ラーメンはもはや日本の国民食。全国各地でラーメン店がひしめき合っています。『らーめん才遊記』はそんなラーメンを題材にした作品。しかしただのグルメ漫画ではなく、ラーメンを取り巻くビジネスを学ぶことができるところが魅力です。 この記事では、意外なキャストでドラマ化も決定している本作の、ラーメンビジネス漫画としての面白さをご紹介いたします。
『らーめん才遊記』は、ラーメン界にその名を轟かせるカリスマ、芹沢達也が経営するフード・コンサルタント会社「清流企画」を舞台に、ラーメン業界を多角的に描くラーメン漫画です。
原作を久部緑郎、作画を河合単が担当していますが、このコンビに見覚えのある読者の方もいるかもしれません。本作は商社に勤めるラーメンマニアのサラリーマンを主人公としたラーメン漫画『ラーメン発見伝』の続編なのです。
とはいえ、芹沢をはじめとしたキャラクターの一部が登場しているのみで、物語に大きなつながりはありません。初めてシリーズに触れるという読者でも安心です。
- 著者
- 久部 緑郎 河合 単
- 出版日
- 2010-02-27
本作は多角的に、という言葉どおり、ただ美味しいラーメンを描くだけの作品ではありません。ラーメンビジネスのありとあらゆることが描かれている、ビジネス漫画でもあるのです。
たとえば、ラーメン店の儲かる仕組みや、繁盛店を作るノウハウ。ここ数年でも大きく変化した、ラーメンの流行り廃りなどが、専門家目線で細かく書かれているのです。
ちょっと難しいかも、と感じた読者の方もご安心ください。本作にはラーメン界のカリスマともう1人、新入社員の汐見ゆとりが登場。ラーメンビジネスについてはまったくの素人である彼女目線で物語が進むため、読者が感じる疑問にもわかりやすくアプローチがされています。
そんな本作は、2020年4月よりテレビ東京でドラマ化されることが発表されました。公開日は未定です。
見所は、原作からのキャストの大胆な変更。原作では芹沢は男性でしたが、ドラマでは芹沢達美という女性のフード・コンサルタントに。料理で非凡な才能を発揮するものの、天然気質なゆとりとの、女性同士の上司部下コンビがどんな活躍をするのか、注目です。
ドラマ作品が気になる方は、公式ページをご覧くださいね。
魅力をご紹介する前に、まずは主要な登場人物をご紹介いたしましょう。登場人物に興味のない方は読み飛ばしても問題ありません。
本作は、主に2人キャラクターを中心に物語が進んでいきます。1人目は芹沢達也。フード・コンサルティング会社「清流企画」の社長であり、人気店「らあめん清流房」を経営するラーメン業界のカリスマです。
ハゲ頭が特徴で、一部読者からはラーメンハゲという愛称で呼ばれることも。ラーメンに対して造詣が深く、情熱とあくなき探求心を持っているのはもちろんのこと、フード・コンサルタントとしても優秀です。
そんな芹沢は名言の多いキャラクター。後の項目でもご紹介しますが、マニア受けする店を売れる店に作り替える時には、こんな言葉を残しました。
「いいものなら売れるなどというナイーヴな考え方は捨てろ。」
(『ラーメン才遊記』6巻より引用)
誰しも自分が努力して成しえたことに対して、評価やよい結果が付いてくるだろうと考えがちではないでしょうか。しかし現実は厳しいもの。特に商売は数字で結果が明確に出てしまいます。
それに対して、芹沢は個人的な感傷は捨てろ、と説いているのです自分の感情と他者の評価は別物であるという、シビアな現実が刺さります。このように、学びの多い名言を生み出す人物です。
上記でもご紹介しましたが、ドラマでは女性として登場することになった芹沢。演じるのは鈴木京香です。
芹沢とコンビを組み、ラーメン業界に飛び込んでいくのが汐見ゆとり。22歳の「清流企画」新入社員です。天然気質で空気が読めず、率直すぎる発言をするなど、社会人としてはマイナス面が多い問題児。
しかし、彼女には類稀なる料理の才能がありました。実は、ゆとりの母は、料理研究家。彼女に鍛えられ、腕前はもちろんのこと味覚がピカイチなのです。ラーメンを「トポトポ」や「ワクワク」といったゆとり独特の言葉で表現します。
芹沢の相棒という重要な役割と務めるゆとり役をドラマで演じるのは、黒島結菜。
他にも本作には「清流企画」の個性的な社員や、ラーメン店の店主が登場。ゆとりの母、料理研究家の汐見ようこも登場しますが、ラスボス感があり、物語に見所をつくってくれる存在です。
ここからは、本作のビジネス漫画としての魅力に迫っていきましょう。それぞれに学びのあるエピソードからそのよさをお伝えします。
まずは3巻のエピソード。
清流企画に仕事を依頼してきたのは、かつて芹沢のライバルだった、中原という男。ラーメン集合施設に支店を構えており、1990年代中頃に流行した、ニューウェーブ系ラーメンで人気となりました。
しかし、支店は閑古鳥が鳴いている状態。なぜ、人気だったラーメン店に客が入らなくなってしまったのでしょうか。
答えは、流行が変わってしまったから。ニューウェーブ系とは、ヘルシーでおしゃれな、女性客を意識したラーメン。現在の流行はワイルド爆食系や濃厚豚骨魚介系つけ麺という、真逆のものとなっており、少量で満足感の薄いニューウェーブ系が衰退してしまったのです。
- 著者
- 久部 緑郎 河合 単
- 出版日
- 2010-10-29
流行を乗り越えて、人気になるためには……。
芹沢とゆとりは、繁盛店にするため、あるアイデアを出します。咀嚼が必要な食材を増やし、噛む回数を増やすことで、満腹感を得られるようにしたのです。
飲食店は美味しければお客さんが入る、という単純なものではありません。美味しかったけど物足りないと感じれば、おいしくてお腹いっぱいになる店を選びがちになってしまいますよね。
なぜダメなのか、どうすればよいのか。時代の荒波に流されない店を作るために、お客さんをよく観察し、分析する必要性を痛感させられるエピソードです。
続いても、激戦区で苦戦する店を繁盛させるという、興味深い案件です。
つけ麺激戦区に店を構えるとあるつけ麺専門店は、売り上げが伸びず苦戦していました。店を改装することにしましたが、そこでフード・コンサルティングの会社が集まり、コンペを開催することになります。
ゆとりは、新感覚のつけ麺メニューを考案し、高評価を得ました。しかし、コンペで企画がとおったのは、ライバル会社の難波倫子の、つけ麺店からラーメン店に変更するという提案でした。
- 著者
- 久部 緑郎 河合 単
- 出版日
- 2011-02-26
現状、苦戦をしているのならば新メニューを投下しても、すぐに客足が遠のく可能性は否定できません。目先の課題は解決できますが、長期的にみれば再び何らかのテコ入れが必要になるでしょう。
倫子のアイデアは、競合店が多いという状態から、少ない状態へと変えましょうというもの。同じ土俵ではなく、違う土俵にすることで、繁盛しないという現状の本質的な解決を目指したのでした。
ゆとりの考案したメニューはおいしそうではありましたが、本質的な課題にまで着手できていないものでした。繁盛店にするためには、提供する商品さえよければうまくいく訳ではないと感じることができるエピソードです。
続いては、商売というものについて深く考えさせられる依頼です。
今回の依頼主は、強いこだわりをもったラーメン店の店主。そこは納得ゆくまで考え抜かれた創作系のメニューが自慢でしたが、あまり流行りませんでした。そして大衆的なよくあるつけ麺を売っている近くの店に負けていたのです。
競合店に勝つにはどうするか。芹沢は、油そばを出すことを提案します。
ラーメンはシンプルな料理ですが、スープやタレを作るには、多くの材料と手間がかかります。一方油そばはスープがなく、しょうゆ等をベースにしたタレとごま油やラー油を、お好みでかけて混ぜるという料理。
- 著者
- 久部 緑郎
- 出版日
- 2012-02-29
どちらが手間がかかっているか、もちろんラーメンですよね。しかも、油そばはタレや具材を工夫すれば、手間がかからずより多くのお客さんの満足感を得ることができます。
現在流行のラーメンよりも、原価率が低く手間がかからない油そばはボロい商売だという芹沢。現状のまま作りたいものに固執してしまうと、いずれ終わりが来るかもしれませんが、油そばが売れればそれだけお店を続けていくことができます。
とはいえ芹沢はこだわりを捨てろ、とは言っていません。飲食店もビジネスだということを念頭に置き、「まずは勝つこと」を重要視したのです。そこから自分のこだわりを出すこともできると説いたのでした。
作りたいラーメンを作り続けるためには、お金を稼いで店を存続させるというのは当然必要なこと。それだけに、作りたいものと売れるものが同一ではないという、シビアな現実が胸に刺さるエピソードです。
フード・コンサルティング業の話が続くなかで、ゆとりは「なでしこラーメン選手権」に出場し、ライバルたちと切磋琢磨し成長していきます。
最終巻では、ゆとりを後継者として考えている料理研究家の母、ようことの「ワクワク・ラーメン対決」が開催されました。
ラーメンは、麺とスープという基本があり、そこに様々な物を足していくことで、味のバリエーションが生まれました。ニューウェーブ系も爆食系も、元々は同じラーメンの形にたどり着きます。最後の対決で、今まで作中で語られてきた、様々なラーメンがひとつのルーツにつながっていることが感じられるでしょう。
ラーメン対決の行方は、果たしてどうなるのでしょうか。
- 著者
- 久部 緑郎 河合 単
- 出版日
- 2014-03-28
対決の勝敗にあたあって、芹沢はこんな言葉を残します。
「ラーメンとは フェイクから真実を生み出そうとする情熱そのものです」
(『らーめん才遊記』11巻より引用)
そもそも、戦後のラーメンは安価で手間なくできる料理のひとつとして注目されたもの。始まりがそもそもフェイクともいえるもの。そしてそこに、手打ちでない麺や、化学調味料で増した旨味などを盛り込み、進化していったのです。これもある意味、フェイクといえる工夫でしょう。
しかし、だからといってラーメンという存在が単なるフェイク=偽物、というわけではありません。そこからどう「美味しい」「ワクワク」をつくるか考え続けることこそがラーメンの本質なのではないか、と芹沢は説くのです。
この対決後、ゆとりは仲間たちとともに女性だけで経営する、日替わり創作ラーメンの店を開店させます。ラーメンの値段は1000円。作中で、売れなくなる値段として設定されている、壁のようなものです。
あえて壁を超える値段設定をしたところに、ゆとりたちの決意を感じることができるでしょう。ノウハウや知識はもちろんのこと、それだけの価値がある物を提供しているという自身と情熱も、経営には必要なのかもしれません。
ゆとりの成長も見所ですが、結末には前作からのファンには特大のサプライズが用意されています。詳細は、ぜひ、その目で確かめてみてください。
ラーメン業界ビジネスに関するエピソードを紹介しましたが、これはほんの一部。他にも、男性が好むメニューについてや、立地のよい国道沿いの店が繁盛しない理由、B級グルメ開発や地元食材を使ったメニュー開発といったエピソードが登場。ラーメン業界だけでなく、広く飲食業界で参考になる情報が描かれています。
もちろん、面白さはビジネス面だけではありません。ラーメン店が舞台だけに、様々なラーメンを知ることができます。登場するラーメンのメニュー開発の工程も楽しく、グルメ漫画として読んでも、十分楽しむことができます。
また、人間ドラマも面白いポイントのひとつ。ラーメンに情熱を注ぐ女性たちのライバル関係は、スポーツ漫画くらいの熱量があり、特に対決シーンは手に汗握る緊張感があります。対照的に、芹沢を取り巻く環境はサスペンスのような雰囲気。元部下安村との、相手を蹴落とそうとするピリピリとした空気からも、目が離せません。
ぜひ実際に読んでみて、面白さや学びを感じ取ってみてくださいね。
- 著者
- 久部 緑郎 河合 単
- 出版日
- 2010-02-27
読めば何だかラーメンが食べたくなる本作。いつもとは違った店に行ったり、新しいメニューを試してみたりと、ラーメンに対する意欲がもりもりわいてきます。ドラマでは、漫画とは違った一面を見せてくれそうな芹沢&ゆとりコンビの活躍に期待しましょう。
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