今回ご紹介する3冊に共通しているのは「日常小説」であるということです。しかし、一口に日常小説といってもその味わいは様々。主人公の一人称による生活の描写でありながら、全く違うものが浮かび上がってくる3冊をご紹介します。
- 著者
- 西村 賢太
- 出版日
- 2011-03-10
自らを私小説家と公言している西村賢太さんの作品。女性との繋がりや性的な欲求を募らせていた主人公にようやく恋人が出来たところから話は始まります。不安定な生活であるにも関わらず、2人は新しい家を借りて同棲するようになるのですが、犬を飼いたいと言い出した恋人の気を逸らすためゴールデンレトリーバーのぬいぐるみを買い与えたあたりから2人の関係性にひずみが生まれ始めます。細々とした原因でしょっちゅう喧嘩するようになり、感情的になる度にひどい暴言を恋人に投げつけてしまう主人公。小説家としての高い志と、実際の生活の有様、そして父親が性犯罪者であるというバックグラウンドに揉みくちゃにされながら葛藤する日々が描かれています。
- 著者
- 村田沙耶香
- 出版日
- 2015-07-07
新興住宅地に住む少女の思春期を描いた作品です。何も無かった場所に広がって行く街は、自らの意思で成長し続ける生き物のようであり、その中に住んでいる少女も同じく大人になって行きます。主人公は、同級生である少年を自分だけのおもちゃと決めて性的なイタズラで翻弄しますが年齢を重ねるごとに相手にも明確な意思が生まれ、思い通りに行かなくなってしまいます。女性作家ならではの感性で綴られる文章に、近いようで遠いような誰かの生活を見せられているような気分になります。
- 著者
- 吉村 萬壱
- 出版日
- 2014-06-11
日常小説でありながらホラーファンタジーのような空気をはらんだ作品です。大災害の後に街を包み込む行き過ぎた相互協力、親和、ふるさとへの愛。人々は過剰に街を愛し理想を語りますが、現実の街は汚染されており小学校のクラスメイトはどんどん減って行きます。何かがおかしいのに誰もそのことに触れないし、触れてしまえば瞬く間に集団から排除されてしまいます。まだ幼い主人公の少女は、純粋な目で周囲の人々を観察し生活していますが時が経つにつれて街を覆っている歪な真実に気付いてしまうのです。