授業中に突然女子トイレから響く悲鳴。いじめグループの女子・須田が座った便座に塗られていたのは、劇薬の苛性ソーダでした。その後も次々と起こる悲惨な事件の影には、1人の少女の姿が……。 真犯人は一体誰なのか、先の読めない展開と、美しくも残酷な描写に引き込まれるミステリー漫画の魅力、そして衝撃の結末を考察もふまえてネタバレ解説していきます。
いじめられっ子の詩音(しおん)が、美人のクラスメイト・霧恵(きりえ)と友達になり、幸せな学園生活が始まる……と思いきや、次々と起こる不穏な事件。
いじめっ子グループが悲惨な目に遭っていく展開に、最初はスカッとできるかも知れません。しかし、やがては殺人に発展し、過去の凄惨な事件とも関わる恐ろしい展開になっていきます。真犯人は誰なのか、予想ができずに続きが気になることでしょう。
丁寧に描かれた画面は美しくもありますが、その分グロテスクなシーンの残酷さも際立ち、複雑な恐怖感をあおられます。
ミステリアスな美少女・霧恵は、詩音に優しく接してくれますが、残酷な事件を楽しむかのような狂気的な一面もあって不気味です。本性が分からない彼女の言動からは、目が離せません。
ここからは、そんな本作の魅力をここからさらに詳しくご紹介していきます。
主人公は中学の頃からいじめられ、いつも孤独を感じていた詩音。彼女は高校で新たなクラスメイト・霧恵と友達になり、心の安らぎを得ます。
しかし、霧恵と出会ってから、周りで奇妙な事件が起こり始めるのです。いじめの主犯格であった女子生徒たちが次々と災難にあい、ついには死亡者まで……。そして疑惑の眼差しが霧恵に向けられはじめます。
詩音は友達を信じたいと思いながらも、時おり見せる霧恵の怪しい表情に不安を抱かずにはいられません。
果たして、一連の猟奇的な事件は本当に霧恵によるものなのか?謎に満ちた彼女の本心とは?予想ができない展開にハラハラが止まらないサスペンス作品です。
本作は多くのキャラクターが登場し、事件の犯人が最後まで分からない展開が見所の一つです。
まずメインとなる人物は、いじめられっ子の浦辺詩音(うらべしおん)。家庭は裕福ですが、父親とは不仲でいつも孤独を感じていました。
そんな詩音を救ってくれたのが、瀬尾霧恵(せおきりえ)。詩音たちが通う高校は中高一貫の学校ですが、霧恵は外部の中学から受験して入学したようです。
彼女は詩音がいじめられていることも気にせず、優しく接してくれます。 しかし、いじめっ子グループの生徒たちに事件が起こるたびに、不穏な笑みを浮かべるという怪しさも持っているのです。
霧恵が現れてから不可解な事件が続くことに疑問を抱くのは、詩音をいじめていた伊島瑠美(いしまるみ)。一連の事件の犯人は霧恵ではないかと詰問しますが、その数日後、彼女は無残な遺体となって発見されます。
警察は伊島の死を自殺と判断しますが、彼女が何者かに殺害されたことは読者の目には明らか。これまでの言動を考えると、霧恵が最も怪しい人物に感じられます。
しかし、伊島が死亡した数日前から霧恵は怪我で入院していました。つまりアリバイがあるのです。 犯人は本当に霧恵なのか、それとも別人なのか?霧恵だとすれば、どうやってアリバイ工作をし、伊島を殺したのでしょうか?事件の真相が分からず、続きが気になります。
事件の謎を追うのは、真壁(まかべ)刑事、羽賀(はが)刑事、そしてジャーナリストの雁屋華永(かりやはなえ)。
真壁刑事は、作中で逸早く霧恵が怪しいと睨み、過去の事件との繋がりにも気付く敏腕刑事です。若手の羽賀刑事や、「血の匂いを嗅ぎつける」と評判の雁屋とともに真相に近付いていきます。
捜査の過程で事情聴取を受ける阿部海里(あべかいり)は、霧恵と同じ中学に通っていた男子生徒。高校では図書委員として、詩音の良き友人にもなります。
そして、病院に収容されている帆場愛子(ほばあいこ)。彼女は過去に殺人未遂で捕まっているのですが、その相手が実は詩音の父親・浦辺善弥(うらべよしや)なのです。
阿部が知る中学時代に起こったものを含め、いくつもの事件が霧恵と関わりがあり、ますます彼女への不信感が高まるでしょう。一連の事件の犯人が本当に霧恵なのか、そして帆場愛子の事件とはどのような繋がりがあるのか、真相が気になります。
- 著者
- 室井 まさね
- 出版日
- 2017-11-27
本作は、絵柄がきれいで丁寧な線で描かれているところも魅力です。この美しい画面が作品世界の不気味さをより引き立てています。
まず、霧恵の「美少女」という描写に説得力が生まれています。作中では、詩音が彼女に見惚れたり、男子生徒が赤面したりというシーンがあります。
さらに丁寧に描かれた世界の中で、ひときわ美しく描写されており、一目見れば自然と「美人だ」と感じられる人物です。
また、この絵の丁寧さはグロテスクなシーンでも遺憾なく発揮されています。
飛び散る血液や肉片、さらけ出された内臓、生気を失った表情など、無残な怪我や遺体の描写は思わず目を背けたくなるほど残酷です。
この精細な描写によって、残酷なシーンにも生々しいリアリティが感じられ、気持ち悪さがより一層増します。
この「美しさ」と「残酷さ」が、霧恵を中心に混ざり合っていることで、読者の目を作品に引きつける不気味さが生まれているのです。
読者は彼女の美しさに引き込まれながら、残酷な事件の恐ろしさからも目が離せなくなっていくでしょう。
霧恵の本心は終盤まで明かされず、本当の狙いが分からないところも、本作の気になるポイントです。
出会った時から、霧恵はいじめられっ子の詩音に優しく接しています。詩音はやっとできた友達に喜びを感じていますし、2人が仲良くおしゃべりをしている姿は、とても穏やかで微笑ましいものです。
しかし一方で、霧恵は氷のような冷たい視線で詩音の隠し事を責めることも。時に優しく、時に恐ろしさを見せる彼女の姿は、まるで詩音を自分の思いどおりに操ろうとしているようにも感じられます。
そして何より、学校で悲惨な事件が起こるたび、霧恵は怪しい笑顔を見せるのです。
この霧恵の二面性や怪しさのせいで、詩音への優しい態度が純粋な好意によるものなのか、何か裏の狙いがあるのか、まったく分かりません。
凄惨な事件の疑いがかけられていることもあり、霧恵の謎に包まれた本心が気になります。
刑事たちの監視を潜り抜け、霧恵は詩音の家に泊まりに来ます。
このお泊まり会は、母親の外出で心細い詩音を励ますためのものでしたが、実はそれは表向きの理由。浦辺家に上がり込んだ霧恵は、詩音を睡眠薬で眠らせ、ある人物を家に招き入れます。そこに父親が帰宅し、最後の事件が始まるのです。
詩音の家族を巻き込む最後の事件では、霧恵の真の目的がついに明かされます。真相を踏まえて今までの彼女の行動を振り返ると、長年積もらせた怨みの強さが感じられ、その執念の恐ろしさに身震いしそうです。
しかし、その霧恵の心の闇は、実は両親の歪んだ心から生み出されたもの。霧恵はたしかに恐ろしい人物ですが、身勝手な大人のせいでそうならざるを得なかった、悲しい存在であるとも感じます。
彼女の人生は、まるで「人のおろかさが、時に取り返しのつかない悲劇を引き起こす」ということを我々に訴えかけているようです。
事件の収束後も、霧恵は詩音にとって忘れられない存在として心に残り続けます。そして、それは読者にとっても同じこと。読了後も霧恵の強烈な存在感が心に残り、不気味な余韻に浸ることになるはずです。
- 著者
- 室井 まさね
- 出版日
- 2018-08-27
本作の作者・室井まさねは、グロ描写に抵抗がなく、謎解きやサスペンスが好きな方にオススメの作家です。
2015年から始まった『屍囚獄』は、閉鎖的な村の異常な風習に巻き込まれた教授と女子大生たちの悲劇を描いたサスペンスホラー作品です。その衝撃的な内容が話題となり、実写映画も製作されました。
そちらを紹介した記事もありますので、気になる方はご覧ください。
『屍囚獄』が怖すぎる!サスペンスホラーの魅力をネタバレ!
廃村寸前の集落で起こる凄惨な事件の数々と、その凄惨さを引き立たせるグロ描写が魅力的な作品『屍囚獄』。今回はそんな本作の魅力をご紹介していきます。
2017年からは本作『煉獄女子』を連載、そして2019年からは『狂蝕人種』を連載しています。
『狂蝕人種』はバカンスに訪れた若者たちと、彼らに襲いかかる謎の生物を描いたパニック・ホラー。血や肉片が飛び散る残酷なグロ描写や、得体の知れないものが迫ってくる緊迫感にハラハラします。
『煉獄女子』も含めてグロテスクな描写が多いですが、「どうしてこんなことが起こっているのか?」という謎や、登場人物たちの生死に関わる結末が気になり、どんどん引き込まれる展開が特徴の作風です。
恐怖を感じながらも、続きを知りたくて読み進める手が止まらなくなるような作品が多く、ミステリー、グロ、ホラー系の作品が好きな方は、ぜひ他の作品も読んでみてくださいね。
- 著者
- 室井 まさね
- 出版日
- 2015-06-17
霧恵が詩音に抱く本当の想いとは?恐ろしくも、一抹の切なさが残る事件の結末は、ぜひご自身の目で確かめてください。