アジア太平洋地域で自由貿易を推進するため、交渉が続けられている「RCEP(アールセップ)」。一体どんな構想なのでしょうか。この記事では、加盟国や経済効果、メリットと課題、そして話題となっているインド撤退の影響などをわかりやすく解説していきます。
「Regional Comprehensive Economic Partnership」の頭文字をとった略称「RCEP(アールセップ)」。日本語では「東アジア地域包括的経済連携」と呼ばれる枠組みです。
目的は、ASEANに加盟している10ヶ国と、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの合計16ヶ国で自由貿易協定を結ぶこと。一般的には2国間で結ばれる自由貿易協定を包括的にまとめ、アジアから太平洋にかけて巨大な自由貿易圏を構築することを目指しています。
もともとこの地域では、1997年から、ASEAN加盟国に日本、中国、韓国を加えた「ASEAN+3」という枠組みが形成されていました。
その後2000年代なかばからは、「ASEAN+3」を起点に新しい枠組みが提唱されるように。中国が「EAFTA(東アジア自由貿易地域)」を、日本が「CEPEA(東アジア包括的経済連携)」の構想を打ち出しています。
そして2011年8月、日中が共同提案として「EAFTAおよびCEPEA構築を加速させるためのイニシアチブ」を発表。この地域で自由貿易を確立するための枠組みは、RCEPに一本化されることとなったのです。
2013年からは、RCEP妥結に向けた交渉が開始。2020年の妥結を目指して調整が進められています。
似たような枠組みとして「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)」が構築されましたが、こちらは2017年にアメリカが離脱を宣言。そのため、これまで以上にRCEPの成り行きに注目が集まっているのです。
RCEPの最大の特徴は、総人口6億を超えるASEAN加盟国に加えて、世界屈指の人口大国である中国とインドが参加していることでしょう。
16ヶ国をあわせた人口は約34億人で、これは人類のほぼ半数に迫る膨大な数です。しかも発展途上国が含まれているので、今後の経済発展に期待ができる世界規模の市場だといえます。
またRCEPは、自由貿易を推進するために、関税の撤廃だけでなく、金融や電気通信、自由職業などサービスの規制緩和や、投資障壁の除外も目指しています。
モノ、サービス、投資、経済技術協力、知的財産権、紛争解決などさまざまな分野において交渉がおこなわれていて、これらが実現すれば、巨大な市場が構築されるだけでなく、国境を超えた経済統合が実現するでしょう。規制緩和などを通じて日本国内でもイノベーションが触発され、雇用が創出されることが期待できます。
その一方でRCEPには、課題も存在しています。
自由貿易には弱肉強食の側面があるため、競争力が低い産業が淘汰される可能性があります。日本の場合は農業がこれにあたり、海外産の農作物が流入することでより一層国内の農業が弱体化し、食料自給率の低下に拍車がかかると懸念されているのです。
また人やサービスの規制が緩和されると、食料の安全基準や公的医療保険の適用範囲が変化する可能性や、外国人労働者の流入を問題視する声もあります。
さらに、RCEPに参加する各国の力関係にも課題が残されています。
先述したとおり、もともと日本と中国は異なる自由貿易圏の構想を抱いていました。両国が共同提案をしたことでRCEPの設立に向けた取り組みが始まりましたが、近年の中国はアメリカとの貿易対立が深まり、より一層RCEPに注力するようになっています。
一方で日本は、中国主導でRCEPが形成されることを警戒し、対抗するために人口大国であるインドを重要なパートナーとして位置付けていました。
しかし2019年11月、インドがRCEPからの撤退を表明。今後の行方に大きな影響を与えるのではないかと予測されています。
インドは、アメリカと中国の双方と等距離をとることを、貿易の基本方針としています。そのため当初は、中国が参加するRCEPと、アメリカが参加するTPPの双方に参加することで、バランスをとっていました。
しかしアメリカが2017年にTPPから離脱。インドにとっては、RCEPに参加する理由が失われたことになります。そもそも自国産業へのダメージへの懸念もあり、結果的に撤退を表明しました。
大国インドが撤退したことで、RCEP加盟国間の力関係が変化することは必至。中国の影響力がより大きくなり、2016年に開業した「アジアインフラ投資銀行」のように、中国主導の貿易圏が形成されるかもしれません。
このような状況で日本は、2019年12月に首相のインド訪問を実施し、RCEP復帰を交渉する予定でしたが、インドの治安悪化を理由に延期。今後もインドの動向から目を離せない状況です。
- 著者
- 大泉 啓一郎
- 出版日
- 2018-05-18
日本の貿易のあり方を考え、提言している作品。その内容が評価され、「大平正芳記念賞特別賞」を受賞しました。この賞は、環太平洋連帯構想の発展に貢献する著作に贈られるものです。
作者は、これまでの日本が掲げてきた「貿易立国」の維持が困難になったと指摘。打開策としてASEAN諸国へ生産拠点を移す「メイド・バイ・ジャパン」と、国内で開発・製造する「メイド・イン・ジャパン」の両立を提言しています。
TPPやRCEPを通じて、日本は一層アジア太平洋地域との経済連携を深めていくことになるでしょう。枠組みが大きく変化するなかで、どのように貿易を展開すべきなのか、考えるきっかけになる一冊です。
- 著者
- ["上村 雄彦", "首藤 信彦", "内田 聖子"]
- 出版日
- 2017-02-03
RCEPが、関税の撤廃だけでなく、投資や知的財産権の統一ルールをつくろうとしているように、世界各地で経済活動のルール統一が進展しています。
作者はこれらの動きを、庶民にとっては不公平だと批判的に見ていて、自由貿易の問題点を提示。多国籍企業の活動を一定程度規制する必要性を論じています。
自由貿易に賛成か反対か、どちらの立場をとる人も読んで損はありません。グローバル化にともなう経済の変動をより具体的に理解することができるでしょう。