災害が起こると自衛官が派遣され、市民の救助をおこなってくれます。災害派遣されている陸上自衛官を見て、どのようにして自衛官になることができるのか気になっていることはありませんか。 国の安全、市民の平和を守るために働く陸上自衛官という仕事に注目してみましょう。陸上自衛官になるための採用試験の難易度や、年収、転職事情などを解説します。あわせて読みたい書籍も紹介するので、興味のある方はぜひ手にとってみてくださいね。
日本の独立や国民の安全を守る自衛隊。自衛隊には陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の3つがありますが、従事している人数が最も多いのが陸上自衛隊です。そんな陸上自衛隊の中に属しているのが陸上自衛官です。
陸上自衛隊には16の職種があります。職種によって担当する業務は異なり、また一度決まった職種は変更することができません。
陸上の戦闘員である「普通科」の自衛官は、災害時に活躍するのをニュースなどで見かけますよね。その他の職種については知らないことの方が多いかもしれませんので、詳しく解説していきます。
◾️普通科
陸上戦闘員で最も人員の多い科になります。武器を持ち、近接戦闘能力に優れています。作戦・戦闘には欠かせない自衛隊の基本の科です。
◾️機甲科
主に戦車部隊と偵察部隊にわかれています。戦車部隊は機動力や装甲防護力によって敵を圧倒し、偵察部隊は情報収集をおこないます。
◾️野戦特科
2つある特科のうち、ひとつが野戦特科です。火力戦闘部隊として、普通科を支援します。大量の火力をもって広範囲の制圧をおこないます。
◾️高射特科
もうひとつの特科が、高射特科です。対空戦闘部隊として航空機を要撃しながらも、対空情報活動をおこないます。
◾️情報科
各部隊の情報業務を支援するため、情報収集と処理を専門的におこないます。2010年に発足された比較的新しい科となります。
◾️航空科
航空科と航空自衛隊はまた違う働きをしています。航空科はヘリコプターによって火力戦闘をおこなったり、航空偵察、また人員や物資の輸送なども担っています。
◾️施設科
施設科は、各戦闘部隊を支援します。各種施設器材を使用して障害を作ったり陣地の構築などをおこないます。
◾️通信科
部隊間の指揮連絡のための通信を確保するのが通信科の役目です。また写真・映像の撮影処理などもおこないます。
◾️武器科
各部隊が保有する火器、車両、弾薬の整備・補給などをおこなうのが武器科です。不発弾の処理をおこなうのも武器科です。
◾️需品科
名前の通り、糧食や燃料、被服の補給および回収をおこないます。その他、給水や入浴洗濯なども担当する後方支援を任務としている科です。
◾️輸送科
大型車両で、部隊や戦車、火器、各種補給品を輸送するのが輸送科です。それとともに輸送の統制や道路交通規制などもおこなっています。
◾️化学科
核兵器、生物兵器などの特殊武器攻撃による被害の拡大を防ぐために活動する科です。主に、汚染された地域や人員、装備品などの除染をおこないます。
◾️警務科
警務科は自衛隊内の司法警察職務をおこなっています。警護、道路の交通統制、犯罪予防など、自衛隊内の秩序の維持を業務としています。
◾️会計科
隊員の給与の支払い、旅費などの計算などの会計業務をおこないます。
◾️衛生科
医官・歯科医官・看護官・薬剤官が配属されるのが衛生科です。駐屯地の医務室や自衛隊内の病院にて、隊員の健康管理・患者の治癒などをおこなっています。
◾️音楽科
音楽科は海上自衛隊、航空自衛隊にも存在しています。隊員の士気高揚、広報活動のための音楽演奏をおこないます。音楽演奏だけでなく、必要であれば指揮所の警備もおこなっています。
自衛隊には全国に約260もの勤務地があり、それぞれの場所で各職種の自衛官が勤務しています。そのため異動・転勤はつきものと考えてよいでしょう。
異動先の希望は出すことができますが、希望がそのまま通ることは多くはありません。また異動・転勤の頻度もまばらで、1年ほどで異動する場合もあれば、10年近く同じ基地に務める方もいます。
また部隊に勤務している自衛隊の勤務時間は下記のように規定されています。
かなり詳細に1日の動きが決められていますね。これは平日のスケジュールであり、土曜日、日曜日は休養日となっています。
また部隊のスケジュールとは別に、内部局の勤務時間も規定されています。内部局は防衛政策の企画・立案を担当しているため、8時半〜17時15分の勤務時間となっています。
陸上自衛官は特別国家公務員です。国家公務員なので景気に関係なく給料は安定しています。防衛省・自衛隊のホームページにある『自衛隊のお給料について』で、給料や手当などが紹介されています。その中で注目した箇所を取り上げます。
◾️自衛官採用後の初任給
民間企業に務める大卒の初任給平均が21万200円、大学院卒の初任給平均が23万8900円であることを考えると、陸上自衛官の初任給が高いことが分かります。
◾️年代別の年収平均
自衛官は階級・勤務年数によって年収に幅があるので、こちらは概算となります。しかしこちらの平均値をみても自衛官は高収入といえる職業なのではないでしょうか。
どの年代をみても全国平均年収よりも50万〜100万円ほど年収が高くなっており、50代以降においては200万円ほどの差があります。
平均年収額が高く、諸手当も厚い陸上自衛官の仕事ですが、実は生活費がほとんどかかりません。
陸上自衛官は駐屯地内や基地住むことができるので、家賃、水道・光熱費、食費、仕事用衣類・靴などにかかる費用はほとんどありません。しかし駐屯地内や基地に住むことは義務ではありませんので、それ以外の場所に住む方の場合は、もちろん家賃、水道・光熱費、食費などは自己負担となります。
陸上自衛官になるには、採用試験を受け、合格しなければなりません。また採用試験と一言で言っても自衛官の職種によって受験する種目は異なります。
今回は陸上自衛官になるのに関連する種目をすべてご紹介します。
ひとつ目が「自衛官候補生」の採用試験です。自衛官候補生とは、自衛官となるために必要な基礎的教育訓練に専念する新しい採用制度のことです。必要な訓練を受け、3カ月後には2等陸・海・空士に任官します。
またこの任官は任期制となっており、陸上自衛官は1年9カ月を1任期として勤務します。ここでまた必要な訓練を受けた後、各部隊や基地に配属され、1等陸・海・空士に昇任します。またその約1年後には陸・海・空士長に昇任することができます。
◾️募集要項について
自衛官候補生の募集要項は下記のように定められています。
年中受付をしているため、試験日程や合格発表、また入隊時期については人によって異なります。比較的、幅の広い年齢制限となっているので、民間企業からの転職なども一定数いるとされています。
参照:自衛官募集
陸上・海上・航空自衛隊の曹となる自衛官を養成する制度が「一般曹候補生」です。応募資格年齢が広く設定されているため、高卒・大卒・社会人経験者などが多く、多様な経歴を持つ人が働いています。
入隊後はまず一般曹候補生として、部隊勤務に必要な基礎的知識および技能を習得します。その後、部隊に配置され、部隊での勤務を通してさらに教育訓練を受けます。
そして約2年9カ月を経過した後、選考によって3等陸・海・空曹に昇任します。昇任後、4年幹部候補生部内選抜試験の受験資格が得られるので、幹部に昇任することもできます。
◾️募集要項について
人材不足を抱えているために応募資格年齢が引き上げられ、新卒だけでなく社会人からの転職もしやすいのが一般曹候補生です。幹部になるルートが確保されているので、自衛官としてバリバリ仕事をしていきたい方は、一般曹候補生の採用試験を受験するのがよいかもしれません。
自衛官候補生、一般曹候補生の採用試験の倍率を見ていきましょう。倍率は陸・海・空すべて男女別になっています。
◾️自衛官候補生採用試験の倍率
陸上自衛官の場合、倍率は男性が3〜4倍、女性が4〜5倍となっています。屈強な男性が多く働くイメージのある自衛隊ですが、近年では女性自衛官が増加傾向にあります。
防衛省が発行している「令和2年防衛白書」には、2019年に女性自衛官では初のイージス艦艦長就任など、女性自衛官の活躍についても言及されています。
◾️一般曹候補生採用試験の倍率
一般曹候補生採用試験の倍率はさらに高く、男性が4倍〜6倍、女性が9〜10倍となっています。過去にはもっと倍率の高い年もあり、平成23年度は男性1497倍、女性は5906倍にもなっていました。
これは防衛大ではない一般募集の場合です。もともと女性の採用人数が男性より少なくなっているために、より狭き門になっている現状があります。
自衛隊に入隊せず、自ら教習所や学校に通って資格を取得すると相当お金と時間がかかることがあります。自衛隊に入隊すると、短期間でお金が一切かからずに資格の取得ができるので、手に職をつけやすいと言われています。
今回はさまざまある資格のなかで、陸上自衛官にも取得機会のある資格をご紹介します。
自衛隊の活動で欠かせない車両の運転。任務に必要とされるさまざまな資格を取得することができます。
また航空関係で取得機会があるのが、こちらの資格です。
これらの資格以外にも航空管制官、計器飛行証明、操縦教育証明などがありますが、海・空に属する隊員に取得機会があります。
他にも陸上自衛官に勤務しながら取得機会の得られる資格があります。
かなり複数の資格取得の機会があることが分かりますね。
しかし覚えておいてほしいのは、これらの資格が誰にでも取得機会があるわけではないということです。教育期間中は部隊の訓練から外れ、勉強に集中することになります。また訓練から外れている間も、給料が支払われます。
そのため部隊によっては資格取得が認められない場合もあるでしょう。
また資格の中には、自衛隊内のみ有効とされる資格もあります。もし自衛隊を辞めた後に資格を活かした仕事がしたい場合、どの資格ならば自衛隊退職後も有効なのかを確認しておいた方がよいでしょう。
参照:自衛隊沖縄地方協力本部
- 著者
- 公務員試験情報研究会
- 出版日
読者の中で筆記試験の内容が気になる人は、まず自衛隊の過去の採用試験問題で過去問を見ることをおすすめします。ただし、自衛隊の公開している過去問については模範解答が配信されていません。
この本は前半に試験の傾向、後半に試験問題が単元別に紹介されています。
<前半>
受験ガイダンス
受験資格
筆記試験(国語・数学・社会)の傾向
<後半>
単元別試験問題
国語
数学
社会
この本は解答・解説が載っている過去問で、自衛官採用試験に特化しています。過去問対策をするにはよい本だといえるでしょう。
なお、この本には作文の対策はありません。ですので別途、作文対策として『自衛官 作文試験対策問題集』の購入が必要となります。
- 著者
- 教学社編集部
- 出版日
早くから自衛隊への入隊を考えている方は、防衛大学校や防衛医科大学校への入学を検討するのもよいでしょう。
こちらの『防衛医科大学校』医学科の赤本には、国語・数学・英語・理科の6年分の過去問が載っています。赤本を繰り返し解いて時間配分など試験対策を練りましょう。
他にも看護学科の赤本もあります。こちらは国語・数学・英語・理科・作文の3年分の過去問が載っています。なお、筆記試験は高校卒業程度の内容です。
- 著者
- 木村 育雄
- 出版日
免許を取得するために教習所に通ったことがある人の中には大型特殊免許の取得年齢に関する内容を耳にしたことがあると思います。具体的には普通自動車の免許を取得してから3年(早くても21歳)経つと受験資格が得られます。しかし自衛隊については例外で、19歳から取得することができます。
『大型特殊第一種・第二種免許―合格の基本と秘訣』では、大型特殊免許の免許試験を受けるにあたって注意事項や試験ガイドが紹介されています。乗車から降車まで、減点されないためのポイントなど、著者が実際に経験したことを踏まえて解説しています。
ちなみに、トリビアの泉において、戦車は大型特殊自動車で、公道を走れるようにするためにウインカーが付いていることが紹介されているのは知っていますか?
入隊してみなければ実態の見えづらい陸上自衛官の仕事。
自衛隊に入隊するといっても、陸上自衛隊だけでも16の職種があり、業務はかなり細分化されています。入隊を検討している方は、まず自分がどの職種で働きたいのかを決めておくとよいかもしれません。
国防のためほとんど24時間勤務ですが、その分、手厚い福利厚生が用意されています。希望すれば資格取得もサポートしてもらえるのが自衛隊です。
国家公務員の給料などの安定性だけでなく、将来のために技能も身につけたいと考えている人は陸上自衛官を目指すのはいかがでしょうか。