公務員といえば、不況による影響を受けない安定性と、高い年収、世の中に貢献できているという点で魅力のある職業です。2つある公務員のうち、国家公務員は政策立案以外の職務もこなし専門性が必要とされる職業です。 資格不要で、大学院卒・大卒・高卒の人が受験可能。国家公務員の中には学生の立場で給料がもらえる職種もあります。社会人からの転職は、年齢制限と受験資格をクリアしていれば問題ありません。 今回は国家公務員の幅広い職種や業務の内容を紹介します。国家公務員の試験にむけた書籍もいくつかご紹介するので、国家公務員を目指す方はぜひ勉強の参考にしてみてくださいね。
日本の公務員は日本国憲法により規定されています。日本国憲法「第三章 国民の権利及び義務」の第15条には下記のような記載があります。
すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない
公務員は国民全体の利益のために働く者であり、一部の者だけに奉仕してはならないといった内容になっています。
さらに国家公務員には国家公務員法というものが存在します。この法律は、国家公務員が職務の遂行をするにあたり適用すべき基準を設けるためにつくられました。その国家公務員法によれば、国家公務員は「一般職」と「総合職(特別職とも呼ばれる)」の2つに分けられます。
第二条 国家公務員の職は、これを一般職と特別職とに分つ。
2 一般職は、特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。
3 特別職は、次に掲げる職員の職とする。
一般職には国家公務員法が適用されるのに対し、総合職は国家公務員方が適用されません。また一般職とは具体的に、一般的な行政事務に従事するほか、警察官や刑務官、外交官、税務職員、海上保安官などがあります。
一方、総合職は、かなり職の内容が異なってきます。総合職には内閣総理大臣や国務大臣などの政治的な国家公務員が含まれ、ほかには裁判官や裁判所職員、防衛省の職員なども該当します。
前述したように国家公務員には一般職と総合職、そして専門職の3つに分けられます。一般職の職員は主に1府12省庁で働きます。
1府:内閣府
12省庁:総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、国家公安委員会(警察庁)
◾️一般職
一般職の仕事は地味だと言われています。細かな業務内容は入る省庁により異なりますが、一般的には特別職が企画・立案した政策を運用してくための事務作業をおこないます。1つの省庁に入った後は省庁内での移動があるのみなので、特定分野の経験を積み、専門知識をもったスペシャリストとして働くことが可能です。
◾️総合職
総合職はキャリアと呼ばれる人たちのこと。国の政策の企画・立案や法案作成、予算編成などに携わります。働き方も一般職とは異なり、各省庁を短期間で移動しながら幅広い知識と経験を積んでいき、ゼネラリストとして職務を果たしていきます。将来の幹部候補生として採用されているため、昇給・昇進も一般職より早いことが特徴です。
◾️専門職
一般職や総合職とは違い、採用時にあらかじめ採用先が決まっている職として専門職があげられます。一般職よりさらに多くの専門的な知識を備える必要のある職種です。「国税専門官」や「財務専門官」、「法務省専門職員」など複数の専門職がありますが、一般的には法律関係の業務がメインとなります。採用はエリアごとなので、一般職とも総合職ともまた違った働き方ができます。
国家公務員の給料は法律により定められており「俸給表」の通りに支給・昇給していきます。
大卒程度試験の概要によると、初任給は下記のようになっています。
一般職の行政職員:21万8640円
総合職の行政職員:22万4040円
そのほか、研究職員や警察官などの職種、院卒程度試験合格者の場合など初任給には多少の違いがみられます。
また人事院が公開した「平成30年国家公務員給与等実態調査の結果」によれば、平均給与月額は41万7230円でした。俸給表に基づいた一般職の年収は600万〜700万円が平均値だといわれています。
総合職は「特別職の職員の給与に関する法律」が定める通り、別基準で給与月額が決められています。いくつか例をあげると、人事会など常勤の委員などは91万3円、検査官や人事官などは119万9円と俸給月額が決まっており、その上に地域手当(20%)などが加算されます。
そのため年収は1500万を優に超える場合が多いです。一般職と総合職では仕事内容も、給与額も大きな違いがあるんです。
参照:内閣官房
一般職と総合職では受験する試験が異なります。一般職の場合は国家公務員採用一般職試験(高卒・大卒)を受け、総合職(大卒・院卒者)の場合は国家公務員採用総合職試験を受けます。
高卒者・大卒者が受験可能な試験です。例年4月に申込受付が始まり、6月、7月と試験が実施されます。合格発表は8月なので、合格を掴み取るまで少し時間がかかります。
試験種目や手法は、多肢選択式と記述式、論文、さらには面接を通した人物試験があります。公務員としての基本的な知識や判断力以外に、各試験の区分に応じた専門的知識を問われる問題も出題されます。
例年、採用予定人数の7倍ほどの応募があり、2019年の倍率は3.9倍。超難関試験のひとつといえるでしょう。
ちなみに男女比率でいえば基本的には男性が多いですが、2019年においては合格者に占める女性の割合が37.3%と過去最高なりました。女性の社会進出を応援したい、女性の働き方を変えていきたいと願う行動力ある女性が増えているからかもしれません。
総合職試験は、大卒者・院卒者のみ受験が可能です。一般職よりさらに難関な試験として有名です。試験手法は一般職試験と大体同じですが、違うのは試験科目の内容と、そのなかに英語試験が入っていることでしょう。
英語試験では自身が得意な外部言語を選択し、その言語を使った論文に関する問題が出題されます。その難しさから受験者は数年かけて受験対策をして試験にのぞむのだとか。
そもそも採用予定人数の枠が少ないため倍率は高いです。2019年の大卒程度試験は受験者2893人に対し、合格者は148人、倍率は19.5倍と人事院が発表しています。その合格者のうち216%にあたる32人が女性合格者です。
将来の幹部候補生、そして国の政策に直接関われる仕事という点から希望する学生は多いですが、総合職試験の合格は選ばれし者のみがくぐれる狭き門のようですね。
参照:国家公務員採用試験情報
一般職・総合職の他、大卒・院卒者向けの専門職試験もあります。受験可能な試験は下記の通りです。
皇宮護衛官採用試験(大卒程度試験)
法務省専門職員(人間科学)採用試験
財務専門官採用試験
国税専門官採用試験
食品衛生監視員採用試験
労働基準監督官採用試験
航空管制官採用試験
海上保安官採用試験
試験は一般職や総合職のものとはまた違った専門的な知識が問われます。2019年に実施された試験結果によると、皇宮護衛官採用試験の倍率が最も高く354倍、次いで労働基準監査官が61倍、財務専門官が56倍という数値になっていました。
試験の内容が難解なことはもちろんですが、専門職はもともとの採用予定人数枠が少ないため、それにともない倍率もあがると考えられます。
国家公務員専門職の中には高卒程度だけの枠で採用試験をおこなっています。高卒で国家公務員専門職を考えている人が対象です。ただ大卒・院卒者とは受けられる専門職が少し異なります。
皇宮護衛官採用試験(高卒程度試験)
刑務官採用試験
入国警備官採用試験
税務職員採用試験
航空保安大学校学生採用試験
気象大学校学生採用試験
海上保安大学校学生採用試験
海上保安学校学生採用試験
海上保安学校学生採用試験(特別)
また試験内容として異なるところは、受験する試験によっては体力検査があることでしょう。公務員としての基礎知識を持ちながら、護衛にあたったり、警備にあたったりと体力が必要とされる場面もあるからです。
倍率は各試験によって異なりますが、大卒・院卒者試験と同じく皇宮護衛官試験の倍率は最も高く約20倍、刑務官試験は9.7倍、税務職員試験は4.6倍となっていました(2019年)。
刑務官に関しては近年申込が倍増しており合格が難しくなりつつあります。しかしそれも年によって大きく変動するため、あまり気にせず試験にのぞむのがよいでしょう。
試験概要に記載されている専門職の初任給の額は下記の通りです。
皇宮護衛官、刑務官、入国警備官:20万8080円
税務職員:16万8672円
航空保安大学校学生、気象大学校学生:15万9636円
海上保安大学校学生、海上保安学校学生:15万600円
少しばらつきがみられますが、大体15万〜20万円となるようです。年収はこの金額に期末手当・勤勉手当(いわゆるボーナス)が約4.5カ月分と、その他手当が支給された額となり300万〜350万円ほどと考えられます。
また一般職(高卒程度試験)と一般職(社会人試験・係員級)の初任給の額は下記の通りです。
一般職(高卒程度試験):18万720円
一般職(社会人試験・係員級):約20万6000円〜27万2000円
一般職(社会人)の額は30歳で採用された場合の例ですが、採用する前に従事した職務の内容や期間により初任給は異なります。ですので20万〜27万円の間で決定されるのだとか。
どの職種も年功序列で長く勤めるほど少しずつですが昇給していきます。年収は約600万円ほどが平均だとされているようです。
参照:高卒程度試験 試験の概要
社会人から国家公務員になるには、中途採用の試験を受ける必要があります。試験は2種類あり、「経験者採用試験」と「社会人試験」があります。
「経験者採用試験」は、民間企業での実務経験のある人のなかで係長級以上の官職に採用するための試験です。採用後は政策の企画・立案業務や法務業務などに従事することとなります。試験の種類は8つあります。
◾️試験の種類
各試験の最終合格者数は最も多い国税庁で200〜230名(2019年度)ほど。一番少ない合格者数は農林水産省の1名です。経験者採用はかなり狭き門といえるでしょう。
ただ経験者採用試験が開始された平成24年度は最終合格者8名で、そこから平成30年度には353名と増加傾向にあります。
◾️試験内容
また試験内容としては第1次試験と第2次試験にわかれています。
<第1次試験>
基礎能力試験(多肢選択式)【筆記試験】
経験論文試験【勤務経験等に関する論文試験】
<第2次試験>
政策課題討議試験【グループ討議試験】
人物試験【個別面接】
筆記試験も論文試験も決して簡単とはいえません。筆記試験は試験範囲が広いため、得意分野に絞って勉強をするのがおすすめです。また面接や経験論文は、民間企業での実務経験を振り返り、今まで自分がどんなことを達成してきたのかをまとめられるようにするとよいでしょう。
「社会人試験」は、係員級の職員を採用するための試験です。40歳未満を対象とした高卒レベルの試験となり、主に4つの試験を受けることができます。
◾️試験の種類
法務省専門職員の職務には、矯正心理専門職、法務教官、保護観察官の3つがあり、このうち社会人の場合は法務教官の採用試験を受けることが可能です。
また他の3つの試験についても、刑務官採用試験ならば刑務、入国警備官採用試験ならば警備官と受けられる試験が決められています。受験する際は、その点を間違えないようにする必要があるでしょう。
◾️試験内容
試験内容は各試験によって異なります。詳細を知りたい方は、人事院が公開する「社会人の皆さんへ」のページにて確認しましょう。
経験者採用試験から実際に採用された方の職業はさまざまです。
金融機関
投資銀行
保険会社
監査法人
建設会社
旅行会社
食品会社
IT・通信会社
化学メーカー
鉄鋼メーカー
業界問わず、多様な経験を持つ方が採用されていることが分かります。これ以外に前例がない職業の場合でも、試験対策をしっかりおこない、入省後にどんな仕事がしたいのかしっかりイメージをすることが採用に繋がる一歩となるでしょう。
このように国家公務員試験は、一般職・総合職・専門職とどの職を選んでも難易度が高いです。それは高卒程度試験も、社会人試験も例外ではありません。どの受験者も最大の努力をして試験にのぞむため、独学だけでは厳しい面も多々あるでしょう。
スクールに通ったり、または学校にサポートしてもらいながらも自宅で学習する際に頼りになる本を数冊ご紹介します。ぜひ参考にしてみてくださいね。
- 著者
- ["秋山 謙一郎", "開発社"]
- 出版日
フリージャーナリストの秋山謙一郎氏が公務員の職業をRPGのキャラクターのイラストを用いて紹介した本です。職業紹介の冒頭ではキャッチフレーズがあります。たとえば消防士のキャッチフレーズは「俺でも恋の炎だけはさすがに消せないぜ!」です。
一口に国家公務員といっても、その職種は多岐にわたります。そんななかで公務員の職業を決める材料として、「将来、公務員になったら何をやりたいのか。」「学生時代、野球・サッカーなど体育会系のクラブに所属していたら体力と運動能力に自信がある」「国家資格を取得しているまたは取得見込みである」といった点があげられます。
こちらの書籍はさまざまある職種をキャラクターを使って解説しており、その職種の仕事内容やかっこよさなどが分かりやすく書かれています。これから進路を決める高校生や大学生に参考になるでしょう。
なお、この本の中には警察官や消防士のように地方公務員の職種も含まれています。
- 著者
- 堤 直規
- 出版日
国家公務員だけでなく、公務員という仕事は年功序列の世界です。また国家公務員のようにノンキャリアと呼ばれる一般職と、キャリアと呼ばれる特別職にわかれているなど、上下関係が厳しい世界でもあります。
そんな公務員にとって、人付き合いは仕事を円滑に進め、成功させるためには欠かせない必須スキル。実際に公務員として市役所で働く著者が書く仕事術はとてもリアルで、そして真似のしがいがあるものばかりです。
せっかく公務員として働いているのに、周りの職員はやる気がない、上司は名ばかりでまったく仕事ができない、自分はもっと仕事をこなしていきたい、と思い悩む人が読むとかなり勇気がもらえる1冊でしょう。
すぐ実践できる方法がたくさん書かれており、読みごたえも満足度も高い内容になっています。
- 著者
- 公務員試験専門 喜治塾
- 出版日
公務員試験は、国家一般職・総合職、それに地方初級・上級を問わず時事問題が出題されます。
しかし時事問題は単純に「知っているかどうか」を問われるような軽さではなく、公務員の仕事と関わりの深い分野を中心とした細かな知識が問われるヘビーな問題が出題されます。
本書ではそうした時事問題への対策、受験者がひっかかりやすい誤答について、また正誤を見分ける感覚などを磨ける内容になっています。
頻出問題の傾向を掴みながら、普段から時事問題について深く関心をもつ習慣もつけていきたいですね。
- 著者
- 資格試験研究会
- 出版日
国家公務員試験では知識や知能をはかる教養試験と、政治や法律、経済などといった区分に分けられた専門試験が試験科目のなかに入っています。
まず教養試験の場合、数的推理が鍵になります。中学・高校レベルの数学の問題をマスターすればよいでしょう。しかし数的推理は学校の授業などではあまり取り入れられていないため、躓く人は多いと言われています。数学の問題に慣れるまで、は繰り返し解いてコツをつかみましょう。
人文科学(日本史・世界史・地理・思想)と社会科学(法律・経済・政治)については高校の教科書の基本的な知識があれば十分です。高校で習っていないまたは忘れてしまった場合、公務員試験用のポイントをまとめた参考書で補うとよいでしょう。
また専門試験の場合は同シリーズから出ている『国家総合職 専門試験 過去問500 2021年度』がおすすめです。
国家公務員総合職の専門科目は難しいと言われていますが、法学系・政治学系・経済学系のいずれかの学部に所属しているまたは卒業した場合、大学の講義を活用すれば効率的に試験勉強ができます。
多肢選択式・記述式問題の対策として大学の学部レベルの定期テストと専門書の練習問題を繰り返し解くことがおすすめです。過去問と練習問題を繰り返し解いてパターンをマスターすれば高得点を狙えるはずです。
- 著者
- 資格試験研究会
- 出版日
こちらは、平成25年度から令和元年度の国家公務員一般職の専門試験の過去問が載っている1冊です。専門科目は下記の通りです。
政治学 ・行政学・憲法・行政法・民法・ミクロ経済学・マクロ経済学・財政学・経済事情・経営学・国際関係・社会学・心理学・英語(基礎、一般)
国家公務員総合職と同様、法学系・政治学系・経済学系のいずれかの学部に所属しているまたは卒業した場合は、大学の講義を活用すれば効率的に試験勉強ができるでしょう。
- 著者
- 資格試験研究会
- 出版日
平成28年度から令和元年度までの教養試験と専門試験の過去問が載っています。この本に載っている専門職の過去問は下記の通りです。
財務専門官・国税専門官、労働基準監督官、皇宮護衛官(大卒程度)、 法務省専門職員(矯正心理専門職、法務教官、保護観察官) 、食品衛生監視員、航空管制官
教養試験については全ての職種で課されるので、過去問を繰り返し解くことを薦めます。
また注意点として、皇宮護衛官や航空管制官のように専門試験が課されないことがあります。職種によって試験内容が異なりますので、受験をする際は試験概要にきっちりと目を通しましょう。
また専門職の高卒程度試験・社会人試験を受験する場合は、同シリーズの『国家一般職「高卒・社会人」教養試験 過去問350 2021年度』を参考にするとよいでしょう。
高卒程度の場合、大学院卒・大卒程度と異なり、専門試験はありませんし、教養試験の問題は高校レベルの内容と同じになっています。高校の授業と並行して、教養試験の過去問を解くことがマスターへの近道となるでしょう。
今回は国家公務員の一般職・特別職(総合職)・専門職についてご紹介しました。一括りで認識していた国家公務員のイメージががらりと変わる内容をお伝えできたのではないかと思います。また就きたい職ごとに受験する試験が異なり、それぞれ対策をおこなっていかなくてはなりません。試験難易度は高く、どれも簡単に合格できるものではないですが、公務員になったらしたい仕事や、国にどう貢献していきたいかなどを明確にしておくと勉強にもより一層、真剣に取り組んでいけるでしょう。採用後もきっと向上心をもって仕事に取り組めるはずです。その給与水準は高く、やりがいに応じた報酬をもらうことができますし、勤務形態もしっかりしているのでプライベートも充実させることができます。国の政策にダイレクトに関わり、よりよい方向へ導いていきたいと考える人にぴったりな職業です。紹介した本にも目を通し、自信をもって試験にのぞめる人が増えればと思います。