哲学の祖といわれるソクラテス。「無知の知」という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。この記事では、彼がどんな思想をもっていたのかあらためて解説したうえで、名言やおすすめ本を紹介していきます。
古代ギリシアの首都アテネに、紀元前469年頃生まれたとされるソクラテス。父親は彫刻家、母親は助産婦だったそうです。
正義や善など倫理的な問題を最初に考えた人だといわれていて、世界でもっとも有名な哲学者といっても過言ではないでしょう。釈迦、キリスト、孔子とともに「四聖」と呼ばれています。ソクラテスの弟子にも、後世に名を残した哲学者が数多くいて、その影響力の大きさは計り知れません。
ソクラテスは、自身の言葉が不正確なかたちで広がるのを嫌い、著作を残しませんでした。そのため彼の思想は、弟子のプラトンやクセノポンなどが書き残し、現代まで伝わっています。
ソクラテスの思想のなかで代表的なものは「無知の知」でしょう。ギリシア神話に登場する神アポロンから託宣されたものだといわれていて、別名「不知の自覚」ともいいます。知らないことを知っていると思い込むのではなく、知らないということを自覚しているほうが優れているという意味です。
また、ソクラテスが自身の考えを広めるために用いた「問答法」という手法も有名。対話によって相手に矛盾点や無知なことを自覚させ、相手に自ら高い水準の真理を見つけさせるものです。
さらにソクラテスは、「アレテー」という概念を重視していました。人間の善はすなわち徳であり、善いおこないをすることで幸福になれると主張します。どのような生き方が最良なのか、生涯をかけて追及していった人物だといえるでしょう。
「もっとも大切にしなければならないのは、単に生きることではなく、善く生きることである」
ソクラテスの思想の中心となる名言。弟子のプラトンが書いた『ソクラテスの弁明』に記されています。「善く生きる」の解釈は人によってさまざまですが、自身の正義や勇気、善にのっとった「徳」をもって生きるべきだといっています。
「生きるために食べよ、食べるために生きるな」
手段と目的が入れ替わってしまうと、途端に生きづらくなることがあります。自分がいま何のために何をして、どこに向かっているのかを見極めることが大切です。
「他人からされたら怒るようなことを人にしてはいけない」
子どもの頃に言われたことがある人も多いのではないでしょうか。相手の立場や気持ちを考えることは、よりよい人間関係を構築するために必要です。
「友と敵、両方が居なければならない。友は忠告を与えて、敵は警告を与える」
親しい関係になると、つい馴れあいになり、時には優しさが足を引っ張ることもあります。都合のいいことばかりを言うのではなく、悩みや憂いに真摯に向きあって助言をくれる友人や、競いあえる敵がいることで成長できるのです。
「悪法もまた法なり」
ソクラテスが死刑を執行される際に言ったとされる名言です。どんな法律でも、ルールとして決まっている以上は守らなければなりません。
アテネを中心とするデロス同盟と、スパルタを中心とするペロポネソス同盟が対立し、ギリシア全域を巻き込む戦いに発展した「ペロポネソス戦争」。ソクラテスも従軍しています。
終戦後は、アテネを敗北に導いた責任を哲学者に押し付け、処罰する風潮が巻き起こりました。ソクラテスも裁判にかけられます。
- 著者
- プラトン
- 出版日
ソクラテスの弟子であるプラトンが、法廷における師の姿を描いた作品。ソクラテスと、民衆から選ばれた陪審員との対話で構成されています。
死刑を宣告されながらも逃げることなく思考を続け、自らの正しさを毅然とした態度で主張するソクラテス。弁明のなかで「無知の知」や「徳」などを説きます。善悪の価値や魂の在り方などは、現代にも通じる普遍的な思想です。
意見が異なる人と質問や討論を重ねながら、自分の意見を補強し、相手が自ら矛盾点に気づくよう導く「問答法」の様子も知ることができるでしょう。常に一貫性をもち、自分の意思と言動を一致させる生き方は、純粋に魅力的。ソクラテスの思想と人生観を感じられる一冊です。
古代ギリシア哲学を紐解きながら、あらためてソクラテスという人物を捉え直す作品。
日本における思想の普及や、「無知の知」に関する誤った認識など、興味深いテーマを語ります。
- 著者
- 信留, 納富
- 出版日
哲学の祖といわれるソクラテスですが、彼自身は著作を一切残していません。それなのに、なぜ彼は最初の哲学者だといわれているのでしょうか。
本書では、大量の文献を精査して多用なソクラテス像を整理し、当時の社会情勢や弟子たちとの関係などをひとつひとつ解説。ソクラテスという人物を新しく解釈しなおしたうえで、真に哲学が形成されていくプロセスを探っていきます。
ソクラテスを哲学の祖たらしめたのはプラトンだ、という主張も興味深いもの。『ソクラテスの弁明』の内容も、実際に裁判で語られた記録だと捉えられてきましたが、実はソクラテスの死後に彼の思想を伝えようとしたプラトン自身の解釈が込められているというのです。
哲学の歴史を知るとともに、新たな価値観を感じられる一冊になっています。
作者がソクラテス役となり、対話形式で現代のあらゆる事象に斬り込む作品。登場するのは、飄々とした口調のソクラテスと、口は悪いけれどかわいらしい妻のクサンチッペ、そして真面目な弟子のプラトンです。
皮肉混じりに世の中を見る彼らは、どのように現代の問題を解決するのでしょうか。
- 著者
- 池田 晶子
- 出版日
- 2010-01-01
数々の哲学書を世に送り出した池田晶子の作品。さっぱりとしたやり取りが読みやすく、社会で当たり前とされている風潮を引き合いに出しながらバッサリと斬っていく様子が痛快です。
難しく捉えてしまいがちな哲学を、ユーモアを交えながら読めるのが魅力的。現代のさまざまなキャラクターと対話をしていくのですが、まさにタイトルのとおりソクラテスは無敵で、次々と相手を論破していきます。
読み終わってみれば、主張しているのはぶれないひとつの形而上。哲学をするということの基本と、考えることの普遍性を実感できる一冊です。
ある日、ソクラテスを名乗る不思議なおじさんと出会った、主人公のサトル。悩み相談をすることになり、人間関係や仕事、結婚、お金などに関する素朴な疑問をぶつけていきます。
すべての悩みは、ソクラテスのいう「善く生きる」に繋がるのです。
- 著者
- 藤田 大雪
- 出版日
『ソクラテスの弁明』の翻訳も手がけた、古代ギリシア哲学の研究者、藤田大雪の作品です。
たとえば本当の友人とは、恋と愛の違いとは、お金と幸せの関係とはなど、現代の日常で誰しもが抱くような悩みをソクラテスが会話形式で解説。テンポのよい文章で、身近なテーマから「善く生きる」ことについて考えられるでしょう。
ソクラテスや哲学について、事前知識がなくても大丈夫。初心者にもおすすめの入門書です。