『耳をすませば』の漫画、アニメ、実写映画の考察から分かったこと。

更新:2021.11.21

実写映画が公開される予定となっている『耳をすませば』。映画をより楽しむために、この記事では原作漫画とアニメ映画の違いを中心に、作品の魅力を紹介。さらには実写映画の見所も考察していきます!

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漫画『耳をすませば』がアニメ映画化されたきっかけ

『耳をすませば』は読書好きの少女が夢を追う少年と出会うことで、自身の夢に向かっていく爽やかな恋愛作品です。タイトルを聞くと、スタジオジブリのアニメ映画を思い出す人も多いのではないでしょうか。しかしもともとは少女漫画で、原作作品からインスピレーションを受けた宮崎駿監督により映画化されたのです。

まずは簡単にあらすじをご説明しましょう。

主人公の月島雫は、父の勤務する図書館に入り浸るほど本好きの少女。ある時彼女は図書貸し出しカードの履歴から、天沢聖司という人物が自分より先に本を借りていることに気がつきます。

聖司のことがなんとなく気になりだしたころ、雫は電車の車内で奇妙な猫と出会いました。そしてその猫に地球屋という不思議な店へ導かれ、運命的に聖司と出会うのですが……。

そんなあらすじの『耳をすませば』は1995年にスタジオジブリによってアニメ映画化され、多くの人が知る名作となりました。実は原作漫画とアニメ映画で、物語の細部と作風が異なることはあまり知られていません。

原作漫画は1989年に少女漫画誌「りぼん」で連載されていましたが、人気があがらず、わずか4回で打ち切りとなりました。

ジブリの宮崎駿監督は、夏期休暇中に姪が持ち込んだ少女漫画誌に目を通す習慣があり、そこで偶然『耳をすませば』第2話を読んだそうです。その後ジブリの鈴木プロデューサーや知人の押井守、庵野秀明らと第2話の内容を膨らませ、原作と違った独自のストーリーを想像したのです。

これがきっかけで制作されたのがアニメ映画。おのずと原作漫画とは違った持ち味の話になったのです。

それでは実写映画『耳をすませば』の見所などを交えて、原作漫画とアニメ映画の違いや魅力についてご紹介していきます。

ふんわりとした心理描写の漫画原作、キッパリとしたアニメ映画。それぞれの恋愛展開の違いとは

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原作漫画とアニメ映画の違いの1つは、ずばり両者の恋愛描写です。

よく知られているアニメ映画は淡い恋心を軸として、2人が将来に向かって前向きに取り組む青春モノとなっていますが、原作はかなり乙女チックな少女漫画。

たとえば雫と聖司が知り合う以前から、聖司の兄の航司と雫の姉の汐(しほ)が交際しており、「りぼん」読者層が思い描くような大人の恋人像が描かれます。

雫と聖司の関係もその影響下にあるので、いくぶんドリーミーな描写が多いです。たとえば恋愛モノではありがちな、聖司が姉の汐を好きなのではと雫が勘違いする展開も見られます。

漫画原作がふんわりとした少女漫画らしい心理描写なのに対して、アニメ映画は恥ずかしいほどストレートな青春です。これは宮崎駿らの世代が、かつて実現できなかった爽やかな青春を、ノスタルジックに描こうとしたためだそう。

アニメ映画が人気作となったのは、この改変のおかげで、原作より多くの人の郷愁に訴える内容になったためかもしれません。

少女漫画らしい漫画原作と、リアリティのあるアニメ映画

原作漫画とアニメ映画のもう1つの違いは、世界観の広がりにあります。やや言葉が悪くなりますが、宮崎駿の言葉を借りれば、原作漫画はありふれたラブストーリー。中学1年生の雫と聖司の恋愛感情がメインで、障害らしい障害はないのです。2人の気持ちが通じ合って終わり、という、作中だけで完結している閉じた世界となっています。

アニメ映画では、この閉じた世界にメスが入れられました。主人公の年齢が中学1年生ではなく受験を控えた中学3年生となり、原作では画家だった聖司の夢がヴァイオリン職人に変更され、さらにいずれ彼が留学することに変更されたのです。

また、後半で1人暮らしを始める姉の汐は、雫との性格の対比や変化する日常の象徴となりました。

アニメ映画は2人の恋愛を軸に、人生の目標やタイムリミット、そして日常の変化という要素が加わりました。この変更のおかげで、アニメ映画には爽やかな恋愛にプラスして、リアリティあふれる世界観となったのです。

これだけ聞くと映画だけがいいように思えるかもしれませんが、原作も穏やかで優しい世界観が描かれているので、ぜひご覧になってみてください。

著者
柊 あおい
出版日

THE少女漫画の王子様!な天沢聖司に、アニメ映画では職人気質が付け加えられた

THE少女漫画の王子様!な天沢聖司に、アニメ映画では職人気質が付け加えられた
出典:『耳をすませば』

映画と原作の違いはこれだけでなく、ヒーローの天沢聖司にもあります。雫が想いを寄せる彼は、外見も性格もよい、完璧な少年です。初対面の雫には意地悪な言動を見せますが、そこはご愛敬。

アニメ映画でも秀才キャラとして描かれましたが、原作漫画の描写はその上をいきます。夢と希望にあふれたキラキラした少年なのです。

これは聖司というより、原作漫画を描いた作者の柊あおいの特徴。一言でいえば一途に気持ちを貫く、絵に描いたような王子様像なのです。

アニメ映画の聖司は王子様っぽさが少なめになった代わりに、職人気質であることが設定されました。ヴァイオリン職人に憧れ、妥協なくヴァイオリン作りに取り組む姿は、雫だけでなく視聴者の心を打ちました。

留学して職人を目指すという展開は、ともすれば夢物語になりそうですが、聖司のひたむきさのおかげでリアリティを保つ要因にもなっています。

また聖司のヴァイオリン職人の夢に雫が触発されて、人間的に成長するというのもアニメ映画のよいところ。雫が王子様に憧れる夢見る少女ではなく、同じ未来に向かう対等な立場として描かれているのです。

アニメ映画の『カントリーロード』に隠されたテーマを考察!

アニメ映画の『カントリーロード』に隠されたテーマを考察!
出典:https://amzn.to/2Tetflx

原作には出てこないアニメ映画独自の要素ですが、本作を語る上で『カントリー・ロード』は避けられません。ジョン・デンバーがカバーした『Take Me Home、 Country Roads』を雫が翻訳した(という設定の)曲です。

この日本語歌詞をよくよく聞くと、隠されたテーマに気がつきます。

「カントリー・ロード
この道 ずっとゆけば
あの街に つづいてる
気がする カントリー・ロード」

(『カントリー・ロード』より引用)

ふるさとをテーマにした歌ですが、ふるさととは、自分が生まれ育った街のこと。一方、作中では雫が自嘲気味に作詞したコンクリート・ロードが歌われます。

コンクリートロード
どこまでも 森を切り 谷を埋め
ウェスト東京 マウント多摩
故郷(ふるさと)は コンクリートロード

(映画『耳をすませば』より引用)

この「コンクリートロード」は雫たちの住んでいる場所を表現し、それでも雫にとってのふるさとなのだと伝えています。

たとえ今いる場所が、開発でできたコンクリートロードで自然などなくても、懐かしさを覚える風景こそ、その人の原体験につながる大事な場所なのですね。

何気ない日常や身近な景色の中にも、目を見張る美しいもの、貴いものがあるというメッセージ……それこそが『カントリー・ロード』に隠されたテーマではないでしょうか。

アニメ映画『耳をすませば』には雫と聖司の恋愛に青春への懐古と同時に、生まれ育った場所への郷愁も盛り込まれているのです。

その後が話題になっていたが、原作漫画、実写映画『耳をすませば』で実現!

 

「今すぐってわけにはいかないけど、俺と結婚してくれないか!」

(アニメ映画『耳をすませば』より引用)

思わず見ているこちらが恥ずかしくなるような、それでいて初々しい、アニメ映画のラストシーン。まだ中学3年生の聖司が雫に告白するセリフです。「ただ『好きだ』というだけじゃ弱い」と、宮崎駿が付け加えたそうです。

 

青くさいけれど、だからこそ愛おしい名場面として、多くの人が彼らの明るい未来を想像したことでしょう。

アニメ映画にはこの続きがありませんが、実は原作漫画ではその後を描く読み切り続編『耳をすませば 幸せな時間』が発表されています。

物語のラストから2年後、中学3年生になった雫と聖司。聖司の海外留学を知り、不安定になった雫が、あのバロンのいる「猫の図書館」を訪れるというストーリーでした。

原作の続編なので微妙に差異がありますが、アニメ映画化後に描かれたためか、ところどころアニメ映画寄りの描写となっているのでファンの方はぜひ読んでみてください。

また、『耳をすませば』は2020年に実写映画化され、こちらは原作漫画の10年後という設定となっています。

実写映画は大人になった雫と聖司の姿とともに、あの恋物語の続きが見られるとあって、原作ファンもアニメ映画ファンも要注目の作品です。このあとは、その映画の見所を考察してみます。

著者
柊 あおい
出版日

『耳をすませば』実写映画での見所を考察!キャスト、公開日も紹介

『耳をすませば』実写映画は、スタジオジブリのアニメ映画の続編ではなく、あくまで原作漫画の続編という位置付けです。ただしキャストの月島雫役の清野菜名、天沢聖司役の松坂桃李はどちらもアニメ映画を前提としており、制作側も意識しているようなのでまったく無関係というわけでもありません。

実写映画では原作漫画を再現する過去と、10年後の現在の物語が並行して描かれます。作家の夢破れて編集者となった雫、10年後も夢を追い続ける聖司。それぞれの境遇の違いから起こるすれ違い。

甘酸っぱい青春の恋愛物語がどういったラストに向かうのか、原作のストーリー再現とその延長にある未来のオリジナルストーリーがどう展開されるのか。

この「あの日夢見た未来」と「未来が今になった現在」の対比が、実写映画最大の見所となります。

実写映画『耳をすませば』の公開日は2020年9月18日です。※2020年9月現在、公開は延期となっておりその予定はまだ発表されていません。

主演の清野菜名について詳しく知りたい方は、清野菜名が出演した作品を逆引き!実写化した映画、テレビドラマの魅力を紹介の記事もどうぞ。

松坂桃李の出演作品が気になる方は、松坂桃李の出演作は「攻め」揃い!実写化した映画、テレビドラマの魅力を発掘の記事がおすすめです。

アニメ映画を見たことがあるという方も多いでしょう。実写映画も登場人物は設定が同じで、すでに見たことがある人は楽しめるでしょう。もちろん、『耳をすませば』の実写映画が初見の方でも、楽しめる作品になっていると思います。ただ、映画の世界観をより深めるためにも、まず原作漫画をオススメ。

アニメ映画を手がけた宮崎駿の感じた作品の原石となる魅力を見つけられるはずです。

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