医学部の定員が増加している2020年現在において、医師が飽和状態になる可能性が懸念されているということは知っていますか? ですが、医師が飽和状態になったとしても需要が高いと考えられているのが精神科医です。精神科という分野は未知の部分が多いのでどんな診療科かわからないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。 今回は精神科医の仕事内容などを詳しく紹介していきます。また、精神科医が活躍する書籍をあわせてご紹介しますので、精神科医について詳しく知っていきましょう。
まずは、精神科医がどういった職業であるのかを詳しく解説していきます。精神科医とは、下記のように位置付けられています。
厚生労働省が認定した国家資格を持ち、精神疾患や精神障害、神経症、心身症などの診断と治療を専門的に行う精神科の医師
少し前までは精神科医は統合失調症とうつ病の患者の診療を中心的におこなっていましたが、ストレス社会となっている近年では、ストレスに対する治療やトラウマに関する治療もおこなうことも増えているようです。
一般的な診療科の医師ですと聴診器でお腹や胸の音を聞いたり、血圧や熱を測ったりといった診療行為や手術などをおこないますが、心の病気を診る医師は受診のたびに血圧や熱を測ったり聴診器を当てるという診療行為はしません。
問診にとても長い時間を割くことが特徴で、診察のほとんどが問診となります。これが一般的な診療科の医師の診療スタイルと大きく違うところになります。
精神を病んでいる方の心に寄り添える、人の話をしっかりと聞くことができるという方は精神科医の素質があるといえるでしょう。
精神科医も一般的な診療科の医師と同様に、病院あるいはクリニックで働きます。他の診療科と比べて手術が少なく、また、急変のリスクも他の診療科と比べると少ないので夜間に急な呼び出しもそこまで多くなく、働きやすい診療科といえます。力仕事も少ないので女性でもなりやすい職業です。
また、将来的に開業をして自分のクリニックを持ちたいと考えた時も医療機器を多数そろえなくてよいので初期費用がかからないという点も魅力のひとつとなっています。
精神科医の収入は働く場所によって異なります。独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると精神科医の平均年収は1230万円(2012年)であり、医師のなかでは救急科医の次に多いという結果が出ています。
命を預かる医師という職業ですので決して楽な仕事ではありませんが、力仕事や急な呼び出しも少なく、しっかりと稼げるという点ではやりがいを感じる職業といえるでしょう。
資格の取り方は一般的な医師の資格取得の流れと同様で、医学部で6年間学び国家試験を受けます。その後2年間精神医療の現場で研修医として臨床研修を受けることで、精神科で専門的に診療をおこなうことができるようになります。
国家資格を取得した段階ではまだ医師であり、精神科医としては認められていません。研修を受けることで初めて精神科医という立場に立つことができます。
医師国家試験は毎年2月上旬に2日間開催され、合否の発表は3月中旬におこなわれます。
合格基準は、下記のように設けられています。
(1)必修問題は,一般問題を1問1点、臨床実地問題を1問3点とし、総得点が158点以上/197点
(2)必修問題を除いた一般問題及び臨床実地問題については、各々1問1点とし、総得点が、217点以上/299点
(3)禁忌肢問題選択数は、3問以下
2020年におこなわれた試験の合格率は92.1%です。毎年80%後半から90%前半で推移しています。しっかりと学生時代に勉強をし、学校での国家試験対策などのサポート体制もあるため、国家試験の合格率は想像しているより高い傾向にあります。
また、精神科医として活躍したい方にもうひとつ取得しておいてほしい資格が精神保健指定医です。
精神保健指定医とは昭和62年に精神衛生法が改正されたことによってできた資格で、精神衛生法に基づいて強制入院、行動制限、措置入院やこれらの患者の退院といった精神科特有の体制について判断をすることができる医師のことをいいます。これらは患者の人権に関することですので、精神科医としてさらにスキルアップした医師にしか与えられない資格となります。
そのため、精神保健指定医になるためには、下記に該当する医師のうち、必要な知識や技術を持つと認められる必要があります。
精神科医の資格を取得後に、さらにスキルアップやキャリアアップをしたいと考えた方には取得していただきたい資格です。
冒頭でも書きましたが、国が医学部定員を増員したことにより医師が飽和状態になる可能性が懸念されています。実際に医師の総数は1968年には約11万人だったのが、2010年には約30万人と年々増加傾向にあることが分かります。このことから厚生労働省が、2028年には必要な医師数に達すると発表しました。
比べて、2010年の精神科医の総数は約14万人と医師全体の約5%ほどであり、病床数も病床全体の約20%程度と、精神科医も精神科を受診する患者数も少ない結果となっています。
ですが、ストレス社会でもある昨今、精神科の受診者の割合は著しく増加傾向となっています。実は、認知症も精神医療で診ることのできる病気であるため、近年は認知症で受診される患者数も著しく増加しています。
医師数よりも患者数が今後も増加していくことが考えられていることから、資格取得後も安定して働けることがポイントです。
ここからは精神科医に関する書籍を紹介していきます。精神科医は執筆者も多いことに加えてサスペンス小説が多いことが特徴です。ここでは精神科医療を知らない方、サスペンスは読みたくないという方でも読みやすいジャンルの小説を選びました。
精神科の病院がどういった感じなのかを知りたいという方に、精神科医の視点から精神科の日常を見られる1冊です。
- 著者
- 帚木 蓬生
- 出版日
- 1997-04-25
第8回山本周五郎賞を受賞し2019年には映画も公開されている本のため、知っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
とある精神科病院で明るく生きようと治療を受けている患者たちだが殺人事件が起こります。この事件をきっかけに感情のコントロールを失った人の心や、殺人事件を起こすしかなかった人の感情が描かれている1冊です。
この本の作者も精神科医であり、さまざまな小説を出版し、多くの賞を受賞しています。精神科医として実際に診療をしている立場だからこそ書ける丁寧な人間の感情の模様に注目していただきたいです。精神科とはどういった方が入院しどういった日常を過ごしているのかも知ることができます。
サスペンスではありますが、犯人を捜して追い詰めていくはらはら感より、最後は感動の要素が強いです。サスペンスが苦手という方でも読みやすい本ですよ。
- 著者
- 知念 実希人
- 出版日
- 2018-03-29
主人公は精神科医ではなく精神科医のキャリアアップした資格ともいえる精神鑑定医です。
精神鑑定医として、殺人事件を起こした容疑者の精神鑑定をおこなっています。このすごく腕の立つ医師のもとにある日、新人医師が志願してきて助手となります。この医師にも精神鑑定について学ばなければならない理由がある……というストーリーで、短編のストーリー4話で構成されています。
犯人の心理描写を丁寧に描くことで、精神の病気とは何かが見えてきます。精神科について知らないという初心者でも一気に読み進められる本です。
精神医療について知識のない一般の方向けに書かれた小説なので、どなたでも読みやすいです。
- 著者
- ["アクセル ホネット", "Honneth,Axel", "啓, 山本", "清隆, 直江"]
- 出版日
ひきこもりを主に研究対象とする精神科医が書いた1冊で、人の欲求の1つである「承認の欲求」に着目しています。
ひきこもり、いじめ、スクールカースト、SNSの利用など学生や若い方が悩みとする問題を承認欲求に着目して精神科医の立場から描いています。
アニメやアイドルグループなどを例に出しているため、若い方でも馴染みやすい本です。後半は専門的なものが多いので内容的にも難しい部分が多いです。しかし、精神科医を目指す方には一読してほしい1冊です。
特に学生や若い方で現在、SNSやいじめなど悩む方がいれば、自分自身のためにも読んでほしい本となっています。実際に、精神科医を目指していない学生や若者にも愛読者がいる人気ある1冊ですよ。
現在もこれからも需要が非常に高い職業です。医師のなかでも収入が高く、安定しているのも魅力です。資格を取得するまでには時間はかかりますが、年をとっても長期的に働いていけるところがポイントです。
今回ご紹介した書籍は、精神科医を目指すという方ではなく一般の方向けに書かれている本ですので、読んでいて自分の心や他人の心に向き合えるものが多いです。人間関係に迷いや悩みがある方は精神科医を目指すかどうかにかかわらず、ぜひ一度読んでいただきたいです。また、精神科医になりたいという方は精神科の世界を知るという意味でもぜひ読んでいただき、精神科医という診療科について知っていただければ幸いです。