セッちゃんは私のヒーロー【山中志歩】

更新:2021.4.21

昨日正しかったことが今日正しくなくなったり、笑えてたことが笑えなくなったり、すごい勢いで社会が変わっていって、私はまだついていけてなくて、自分の一番大好きなものが取り上げられてしまったと感じる今日この頃ですが、お元気ですか。

山中志歩プロフィール画像
女優
山中志歩
1993年生まれ、三重の山奥ですくすく育つ。高校で演劇部に入り、大阪芸術大学進学後も学内外の公演に多数出演。2016年より上京。青年団所属。現在までに、名だたる演出家の作品に出演し存在感を示している。本連載は個性派女優・山中志歩が、演劇愛・読書愛に溢れた内容でオススメの本を紹介するコラムです。 https://www.ginacm.com/shiho-yamanaka/
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この間、川沿いを友達と二人で歩いた。

友達は物知りで、いちいち止まっては、雑学を教えてくれる。

「この道は練馬区まで続いてるらしい」

この道を通って練馬区まで行くことって一生ないだろうな、練馬区に用事ないしな、と思った。ふーんとだけ答える。

その日はやけに静かで、ここから見える中学のグラウンドには誰もいなくて、そうそう、なんでかっていうと、新しい病気が流行っていて、テレビでは毎日偉い人たちが何かを言ったりしていた。何を言ってるのか私には理解できなかったけれど、お父さんとお母さんはそのことで朝、喧嘩をしていたのだった。

桜が咲いていた。

友達は押していた自転車を止め、ベンチに座り、鞄の中から大きなスケッチ帳を取り出した。

「ずっと家の中って苦手なんだよね」と友達は言った。

何を描いてるのか覗き込みたかったけど、やめた。この前、覗き込んで不機嫌にさせてしまったから。

鳩がすごく近くまで寄ってきた。試しに手を出してみたけど、全く逃げなかった。

私は「このままずっと学校なんてなくなったらいいのにね」と言った。

友達から返事はなかった。

マスク越しだったから、声が届かなかったのかもしれないけど、二回言うほどでもないなと思って、そのままにした。

鉛筆の音が聞こえる、私は冷たくなった小さいペットボトルのお茶を二口飲んだ。

「ごめん、そろそろいこうか」と友達が立ち上がる。

私はこの子が好きかもしれないと思った。

「歩いてないと寒いね」と答えた。

「体操服の上着ならあるけど着る?」と友達は言った。

何で持ってんだよ、と笑って、借りた。

セッちゃん

著者
出版日
2018-11-12

セッちゃんは、2、3年前にネット上で連載されていた漫画です。

連載されていた頃、私はすごく落ち込んでいて、ずっと泣いていました。でも、この漫画を読むと少し心が軽くなって、自分を肯定してもらえてる気がしました。

セッちゃんは私のヒーローです。この子の言葉一つ一つに救われていました。

大島智子さんの世界の切り取り方や社会と個人の距離感や密度が絶妙で、絵のタッチもかわいくて、言葉と全部はまっていて、好きです。最高です。人と背景のバランスが本当に素敵です。

セッちゃんとあっくんが座り込みをするシーンなんかは、何度見ても泣ける。

コロナで家から出れない日が続いていて、相変わらず大人たちはくそだし、たまに外に出ると皆んな普通に散歩とか遊んだりしてて、ネットと現実の差に辟易するし、一人暮らしだから永遠に一人だし、寂しいって気軽に言える人もいないし、やること全部飽きたし、助けてって思ったときにセッちゃんが読みたくなって、キンドルで買いました。

しんどいわって思う人は読んでみてください。

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