国際連合の専門機関として設立された「WHO」。世界の人々の健康を保つことを目的に掲げています。この記事では、成り立ちや活動内容、大きな功績とされている天然痘の撲滅、そして問題点などをわかりやすく解説していきます。あわせて、理解を深めることができるおすすめの関連本も紹介するので、チェックしてみてください。
WHOとは「World Health Organization」の頭文字をとった略称です。日本語では「世界保健機関」と訳します。
1948年に、国際連合の専門機関として設立されました。同年に制定された「WHO憲章」には、同機関を設立した目的や目標について、前文に次のように記されています。
健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。
人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。
世界中すべての人々が健康であることは、平和と安全を達成するための基礎であり、その成否は、個人と国家の全面的な協力が得られるかどうかにかかっています。
(中略)
すべての人々の健康を増進し保護するため互いに他の国々と協力する目的で、締約国はこの憲章に同意し、国際連合憲章第57条の条項の範囲内の専門機関として、ここに世界保健機関を設立します。
(日本WHO協会HPより引用)
ここに記されているように、WHOは健康を「肉体・精神・社会的に満たされた状態」と定義。この状態に恵まれることは基本的人権のひとつであり、なおかつ世界の平和と安全を達成するための基礎要件であるとみなしています。
そしてこれらを達成するためには国際社会の全面協力が不可欠であるとし、専門機関としてWHOが設立されることになりました。
2020年現在、WHOには日本を含む194の国と地域と、2つの準加盟地域が加盟しています。本部はスイスのジュネーブ。常設されている事務局の局長がWHOのトップです。事務局長はすべての加盟国と地域が参加する総会で選出されることになっています。
またすべての加盟国と地域は、アフリカ、南北アメリカ、東南アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋という6つに分けられたいずれかの地域の事務局に属し、WHO憲章が掲げる目的を実現するためにさまざまな活動に従事しています。
すべての人が、肉体的にも精神的にも社会的にも健康であるために、さまざまな活動に取り組んでいるWHO。
たとえば2020年1月から世界的に問題になった「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」のような感染症が発生した際、抑止の先頭に立つのがWHOです。情報共有、勧告の作成、国際協力のために必要な優先事項の確定など、指導的な役割を果たすことになっています。
また感染症の流行を防ぐため、WHOは感染症・風土病の撲滅に向けた取り組みも進めています。1970年代に天然痘の撲滅に成功したことは、WHOの大きな功績のひとつでしょう。医薬品の適切な供給・管理をおこなうための対策や、ワクチンなど研究開発の振興にも力を注いでいます。
さらにWHOの活動は、疾病対策以外にも、安全な出産・家族計画の推進、タバコやスマートフォンなど健康被害に関する啓蒙活動、自然災害や紛争時の緊急人道援助など多岐にわたります。このようにさまざまな活動を通じて、世界中の人々の健康の確立を目指しているのです。
WHOの感染病対策のなかでも、特筆すべき功績として知られているのが天然痘の撲滅です。
天然痘は「疱瘡(ほうそう)」とも呼ばれ、紀元前からしばしば流行をくり返し、世界中で多くの死者を出してきました。その一方でヒト以外には感染しないこと、18世紀に「種痘」という予防接種が開発されたことなどから、原理的には撲滅が可能であると考えられていたのです。
1958年、WHOの総会で、ソ連の生物学者であるヴィクトル・ジダーノフが提案した「世界天然痘根絶決議」が全会一致で可決されたことをきっかけに、天然痘撲滅に向けた取り組みに着手。1970年代には流行地域で徹底的に種痘をする「封じ込め政策」を実施して、患者数は激減していきました。
そして1977年を最後に天然痘の患者は確認されなくなり、1980年にWHOは天然痘の撲滅宣言をしています。
天然痘は人類が撲滅した最初の感染症となり、これを主導したWHOの活動も高く評価されることになったのです。
一方でWHOは、いくつかの問題点も指摘されています。
たとえば2009年から2010年にかけて、豚由来の新型インフルエンザがヒトにも感染し、世界各地に拡大した際のこと。
WHOは「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と認定し、2010年6月には警戒水準を「フェーズ6」に引き上げ、「パンデミック(世界的な流行)」の発生を宣言しました。
ところがこのインフルエンザは爆発的な流行はせず、結果的に被害も通常のインフルエンザと大差ないものにとどまりました。それ自体は歓迎すべきことですが、EUの主要機関のひとつである「欧州議会」から、WHOの意思決定に製薬会社の意向が大きく影響した可能性があると指摘されたのです。
WHOはパンデミック宣言と並行して、製薬会社や科学者と連携し、「新型インフルエンザ」のワクチン開発に取り組んでいました。治療のためには「2回のワクチン接種が必要」と発表し、各国もこれにもとづいてワクチンを調達しています。
しかし実際には、ワクチンは1回の接種で十分な効果をあげることがわかったのです。WHOが製薬会社や科学者と癒着していて、それが一連の動きに悪影響をおよぼしたと考えられました。
また2020年に流行した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」に関しても、WHOは発生源である中国から多額の資金拠出を受けていることから、対策が後手に回ったのではないかと批判する声もあがっています。
このように、WHOはさまざまな利害関係のうえに成り立っていて、その活動が完全に公正であるとは言い切れない問題点があるのです。
- 著者
- 植木 安弘
- 出版日
- 2018-02-13
本作は、国際連合に関わる必要事項を網羅し、その全体像をわかりやすくまとめたものです。
WHOは、国際連合の専門機関のひとつで、国連全体の目標である「国際社会の平和や安全」の確立とも密接に結びついています。まずは国連がどのような組織なのか、どんな役割を果たしているものなのか把握することは、WHOの理解にも繋がるでしょう。
- 著者
- 樋口進
- 出版日
- 2017-12-26
2018年6月、WHOは「ゲーム依存」を新たな疾病に認定しました。その背景に、スマートフォンやタブレットが普及したことで問題が深刻化していることを挙げています。
本作は、近年世界的に関心が高まっているゲーム依存について、そのメカニズムや治療法、依存症患者の家族への提言などを盛り込んだものです。特にスマートフォンでやるゲームは、場所を問わずできることなどから他の依存症と比べて進行が早く、重症化しやすいんだとか。
作者は、WHOと共同で「疾病化」を主導した、ゲーム依存治療の第一人者。まずは本作を読んで、そのリスクを知ってみてください。