近年、環境の保全と社会の発展を両立させる「持続可能な社会」を築くために、さまざまな取り組みが提唱されています。今回は、そのひとつである「ESG」について、意味や目的、投資、具体的な取り組み事例などを解説。また初心者の方におすすめの関連本も紹介するので、ぜひチェックしてみてください。
「ESG」とは、環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)の頭文字を取ったものです。
近年、環境を保全しつつ社会を発展させる「持続可能な社会」を築く重要性が叫ばれるようになりました。各企業にも具体的な対策が求められるようになり、企業経営において重視される3つの要素に「ESG」が掲げられています。
2030年までの間に各国が達成すべき目標が盛り込まれた「SDGs(持続可能な開発目標)」や、各企業が果たすべき社会的責任を定めた「CSR」とも重複する要素があり、これら3つはどれも「持続可能な社会」を築くために必要だという共通点があります。
なかでも「ESG」は投資に特化していて、企業がどのように社会課題と向き合い、どのようにビジネスチャンスとして活用しようとしているかを判断する指標としての側面があるのが特徴です。
実際に、「ESG」を重視している企業は倫理的な面で優れているだけでなく、後述するように財務リターンが高く、中長期的な投資対象としても優れているという研究結果も示されています。
日本でも年金積立金管理運用独立行政法人が「ESG」を投資の観点に組み入れることを定めた「国連責任投資原則(PRI)」に署名するなど、「ESG」に根差した投資が広まりつつあるのです。
上述のとおり、「ESG」を重視する企業は「持続可能な社会」を築くことに貢献し、中長期的に発展する展望のある企業だと考えることができます。そのような企業を投資によって支援することを「ESG投資」といいます。
以前から投資で重視されていた財務状況だけでなく、「省エネ化など環境問題への取り組み」や「地域社会への貢献」「外国人や女性など従業員に対する配慮」「法律順守の企業活動」などが評価基準となり、投資対象を選定するのが特徴です。
この「ESG投資」を推進するために、世界共通のガイドラインとして「国連責任投資原則(PRI)」が定められました。2006年に提唱され、6つの原則と35の行動が示されています。
6つの原則は以下のとおりです。
ここに示されるように、「国連責任投資原則」は投資を通じて「ESG」の普及を図ることで、「持続可能な社会」の実現を目指すというもの。このような取り組みは欧米を中心に広まっていて、2016年の時点で世界の投資額の約4分の1を占めました。
「ESG」が注目されるようになった背景は、2006年に当時の国連事務総長コフィー・アナンが「国連責任投資原則」を提唱したこと。ただ当初は、財務リターンが低くなることが懸念され、有効な投資ではないとみなす考えが一般的でした。
しかし2008年に「リーマン・ショック」が起こると、中長期的に安定した投資をおこなう指標として「ESG」に注目が集まるようになります。
専門家の間では、ESG投資と財務リターンの関係についていくつかの検証がされていて、通常の投資と有意な差はないと結論付けたものもあるものの、全体的にはポジティブな相関関係を見いだせるとする考えが多いようです。
データの蓄積が浅いため評価が確立されたわけではありませんが、ビジネスの観点でもメリットがあるとされたことで、「ESG」は世界中で注目を集めるようになりました。
では、日本企業がどのように「ESG」に取り組んでいるのか紹介しましょう。
東洋経済新報社は、2016年から自社データベースを活用して「ESGを重視する企業ランキング」を発表しています。2019年の総合ランキング1位は「SOMPOホールディングス」、2位は「NTTドコモ」、3位は「丸井グループ」でした。
「SOMPOホールディングス」は、気候変動にともなう自然災害の増加を問題視し、各部署でCO2排出量削減の取り組みを推進。「損保ジャパン日本興亜の森林」を整備するなど各自治体と協力した活動もしています。さらに干ばつなど自然災害による農業被害に備えた「天候インデックス保険」を提供するなど、保険業の分野でも対策を講じてビジネスチャンスを作りました。
「NTTドコモ」や「丸井グループ」も、事業を通じた環境保全や災害支援の取り組みを進めるだけでなく、女性管理職の増加や介護・育児休業制度の充実など、従業員のワークライフバラに配慮した企業環境の整備に力を入れています。
このような日本企業の取り組み事例からもわかるように、「ESG」を意識することは、環境保全はもちろん、企業の組織力や競争力の強化にも繋がるといえるでしょう。
- 著者
- 大森 充
- 出版日
- 2019-06-06
これから企業はどのようにして「持続可能な社会」に参画するべきなのでしょうか。このテーマを考えるうえで、「ESG」や「SDGs」は必要不可欠です。
本作は、「ESG」と「SDGs」について、最新の情勢や具体的な取り組み事例を紹介しつつ、どのように実践すればよいのか解説をしています。
図説や用語集なども充実しているので、タイトルにもあるとおり初心者の方にもおすすめ。具体的なイメージを描きつつ、理解を深めることができるでしょう。
- 著者
- 出版日
- 2018-09-20
本作は、「ESG」の考え方の基本的な部分にはじまり、「ESG」で何が変わり未来はどうなるのか、という全体像をまとめた作品です。編集したのは、アムンディ・ジャパンという世界トップ10に入る資産運用会社。「ESG」分析の専門部署も設置しています。
特にこれからの「良い会社」とはどのようなものなのか明らかにするパートに力を入れていて、各企業に求められる経営戦略や、投資家との関係などを解説。使われている単語などは決して難しくはないため、こちらも初心者の方から読むことができるでしょう。