17世紀の科学が発達した時代、哲学界にもまた新たなページが刻まれました。「我思う、ゆえに我あり」という言葉でも知られるデカルトが活躍し、合理主義哲学が生まれたのです。この記事では、彼の思想や名言を解説したうえで、『方法序説』などおすすめの本を紹介していきます。
1596年生まれ、フランス出身のルネ・デカルト。父親は最高司法機関である高等法院で働き、母親は病弱のためデカルトを生んだわずか1年後に亡くなりました。
10歳の時にイエズス会系列の学校に入学し、カトリックを学びます。論理学や自然学、形而上学などを学び、大学に進学してからは法学と医学を修めました。
また1568年から続いた「八十年戦争」や1619年に勃発した「三十年戦争」を体験。22歳の時には軍事学校に志願して軍に加わります。本から得られる知識を捨てて、実践的な知識の獲得に熱心になりました。この経験はデカルトの哲学の根幹にもなっていて、「合理主義哲学の祖」ともいわれるゆえんです。
デカルトの哲学思想は「方法的懐疑」という手段を用いておこなわれます。
これは、この世に存在する物や感覚などすべてを疑い、少しでも不確実だと疑う余地があれば否定するという考え方。方法的懐疑を突き詰めていくと、すべての事物が懐疑にかけられ、残るのは精神のみです。「すべては偽である、と考えている自分自身は存在しなければならない」として、ここから「我思う、ゆえに我あり」という有名な言葉が生まれました。
またデカルトの思想には「二元論」というものがあります。これは、世界には物と心という異なる独立した2つの実態がある、という考え方。そしてこの2つは、区別されていながら相互作用が可能な関係であると考えます。
疑いのない確実な真理を定義するために証明すること、そしてすべてに対して批判的な視点で見ることから、デカルトの思想の誠実さがわかるでしょう。
哲学者として有名なデカルトですが、実は数学者としても優秀な功績を残しています。
そのひとつが、「デカルト座標」を発見したこと。これは解析幾何学における座標で、この数字を用いることで図形のもつ性質を特徴づけたり、数式として図形を表したりすることができるもの。平面上の点の位置を、2つの実数を用いて表すことに成功し、幾何学の創始者とされているのです。
また、定数にa、b、cなど、未知数にはx、y、zなどアルファベットを用いたのもデカルトが最初でした。フランスの数学者であるフランソワ・ビエトが、もともと子音を定数に、母音を未知数にあてたことを基礎にしています。
ほかにも、ある量の係数を左に、冪数を右に書く表記法もデカルトが始めたこと。現代でも、小学校や中学校で習うような数学の概念を作りだしたのです。
「良き書物を読むことは、過去の最も優れた人達と会話をかわすようなものである」
名作といわれる書物には、作者の想いや考えが現れています。かつて培われた知識が、現代人を助けてくれることもあるでしょう。偉人の名言に触れることは、そんな彼らと言葉をかわすことと等しいのです。
「人が何を考えているのかを実際に理解するためには、彼らの言葉ではなく、行動に注意を払えばよい」
言うは易く行うは難し、という言葉があるように、言葉は嘘をつくことも真意を伝えないこともできる道具です。実際に行動に移しているか、言葉を行動が一致しているかに注目すると、相手の考えが理解できるようになります。
「難問はそれを解くのに適切かつ必要なところまで分割せよ」
大きな問題や複雑な問題に直面した際、細かく分割して考えることで意外と簡単に解決方法がわかる場合があります。取り組むべきことが明確になることもあるので、難問を前にしてもすぐに諦めず、試行錯誤することが大事。数学者でもあるデカルトらしい名言です。
「不決断以外に深く後悔させるものはない」
結果を恐れて何もできないままでいると、あとから後悔に襲われることもあるでしょう。たとえ結果が失敗だったとしても、自分で決断し、行動することが成長の糧になります。
「精神を向上させるためには、学ぶことよりもより多く熟考していくべきである」
知識をつけただけでは、それを何かに役立てることはできません。新しいことを知ることはもちろん大切ですが、それを自分の言葉で説明できるまで咀嚼すること、消化できるまで考えることのほうがもっと大切です。
「良識はこの世で最も公平に配分されているものである」という冒頭の文章から始まる作品。
デカルトが、自分自身の方法論の発見や確立を解説しています。自伝の要素があり、彼の思考を順を追って読んでいけるのが魅力でしょう。形而上学、物理学、神の存在証明、自然の探求など、世界の真理を追究していき、「我思う、ゆえに我あり」という一文も本作のなかに登場します。
- 著者
- ["ルネ・デカルト", "山田 弘明"]
- 出版日
1637年に刊行された、デカルト初の哲学書。当時の正式なタイトルは、『理性を正しく導き、学問において真理を探究するための方法の話。加えて、その試みである屈折光学、気象学、幾何学。』というものでした。書物はラテン語で書かれることが一般的でしたが、教育を受けていない人でも読めるようにとフランス語で執筆されました。
もともとは3つの論文を集めたものでしたが、いま『方法序説』として扱われているのはそのうちの「序文」の部分。6つの章で構成されています。
注釈が多数ついているので、難解なテーマでもしっかり理解できるでしょう。真理を追究することの魅力と、そのための方法を教えてくれる作品です。
形而上学に関する思想をまとめた作品。一人称で6日間の出来事を省察するという形式で、懐疑を積み重ねることで神の存在と心身の区別を明らかにしようとしています。
方法的懐疑の概要、自身の存在証明、物体の存在と心身の区別など、デカルトが思う「考える」ことの大切さを理解できるでしょう。
- 著者
- ルネ デカルト
- 出版日
1641年に刊行されたデカルトの作品です。『方法序説』にて、自身の説への反論を募集していたデカルト。本書では本文のほかに、反論に対するやり取りをまとめたものが収録されています。
「省察」とは、自身をかえりみること。神、精神と身体の関係など、その思想を詳細に知ることができるでしょう。
デカルトの他作品との関連を知ることができる注釈や索引、翻訳者によるQ&A形式の解説もついています。懐疑を積み重ねるデカルトの思想に触れる入門書としておすすめです。
『方法序説』にて哲学の体系を打ち出し、『省察』でさらに深く追求していったデカルトの思想がついに終結。彼の哲学の完成形として発表された作品です。
デカルトが生きていた当時は、「信仰」によって真理を獲得する「スコラ哲学」が主流でした。デカルトの哲学は、そんなスコラ哲学との対峙を通して、形成されていったのです。
- 著者
- ["ルネ デカルト", "Descartes,Ren´e", "弘明, 山田", "健太郎, 吉田", "進一, 久保田", "宣明, 岩佐"]
- 出版日
1644年に刊行されたデカルトの作品です。本書では、主に形而上学について記された第1部を全訳したうえで最新の研究を反映した翻訳者の注釈を掲載、さらに物理学や天文学、地学などを記した第2部以降は要約を収録しています。
合理主義の哲学者として知られるスピノザ、数学や物理学、天文学にも精通したニュートンが愛読したといわれていて、後の世界に大きな影響を与えました。
哲学というと抽象的で複雑なイメージがありますが、デカルトの思考はいたって明確な理論で展開していくのが特徴。数多くある思想のなかでも、初心者がもっとも触れやすいのではないでしょうか。
近代哲学の父といわれるデカルトの作品、ぜひお手に取ってみてください。