『微笑む人』は貫井徳郎によるミステリー小説。作者は、これまでも様々な賞を受賞している実力派の作家として知られていますが、そんな彼が自ら「ぼくのミステリーの最高到達点」と語るほどの作品となっているのが本作なのです。 また、読者からも「ミステリーの常識を超えた衝撃作!」と話題を呼んでおり、意外過ぎるラストが賛否両論を呼びました。 2020年春には遂にテレビドラマ化も決定している本作。ラマは原作と違う展開が用意されており、原作もドラマもチェックしたい作品です。 この記事ではそんな『微笑む人』のドラマの見所やキャスト、原作の見所、結末までをご紹介します!
まずはあらすじから。ご存知の方は読み飛ばしても問題ありません。
仁藤俊美(にとう・としみ)は、一流大学を卒業した後、エリート銀行員として働き、幸せな家庭を築いている誰もがうらやむ男です。しかし、その男がある日突然、妻子を殺した容疑者として逮捕されてしまいました。
しかもその殺害動機が、「本が増えて家が狭くなった」というものだったことが発表されると、世間は驚きとともに事件に注目するようになります。そのうちのひとりが、とある小説家。
小説家は事件を取材するため、仁藤の過去を洗い始めます。すると、彼の周りには、大学時代も高校時代も、そしてなんと小学時代まで、不審な死が存在していたことが明かされていきました。
そして最後に待っていた真実とも嘘とも分からない出来事とは……?そして、最後に微笑む人はいったい誰なのか……?最後の最後まで目を離すことができない1冊です。
タイトルである「微笑む人」が意味するところは、ラストで分かるようになっています。2人の人物に重ねることができるイメージを想起させ、雰囲気のある秀逸なものだと感じることができるでしょう。
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
- 2015-10-03
『微笑む人』の魅力は、読者の予想が追い付かない展開と、理屈では説明できない複雑な人間像にあります。仁藤の衝撃的な殺人から始まり、その衝撃が消える前に現れる新たな謎、過去に遡るほど出てくる仁藤の周りの不審死など、次々とポイントとなる展開が打ち出されるのです。
また、ネタバレになってしまうのですが(未読の方はご注意ください)原作では、結末で明確な真実は明かされません。それが本作の挑戦的な魅力の1つでもあるのですが、読者の中では賛否両論が起こった部分でもあります。
ドラマはオリジナル脚本だということで、ラストは違う形で描かれるそうです。また、ラストが異なるということで、それまでの展開がどうなるのか、そしてオリジナルの登場人物などはどういう働きをするのか、というところも見所になってくるでしょう。
貫井徳郎が、物語に対してのある考えを読者にぶつけてくる本作。ドラマではその考えをどう解釈し、視聴者にぶつけてくるのでしょうか。原作では分からなかったことがドラマでは分かる、という展開もあるかもしれません。
ドラマの詳細は公式ページでご覧ください。公開日は、2020年3月1日、日曜日です!
このあとは、原作の登場人物をもとに、キャストをご紹介いたします。
先ほども少しお伝えしたように、テレビドラマ版では、原作と異なる設定もあるようです。特に登場人物の違いが、一番の大きな変更点と言えそうなので、こちらでご紹介しましょう。
原作では、殺人事件を起こした仁藤の過去を追うのは小説家となっていますが、ドラマでは、週刊誌の女性記者・鴨井晶というキャラクターになっています。
殺人鬼となった仁藤俊美を演じるのは、松坂桃李です。松坂桃李は、テレビ朝日のゴールデン枠では初主演らしく、それもまた話題となっています。そしてドラマオリジナルキャラクターとなる鴨井晶は、尾野真千子が演じます。実力名高い女優である彼女が、どう松坂桃李演じる仁藤と対決していくのか、とても気になるところです。
また、後ほどご紹介しますが、原作でのラストは、決定的な真実を明らかにしないという賛否両論を呼ぶものでした。
一方、ドラマでは、公式ホームページに「衝撃のラスト」や「ドラマオリジナルの展開にも注目」などと書かれていることからも、何かしらのオリジナルのラストが用意されているのではないかと考えられます。こちらもぜひ注目して見ていきたいところです。
さて、これ以降はいよいよ原作の見所を紹介していきます。
本作の魅力は、物語が進めば進むほどに登場人物と被害者が増え、さらに謎の答えを予想する前にまた新たな謎が生まれてくるところにあります。
そもそもの事の発端は、仁藤が妻と子を殺した「安治川事件」。そしてそこから、仁藤の周囲で不審な死が多いことが明かされます。会社の元上司・梶原敬二郎の死体がダム湖の底から見つかり、大学時代には友人の松山彰が事故死していたなど、過去に遡るほど次々と新たな謎が現れてくるのです。
そして、小学時代にまで辿り着いた時、遂にある真実が明かされるのです。
それまでの謎の真実を予想する前に登場し、それだけでなく、現在にも意外な展開があるなど、読者の想像のスピードをどんどん追い越して展開していく様子には、振り回されながらも目を離せない力づよい魅力が感じられます。
本作は物語が進むほどに様々な人物と謎が登場することはすでにご紹介しましたが、その人々も一言で説明できないようなものを抱えています。
本作では最後まで何が真実か嘘か作中で描かれません。
その手探りのような不安定さは登場するキャラクターにも共通する要素なのです。たとえば仁藤は、どうして次々に人を殺す殺人鬼になったのか、それすらはっきり分かりません。「本が増えて家が狭くなった」とは語っていますが、一般的に納得感のある答えではないでしょう。
他にも、真実のような嘘を語る人、人の不幸に飛びつく人、嘘のような真実を望む人などが登場します。しかし彼らがなぜそんなことをするのか、はっきりした答えが用意されていないのです。
読者としてはモヤモヤしたものを感じる部分もありますが、それこそが人の心の複雑さを表しているのではないかとも考えられます。人というのは簡潔な理由で生きている訳ではありません。それゆえに社会というものは白黒はっきりさせることができないことがたくさんあるのではないでしょうか。
ストーリーのつじつまを合わせるために、分かりやすい理由や設定をつける必要はあるのか。
そんな問いを読者に突きつけ、物語は結末へと進んでいきます。このあとそのラストに関する解説をご紹介いたしましょう。
先ほども少し触れましたが、本作は最後の最後まで、何が真実で嘘なのかはっきり描かれません。フィクションとしてははっきりとした答えが欲しい、そのほうが面白いという場合もありますが、反面、現実世界ではそんなはっきりとした答えがあるわけがないと感じることもあるでしょう。
つまり本作は、世の中には説明できないものもある、ということを物語だからといって綺麗なオチをつけないことで表しているのではないでしょうか。
終盤に差し掛かった頃、遂に仁藤の小学時代に辿り着いた小説家は、仁藤が殺人鬼になった理由として重大な真実と思われる出来事を知ります。
その出来事を語ったのは、仁藤の同級生のショウコという女性でした。彼女の証言によりようやく真実が判明したのかと思いきや……。そこからさらに話は二転三転し、そのまま終わりを迎えるのです。
真実がはっきりと描かれないで終わるという形に、ミステリーとしては真実が知りたい、中途半端だ、という声や、余韻を残す感じがいい、物語だからといって綺麗に終わらせるのもエゴかもしれないという声など、賛否両論、語られました。
どちらにせよ、賛否の声が分かれるのは、それまでの経緯に満足感があるのかないのか、それを踏まえて結末に納得感があるのかないのか、が関わってくるかと思います。この記事で概要や魅力をお伝えしましたが、やはり、賛否は実際に読んでみないと分からない部分。ぜひご自身でこの意欲作をお読みになってみてください。
- 著者
- 貫井 徳郎
- 出版日
- 2015-10-03
いかがでしたか? 『微笑む人』は、もちろん小説だけ読んでもドラマだけ見ても面白いでしょう。ですが、ご紹介した通り、ドラマはドラマのオリジナル展開があるので、両方を読んだり見たりすることでまた新しい魅力を発見できるのではないでしょうか。それぞれの面白さを見つけるためにも、ぜひ両方ともチェックしてみてください。