外交官は、自国の発展には欠かせない国家公務員です。キャリア外交官と呼ばれる総合職と、特定の国におけるスペシャリストとなり専門職の2つがあり、どちらも自国の発展には欠かせない仕事です。そのため年収の水準は高く、仕事としても安定しています。 外交官になるには、最難関と呼ばれる採用試験に合格する必要がありますが、難易度に反して志望する方は多く、社会人からの転職も目立ちます。 この記事では、外交官になるための採用試験の内容や、仕事内容、高給取りといわれている年収などについても解説していきます。この記事を読めば外交官のイメージがくっきりと見えてくるはずです。
グローバル化が進むにあたって注目を浴びている外交官。外交官は国家公務員で、外務省に所属しています。また外交官にも総合職(キャリア外交官)と外務省専門職員(ノンキャリア)と2つの区別があります。どちらも同じ外交官ではあるのですが、その仕事内容やキャリアの道には違いがあるのです。
外交官の主な仕事は、海外を国家間の交渉や海外にいる日本人の保護です。条約の締結や経済・文化交流なども外交官の役目とされており、言葉や文化の違いを乗り越えて外国との友好関係を維持できるよう務めるかなり重要な仕事をおこなっています。
キャリア外交官は外交政策の中枢を担い、国を代表して交渉や調整をおこないます。自国の繁栄や保護のため、外交についての幅広い知識はもちろん、世界の情勢を把握する能力や判断力、交渉力などを有している必要があります。
将来的には主要国の大使や公使などの重要なポストに就くことが多いとされています。
反して外務省専門職員は、キャリア外交官が交渉を進めるための推進機能としての役割を担っています。
持ち前の専門知識を活かし、要人とのネットワーク作りや文化交流のイベントを企画するなどの業務をおこなっているのです。特定の国や地域におけるスペシャリストなんです。
外交官の給与は人事院が定める「俸給表」の規律に基づいた支給額に決められています。外交官や外務公務員は行政職俸給表(一)に該当し、職務の級は8級まであります。
初任給に関しては行政職俸給表(一)1級25号俸が適用され、21万5040円(平成30年度)となっています。その他に受給資格のある人は各手当が上乗せされるので、推定される年収は約250万〜300万円です。
しかし3年目には各国の日本大使館に配属され、その後に派遣される世界各地の大使館や領事館で勤務する場合は「在勤手当に関する参考資料」にあるように定められている金額が異なってきます。
そこでは号別の月給となっているのですが、たとえば同じ9号でも韓国では23万5600円、キューバでは37万9300円と金額には差があることが分かります。また基本給に加え、住居手当や配偶者手当など外国で働くのに必要な金額面をサポートする手当が充実しており、手当だけで月給と同じくらいもらえる場合も少なくはないのだとか。
大使ともなると月給は60万〜80万円にあがり、国によっては100万円を超えます。その場合の年収は1000万円を優に超えてきます。仕事内容の大変さや重要さを考えれば外交官が高給になるのは妥当といえそうですね。
外交官になるためには「国家公務員採用総合職試験」、もしくは「外務省専門職員採用試験」をパスする必要があります。キャリア外交官になるためには国家公務員採用総合職試験を受け、専門知識をもったスペシャリストになるには外務省専門職員採用試験を受けます。
まずは国を代表して交渉をおこない、将来的に大使や公使などの重要なポストに就く外交官になるための試験をご紹介していきます。
国家公務員採用総合職試験は難易度が高く、公務員試験の最高峰と言われています。
例年、春頃に受付が始まり、「院卒者試験」と「大卒程度試験」とそれぞれ受験することができます。各試験の受験資格は下記の通りです。
▶︎院卒者試験
▶︎大卒程度試験
院卒者試験と大卒程度試験では、試験の区分が異なります。大卒程度試験では政治・国際、法律、経済の分野も受験可能ですが、院卒者試験ではその区分はありません。
また院卒者試験では行政の区分の受験が可能ですが、大卒程度試験では受けることができないようになっています。
▶︎院卒者試験・試験科目
院卒者試験は、1次試験、2次試験、そして外交官には欠かせない語学力に関する英語試験があります。
<第1次試験>
・基礎能力試験(多肢選択式):知能分野、知識分野にわけ、公務員として必要な基礎能力を測る
・専門試験(多肢選択式):各試験の区分に応じて、必要な専門知識の有無を問う
<第2次試験>
・専門試験(記述式):各試験の区分に応じて、必要な専門知識の有無を問う
・政策課題討議試験:6人1組のグループで課題に対するプレゼン能力などを測る
・人物試験:人柄、対人的能力などについての個別面接
<英語試験>
TOFELやTOEICなどの外部英語試験を活用した試験
院卒者試験では第二次試験に討議試験が含まれていますが、大卒程度試験はこちらが論文試験になっています。
▶︎大卒程度試験・試験科目
大卒程度試験も、院卒者試験同様の試験内容となっています。
<第1次試験>
・基礎能力試験(多肢選択式):知能分野、知識分野にわけ、公務員として必要な基礎能力を測る
・専門試験(多肢選択式):各試験の区分に応じて、必要な専門知識の有無を問う
<第2次試験>
・専門試験(記述式):各試験の区分に応じて、必要な専門知識の有無を問う
・政策論文試験:政策の企画立案に必要な能力や判断力、思考力を測る
・人物試験:人柄、対人的能力などについての個別面接
<英語試験>
TOFELやTOEICなどの外部英語試験を活用した試験
さらに試験地に関していえば、第1次試験地は院卒者、大卒程度どちらも同じ地域で行われるのに対し、第二次試験地は院卒者に限り、さいたま市と大阪市の2つの市でおこなわれます。
各区分における採用予定人数は院卒者、大卒程度を合わせた合計数となっているので、上記の受験環境や試験区分を考えると、大卒者の方が有利な状況にあるといえるかもしれません。
参照:国家公務員採用 総合職試験受験案内(2020年度人事院)
国家公務員採用総合職試験も十分に難しく、各区分ごとに数十名の採用枠が設けられているのに対し、外務省専門職員はさらにハードルが高いといえるかもしれません。
2020年度における採用予定人数は約50名。専門知識をもつスペシャリストなだけあって、狭き門をくぐり抜けられる人はごくわずかなのです。
試験は1種類で、受験資格は下記の通りになっています。
国家公務員採用総合試験は大卒者、院卒者のみだったのに比べ、外務省専門職員は専門知識の有無を問われるためか短期大学や高等専門学校を卒業した人にも受験資格があるといった違いがあります。
試験は1次試験、2次試験を通して3日間にわたっておこなわれ、大学卒業程度の学力を基準として適性を判断する内容となっています。知識のみならず、理解力や判断力、人物について総合的に判断されます。
そして試験地は1次試験は東京都、大阪府でおこなわれ、2次試験については東京都のみです。
<第一次試験>
・専門試験(記述式):国際法、憲法または経済学
・時事論文試験
・基礎能力試験(多肢選択式):知能分野、知識分野
・外国語試験(記述式):外国語文和訳、和文外国語訳
<第二次試験>
・外国語試験:面接
・人物試験:2回の個別面接、グループ討議
・身体検査
試験内容からも、専門的な知識を問われていることが分かりますね。記述式と面接の外国語試験は英語やフランス語をはじめ、全15か国語から1か国語を選択することができます。ですので受験を検討している人は何か得意な言語を1つ磨いておくとよいでしょう。
参照:外務省専門職員採用試験案内(2020年外務省)
キャリア外交官を目指す方も、外務省専門職員を目指す方も、海外への留学経験をしていることが多く、日常的に他言語や他文化に触れる機会を積極的に作り出しています。そういった意味では語学の勉強は独学でもなんとかなるかもしれません。
しかし、試験全体を独学ですべて学べるかというとそれはとても難しいでしょう。外国語の面接以外に、国際法や憲法、経済学の論文を記述する必要があるからです。そのため志望者は予備校に通って勉強することが多いようです。
外交官になるための試験は2種類ありますが、どちらも年齢、学歴をクリアしていれば社会人でも受験することが可能です。
しかし、社会人から外交官への転職はそれなりの覚悟が必要です。働きながらの場合でも、退職をし試験勉強をする場合でも、最低でも1年はきちんと勉強をしなければ試験合格の門を突破することはできません。
特に、キャリア外交官と呼ばれる国家公務員採用総合職試験は、現役の学生ですら難易度の高い試験です。勉学から離れた社会人が働きながら勉強をし、合格を勝ち取るのは難関でしょう。
外交官に転職すると決めた場合、多くの方はキャリア外交官と呼ばれる総合職の受験を検討するでしょう。しかし、ここでまず「なぜ会社を辞めてまで外交官になりたいのか」を考えてほしいと思います。
キャリア外交官は将来、外交政策の中枢を担う人物としての採用になっています。将来的には主要国の大使や公使など、なんらかのポストに就く可能性が高いです。
そのため諸外国を2〜3年単位で異動し、さまざまな国の人と関わり、その国の文化や状況、政策などを知りながら働くことになります。つまり、ひとつの国に腰を据えて関わっていくことが難しいのです。
それに対し、専門職員はひとつの国との関係構築にじっくり向き合うことができます。
総合職は専門職の試験に比べ試験科目が多く、総合職志望から専門職志望に切り替えるのは比較的、負担が少ないとされています。外交官になってどんな仕事がしたいのかをきちんと考えながら勉強を進めていきましょう。
仕事内容でも前述している通り、外交官の仕事は国と国の良好な関係を維持したり、新たに関係を築いたりといった交渉を必ずおこなっています。そうした職務をこなすために必要なスキルにはどんなものがあるのでしょうか。
日本で仕事をする外務公務員の場合も、日本以外の国で仕事をする外交官の場合も、語学力に優れている必要があります。特に英語はネイティブレベルで習得し、ビジネスで使用される言葉も勉強しておかなければなりません。
また派遣先は英語が通じる国に限らないため、外交官は英語だけでなく複数の言語をマスターしている場合が多いです。自分が話せる言語だけで終わりではなく、言語の勉強を継続的におこなえる人は適性があるのではないでしょうか。
外国で交渉をするにあたり、交渉が数回で終わることはないと考えた方がよいでしょう。国同士の国益に関わることなので、交渉を成立させたくともどちらも慎重です。そんな時、こちらの主張を一方的に通そうとするのではなく、交渉相手に合わせた柔軟さと粘り強さが求められます。
そうして長く続く交渉するにはその国に留まり、生活をしていく必要があります。また在外公館のほとんどは発展途上国にあるため、かなり厳しい環境下で働き続けられる適応力も求められるでしょう。
交渉や会議などで世界の人々と関わることは外交官の仕事です。文化交流イベントにも積極的に参加し、自分を通して自国のことを知ってもらうことで、交渉がスムーズに進むケースもあります。仕事の交流だけでなく、文化の交流にも興味をもち人脈を作っていくことは外交官しての素質のひとつなのです。
世界各地にある約190の大使館や領事館で働くといったら聞こえはいいかもしれませんが、なかには発展途上国や治安の悪い国で勤務する場合もあります。日本から遠く離れ、技術や文明も未発達な地域で仕事をおこなうのには体力や精神力が要求されます。
今回は、国家公務員採用試験、外務省専門職員採用試験、ともに難関と言われている試験対策に使える問題集などをご紹介します。予備校で授業を受けながらその他の時間も勉強にあてたいと考えている人の相棒になってくれることでしょう。
- 著者
- 島根 玲子
- 出版日
一言で国との交渉の役目を果たしているといっても、外交官の具体的な仕事内容はイメージしづらいはず。そんな時は実際に外交官として活躍している方が出版した本を読むのがおすすめです。
島根玲子さんは高校中退した元コギャルという外交官とはかけ離れたイメージの背景をもつ外交官。2018年時点でアジア大洋州局に所属し、外交官として働いています。
本書ではそうした外交官としての働きとあわせて、世界情勢を知ることもできる1冊となっています。日本と各国の関係や、ニュースでも目にする竹島問題や北方領土問題などについて丁寧な解説もされています。
日本を含めた世界の状況を知ることは生きていく上で欠かせないことですし、荒れた学生時代を送っても覚悟を決めて一念発起し、夢を追い、そして叶えたという著者の姿に自分の背中を強く押されます。
すでに外交官を目指している人はもちろん、外交官についてあまり知らなかった人にも、外交官の魅力が伝わる1冊です。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
こちらは外務省専門職員試験を受験する人におすすめの1冊です。
試験のなかでも非常に重要と言われている国際法・憲法・経済学の記述式の専門試験、時事論文、外国語試験の過去問と解答例が収録されています。
受験者のなかには2〜3年対策をする人も多く、みな最終的には論文答案を書けるようになることを目標としています。問題提起から理由付け、そして結論を出す一連の流れを最初は過去問を解きながら感覚を掴んでいきましょう。
それと同時に論文を記述するのに必要な専門用語や分からない単語などを1つずつ覚えていくことも欠かせません。
- 著者
- ["伊藤塾", "伊藤 真"]
- 出版日
- 2003-10-01
外務省専門職員試験では国際法は必須科目です。
国際法とは簡単にいえば、国と国の関係を維持するための法律のこと。国のなかで法律が定められているように、世界のなかでも法律があるのです。それを国際法と呼んでいます。
そんな国際法は一般的な会社に勤務していたり、ましてや学生の立場ではなかなか耳慣れません。なんとなく「国家領域を決めている」「他国の環境を侵さない」などのイメージはあるかもしれませんが、それは国際法の全体から見ればほんの一部。
この本ではそうした国際法の基礎知識から実践力の鍛え方までを網羅しています。法学系の学部に所属しているまたは卒業した人の中で国際法の講義を受講していれば、講義の理解度のチェックだけでなく外務省専門職員試験の試験対策にも使えるでしょう。
国際法の講義を受講していない場合、1問1答形式のまとめを使えば独学で勉強するときの知識の整理に使えるでしょう。合否を左右する条文・重要判例の知識も効率よく学べるおすすめの1冊です。
- 著者
- ["TAC公務員講座", "関野 喬"]
- 出版日
公務員試験受験指導で人気のスクールTAC(タック)が出版している数的推理を得意にするための問題集です。
数的推理は公務員の試験には必ず出題されますが、最初はなかなか難しく、苦手意識をもっている人も多いのだとか。
そんな数的推理に今から取り組んでいくという人に本書はとてもおすすめです。まるで講義を受けているかのように分かりやすく基礎から学ぶことができます。初歩から丁寧に数的推理を理解できますし、解法パターンも少しずつ身に付けていくことができるでしょう。
外交官は国のために日々奔走しています。外交官の仕事といえば、国を代表して政府と交渉したり、海外にいる日本人を保護したりしているので大変だと感じます。発展途上国や治安の悪い国に派遣されると仕事はさらに大変になりますが、給料・手当が充実していて民間よりも多いので、そういった意味でもやりがいのある仕事でしょう。
しかし仕事の責任の大きさや重要さから、採用試験は国家公務員試験のなかでも最難関といわれています。語学力に長け、冷静な判断力や思考力も必要となってきます。試験科目は特殊で独学は難しいため、予備校に数年通って採用を勝ち取る方も少なくありません。
世界で活躍すると大変なことがありますが、やりがいはあります。語学の勉強の成果を生かして外交官を目指すのもひとつの選択としていいのではないでしょうか。