なるものでした。会社の経営に必要不可欠な仕事の受注、そのすべてが営業にかかっていたのです。

気のよい先輩、西田吾郎の指導もあって、新鮮な仕事に楽しさを見出していく平太。しかし、そんな彼の前に、公共工事の談合という受け入れがたい現実が待ち構えていました……。

談合とはすなわち不正入札です。古くから建設業界にはびこってきたものでしたが、自由競争を重んじる日本社会の脱談合の機運から表向き排除に向かっているはずでした。しかし実際には、未だにひっそりとおこなわれていたのでした。

平太は建築業界の現実に驚き、失望を覚えながらも、サラリーマンとして業務課の談合に携わらざるを得なくなっていきます。談合を容認する企業の経営者、談合の取りまとめ人、企業に融資する銀行と、そして不正を暴く検察……。様々な立場でドラマチックな展開がくり広げられていきます。

著者
池井戸 潤
出版日
2009-10-08

本作は2020年にWOWOWでドラマ化されることが報じられました。一度、2010年にNHKでもドラマ化されているので、今回は再ドラマ化ということになります。

2020年のWOWOWでのドラマの詳細は公式ページでご覧ください。

連続ドラマW 鉄の骨|オリジナルドラマ|WOWOW

作者・池井戸潤とは

池井戸潤(いけいどじゅん)は1963年生まれ、岐阜県出身の小説家です。幼い頃からミステリー小説を愛読しており、特に江戸川乱歩賞はほとんど目をとおしていたそう。

その後。慶應義塾大学の文学部と法学部を卒業し、1988年に三菱銀行(現在の三菱UFJ銀行)に入行。さらにコンサルタント業、ビジネス書籍の執筆や会計ソフトの監修を経て、幼いころから好きだった江戸川乱歩賞を目指すようになります。その後、1998年に念願の同賞を受賞し、『果つる底なき』でデビューしました。

代表作は下町の中小企業がロケットを製作する『下町ロケット』、銀行員の主人公が銀行にまつわる問題と対立を戦い抜く「半沢直樹」シリーズなど。

著者
池井戸 潤
出版日
2013-12-21

池井戸潤は、元銀行マンならではの金融事情、経済をメインとした社会派の題材選びに特徴があります。

硬い業界を取り上げる一方で、その作風はエンターテインメントに富んでいるので、業界を知っていても知らなくても楽しめるようになっています。

また、ミステリー好きらしい作風も特徴で、新たな事実が謎解きのように順を追ってスルスルと明らかになっていく展開は爽快そのものです。

今回ご紹介する『鉄の骨』は、コンサルタント時代の視点が活かされている内容。資金の流れがミステリアスな要素としてストーリーを盛り上げ、実際の経験によって補強されています。

池井戸潤の作品を読んでみたい方は、こちらの記事もご覧ください。

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難しそうな経済についてのテーマを小説としておもしろく魅せてくれる池井戸潤。ドラマで話題になった「半沢直樹」シリーズ以外にも楽しめる作品がたくさんあります。そんな池井戸潤の特徴が詰まったおすすめ作品をご紹介します。

作品の見所:登場人物それぞれの事情

本作には話の鍵となる人物が多数登場します。それぞれの役割と合わせて、主要な登場人物をご紹介していきましょう。

まずは主人公の富島平太。大学入学で上京した際、東京の高層建築に感動して、建築業界に飛び込んできた若者です。正義感が強く理想を抱いているため、業務課で談合という現実に直面し、苦悩します。読者に建築業界の裏側を見せるとともに、大きな力に抗えない無力さを痛感させる主人公です。

西田吾郎は業務課の先輩として、平太を頼もしく導く男です。普段はちゃらんぽらんなムードメーカーですが、実力経験ともに超一流。ストーリー中盤から後半にかけての地下鉄工事受注では、一松組が他社に先んじる秘策をひねり出す活躍を見せます。談合には思うところがあるものの、せざるを得ないスタンスです。

尾形総司は業務課を統括する常務。したたかな敏腕役員で、平太を業務課に引き入れた張本人でもあります。平太の起用は彼の現場の活躍が耳に入ったからのようですが……? 前半および後半の受注で表裏にわたって様々な要求を突き付けてくる人物です。

最重要人物ともいえるのが、伝説のフィクサー(調整役)と呼ばれる三橋萬造(みつはしまんぞう)。公共事業、特に道路工事に強い議員、城山和彦と繋がりがあり、談合を取りまとめる超大物です。平太とは同郷のよしみで親しく接し、彼を教え導きます。談合の中枢にいながら、誰よりもその現実に苦しむ人物です。

こういった建築業界と直接関係のある者ばかりだけでなく、取引先の銀行員でヒロインの野村萌や、恋敵でエリート銀行マンの園田俊一といった人物も登場します。

萌や園田の存在によって業界を外から俯瞰したマクロな視点での批判が描かれます。また、三角関係の行方という形でも物語にアクセントを加えてくれる人物たちです。

このあとは、本作の魅力について語っていきます。

作品の見所:サラリーマンの悲哀に共感!

サラリーマンは時に会社や社会の歯車と表現されます。本作に登場する平太や西田がまさにそれ。

業務課課員の力がなければ仕事が動かないものの、より大きな力(他者や業界の圧力)によってあっさり成果が踏みにじられるところが描かれるのです。サラリーマンは全員、代替の利く部品だという内容のセリフが出てくるのも悲哀を誘います。

また、業種によって同じサラリーマンでも考えが少しずつ異なってくるのも共感できるポイント。銀行員の萌と、建築会社の平太の業種の差が、話の進行で浮き出てくるのです。人間性ではなく、業種や立場の違いによるズレが、やるせない気持ちにさせられます。

作品の見所:談合っていいこと、悪いこと?業界の問題を正面から描く!

本作は登場人物の視点からサラリーマンの実情を描く一方、より大きな企業の問題にも斬り込んでいます。それは、談合です。

公共事業の入札(他社より低い費用で見積もって入札する)を額面どおりにおこなうと、赤字を覚悟した無茶な入札が横行してしまいます。建築業界や業界に携わる会社が潰れて、結果として日本社会に大打撃が与えられるということもあるのです。

それを防ぐのが談合。ニュースなどで聞いたことがあり、漠然とよくないことというイメージがあるかもしれませんが、建築会社同士の相互扶助システムの一面があることも描かれるのです。

綺麗事で立ちゆかない過酷な組織問題は、フィクションとは思えないほどのリアリティをもって迫ってきます。談合とは必要悪なのか?談合をなくすことはできないのか?作中では作者が何度も繰り返して読者に問うてきます。

『鉄の骨』の結末とは?最後まで見逃せない!【ネタバレ注意】

一松組の存亡を賭けた2000億円規模の大規模地下鉄工事。尾形常務の判断で単独受注を狙うことになり、業務課はにわかに忙しくなりました。当初は不利な状況でしたが、画期的な工法の投入によって大幅なコストダウンに成功し、単独受注の可能性が出てきました。

そんな一松組を尻目に、資金繰りの苦しい真野建設は、城山議員をつうじて三橋による談合を目論見ます。もちろん、そこにも働いている会社員がおり、この工事が命綱なのです。

それを受けた三橋は一松組に、今回の地下鉄工事を断念すれば、1年後に2000億円よりも価値のある工事を受注させると言ってきました。

不確かでも正攻法で目先の利益を掴むか、不正行為に手を染めてでも時間差で確実な大仕事を手に入れるか。その2択に一松組は翻弄されます。

著者
池井戸 潤
出版日
2011-11-15

一方、城山銀を追っていた東京地検は、三橋の動向を察知して地下鉄工事に捜査の手を伸ばします。当然、一松組も捜査の対象に入っていて……。

先の読めない、手に汗握るドラマチックな展開の連続です。建設会社の内情、それを追う地検、そして組織にがんじがらめにされる人間ドラマ。

善悪や正否はともかく、命を賭して働く男達のやりとりに心を動かされハラハラさせられます。本音と建て前、現実と理想について考えさせられる展開です。

その結末は、ミステリーもかくや、というどんでん返しで、非常に痛快。序盤から丁寧に張られていた伏線、すべての要素がラストに向けて収束していきます。詳細はぜひご自身の目でご覧くださいね。

このあとは最後に、2020年のドラマ版での見所を考察します!

『鉄の骨』、ドラマ版での見所を考察!

ドラマ版では役者の演技がある分、建築サイド、地検サイドの動きがよりドラマチックになるでしょう。このあたりはドラマ『半沢直樹』であった、銀行マンと取引先や上司との駆け引きにも通じるものがあるかもしれません。

今のところキャストは主演の富島平太役の神木隆之介のみ判明していますが、注目すべきはヒロインの萌かもしれません。萌は銀行と建築業界どちらの情報も得る立場として読者に緊迫感を与えましたが、原作ではストーリー中で目を見張る活躍がありませんでした。

ドラマ版ではより幅広い視聴者に内容を届けるために、他業種の彼女の考えや、恋愛面のストーリー展開がクローズアップされるということもあるのではないでしょうか。大胆に変更が加えられて、萌が話に介入してくる可能性があります。

どういう内容になるか、楽しみに待っていましょう。詳細はドラマの公式ページなどをご覧ください。

連続ドラマW 鉄の骨|オリジナルドラマ|WOWOW


神木隆之介が出演した作品を見たい方は、こちらの記事もおすすめです。

神木隆之介の成長の軌跡を出演作で辿る!実写化した映画、テレビドラマの原作紹介

いかがでしたか? 本作は建築業界という一見地味でお堅い業種をモチーフとしていながら、手に汗握るストーリー展開がとても面白い作品です。少しでも気になった方は、ぜひとも読んでみてはいかがでしょうか。

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