近年、ブラック企業・ブラックバイトなど労働環境に関する負のイメージを連想させるニュースを耳にする機会は増えたかと思います。バイト先で賃金の未払いなど困ったことがあったらどこに相談したらよいか気になりませんか。読者の中には労働基準監督署に相談したらとアドバイスされた人がいるかもしれません。 労働基準監督署に務める「労働基準監督官」は、厚生労働省の専門職員です。働く人にとってよい環境を整えたり、安全や健康の確保をする業務を担っています。 この記事では、労働基準監督署で勤務している労働基準監督官について紹介します。労働基準監督官の仕事内容や給料、そして就職・転職するために必要な資格について詳しく取り上げます。
労働基準監督官は国家公務員専門職で、全国にある労働基準監督署で働いています。労働基準監督署は労働基準法令に基づいて職場に立ち入り、事業主に法律を遵守させる役所です。
労働基準監督官の主な業務は以下の通りです。
問題を抱える企業や勤務先に立ち入り、労働条件の向上・働く人の安全や健康の確保・労働災害への補償をおこなっています。労働者やその家族が残業代未払いの相談・労災申請・過労死の申請をすれば、労働基準監督官が申請をもとに職場に立ち入って審査します。
2015年には、大阪労働局と東京労働局に労働基準法令に違反する大規模な事案に対応するための専従組織「過重労働撲滅特別対策班」が組織されました。この専従組織は通称「かとく」と呼ばれています。また、「かとく」には検察庁に送検する権限もあります。
国家公務員なので、1日の労働時間は国家公務員法に基づいています。基本的には8時半から17時の勤務となっています。
労働基準監督官の業務は4つにわかれているため、どの業務を担当するかにより残業時間は異なります。2019年の新卒インタビューによると、月に5〜10時間程度。上司や先輩など長く勤めている方でも、長くても1日に1〜2時間程度の残業時間と明かしています。
また毎週水曜日は定時退庁日となっています。国家公務員ときくと激務であることを想像しますが、労働基準監督官は比較的ワークライフバランスの取りやすい職業といえます。
労働基準監督官は、人事院が発表している「別表第一 行政職俸給表」に基づいて給料が決められています。
初任給は東京都の場合では約22万円、その他の地域では約18万円です。手当としては、残業代以外に住居手当、不要手当などさまざまな手当が付きます。期末には俸給の約45倍のボーナスの支給もあるようです。
そこから年収に換算すると、新卒1年目の年収は300万円台。新卒を含めた平均な年収の水準は約660万円となっています。キャリアの国家公務員と比較すると低水準ですが、民間企業の平均年収と同程度だと考えておくとよいでしょう。
近年、ブラック企業またはブラックバイトという言葉を耳にする機会は多くなりました。ブラック企業の定義については、長時間労働で残業代が支払われない、セクハラやパワハラが横行している、従業員の離職率が高いという特徴があげられます。
学生(特に大学生)の場合、読者の中には賃金の未払いや長時間労働で退職させてくれないといったトラブルを耳にしたことがあると思います。高校生や大学生でもバイト先で困ったことがあれば労働基準監督署にできるので、国家公務員のなかで最も身近な存在であるかもしれません。
そんな労働基準監督官にはどんな人が向いているのでしょうか。
労働基準監督官は、事業主と労働者の間で板挟みになることも少なくありません。公平な立場を保ち、客観的な判断をするために一方に肩入れはせず、両方の意見を聞く力が求められます。
職種問わずさまざまな事業場の方とやりとりをするため、想像以上に幅広い専門知識が必要となります。丁寧なアドバイスや、今後、同様のことが起こらないようにするためにも民法などの法律はもちろん、機械や建築などの勉強もする必要があるようです。
前述したように、労働基準監督官はさまざまな事業場の方とのやりとりが発生します。たとえば大学で土木を学んでいた人であれば、建築現場でのやりとりでその知識がいかせるでしょう。法律専攻であれば、仕事をする上で最も欠かせない法律に関する知識を必要に応じて使うことができるはずです。
労働基準監督官の採用試験では、受験資格で年齢と学歴のラインが定められています。
年齢は30歳未満で、大学卒の学歴があれば転職も可能です。しかし採用試験の日程が毎年定められていることや、社会人として働きながら試験勉強をするのはかなり大変であることは間違いないでしょう。
スケジュールを組んでその通りに勉強ができる人なら転職できる可能性は高いといえそうです。自分でスケジュールを立てるのが苦手な人は、公務員試験の対策ができるスクールに通うのはひとつの手です。
労働基準監督官になるには資格は不要ですが、労働基準監督官採用試験に合格し、採用面接を通過する必要があります。
労働基準監督官の採用試験の特徴として、労働基準監督官A(法文系、文系学部)と労働基準監督官B(理工系)に分かれていることがあげられます。理系の採用枠は文系の半分近くで、国家公務員のなかで理系の採用枠が多い職種となっています。
試験は例年3月頃から受験申込の受付がスタートします。その後、6月に第1次試験、7月に第2次試験があり、8月には最終合格者が発表されます。
◾️受験資格について
・1990(平成2)年4月2日~1999(平成11)年4月1日生まれの者
・1999(平成11)年4月2日以降生まれの者で次に掲げるもの
①大学を卒業した者および2021(令和3)年3月までに大学を卒業する見込みの者
②人事院が①に掲げる者と同等の資格があると認める者
2020年度採用試験においての受験資格は上記の通りです。高卒採用枠がないため、最低でも大卒、または卒業見込みでなければ受験することはできません。また年齢の上限は30歳未満となります。
◾️試験種目について
<第1次試験>
・基礎能力検定(多肢選択式):知能分野、知識分野から出題
・専門試験(多肢選択式):【法文系】労働法、憲法、民法などから出題/【理工系】労働事情、工学に関する基礎知識を問う
・専門試験(記述式):各試験の区分に応じて必要な専門的知識などについての筆記試験
<第2次試験>
・人物試験
・身体検査
試験には労働基準監督A(法文系)と労働基準監督B(理工系)の区分があるため、どちらを受験するかにより試験種目が違ってきます。法文系では民法・刑法・政治学・行政学・経済学など文系学部の専門分野の出題が多くなり、理工系では電気系、土木系などの問題を解くことになります。
<労働基準監督A>
2017年度:339人(応募者数2835人)
2018年度:396人(応募者数3156人)
2019年度:379人(応募者数2703人)
<労働基準監督B>
2017年度:139人(応募者数876人)
2018年度:216人(応募者数889人)
2019年度:194人(応募者数805人)
過去3年分の合格者数は上記の通りです。他の国家公務員試験同様、合格倍率は高くなっています。倍率が高くなっているのは採用予定人数が少ないためと考えられます。
- 著者
- 高橋 健
- 出版日
この本は労働者が労働基準監督署に申請した場合の手続きを解説したものです。近年、労働者のうつ病など健康面での問題が注目されています。
この本の著者は、厚生労働省に入省し、労働基準監督署に勤務し、労災認定の現場に立ち会った経験があります。労災認定の現場に立ち会った実務経験を生かし、現在は社会保険労務士として活動しています。
実務経験を踏まえて解説されているので、これから労災認定を考えている人にとって有益な本であるといえます。
労働者の視点で書かれた本ですが、労働基準監督官を目指す人が読む場合、実際の労災認定の現場での経験を通して仕事を知ることができる良書となるでしょう。
- 著者
- 法学書院編集部
- 出版日
この本では、労働者の安全確保、労働条件の確保・改善を主な業務としている労働基準監督官の仕事を知ることができます。現役の労働基準監督官が就業記がもとになっているため、参考にできる部分は多くあるでしょう。
また就業記だけでなく労働基準監督官の採用試験の概要や合格体験記にもなっています。進路で労働基準監督官の受験を考えている場合、試験勉強法と業務内容を知ることができるので読者にとって有益であるといえます。
- 著者
- ["TAC公務員講座", "TAC公務員講座"]
- 出版日
人気である労働基準監督官Aを受験する際は、スクールに通いながらも独学の勉強は欠かせません。
こちらの本では、本番と同じ形式の問題配列であることから時間配分を意識した過去問練習ができます。平成29年度から令和元年度までの過去問が収録されているので、傾向と対策向きの1冊かもしれません。
実際の試験での時間配分の感覚を身につけるのにも一役買ってくれます。時間の感覚を完全に身に付けるため、この問題集を繰り返し解くのもよいでしょう。
最近では、長時間労働や残業代未払い、過労死、労働災害などのニュースがよく取り上げられています。学生のアルバイトの場合、賃金の未払い、学業に支障が出るにもかかわらず長時間勤務させるなど、労働者をめぐる悪い事例が注目されています。労働基準監督官は、みんなが働く社会をよくしていく使命感を持っている人には向いている職業といえるでしょう。
学生がアルバイトを始める際、バイト先で何かトラブルがあれば労働基準監督署に相談することは忘れずに。学生にとって労働基準監督官は意外に身近な存在といえそうですね。