あまり知られていない職業である産業カウンセラー。ですが、ストレス社会において、質のよい仕事を継続していくためにはとても重要な役割を担っている職業です。また、独立開業も可能ですので、自営業やフリーランスなどさまざまな働き方ができるのも魅力のひとつです。 今回は、産業カウンセラーの働き方や収入、資格の取得方法を詳しく解説していきます。また、産業カウンセラーに関する書籍もご紹介しますので、あわせて読んでいただき、産業カウンセラーという職業を知ってもらえたらと思います。
産業カウンセラーは民間資格となるため定義はありません。その仕事内容を簡単にまとめると職場など働く場においてカウンセリングをおこない、従業員が心身ともに健康で働き続けられるようにサポートをしていく職業といえます。
一般社団法人日本産業カウンセラー協会によれば、産業カウンセラーの仕事は具体的には大きく3つの領域に分類されます。
メンタルヘルス対策への支援
キャリア形成への支援
職場における人間関係開発・職場環境改善への支援
◾️メンタルヘルス対策への支援
1つ目はメンタルヘルス対策への支援です。これは企業で働く労働者に着目した仕事で、職場のストレス対策と個人のストレスコントロールへの援助をおこないます。業務に追われている社員の代わりに、近年、注目を浴びているハラスメントやいき過ぎた成果主義などへの対策を考え実行していくのが主な業務内容です。
◾️キャリア形成への支援
2つ目はキャリア形成への支援です。思い描く将来設計を叶えていくために何をしていけばいいのかや、必要な能力を身に付けていくためにはなど、キャリアに関する悩みを聞きながら、各個人にとっての最適な道に導いていきます。具体的には、人材派遣会社などで転職活動の支援などをおこなう業務が一般的です。
◾️職場における人間関係開発・職場環境改善への支援
3つ目は職場における人間関係開発・職場環境改善への支援で、より働きやすい職場環境を作っていくことが仕事となります。職場で表面化された問題を一つひとつ解決に導きながら、問題がおこらないよう予防や対策をたてていくことで根本的な改善を支援します。
このように産業カウンセラーは働く人だけでなく労働環境についてもカウンセリングをし、改善のための支援をおこなっていきます。
カウンセラーと聞くと、心理カウンセラーや臨床心理士というイメージが強い方もいるかもしれません。しかし産業カウンセラーとこれらの職業には大きな違いがあります。
心理カウンセラーは国家資格のため、産業の分野だけでなく医療機関や公的機関で働くことができます。また、臨床心理士は国家資格ではないものの、大学院で必要な単位を修め、さらに臨床経験と認定試験が必要となります。臨床心理士も、資格を取ると公的機関や医療機関で働くことができます。
産業カウンセラーは、学歴関係なく資格取得を目指すことができるのですが、医療機関や公的な機関で働くことはできません。ここが大きな違いといえるでしょう。
産業カウンセラーはどこで働くことができるのでしょうか。産業とついているだけあり、主に企業に常駐してカウンセラーの仕事をおこなったり、公共職業安定所(ハローワーク)に勤務したりすることが多いようです。
基本的にデスクワークなので、長期的に働きやすい職業です。厚労省は働く人のメンタルヘルス対策を重要視しているため、産業カウンセラーを置きたいという企業も増えてきており、需要が高まっている職業のひとつといえるでしょう。また個人で開業することも可能で、多彩な働き方ができるところも魅力的なポイントです。
2018年時点の調査結果によると、産業カウンセラーの年収は200万〜400万円程度とされています。これは雇用形態や雇われている企業の規模や開業の有無によって価格が大きく変動するためです。
また産業カウンセラーの仕事のみで生活していくのは厳しい面があり、多くの人は他の資格とあわせて仕事にいかしている場合が多くみられます。
産業カウンセラーは民間資格です。1992年から2001年までは産業カウンセラー試験は旧労働省が認定する技能審査でした。しかし、2001年に除外されています。
先ほどご紹介した産業カウンセラーの年収を再度確認しましょう。臨床心理士と心理カウンセラーの年収は2018年の時点で開業をしていない人でも300万〜500万円程度と、産業カウンセラーと比べて高めの水準となっています。産業カウンセラーの収入が低い一因は、民間資格となってしまったことが考えられています。
産業カウンセラーになるためには、日本産業カウンセラー協会が定める受験資格に該当している必要があります。
上記に加えさらに細かい指定がありますので、詳細は日本産業カウンセラー協会のホームページをご確認ください。
また1、2の受験資格者に関しては、日本産業カウンセラー協会がおこなっている養成講座を6ヶ月または10ヶ月受ける必要があります。116時間中101時間以上出席し、理解度確認テスト各科目において6割以上正答、さらに 面接の体験学習に関する課題学習のうち4課題について、ABCD4段階評価においてAまたはBの評価を受けることが必要になります。
6ヶ月コースと10ヶ月コースは学習内容や学習時間が同じなので、違いは通う期間だけになります。
試験の内容は主に2つに分けられます。1つは学科試験で、もう1つは実技試験です。
<学科試験>
①産業カウンセリング概論
(産業カウンセラーの歴史や役割、関係法令などの基本)
②カウンセリングの原理および技法
(理論や技法と言った実践的な知識)
③パーソナリティー理論
④職場のメンタルヘルス
⑤事例検討
<実技試験>
・受験者同士のロールプレイング
・試験官との口述試験
産業カウンセラーになるには専門的な知識を有している必要があります。そのため学科試験では知識の面が問われ、広範囲にわたります。また内容が複雑なため、単純に暗記だけをするのは難しく、全体を理解しなければなりません。
実技の面では、産業カウンセラーとしての基本的な態度の他、適切な技法なのか、社会的貢献のできる内容かなどがみられます。実技に対するそれなりの対策は必要でしょう。
また合格率は、2019年の試験では学科試験694%、実技試験665%、総合合格率623%という結果でした。学科試験、実技試験ともに万全の準備をしてのぞむ必要がある難易度の高い試験といえるでしょう。
主に人間尊重や傾聴といったカウンセリング技術を学ぶもので、企業に属するものだけでなく、看護師や介護福祉士など、医療や福祉職の資格取得者も多い傾向にあります。
需要はあるものの民間資格ということもあり、産業カウンセラー単体での求人は非常に少ないということが特徴です。
企業の場合多くは自分の会社で働いている従業員に資格を取らせて、そのままカウンセリング業務をしてもらうことが多くなっています。いま企業で働いている人が産業カウンセラーの資格を取り、実績を積むことで最終的に開業して働くといったことができるます。
産業カウンセラーをとって就職を目指すというよりも、今働いているところで産業カウンセラーの資格を取って活躍していくと考えたほうがよいでしょう。
また、産業カウンセラーの資格を取得した後に国家資格であるキャリアコンサルタントを取得するなどさらなるレベルアップをする方もいます。実際、キャリアコンサルタントの資格保有者の227%は産業カウンセラーの資格も取得しているというデータもあります。(キャリア・コンサルティングに関する実態調査結果)
ここからは、産業カウンセラーになりたいと考える方におすすめの書籍をご紹介します。
- 著者
- 吉岡 俊介
- 出版日
産業カウンセラーよりひとつ上の資格、シニア産業カウンセラーの資格を持つ著者が書いた1冊です。
仕事を頑張りたいけれど、自分をつぶさないように働くにはどうしたらいいのか……。著者のカウンセリングルームを訪れる人たちからの声をきっかけに、こちらの本が書かれました。
実際に仕事でつぶれかけた経験のある著者だからこその視点や、産業カウンセラーとしての経験から書かれた説明にはとても説得力があります。既知の事実でありながら今まで言語化されず、まとめられてこなかった内容には、読んでいてハッとさせられます。
仕事でつぶれてしまった経験がある人のなかには、もっと早くこの本を読んでいれば……という気持ちが生まれる人もいるでしょう。
これから産業カウンセラーとして働く人にとっては、すぐには得られない経験値をある程度補うことのできる1冊として、目を通しておくのがおすすめです。
- 著者
- 古宮 昇
- 出版日
- 2012-12-10
この本の著者は産業カウンセラーとして働かれており、自治体を中心にカウンセリングをおこなっている方です。個人でカウンセリングルームも開業しているバリバリのキャリアを積んだ産業カウンセラーさんで、産業カウンセラーという視点から働く方のメンタルヘルスについて書かれています。
この本は、産業カウンセラーになりたいという方に向けているというよりも、この本を読んで今の働き方について考えたり見直したりしたいという方に向けて書かれた内容が多く見られます。ですので、転職を悩む際などに活用する方は多いそう。
そのため、この本を読むことで産業カウンセラーの働き方と、メンタルヘルスの考え方を理解することができるでしょう。
産業カウンセラーを目指す方には、どういった悩みの相談がされるのか、その悩みをどうやって解決すればいいのかなど実際に働いたときにも役立つ情報が載っています。
- 著者
- 大野 萌子
- 出版日
著者は産業カウンセラーとして働いており、産業カウンセラー協会の研修で講演もされており、多方面で活躍されている方です。この本は産業カウンセラーを目指す方や、産業カウンセラーとして働いている方にも愛読者が多い1冊なんです。
産業カウンセラーのなり方や仕事内容、現役産業カウンセラーとしての体験談、カウンセリング事例などが丁寧にまとめられています。
文章の内容も読みやすくてわかりやすいことが特徴です。産業カウンセラーになろうか悩んでいる方が読む1冊として、とてもおすすめです。
- 著者
- 二家洋子
- 出版日
産業カウンセラーとキャリア・コンサルタントの資格を持つ著者が、これからカウンセリングを受けたいと考えている方のために書いた1冊です。
産業カウンセラーの視点から、産業カウンセラーの現状や、カウンセラーを選ぶ際の基準などが書かれています。
著者が産業カウンセラーとなるきっかけなども詳しく書いてありますので、産業カウンセラーの資格を取得を検討している方は親近感がわくのではないでしょうか。読みやすい文体でさらっと読むことのできる1冊です。
資格取得だけでは幅広い活躍ができるわけではないですが、多彩な働き方ができ、開業なども視野に入れられる職業です。産業カウンセラーという職業が気になる方はご紹介した書籍も読んでみて、産業カウンセラーについてまずは深く知っていただければ幸いです。また産業カウンセラーの方が書いた著書は、働きながらモヤモヤしている人や、悩みを抱えている人にとっては励まされるような内容も多く、誰にとっても読んで損はないと思います。
ストレス社会といわれる現在、産業カウンセラーは活躍が期待されています。これからますます需要が上がることも考えられますので、気になる方はぜひ早い段階で挑戦してみてください。