心優しかった少女は、家族を全員殺され、殺人鬼と化す……! 2018年に映画化された押切蓮介の名作サイコホラー漫画『ミスミソウ』。いじめによって変わり果てた少女の復讐劇です。読み進めるほどに辛いのに、なぜか止められない、名作鬱漫画としても名高い本作。 今回はその魅力を壮絶な欝シーン、名シーンから最終回までご紹介!ネタバレと過激なシーンの描写がありますのでご注意ください。
押切蓮介の代表作のひとつ『ミスミソウ』まだ幼い少女・春花が閉鎖的な田舎で凄惨ないじめを経験。何と家族まで殺されしまい、そこから復讐の鬼と化してしまうというストーリーです。
2018年には映画化されたことでも知られています。ちなみに注目の主人公役は現役女子高生の山田杏奈。表情に雰囲気のある彼女は、春花の闇をどんな風に演じてくれるのでしょうか。
そんな押切蓮介の代表作とも言える本作は鬱シーンだらけ。トラウマ漫画とも呼ばれ、読めば読むほど醜い人の心がこれでもかと描かれ、心理的、肉体的にも読者までをも追い詰めていくのです。
この記事ではそんな本作の見所を最終回までご紹介!苦しいのに読むのをやめられれない、ハードな展開の魅力をお伝えできればと思います。ちなみにネタバレも含むので未読の方はご注意ください。
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- 著者
- 押切 蓮介
- 出版日
主人公の春花は東京から過疎化が進む田舎町に引っ越してきた中学生。しかしそこは田舎特有の村意識が強く、同級生たちはよそ者の彼女にひどいいじめをしてきます。
机に刻まれた暴言、見て見ぬ振りをする教師。かなり過酷な状況ですが、春花は唯一彼女の味方をしてくれる同級生の相場と、両親、妹の4人家族がいてくれるおかげであと少しだと耐えられてきました。
しかし熱を出したことをきっかけに、卒業目前にして春花は不登校という道を選びます。最後まで耐えきれなかったものの、大好きな家族と一緒にすごし、相場とも想いを通わせる春花は、平和な時間に癒されていきます。
しかしその裏では次のいじめの標的になった流美が春花に逆恨みの気持ちを強めていました。そしてある日、ついに彼女は他のクラスメイトたちとともに行動を起こすのです。
その行動から、春花の復讐の日々が幕を開けるのです……。
東京からやってきて、イジメの標的にされてしまう少女です。彼女が学校からいなくなったことで、再びイジメの対象になったクラスメイトの流美から逆恨みされ、愛する家族と暮らす家に放火されてしまいます。
事件の前は穏やかなで、両親や幼い妹を大切にする思いやりにあふれた性格。クラスメイトたちによる残虐な放火事件により、愛する家族を失ったショックから彼女は復讐の鬼と化したのでした。
カメラが趣味で、冒頭では道端で三角草(ミスミソウ)を撮影しているところが描かれています。
クラスで唯一、春花のいじめを止めようとかばってくれる少年です。他のクラスメイトに比べて精神年齢が高く、大人びた発言が多くみられます。
春花に思いを寄せていて、彼女を精神的に支えていく存在となるのですが、実は彼にはある闇の部分が隠されていて……。
- 著者
- 押切 蓮介
- 出版日
- 2008-08-18
春花が転校してくるまで、イジメの標的になっていました。一時的に春花に注目が集まったおかげで、イジメられずに済みましたが、彼女が不登校になったことで再びイジメられるように。
いじめの主犯格である小黒に長い黒髪を切られ、それ以降短い髪型をしています。春花への恨みをつのらせ、ついに凶悪な行動に出てしまうのですが……。
スクールカーストでいえば常に上位にいるタイプで、非常に気が強く性悪な性格です。周囲の女子を従えて、イジメをエスカレートさせていきます。
担任の女性教師のことを「キョンちゃん」と呼び、友達同士のような会話をしているシーンも。この様子から、担任もイジメを咎めるのではなく、彼女を敵に回したくないと考えるほど影響力のある生徒であることがわかります。
春花たちのクラスの担任を務めています。生徒の言いなりになっており、イジメが起こっていることを知っているにも関わらず、黙認している最低の教師。
生徒の言いなりになっていて、担任と生徒という関係ではなく、友達同士のような関係を築いてしまっています。
春花の父が「自分の娘がイジメを受けているのでは」と相談に行ったときには、「もうすぐ廃校になるから、荒波を立てたくない」と言い切っています。生徒を守る立場であるはずの教師による裏切り。教師の資質は皆無であるといえるでしょう。
春花が相場とふたりで出かけた帰り道でいよいよ物語が動き出します。幸せな気持ちに浸っていた彼女が見たのは、燃え盛る我が家でした。
家まで全速力で駆けつけた彼女でしたが、両親は死亡。妹も生きてはいるものの、真っ黒に焦げ、一瞬人とは思えないほどの見た目になってしまっています。
更に翌日流美から投げられた言葉は「バーベキューの焼き具合はどうだったの?」という人間味のないもの。その言葉を聞いて、春花は何も言わないものの彼女を睨み付けます。
その決意をした春花は今までの優しい表情から一変、目を見開き、怒りに震えて夜叉のような顔になっているのです。
それは以前相場が彼女に似ていると言ってくれた、はにかみ屋という花言葉のミスミソウからはほど遠いもの。優しい少女が殺人鬼となってしまった決定的なシーンです。
事件以来生気がなく、抜け殻のように過ごしていた春花。事件を聞いて東京から駆けつけてきた祖父の声にも反応しません。
そんな中、もの言わぬものの恐ろしい表情をしていた春花に、事件の犯人のひとりが自分だと気づかれたと焦った流美は春花を学校の裏手にある廃材置き場に呼び出します。その他放火に関わった数名のクラスメイトと彼女を取り囲み、焼身自殺をすれと迫るのです。
しかしちょうどそのタイミングで校内放送で呼び出された流美はその場を離れます。その間、待ちきれなくなった吉絵という少女は、何の反応も示さない春花を「お前の母親の焼け死ぬとこはすごかったぞ」と煽るのです。
その言葉に続いて命令された少女が春花に灯油をかけます。そしてついに彼女に火がつけられそうになったその時、春花は動き出すのです。
彼女は手に持っていた釘で次々と同級生たちの目を突き刺します。予想外の行動に呆気にとられる彼女たち。
隠し持っていたナイフで応戦しようとする吉絵ですが、春花の勢いは止まらず、鉄パイプで彼女を殴ります。何度も、何度も、執拗に。
そして春花は吉絵のナイフをとると残りの少女たちも追い詰め、殺していくのです。
そのシーンは春花が今まで廃人のように静かだった分、恐ろしさを際立てます。しかも描写がかなり残忍で、春花の内に秘めた悲しみの暴力的なまでの強さが感じられます。
変わってしまった春花が初めて復讐を遂げた壮絶なシーンです。
ある日、放火犯のひとりで、春花の母親に直接手を下した秀利の前に春花が現れました。彼は恐怖しますが、言葉をかけても何の反応もない彼女にいらだち、突き飛ばすのです。
と、その時彼の腹部に強い痛みが走ります。滲んだ血に目をとられていると、今度は間髪入れずに頬が切りつけられていました。
おそれをなして逃げ惑う秀利。声をあげようとしますが、深く切りつけられた頬の怪我のせいで声を出すたびに激痛が走り、傷が広がっていきます。そして逃げる途中で井戸に落ちてしまうのです。
秀利は助けが来なかったらとおののき、微かな声を振り絞りますが、しんしんと降る雪がその音を無情にも消すのでした。
修羅場から家に帰ってきた春花は何も言わずに床に伏せります。そんな時に相場が彼女の家を訪ねてきました。
春花の代わりに祖父が相場を家に通し、いい機会だからとふたりは腰を据えて話をします。そこで無理に笑う春花をかわいそうに思う祖父の胸の内を聞いた相場はこう返します。
「…春花さんと約束したんです。春になったらミスミソウを見に行こうって…
はにかんだ顔が可愛くて「はにかみや」って、花言葉にかけて
ミスミソウみたいだと、からかったら恥ずかしそうに笑ってました
…あの笑顔…もう一度見たいですよ」(『ミスミソウ』2巻より引用)
そんなふたりの繋がりを知った祖父は春になったら春花を連れて東京に帰ることを彼に打ち明けます。そして相場にこう頼むのです。
「君と春花を離すのは忍びない
…すまない相場君……卒業までの間、春花を頼む」(『ミスミソウ』2巻より引用)
それに対してまっすぐな瞳で「はい」と答える相場。その様子を聞いていた様子の春花は複雑そうな顔を見せます。
春花の唯一の支えである相場ですが、実は彼にも秘密が。そして一見心温まるこのシーンも、その秘密を知ると、より恐ろしいものになるのです。
復讐を着々と進め、その間に同士討ちや自滅で倒れてしまった少年少女たちもおり、春花の復讐も終わりに近づいてきていました。
最終回周辺でまだ残っていた同級生は流美と相場。
ある日、春花が妹の祥子の病室にお見舞いに行った時、そこに流美が待っていました。彼女が持っていたのは包丁とライター。病室には灯油がまかれていました。
「ふふ…二度も妹を焼かれたくはないでしょ?
これ以上焦がしたら、もう食べられなくなっちゃうよ
アンタの大切なバーベキュー」(『ミスミソウ』3巻より引用)
1巻で火事のあと、流美に言われた言葉を思い出す春花。
春花は彼女に向かって飛びかかります。しかし流美に妹の前でやるのか、と問われ、躊躇。そのまま医者たちが入ってきてその場はことなきを得ます。
医者は春花に祖父が誰かに殴られ、病院に緊急搬送されたということを伝えます。流美は今までここにいた。だとすれば誰が祖父を襲ったのか。
ふと周囲を見回すと、流美と入れ替わりに病室に入ってきた相場がいません。
彼女は病院を出て、相場を追いかけます。そして手を見せてくれと言うのです。
何も答えない彼の手を無理やり見ると、そこには何者かを殴った痕がありました。しかし相場は予想外の言葉を口にするのです。
それは、この殴った痕が自分の祖母へのものだということでした。
春花と一緒に上京することを認めない彼女を殴った痕だから、決して春花の祖父を殴ったものではない、と。
春花は唯一の支えであった相場さえもが内面に暴力性をはらむ人物だったと知って愕然とします。
実は相場は暴力が絶えない家庭で育った少年。荒れ果てた状況ながらもお互いにひどく依存している両親を見て、彼らを否定しつつも自分も暴力をふるうようになってしまったのです。
どうにか暴力をふるう父親を家から追い出したものの、かつては守りたいと思っていた母親を自分が襲うようになってしまっていました。
そして今回、自分の本性を知り、母親と同じように自分から離れようとする春花に迫ります。
今まで家族である祖父以外に、唯一頼れる存在の思いびとまでが狂ってると明かされた時の衝撃は大きいもの。
それまで全面的にいい人オーラが漂っていた相場に裏切られたショックは読者にもダメージを与えてきます。
ふたりがそんな話をしているところに、流美がやってきます。あたりは人気のない林。彼女は春花をたきつけるように、始まりのあの火事の顛末について、楽しそうに、そして詳細に語ります。
我慢しきれなくなった春花は病室での時のように飛びかかりますが、それを流美は計算済み。隠し持っていた包丁を春花の腹に突き立てるのです。
しかしそれを見ていた相場が春花に加勢。流美を何度も殴りつけます。呆然としながらそれを見ていた春花の目に映ったのは、相場のカバンから落ちた数々の写真。そのなかにあるものを見つけてしまうのです。
それは焼け焦げた父と妹の写真。
火事のなかを家に入って助けにいってくれた相場。しかしそこで彼は助けることをする前に、写真を撮っていたのです。
弁解しようとする相場。しかし春花は一声大きく叫ぶと、自分のお腹に刺さっていた包丁を彼に向けて振りかざします。
相場はとっさに流美を盾にし、彼女の首に包丁が刺さることで難を逃れます。
そして自分が守ると言ったのに歯向かってくるなんて、と春花を殴り続けるのです。
「俺が守るっていったじゃねーかよお!!野咲ィッ!」(『ミスミソウ』3巻より引用)
春花の意識が薄れていきます……。
彼女が目を覚ますと、相場は近くでカメラをかまえながら彼女にもう一度自分と歩んでいくと約束してくれ、それから一緒に病院に行こう、と言います。
春花は近くにミスミソウが咲いているのを見つけます。彼と一緒に見た思い出の花。かつての言葉が読者にも思い出されます。
「三角草はお前みたいだ
『はにかみや』
この花の花言葉だ…
はにかむと意外とかわいい『はにかみや』」(『ミスミソウ』1巻より引用)
そしてこう振り返って笑った相場の姿……。
切ないですね……。この時はまさかこんな結末になるなんて。
相場がカメラのレンズをのぞいたその時、春花はボウガンを放ちます。それはかつて他の同級生が春花を退治するために使い、そのまま置き去りにされたものでした。
その矢はカメラを射抜き、そのまま彼の目に突き刺さります。
倒れる相場。
春花はどうにか立ち上がり、吹雪のなかを歩き始めます。そして1話で祥子からもらったネックレスを見て、こう呟くのです。
「しょーちゃん」(『ミスミソウ』3巻より引用)
復讐が、終わりました。
このあとの最終回のラストシーンはとても静かなもの。そして救いがありません。
どうしようもない気持ちにさせられる『ミスミソウ』の結末はぜひご自身の目でご覧ください。復讐の熾烈さと最後の穏やかさが鮮やかな対比をなしています。
ストーリーは再び春がきて、幕を閉じます。
- 著者
- 押切 蓮介
- 出版日
- 2009-06-17
いじめが発展して家族を殺されるという壮絶な設定の『ミスミソウ』。2018年4月には山田杏奈主演で映画化もされました!
過激すぎるストーリーとその深い描写と心温まるシーンが更に真に迫るものにしていきます。
その怖さ、良さは映画はもちろんですが、やはり原作漫画で味わうのが格別!ぜひ春花の物語の結末を確認してみてください。
苦しいのに読まずにはいられない欝漫画の魅力を体現した名作に引き込まれること間違いなしです。
押切蓮介の作品を紹介したこちらの記事もおすすめです。気になる方はぜひご覧ください。
押切蓮介おすすめ漫画ランキング10作!ホラーでも感動漫画でも人の底を映す
シュールな絵柄と独特のセンスで描かれる押切蓮介の作品は、どれも個性的。ホラーギャグを中心に描かれる物語の数々は、押切にしか出せない味わいに満ちています。具体的にどんな味の作品なのでしょう。今回は押切作品をランキング形式でご紹介していきます。