海外旅行の経験がある人は、国際線でパスポートをチェックしている人を見たことがあると思います。パスポートをチェックしている人のことを「入国審査官」といいます。入国審査官は国家公務員で、大卒、大学院卒以外に高卒でも採用試験を受けることができます。今回は、あまり知られていない入国審査官の仕事内容や採用試験、年収についてご紹介します。 なお、入国審査官は外国人を相手にすることがあるので語学が気になる読者がいると思いますが、入国審査官の採用試験において語学の試験が実施されません。しかし、採用後に語学研修があるので、語学に関して不安がある人でも安心して試験を受けることができるでしょう。
入国審査官とは、国際線で日本に入国する外国人のパスポートをチェックしている国家公務員のことです。日本の安全と国民の生活を守るため、日々厳しい目を光らせています。また円滑な国際交流を発展させるために、対応時の姿勢などには気を配っています。
入国審査官の仕事内容はおおよそ3つに分けられます。
入国審査では、不法滞在の外国人や偽造パスポートを持っている人がいれば、摘発することも仕事です。違反行為を摘発するのでプレッシャーのかかる仕事といえるのかもしれませんが、その分やりがいを感じることができるでしょう。
どれも日本社会の安全や利益を守るために欠かせない大切な仕事です。
入国審査官は法務省入国管理局に属する国家公務員なので、行政職俸給表が適用されます。採用試験は大卒枠と高卒枠があり、大卒枠の初任給は約21万円、高卒枠の初任給は約16万円となっています。国家公務員なので、勤務年数があがれば順当に昇給していきます。
また給料に加えて、住居や勤勉手当なども支給されます。年収に換算すると、平均年収は600万円前後となるようです。昇進し、統括審査官や首席審査官にもなると年収は1000万円を超えることも珍しくはありません。
入国審査官になるには、必要な資格はありませんが、人事院が主催する国家公務員採用一般職試験に合格し、面接を経て採用通知を受け取らなくてはなりません。
国家公務員採用試験は例年4月に申込が始まります。その後、6月に第1次試験、7月に第2次試験がおこなわれ、8月に最終合格者が発表されます。
国家公務員採用試験に合格した後は、各地方出入国在留管理局の面接を受ける必要があります。どこの出入国在留管理庁を受けるかは受験者によって異なるでしょう。
国家公務員採用試験に「合格=内定」ではないので、その点は気を付ける必要があります。
参照:人事院
国家公務員採用試験には、大卒程度試験と高卒程度試験の2種類があります。今回は大卒程度試験の内容について取り上げます。
▶︎第1次試験
・基礎能力試験:文章理解、判断推理、数的推理など公務員として必要な基礎的能力
・専門試験:各試験の区分に応じた必要な知識などの試験
・一般論文試験:文章による表現力、課題に関する理解力などについての短い論文
・専門試験:各試験の区分に応じた必要な知識などの記述試験
▶︎第2次試験
・人物試験:人柄、対人的能力などについての個別面接
大卒程度試験と高卒程度試験では試験区分が異なります。大卒程度では下記の区分となっていますが、高卒程度試験では事務、技術、農業土木、林業の4区分と少なくなっています。
行政、電気・電子・情報、機械、土木、建築、物理、化学、農学、農業農村工学、林学
勤務地ごとに試験区分が異なるため、希望する勤務地に合わせた試験対策が必要となるでしょう。
参照:人事院 試験情報
国家公務員採用一般職の試験は、総合職の次に難関と言われています。過去4年分の倍率をみてみましょう。
2016年:4.2倍
2017年:4.2倍
2018年:3.8倍
2019年:3.4倍
毎年、4倍前後の倍率となっています。
行政区分の試験では憲法や民法、政治経済や行政学など幅広い知識を身に付けることが求められます。そのため独学で勉強する人は少なく、多くの人は公務員対策講座の受けられる予備校に通い、長い時間をかけて勉強をしています。
入国審査官を目指すには、それなりの覚悟と時間、費用も必要といえるでしょう。
自国の安全と利益のために働く入国審査官ですが、どんな適性がある人が向いているのでしょうか?
入国審査官は、時には毅然とした態度で外国の方と接しなければなりません。不法滞在の可能性のある外国人や、危険人物だと判断いた場合などが当てはまります。冷静にひるむことなく滞在の理由を掘り下げなくてはなりませんし、どのような処置が必要なのかを判断することもあります。
すべては自国の治安維持のためだという使命感・責任感がないと果たせない仕事でしょう。
入国審査官の採用試験の外国語の科目はありません。しかし、試験に合格し内定が出た後、語学委託研修があります。実際の業務では英語や中国語などが必要な場面も多いため、この研修は欠かせません。
そうした意味でも語学に自信のある人や、苦手意識がない人は向いているといえるでしょう。勤務後も語学力を磨き続けることができるかどうかも、大切な素質のひとつです。
入国審査では、滞在理由や不審な点を質問することが欠かせません。そこで横柄な態度を取ってしまっては国家間の良好な関係に小さな傷をつけてしまいます。日本にやってくることがネガティブなイメージにならないよう、相手を思いやる高いコミュニケーション能力も必要となってくるでしょう。
仕事が毎日すべてほとんど同じということはありえません。また他国の人と接するという意味では、外国の事情や風俗、習慣に通じている国際的センスや、法律に関する専門知識が必要となります。
時代によって変わる国の事情や、法律などを積極的にアップデートする好奇心旺盛な人も、入国審査官に向いているといえるでしょう。
職業として安定している、給与水準が高いなどの理由から、民間企業家から国家公務員へ転職する人は少なくありません。
大卒程度試験の受験資格は21歳〜30歳までとされているので、社会人になってから入国審査官を目指し、合格するのもひとつの道でしょう。
また社会人試験も用意されているため、こちらの試験を受けることを考えてもいいかもしれません。大卒程度試験では必須の専門試験科目がないため、多忙な社会人でも受験勉強がしやすいというメリットがあります。
しかし、社会人で大卒程度試験、社会人試験を受けるには勉強時間の確保が難しいと言われています。効率よく、質の高い勉強方法を見つけることが最も大切なポイントとなるでしょう。
- 著者
- 松嶋 美由紀
- 出版日
入国審査官の仕事内容をもっと詳しく知りたい人は『入国管理局の仕事』を読むことをおすすめします。
入国管理官署の機構の第一線で活躍する入国審査官と、入国警備官の仕事内容が正しく、詳しく解説されている他、最も気になる採用試験の概要についても情報が載っています。
さらに入国管理官署の現場で働くエキスパートの働きぶりも紹介。入国審査官として働き始めた後のキャリアの道についてイメージしやすくなるかもしれません。
読みごたえのある1冊ですよ。
- 著者
- 鳥井 一平
- 出版日
少子高齢化により労働力人口が減少している日本において、外国人労働者の活躍が注目されています。
外国人労働者の受け入れについて議論された結果、2019年4月の入管法改正で、「特定技能」による外国人労働者の受け入れが可能になり、これから外国人労働者が多く日本に入国するでしょう。
この本では、技能実習生が時給300円で働かされているなど外国人労働者を取り巻く環境が解説されています。入国審査官として、不法滞在の外国人を摘発する仕事に興味を持ったときにおすすめしたい1冊です。
- 著者
- 望月 優大
- 出版日
この30年間で、在日外国人の数は263万人(2019年時点)にも膨れ上がりました。街を歩いていて「外国人が増えたかも?」とうっすら思っていたことは、データから見ても確かなことだったのです。
さらに、永住権を持つ外国人は100万人を突破したというデータも発表されています。このことからいえるのは、日本はすでに「移民国家」になっていることです。
入国審査官という、日本に入国する外国人と最初に接する仕事では、そのことをより強く実感しているのではないでしょうか。
入国審査官として最前線に立ちながら「この国はどうなっていくんだろう?」と疑問を持ち、その疑問を解決してくれるのがこの1冊です。現状に関するデータを知ることができ、仕事に落とし込める内容となっています。
入国審査官の仕事は、外からみたら地味で、一体何をしているのか不透明な部分も多いでしょう。しかし実は、自国の治安維持や利益のために専門的な知識と冷静な判断力をもって仕事をしており、外国からの入国が多い現代においては欠かせない存在です。
入国審査官として働くのに必要な資格はありませんが、国家公務員採用一般職試験に合格しなくてはなりません。とても難易度が高い試験なので独学では厳しく、予備校に通って勉強することをおすすめします。
晴れて内定をもらった後は仕事としての安定性や給与水準も高く、やりがいもあるため充実度は高いといえるでしょう。民間企業からの転職も少なくはないので、学生だけでなく社会人の方もチャレンジしてみてくださいね。