中国が提唱している広域経済圏構想「一帯一路」。一体どのような内容なのでしょうか。この記事では、中国の目的やメリット、「債務のワナ」をはじめとする問題点やデメリット、日本の対応などをわかりやすく解説していきます。
「一帯一路」とは、中国が推進している広域経済圏構想のこと。2013年に最高指導者の習近平が提唱し、2014年11月に北京で開催された「APEC(アジア太平洋経済協力会議)」の首脳会議の席上で、各国に対し積極的なPRがおこなわれました。
「一帯一路」の構想は、アジアとヨーロッパの間をつなぐ巨大な物流ルートを構築し、貿易や資本の往来を促進しようとするもの。中国はこれを「21世紀のシルクロード」と呼び、世界各地でインフラの開発や関連諸国との提携を進めようとしています。
主なルートは2つ。陸路で中国西部~中央アジア~ヨーロッパを結ぶ「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、海路で中国沿岸部~東南アジア~インド~中東~アフリカ~ヨーロッパを結ぶ「21世紀海上シルクロード(一路)」です。
ほかにも中国は、北極海を通る「氷上シルクロード」と、高速鉄道でアメリカとつなぐ「太平洋海上シルクロード」の構築も目指しています。
これだけ巨大な経済圏を構築する試みは前例がありません。中国は建国100周年となる2049年に「一帯一路」を完成させることを目標に掲げています。
経済成長の結果、中国はアメリカに次ぐ世界第2位の経済大国に躍進しました。「一帯一路」を実現することで、自国主導の経済圏をつくり、世界経済のけん引役として国際的地位を高めようとしていると考えられています。
その一環として、2015年に中国主導で発足した国際開発金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」は、「一帯一路」に協力する国に融資をおこなっています。これは中央アジアやアフリカなどの発展途上国の利害とも一致していて、2020年現在100の国と地域が加盟しました。このような資本提携を通じ、中国は影響力の拡大に成功しているのです。
また「一帯一路」で巨大な物流ルートを構築することは、中国にとってもさまざまな経済・安全保障上のメリットがあると考えられます。
2008年に「リーマンショック」が起こった際、中国は景気回復のために国内で大々的なインフラ開発を推進しました。ところがその後、開発はひと段落。そんななかで提唱された「一帯一路」には、過剰になった資本の投資先をつくり出す意図も込められているのです。
また中国は、物流ルートと並行して、原油や天然ガスのパイプラインも建設。代表的なのはミャンマーと中国を結ぶもので、これがあれば仮にマラッカ海峡の航路が封鎖されたとしても、ミャンマーを経由して資源を得ることができます。複数のルートをもつことは有事の際のリスクを低下させ、また中国が海外へ資源を展開する時にも役立つでしょう。
中国の影響力が拡大することを問題視する声もあります。
先述したとおり、中国はインフラ整備のため各国に融資をしています。しかし中国に対する借金が膨らみ、返済できなくなってしまう事例があるのです。
たとえばスリランカは、中国から融資を受けて「ハンバントタ港」を建設しました。当初は港を使う船から使用料をとり借金を返す予定でしたが、利用数が伸びずに資金回収ができなかったのです。結局、スリランカは、借金を返済する代わりに、ハンバントタ港の港湾運営権を中国企業に99年間引き渡すことになりました。
インドなどの警戒もあり、ハンバントタ港の軍事利用は認められていませんが、中国は最初から経済支援ではなく、安全保障上の権益のために融資をしたと考えられているのです。
このように、過剰な融資をして、返済できなくなった国で中国が勢力を伸ばすことを、アメリカは「債務のワナ」と呼んで批判しています。
ほかにも、「一帯一路」を構築するために大量の資本が投下されたことで、各地で乱開発や汚職がもたらされているという問題点も。
中国はこのような批判の高まりに対し、「一帯一路」は排他的な枠組みではないと強調。国際ルールにもとづき構想を進め、各国の法律を尊重していくと述べています。
2015年に「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が発足した際、日本はアメリカとともに加盟を見送りました。それは、先述した「債務のワナ」にみられるように、AIIBが中国の勢力拡大に利用されることを警戒したからです。
また日本は2016年に、「一帯一路」に対抗するように、「自由で開かれたインド太平洋」という外交政策を提唱しています。
ただ2017年には安倍首相が、AIIBについて「公正なガバナンスが確立できるのかなどの疑問点が解消されれば前向きに考える」と述べ、2018年にもアジアでのインフラ整備を中国と協力すると表明。中国もこれを歓迎するコメントを発表しました。
日本が態度を軟化しつつある要因として、中国と協調することで発展途上国支援のノウハウを得られること、中国とさまざまなプロジェクトを共催することで日本企業の活躍の場を拡大できることなど、メリットがあることが挙げられます。
日本は「一帯一路」に参加してはいないものの、一定の範囲で協力する態度をとっている状態です。
- 著者
- トム ミラー
- 出版日
- 2018-05-14
作者は、イギリスで活躍している新進気鋭のアナリスト。本書では「一帯一路」について、現地からのルポ形式で解説しています。
中央アジアや東南アジアをはじめ、南シナ海やインド洋で何が起きているのか、政策の分析や地政学、インタビューなど地域の実態を映し出す声も取り入れ、バランスの取れた論考をしているのが特徴。中国にとっての失敗例などさまざまな事例を紹介しています。
「一帯一路」が各国、各地域に与える影響や、中国の長期的な国家戦略について理解を深めることができるでしょう。
- 著者
- 柯 隆
- 出版日
- 2018-04-14
「一帯一路」やAIIBなどによって、国際的な影響力を強めている中国。しかし経済的に拡大すればするほど「民主化」や「自由主義」に触れる機会が増え、共産党による一党独裁の基盤は揺らぐことになるでしょう。
作者は、中国が強権的な国家になることをリスクと捉え、「真の強国」になるためには国民に自由を与え、文化や文明の魅力を高めることが必要だと提言しています。
作者本人も中国人なので、中国人の価値観を踏まえた記述は、他の作品では見られるものではなく新鮮。きわめて客観的に現状をとらえ、今後の中国が直面するであろう課題を述べているのも好印象でしょう。フラットな視点で中国経済について知りたい方におすすめの一冊です。