事実は小説より奇なりという言葉がありますが、実際に起こった事件だとは信じたくないような凶悪事件や犯罪が、現実に起きています。事実をありのまま伝えているからこそ恐ろしく、しかし暗い好奇心も満たしてくれるおすすめのノンフィクション作品を紹介します。
その男は「化け物」でした。内縁の妻に命じて、妻の両親、妹夫婦、甥、姪の6人を同じ部屋に監禁します。身体に電流を流し、睡眠や食事、排泄の制限をして虐待。奴隷のように扱い、家族同士で殺しあうよう命令するのです。
虐待や死体の後始末は、妻や妻の家族の仕事。自らが手を汚すことは一切ありません。
- 著者
- 豊田 正義
- 出版日
- 2009-01-28
2005年に刊行された、ノンフィクションライター豊田正義の作品です。
2002年3月頃に発覚した、北九州での監禁連続殺人事件。当初は、男と妻2人の犯行とされていました。しかし妻もまた、男から虐待を受けていたことが後に明らかになっています。
犯人は、明るい人柄と爽やかな容姿、巧みな嘘で詐欺を働く根っからの犯罪者。殺人も初めてではなく、以前殺害した男の小さな娘を拉致し、妻の家族たちがいる同じ部屋に閉じ込めるのです。
本作では、虐待を受けて共犯となった妻に焦点を当て、「なぜDV被害者は加害者に加担してしまうのか」という疑問に正面から挑んでいます。自分の家族を殺すほどの恐怖とその心理とは。犯人像と事件の全貌を明らかにした渾身のノンフィクションです。
2009年、木嶋佳苗という女性が、婚活詐欺と3人の殺人容疑で起訴されました。SNSで知りあった男性を誘い出し、おいしい手料理をふるまって、甘い言葉で夢をささやいて金をせびり、最後は殺害する……。
しかし彼女は若くなく、ひどく太った不美人な容姿をしています。事件を知った世の人々は、「なぜこんな女に、男たちは引っかかったのだろう」と驚きました。
- 著者
- 北原 みのり
- 出版日
2012年に刊行された、作家でフェミニズム運動家もしている北原みのりの作品です。作者は、徹底した女性目線で100日にわたる裁判を見守り続けました。
木嶋被告は、「女性経験が少なく、夫に尽くす心やさしい良妻」を夢見る男を次々と釣り上げていきます。金さえ手に入れればば、あとは練炭を焚いて中毒死させるだけ。彼女の幼少期の親子関係を辿り、裁判の様子を克明に描いていきます。
木嶋佳苗という毒婦がどのように誕生したのか、なぜ男たちを虜にできたのか、その真相に肉薄していくノンフィクション作品です。
2010年夏、大阪市内のマンションで、3歳の女児と1歳9ヶ月の男児が死亡しているのが発見されます。母親が子どもを放置して男と遊び回っていたのが原因でした。
子どもたちは猛暑に耐えかねて裸になり、堆積したゴミの上で重なるようにして死んでいました。
- 著者
- 春, 杉山
- 出版日
2013年に刊行された、フリーのルポライター杉山春のノンフィクション作品です。作者は、母親本人、彼女の家族や施設の担当者などに取材を重ね、なぜ児童虐待が起きるのかを追求していきます。
調べていくと、犯人となった母親もまた、子ども時代に虐待を受けて育ったことが判明。また育児放棄もされていました。結婚していた際は、夫も両親も義父母も育児に協力してくれなかったそうです。
母親が子ども時代に味わった、家庭内の軋轢。だからといって虐待をしていわけではありませんが、人に頼ることを知らずに育った女性に対し、世の中は最後まで冷たかったことに恐怖すら覚えるルポルタージュになっています。
2008年、当時25歳だった加藤智大が、インターネット上に予告をしたうえで、人が往来する秋葉原の交差点に2トントラックで突っ込みました。車を降りた加藤は、近くにいた通行人や警察官を短剣で切りつけ、17人が死傷する通り魔事件を起こします。
犯人には友人や女友達も複数おり、職場での人間関係も良好。明るくコミュニケーション能力の高い人物だったのです。
- 著者
- 中島岳志
- 出版日
2011年に刊行された、中島岳志のノンフィクション作品です。学者らしく、自分の意見を挟まずに緻密に調べた事実を淡々と書き連ねていくスタイルをとっています。
加藤の狂気の出発点は、両親、特に母親から受けた虐待に近いしつけでした。母親は優秀な弟にのみ愛情を注ぎ、少年の心は歪んでいきます。周囲の人間関係は良好でしたが、本当に信頼できる人間は見つからなかったそう。犯行にいたるまでのさまざまな要素が、丹念な取材で明らかになっていきます。
自分ではなく他人に向いた激しい怒りの感情。犯人の凶行は絶対に許されることではありませんが、その割り切れない思いと、インターネット上と現実世界の関係を考えさせられる作品です。
1979年から1996年にかけて、栃木県と群馬県の県境で4人の幼女が殺害され、1人の幼女が行方不明になる事件が起こりました。うち1件は「足利事件」と呼ばれた冤罪事件です。
濡れ衣を着せられた菅家さんは17年間も収監された一方で、犯人は野放し状態。警察捜査のいい加減さに気づいたひとりのジャーナリストが立ち上がります。
- 著者
- 清水 潔
- 出版日
- 2016-05-28
2013年に刊行された、清水潔のノンフィクション作品です。「新潮ドキュメント賞」「日本推理作家協会賞」を受賞しました。
作者は毎日のように現場に通って聞き込みを続け、菅家さんを犯人にしたい警察から無視されていた、真犯人の目撃証言に行き当たります。
「あまり若くないルパン三世似」の男の足取りを追い、とうとう犯人を見つけた作者が、本人と対峙する場面は圧巻。その記者魂と、過ちを認めずに真犯人の存在を無視し続ける警察に、読者は激しく感情を揺さぶられるでしょう。
雑誌記者のもとに、死刑判決を受けた元暴力団組長の後藤良次から1通の手紙が届きます。
それは逮捕された事件とは別の殺人2件と、死体遺棄事件1件に関わったという告白でした。しかも首謀者は逮捕されることなく、今も娑婆でのうのうと暮らしているというのです。
実態を探っていくと、この「上申書殺人事件」は、人命を金銭に換えていく実におぞましいものでした。
- 著者
- 「新潮45」編集部
- 出版日
2007年に刊行された、月刊誌「新潮45」編集部による作品です。ベストセラーとなり、2013年には映画化もされています。
後藤が「先生」と呼んでいた三上静男は、病気や金銭問題を抱える人に巧みに取り入り財産を奪う整理屋。生命保険に加入させ、殺人の実行は後藤に任せ、犯行を重ねていきます。
先生だけが無傷で、自分は死刑になる……後藤は獄中から先生を追い詰め、記者は丹念な取材記事を世に発表することで警察を動かし、首謀者の逮捕にいたりました。
犯行の残酷さと周到さに驚愕し、記者の取材力と執念に脱帽する、迫力のノンフィクション作品です。