ロマン主義とは。意味や特徴、日本を代表する作家のおすすめ文学作品を紹介

更新:2021.11.21

近代化が進む日本で、ヨーロッパの影響を受けて文学界に巻き起こったロマン主義運動。名前は聞いたことがあっても、どのような作風なのか知っている人は少ないのではないでしょうか。この記事では、ロマン主義の意味や特徴を解説するとともに、日本を代表する作家のおすすめ文学作品を紹介していきます。

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ロマン主義とは。文学史上の流れ、意味や特徴を解説

 

ロマン主義とは、芸術作品において、理性や合理性よりも感受性や主観を重視する精神のこと。文学だけでなく、美術や音楽、演劇などにも用いられる言葉です。

気運が高まったのは、18世紀から19世紀前半のヨーロッパ。日本ではそれまで現実をありのまま捉えようとする写実主義や、井原西鶴や近松門左衛門などの古典文学を再評価する動きが高まっていましたが、ヨーロッパの動きを受けて、1890年代頃にロマン主義文学が発達します。近代化が進むにつれて、人間性の解放や自由が求められるようになっていったのです。

理性ではない、人間の感情や情熱を描き出そうとしたロマン主義の世界。ここからは日本を代表する作家のおすすめ文学作品を紹介していきます。

日本文学史におけるロマン主義の第一人者、森鴎外の短編小説『舞姫』

 

日本のロマン主義の先駆者ともいえるのが、森鴎外。1862年に生まれ、明治から大正にかけて活躍した小説家で、執筆活動以外にもさまざまな職を経験している珍しい経歴の持ち主です。

年齢を2歳多く偽って、東京大学の医学部に入学。ドイツ人の教官から授業を受ける一方で文学も嗜みました。19歳で卒業し、陸軍軍医として働きはじめます。

1884年にはドイツへ留学。この時の経験が、後の文筆活動にも大きな影響を与えたようです。特にドイツで出会った女性への想いは、ロマン主義文学が日本で発達するきっかけにもなった小説『舞姫』に表れています。

著者
森 鴎外
出版日

 

『舞姫』は、1890年に発表された小説。19歳で学士を取得し、国費留学生としてドイツに滞在しているエリートの太田豊太郎と、彼がドイツで出会った踊り子エリスの恋模様を描いた短編小説です。豊太郎のエリスへの想いを描いた内容は、まさに主観と感情を重視するロマン主義的な作品となっています。

ドイツで出会った豊太郎とエリスは、互いに心惹かれあい交際することに。しかし彼を妬んだ同僚によって豊太郎は免職されてしまいます。その後何とか職を見つけ、エリスも子を身ごもり、彼らの生活はうまくいくかのように思われました。

しかし、友人の相沢謙吉から日本での仕事を紹介され、豊太郎は帰国をして出世をするか、ドイツでエリスとともに貧しく暮らすかの二択を突き付けられることになるのです。

仕事に名誉と誇りを抱き理性的に暮らす冒頭の豊太郎に比べ、愛するエリスと出会ってからの暮らしは自由で感情的で、まさにロマン主義。豊太郎が最後にどちらの道を選ぶのかが見どころです。

女流作家のロマン主義文学作品『たけくらべ』

 

1872年、東京に生まれた樋口一葉。幼少期から聡明で、同年代の子が遊ぶような手毬や羽根つきなどはせずに読書を好んでいたそう。父親もそんな彼女のために和歌を習わせるなどし、文芸に親しんできました。

しかし、1887年に兄が、1889年に父親が亡くなると、一葉は17歳にして負債を抱え、樋口家を背負わなければならなくなりました。母と妹と3人で仕事をするも、着るものにも困る生活が続きます。

そんななか、原稿料を目的に小説の執筆を決意。当初はいまひとつ結果が出ませんでしたが、さまざまな人に助けられながら作品の発表を続けました。

しかし1896年に肺結核のため、24年と6ヶ月という短い生涯を終えることになりました。作家としての生活は、なんとわずか14ヶ月しかありませんでしたが、その間に数々の名作を残したのです。

著者
樋口 一葉
出版日

 

樋口一葉の作品のなかでも、とりわけ有名な『たけくらべ』。1895年から雑誌「文学界」にて連載されました。

吉原の遊女を姉にもつ勝気な少女・美登利と、お寺の息子で内向的な少年・信如との淡い恋、そして彼らをはじめとする子どもたちがしだいに成長していく様子が描かれています。

信如のことが気になっていた美登利ですが、ちょっとしたことで同級生たちにからかわれ、お互いにそっけない態度をとるようになってしまいました。美登利の家の前で信如の下駄の鼻緒が切れた時も、それが信如だとわかると美登利は顔を出さず、端切れを投げる始末。さらに信如もそれを無視し、通りがかった別の友人の下駄を借りていってしまうのです。

幼い2人の心の動きが丁寧に描かれた文章が、ロマン主義の精神を感じさせてくれるでしょう。

物語の終盤で、髪を島田に結った美登利の様子がいまだに議論を呼ぶ『たけくらべ』。樋口一葉が亡くなってから100年以上が経ちますが、愛され続けている名作です。

ロマン主義と怪奇があふれる泉鏡花の代表作『高野聖』

 

1873年生まれ、石川県金沢市出身の泉鏡花。15歳の時に友人の家で読んだ尾崎紅葉の小説に感銘を受け、文学の道を志すようになり、同年に上京しました。

2年後に紅葉の家を訪ね、入門を許されると、それからは尾崎家で原稿の整理などの雑用をこなしながら生活します。

1893年、紅葉の口利きで新聞連載を開始。その後も数々の作品を執筆し、『外科室』『高野聖』などの名作を残しました。伝統にもとづいた怪奇幻想の描写を得意とし、幻想文学の担い手としても評価されています。

著者
泉 鏡花
出版日
1950-08-15

 

1900年に雑誌「新小説」に掲載された短編小説『高野聖』。泉鏡花特融の怪奇趣味と、女性の妖艶な姿が特徴の幻想小説です。

帰省の旅の道中で中年の旅僧に出会った「私」は、かつて旅僧が経験したという不思議な出来事を聞くことになります。

彼がまだ若かった頃、飛騨天生峠で危険な旧道を歩いていたところ、美しい女性と出会ったそう。女は汚れた旅僧の身体を川で洗い流してくれますが、いつの間にか彼女も全裸に。さらに彼女の家に泊まったものの、不思議な出来事が次々と起こり……。翌朝、旅僧は女の家を発ちますが、美しい彼女のことが忘れられずに引き返そうとしたところ、女にまつわる恐ろしい話を聞くのです。

ロマン主義と怪奇譚の組み合わせが魅力的な小説。独特の語り口で作品の世界観がより効果的に表れていると評価されている一冊です。

美しい情景を豊かな表現力で表した『武蔵野』

 

1871年に、現在の千葉県に生まれた国木田独歩。戸籍上は雅治郎という男性と、まんという女性の間に生まれた子とされていますが、実際はまんが働いていた旅館に療養に来ていた専八という男性との子だと考えられています。独歩はそのような出生の秘密に悩んだようですが、成績は優秀で、読書好きの少年として育ちました。

現在の早稲田大学に進学し、学生運動に参加する一方で、当時評論などを多く発表していた徳富蘇峰と知りあい、文学の道を志すようになります。1894年には、徳富が創刊した「国民新聞」の記者として日清戦争のルポを発表。その名を知られるきっかけになりました。

その後は編集者としても活躍しながら、小説を執筆。多くの作品を世に送出しています。

著者
国木田 独歩
出版日
1949-05-24

 

当時は評価されなかったものの、現代では不朽の名作といわれる『武蔵野』。国木田独歩の代表作として知られる短編集です。

表題作の「武蔵野」は、読者の感情を揺さぶる詩情豊かな文章で、東京・武蔵野の風景を語っています。広い原野や月の名所などの自然と、人々が暮らす生活圏が混ざりあう土地という現代にまで続くイメージを形作った作品だといえるでしょう。

その情景がまるで目の前にあるかのように柔らかく語る文章は、読んでいて心地よいもの。国木田独歩がひとり町を歩いている様子が目に浮かぶ、ロマン主義の感受性豊かな側面を楽しめる作品です。

ロマン主義的な激情を感じる名セリフが有名な徳冨蘆花の代表作『不如帰』

 

徳冨蘆花は、国木田独歩に大きな影響を与えた徳富蘇峰の弟です。1868年に生まれ、『南総里見八犬伝』や『太平記』などを愛読して育ちました。

1887年に二葉亭四迷の『浮雲』を読んだことをきっかけに小説家になりたいと思うようになり、翌年には短編を発表。それからは兄が設立した会社で翻訳や校正などの仕事をしながら、文筆活動に励みました。

蘆花の代表作『不如帰』は、モデルとなった人物に事実無根の悪評がついてしまうほどの大ベストセラーに。作中の「ああつらい!つらい!もう婦人(おんな)なんぞに生まれはしませんよ」というセリフが有名です。

著者
徳冨 蘆花
出版日
1938-07-01

 

1898年から「国民新聞」に連載された『不如帰』。徳冨蘆花は「ふじょき」と読んでいましたが、現代では「ほととぎす」と読むのが一般的です。

主人公の浪子は、冷酷な継母に育てられてきましたが、海軍少尉である川島武男と結婚したことで初めて幸せを感じていました。しかし姑は気難しい性格で、浪子も結核にかかります。さらに彼女に想いを寄せていた千々岩が、はらいせに虚実入り混じったことを姑に吹き込んだことで、浪子と武男は相思相愛ながら仲を引き裂かれてしまうのです。

浪子の激情が表現された文章は、読者の感情を揺さぶること間違いなし。ラストには涙してしまう展開が待ち受けています。

感情や主観を重視したロマン主義の作品は、登場人物への感情移入がしやすく、ストーリー展開とともにワクワクドキドキできます。気になった作品からぜひ読んでみてください。

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